さとりさまとペットたちの   作:ピュゼロ

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(知性とは――)

 書類仕事を片付ける執務机にだらしなく肘をついて、僅かに首を傾げたまま玩ぶペンの先を見るともなく眺めつつ、古明地さとりは考えている。
 知性の事を。


Into Superfluity

 以前の事だ。

 地上から紛れたかした白鼠を、お燐が捕らえて持って来た時。さとりは机が汚れる事を嫌った為に彼女を近づけさせなかった。彼女はにゃーんと項垂れると、口から鼠を放して落とした。

 執務室の床の上でお燐は必死に逃れる鼠の影が、僅かも動かぬうちに叩いて掻いて捕らえる事ができた。まるで手中に収めた弾を、上へ下へ弄いで遊ぶかのように、憐れな白鼠を突いて走らせ踊らせて楽しんでいた。

 それを丁度、今と同じく頬杖ついて、さとりは机の上から始終を垣間見ていた。

 にゃーん、にゃーん。その気などないようにそっぽ向いてあえて逃げ出す様をつんと無視してかかり、それでもしなやかに伸びる彼女の肉球はそれは見事に鼠を抑えた。

 猫は狩をする動物であって、ああして遊ぶのも別段珍しい光景ともいえず。しかしその時さとりの頭は、一向進まぬ小説の頁の、次と次の行を如何書こうかしらんとぐるぐる煮詰まっていた為に、愉快なものを見たぞと思い立ったような気がしていた。

 

 知性とは。

 彼女の妹がかくも瞳を閉ざしたその訳に、とりわけ深く根ざしているであろう厄介な概念とは。

 

 つまり食欲に起因するものではなかろうか。

 さとりの眼前でありありと繰り返されるお燐の稚気。つまりは、遊び。

 遊びを楽しむ事、つまりは遊ぶ余裕を持つという事は、まさしく知性の発露ともいえるのではないか。

 鼠は猫の食餌である事。

 餌を前にしてわざとああして遊ぶ事。

 膝に乗せればお燐の毛並みがふさふさと心地よい事。

 なんとなく何事か書けるような気がしたのだが、考えるほどにばらばらと細かく細かく思いつきの芽というやつはどこかへ霧散してしまって、その時その場は結局筆を置き、それで終いになったのだが。

 例えば、そう。

 鴉の姿でお空がテレビの画面に釘付けになっていて、飽きもせずに次々流れる広告の一々を眺めていて。

 お燐がさとりの短い髪にじゃれついて、にゃんにゃん鳴いている時なんかに。

 ふと、思考が逸れる。

 

 知性とは――。

 

 つらつら考え込む間に、ノートパソコンの配信画面が移り変わる。このところ一話から続けて再放送されている仮面ライダーのブラックで、まだ配役の一人も話し始めぬ内にお燐は俊敏な動作で主人の肩を蹴りつけ画面の前を陣取った。お燐とお空と、その他彼女のペットの何匹かがわらわらわらわら集まって、始まる番組に至極真剣な眼差しで対峙する。

 地底の妖怪たちにこの番組のいったい何が琴線に触れたものなのか、ただ単に娯楽が少ないからかもしれないが、ともかく近頃情報インフラは昔と比べ物にならぬぐらい整い始め、知性のあるなしに関わらず、一定の恩恵は受けられるのだった。さとりは昔に一度見ていたような、例えばオープニングの曲をうろ覚えながら歌える程度には記憶していた。

 単純だからなのかもしれない。お空もお燐もこれは大好きで、そのためさとりはわざわざ毎週この時間には執務を取りやめ機材を明け渡しているほどだ。お空は曲を一緒に歌う派。お燐は顔を舐めている。

 

 ただの鴉から、猫から、妖怪へ成る事。

 もとからさとりであった彼女にはまるで実感のできない事実であった。

 

 知性の萌芽。知性は心を内包している。

 そっと。胸の内で溜め息をつくと、さとりは床で背伸びをしていたペンギンを膝に抱えてやり、ペットたちと一緒にしばらくの特撮番組観賞に耽ったのであった。

 

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