男が少ないヤンデレ世界   作:トクサン

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コメディの練習がしたくて。


白昼夢

 人の価値観何ていうのはアテにならないし、そもそも昨日まで過ごしていた世界が【本当に今日と同じ世界】かどうか何てのは誰にも分からない。

 誰もこの世が天国だと証明する事は出来ないし、地獄だと証明する事も出来ないのだ。

 それはそうだろう、誰も現世が俗に言う「あの世」だとは認めたくないのだから。そもそも死と言う概念が存在している時点で、この世界が極楽浄土や地獄の十八丁目だとは信じたくない、いや、話が逸れた。

 兎も角何が言いたいかといえばだ。

 例えばそう、この世界がある日突然変わってしまっていても。

 日々の連続性が失われただけと思えば、まぁ何とかなる、そういう心構えを俺は広めたいのだ。だから実際問題、現実にそうなってしまっても広い心と豊かな精神力でどうとでもなる――

 

「訳がない」

 

 そう、何とかなる訳が無い。

 ある日突然世界が自分を除いて一変しました、なんていうのは出来の悪いB級映画並みではないか。

 タイムトラベル? 平行世界?

 ヒッグス粒子が発見されて三年足らず、欧州原子核研究機構はブラックホールの生成にすら成功していないというのに、そんな眉唾物の未来科学を信じろというか。生憎と私は神を信仰していない、だから寄る辺は科学だ。

 けれどその科学ですら今の現状は証明出来ずに居た。

 

 女である。

 

 道行く皆、女である。

 男が居ない、誰一人として存在していない。

 

「何だこの天国は」

 

 んんっ、口が滑った。

 違う、なんだこの異常性は、である。

 

 女女女女、いかん、これでは俺がまるで女に飢えている性欲異常者では無いか。

 しかし実際問題、道行く人々は誰しも女なのだ。男が一人として存在していない、心なしか街に漂う空気が甘く素晴らしいモノに変わっている気がする、いやこれはきっと俺がおかしいだけだな。

 時刻は朝の八時。

 時間帯的には通勤ラッシュと呼ばれる時刻ではあるが、俺の周囲はぽっかりと穴が空いている。と言うのも、道行く人々が全て俺を避けて行くのだ。まるで見えない壁があるかの様に、一瞬まさか臭かったりするのだろうかと思って匂いを確かめるが自分では分からない。恰好も変では無い……筈だ。

 パリッと着こなした黒色の軍服、軍帽を深く被り乱れなど一つなし。訓練生時代に僅かでも乱れていれば拳が飛んできた、文字通り死ぬ思いをして叩き込まれたのだ、今更そんなミスなど犯す筈も無く。

 じゃあ何故こんな注目を集めているのだと言う事になり。

 朝起きて、朝食を食べて、寝ぼけた頭のまま通勤していた途中。余りにも自分を見る目が多すぎて思わず足を止めたが、一体何なのだ?

周囲を見渡す、きょろきょろと視線が彷徨う、そして露骨に視線を逸らす周囲の女性群、その頬はほんのりと赤い。

 

「……夢か?」

 

 何度見ても男がいない、見える範囲では俺だけである。これだけ大きな駅だと言うのに、それに通勤ラッシュは最も混雑する時間帯。男だけが偶々(たまたま)いない、いやいやそんな、あり得ない。

 だから一番現実的な可能性を挙げてみた。

 そして自然な動作で頬を抓る、痛い、現実じゃないか。いや、痛覚の存在がある夢だってあるかもしれない、だからそう、まだ諦める時間では無い。叩く、痛い、頬が赤くなってしまった。

 まてまて落ち着け、まだ慌てる時間では無い。

 そうだ、素数、素数を数えて落ち着くんだ。

 

「2」

 

 凄く落ち着いた。

 

「中尉ッ!」

 

 背後から聞き慣れた階級がして、振り返る。そこには黒髪ポニーテールを振り乱しながら私目掛けて駆けて来る部下の姿があった。まだ垢抜けない童顔に、けれどキリッとした眼つき。勤務して三年経つが未だ制服に着られている感がある。

 いつも冷静沈着ぶっている彼女が、額に汗を掻いて俺に叫ぶ。

 何でこんなところに? という言葉を呑み込む。彼女の家は俺の家とは違う方面だったと記憶しているが。

 まぁそれは一旦置いておこう。

 しかし何だ、いつも冷静な君はどうした。

 

「高橋曹長」

 

 高橋美佳、彼女の名前である。

 その名を呼びながら背をシャンと正し、整然とした軍人の恰好を取り繕う。人間、自分より取り乱した人を見ると冷静になれるらしい、この場合は上官としての尊厳もあった。

 彼女は人垣を掻き分けて俺の前に来ると、膝に手を着いて息を整える。それから俺の顔を睨めつけながら息も絶え絶えに叫んだ。

 

「何故っ、自宅に居られなかったのですか!? 単独でこのような場所を出歩かれるなどとッ……!」

 

 物凄い剣幕だ、その眼は僅かに血走っている。

 というか何故俺は怒られているのだろうか、普通に出勤しようとしただけなのに。ちょっとだけ剣幕に負けそうになって、けれど男と上官のプライドで踏みとどまる。

 

「何故も何も、俺は支部に――」

「送迎車が毎朝来ている筈でしょう!?」

 

 送迎車?

 えっ、何それ知らない。

 

「美月少尉と中尉のご自宅に行ってみれば(もぬけ)の殻で、今少尉と手分けして探していたんですっ」

「そ、そうか……」

 

 うん、何かごめん。

 というか、送迎車だと? 何だそのVIP待遇は、俺はまだ佐官でも将官でもない、一尉官だぞ。

 

「しかし高橋曹長、送迎車とは一体どういう――」

「っ、えぇい、お前達寄るなッ!」

 

 俺が高橋曹長に送迎車の件について問いただそうとすると、彼女は突然周囲に向かって声を上げる。一体なんだと驚きながら、「若しかして妄想癖でもあるんだろうか」なんて可哀想な子を見る目で見ていると、周囲の異様な雰囲気に気付いた。

 ジリジリと、本当に少しずつ俺を囲む人垣が狭まっている気がする。

 息を荒げて、頬を赤く染め、何だか麻薬(アール)でも吸った様な、イッた顔をしてらっしゃる女性群。

 

「うぉ、何だ!?」

「中尉ッ、此処は私が防ぎますっ、お早くッ!」

 

 高橋曹長に顔を向ければ、まるで死地にでも赴く様な顔をして白い手袋を嵌める。同じ陸上防衛軍である彼女は黒い制服を纏っているが、その中にある白一点。そしてその手に持つのはSR-708『対人用小口径拳銃』――

 

「って、民間人相手に何を向けているんだお前はッ!?」

 

 彼女は周囲の人間に銃口を向けながら威圧していた、軍人が守るべき民間人相手になにしているのか。俺は僅かな驚きと、少しの怒りを込めて叫ぶけれど、それよりも鋭く深い高橋曹長の眼光に睨まれ口を噤んだ。

 今の曹長は眼光で人を殺せる、たぶん。

 

「中尉っ、何をモタついておられるのですか!? 貴方らしくも無いッ、お早く!」

「いや、お早くって……」

 

 天井に向けて彼女が発砲、バキン! という金属音と共にコンクリートが抉れる。

 マジで撃ちやがった、コイツ。

 

「それ以上寄るなッ、男性保護法第二条により彼の身柄は国防軍預かりとなっている、許可なき接触には罰則があると心得よッ!」

 

 そう言って再度銃口を向けるが、正面の女性を含め殆どの女性がジリジリとにじり寄って来る、その表情からは恐怖など微塵も感じられない。元々威嚇の効果が無い事を知っていたのか、高橋曹長は頻繁に銃口を向ける相手を変えながら切羽詰まった表情をしている。

迫り来るのは通勤途中のOL、女子高生、熟女、小学生、ギャル、様々、どんな状況だコレ。

皆が皆、目から光を失っている。フラフラと光に引き寄せられる蛾の様に、この場合光源は俺なのか? 

(なに)かしたのか昨日の俺。

 

「というか、男性保護法って何」

 

 ポツリと俺が呟く。

 けれどその言葉が高橋曹長に届くことはなく、周囲の女性が一斉に飛び掛かって来た。思わず身を硬くし、先ほどまで何か空気が澄んでいる様な気がするとか言っていたアホな自分を恥じる。

 叫びながら突進してくる女子群、曹長が舌打ちを零し引き金を絞る、迫りくる女性たちの表情は、なんというか必死だ。目線は俺、肉食獣という表現すら生温い。捕まれば骨の髄まで食い尽くされると理解した。

 あっ、これ本当にアカン奴だ。

 そしてその波に曹長と俺が呑まれ――

 

「って、堪るかぁァッ!」

 

 前に居た高橋曹長を抱き上げて、「ぇ、あ、ちょっ!?」と戸惑いの声を無視。そのまま最初に突っ込んできた女性の肩を蹴り上げて、天井の電光掲示板にぶら下がった。

 

「ぎっ」

 

 ミシリと筋肉が悲鳴を上げる、オイ高橋曹長、君中々良い体重しているじゃないか。

 そのまま勢いをつけて手を放し、何人かの肩を借りながら包囲網を脱出、抱えたまま全力逃走を開始。

 

「ちゅ、中尉!?」

「口閉じてろ、舌噛むぞッ!」

 

 背後を確認しながら、一息に階段を下る。途中俺に肩を踏まれた女性が、恍惚とした表情を浮かべトリップしている姿を見た。

 本当に麻薬(アール)でもキメているんじゃないだろうか。

 

「ちゅ、ちゅちゅ、中尉ぃ!? あ、あのッ、その、私中尉に、触れ、触れぇっ!?」

「いいからッ、動くな騒ぐな足をバタつかせるなぁッ!」

 

 顔を真っ赤にして、忙しなく視線を彷徨わせる部下を抱えて走る。

 朝から何をしているのだろう俺は。

 普通に出勤しようとしただけなのに。

 ただ一つ分かった事があるとすれば、それは――

 

 

 こんな世界、俺は知らない。

 

 

 

 

 

「中尉、私、何度も言いましたよね? 再三申し上げましたよね?」

「……ハイ」

 

 早朝の全力逃走劇から一時間後、俺は国防軍福島基地にて正座をさせられていた。

場所は俺専用の個室という『男性保護室』、なにそれ知らない。中は仮眠用のベッドとシャワールーム、トイレまで完備という。

 あの、もう此処に住んでも良いですか? 家帰る必要ないでしょこれ。

 

「中尉?」

「あっ、はい」

 

 少しでも別なことを考えていると即刻鋭い目線が飛んでくる。

 俺の目の前に立っているのは美月少尉。

 少しだけ伸びたくせっ毛に、眠たげな眼をしたおっとり系。けれど今は背に漆黒のオーラを纏い、何か物理的威圧を俺に加えてくる。その姿は(さなが)ら修羅か、数少ない女性の部下だから大切にしてきたのだけれど。

 何かアタリ強くないですか?  普通に罰則なら腕立てとか腹筋とか、というか階級は俺の方が高いですよね、何で部下に説教されているの俺?

 

「中尉ィ?」

「あっ、はい」

 

 もうダメだ、何も考えちゃダメだ。

 少尉の前では何を考えても見抜かれる、だからそう、心を無に、無我の境地に。

 段々と思考が濁ってきて、目から光が失われているのが分かる。自他境界線が曖昧になり、生物と鉱物の間に――

 

「はぁ、もう、良いです」

 

 少尉が溜息と同時にそんな事を吐き出し、俺はビュンと風の如く立ち上がった。

 ひゃっほう釈放だぜぇ! やっとこの足の痺れから解放される。

 勿論そんな内心を悟られることが無いよう、表情はキリッと決める。俺は如何なる時であっても軍人然とした人物でありたいのだ。

 

「手間を掛けたな、少尉」

「……いえ」

 

 俺を何か、こう、胡散臭げな眼で見る少尉。

 何だよそんな熱い目線で俺を見て、照れるじゃないか。

 ここで視線を逸らしては負けとジッと少尉の目を見続けていると、唐突にふっと目を逸らす少尉。その頬は僅かに赤らんでいる、俺の勝利だ。

 

「取り敢えず、明日もお迎えに上がりますから、どうか独りで出歩くことの無いよう、今日の騒ぎだけで十分ですから」

 

 ソッポを向きながらそんな事を言う、何だかんだ言って身を案じてくれる少尉マジ天使。けれど今ではこれがデフォルトらしい、一通り少尉から説教という名の【この世界の認識を再確認】され、今に至る。

 男性は世界人口の一パーセント未満、世界各国で掻き集めても一万人に届くかどうかというレベル。何そのファンタジーとか他人事の様に思ったが、軍に身を置く自分がこれほど優遇されている事実を見せられれば頷く他ない。

 当然、男性保護法なる法律が国際的に発令され、各国で手厚く男性を保護しているらしい。大体の男はその希少性にモノを言わせて国から支給される『男性手当』を貰いニート生活しているんだとか、なにそれ羨ましい。

 勿論それは俺にも支給されている、更に俺は男性の中では珍しい就職組なので金には困っていない。一応端末から貯蓄を確認してみたが、八桁の貯蓄があった。驚きすぎて何度か額面を見直したが、何度数えても数字は変わらない。その気になれば家が建つ。

 凄い、男、すごい。

 

 支部内は一応歩き回ったが、目に入るのは女、女、女。

 つい昨日までむさ苦しい男しか居なかったと言うのに、同期や友人が全て見覚えのない人間と入れ替わっていた。一応軍隊という事で服装はちゃんとしているが、訓練中の姿などは中々刺激的だ。

 飛び散る汗、揺れる果実、漂う女性の甘い―― おっと、少尉の目が鋭くなった。

 

「中尉、今何か不穏な事を」

「いや、何、朝から走り回ってしまったからな、汗が少しね、シャワーを浴びたいのだけれど」

 

 適当な言い訳で何とか逃れる。

 俺がシャツの上ボタンを外しながら服の中に空気を送り込むと、ぼっと顔を赤くした少尉が胸元をじっと注視し、それから慌てて顔を逸らした。

 

「そ、そうでしたか……でしたら、私たちは退出しましょう、高橋曹長!」 

 

 少尉がそう言って部屋の隅で「中尉、抱っこ、私、男性、触った」とブツブツ呟きながら耳を赤くする高橋曹長の肩を掴む。それでも彼女は一向に反応を返さず、そのままズルズルと部屋の前まで引き摺られていた。朝からずっとこんな調子だが、曹長、いつものキリッとした態度はどうした。

 

「一応、後で今日分の書類を届けに来ます、準備ができたらご連絡を」

「え? あ、あぁ、ありがとう」

 

 そう言って少尉は曹長を引き摺って退出してしまう。

 今日分の書類?

 てっきり訓練をするものだと思っていたが、違うのか。書類仕事は昨日の内に終わらせた筈だけれど、そもそも中尉がするデスクワークなんぞ高が知れている。

 

「……まぁ、いいか」

 

 俺は思考を放棄して今日の予定を脳内に浮かべる、軽く汗を流したら直ぐに訓練の時間になる。遅刻は論外、あまり時間を掛けてはいられないな。

 

 この後俺はシャワーを浴びた後、「訓練に参加して来る」とだけ少尉に連絡し、「へっ!? あのッ、ちょ、中尉!?」と取り乱した声を後に、所属部隊の訓練に参加したのだけれど、それで一悶着あったり無かったり。

 

 




今更だけどヤンデレ要素ないじゃん悲しい(´・ω・`)

でもホラ、想像できるはず(´・ω・`)

主人公を慕うヒロインが、押し寄せる女性群をたたき伏せる光景が(´・ω・`)

私の彼に触れるなッ! 的な(´・ω・`)

僕はそれだけで満足です(´・ω・`)
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