男が少ないヤンデレ世界   作:トクサン

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短いよ! あと今回の話に関しては私は謝らない、絶対ニダ!


野獣の眼光

「くそ……私の中尉なのにっ、私の………」

 

 現在俺は支部長室から撤退し、基地内の男性保護室にて頭を抱えていた。それは先の「ポロリ」の件も含め、自身のこれからの生活に半ば絶望を抱いたからである。百歩譲って広告塔ならばプロパガンダとして納得はできるけれど、何だポロリって、男のポロリってあれだろう、金の玉だろう、誰得だよ。

 

 いや、この世界では得なのか。

 俺の金玉は今、美少女巨乳のソレに匹敵する価値を秘めている。

 このどう見ても釣り合わない、小さな玉袋が、あの大きな乳袋に勝るとも劣らない―― 

 

 いや、やめよう、言っていて悲しくなってきた、何だろう、軽く死にたい。

 

 そして何より、支部長室から出て来て以来、どうにも、美月少尉の様子がおかしい。いつものパリッとした姿が一変、まるで知り合いに恋人を盗まれた様な顔で取り乱していた。

 あの生真面目で堅物が服を着て歩いている様な彼女が、目を淀ませてブツブツ呟きながら爪を噛む姿は見る者に恐怖感を与える。

 

 というかぶっちゃけ恐ろしい、何かギラギラしているし、淀んだ目なのに。

 美月の豹変と自身の立場、それが俺の頭を悩ませる。

 

「密着は嫌だなぁ……というか軍の広告塔とか正気かよ、ただの一軍人だったんだぞ俺、いやまぁ女性だらけって言うのはある意味天国だけどさ、ちょっと色々厳しすぎるって本当」

 

 この世界に対する不満とか、自分の立ち位置に対する愚痴をウダウダと述べる。俺の為に用意されたデスクに倒れ伏し、そのまま頭を抱えた。密着二十四時とか嫌すぎる、ポロリという不穏な単語も嫌すぎる、そもそも何で俺こんな話持ちかけられたんだっけ?

 

 あぁ、そうだ、訓練に参加する条件だっけ。あれ、じゃあ訓練に参加しなければこの話は無しという事に? 訓練サボタージュ出来てポロリもない、あれ、何で俺そもそも訓練参加しようとしたんだっけ。

 

 堕落の極み、或は適応。目の前のポロリを回避すべく、脳味噌溶けだしそうな思考回路を走らせた。いや、うん、まぁ訓練をサボタージュしてはいけないと頭では分かっているのだけれど、流石に俺もポロリは嫌な訳でして。

 

 そもそも誰が好き好んで有象無象の前に股間を曝け出したいと言い出すものか、というか例え軍務だとしても何かを決定的に間違っている気がする、金玉で民意を得るなんて間違っている、金玉だぞ? うん、やっぱり駄目だろう(再確認)

 

 やーめたと、これまでのキャリアを放り出し、この世界の甘さを享受しようとした俺に、ふっと影が落ちた。

 

「……中尉」

「ん、どうした美月少尉?」

 

 机の上に潰れたまま、美月少尉を見上げる。下から見上げる美月少尉の姿は、何と言うか退廃的だった。黒く濁った瞳に無表情とも、微笑みともとれる口元。その瞳孔は開き切っており、視線は俺を射抜いていた。

 

 あれ、少尉、君なんか(ヤク)でもキメてる? なんかヤバいよ、その顔。

どこかで見た事のある様な顔だが、その表情は記憶に新しい、直ぐに思い出せた。あの駅で俺に群がって来た女性たちに酷く似ているのだ。

 

 頬に僅かな赤みがあり、額には僅かな汗、張り付いた前髪が嫌に官能的だ。この部屋は男性が熱中症になど掛かったら大変だと、夏の間は冷房がガンガン掛かっている。明らかに異常な様子だ、俺は無意識の内に椅子から腰を浮かせた。

 

 そんな俺の様子に気付いてか、美月少尉が詰め寄って来る。突然顔がドアップに映り、驚いた俺は体を硬直させてしまう。お互いの睫毛が触れあいそうな距離で、美月少尉は甘い吐息を吐き出しながら言った。

 

 

「既成事実って、知っていますか?」

 

 

 アカン。

 

 思考は一瞬、行動は迅速に。

 椅子を蹴る勢いで立ち上がり、俺は後ろの窓から脱出を図ろうとした。

 しかし、襟元を驚異的な怪力で引っ張られ、そのままデスクの上に転がってしまう。そして少尉が上に覆い被さり、両足で俺の手を抑えつけた。

 

「アッ! やめてェッ! 犯されるゥ!」

「暴れないで下さい中尉ッ! もうこれしかッ、中尉と結ばれるにはこれしかないんですッ!」

 

 瞳から光を失くし、汗と僅かな唾液を流しながら美月少尉は叫ぶ。そこには軍人然とした彼女の姿は無く、何かをただ只管求める爛れた女の姿だけがあった。というか少尉力強い、物凄く強い、えっ何、なんなん、何で俺押し倒されてるん?

 

「中尉が本格的にメディア露出してしまえば、もう……もう国民的アイドル待った無しじゃないですかぁ!」

 

 いや、その理屈はおかしい。

あれか、金玉で乙女のハートをキャッチ、とでも言いたいのか。金玉なんぞ晒した日にはハートキャッチどころか俺のハートがブレイクだわ!

 

 生憎だがこの世界の女性は何となく乙女というより漢女(おとめ)の方が合っている気がするぞ! マジで! あと金玉の露出は本当に勘弁してください。

 

「ま、待て少尉! 落ち着け、まずはそう、素数! 素数を数えるんだッ!」

 

 俺は物凄い力で服を脱がしにかかる美月少尉から逃れるべく身を捩りながら叫んだ、

 少尉が素数を数えている間に脱出を――

 

「2」

「クッソ! 早いっ、少尉早すぎるっ!」

 

 少尉が問答無用で俺の士官服を掴み、そのままボタンをブチブチと取ってしまう。凄まじい力で抑えつけられている俺の体はビクともしない。上を見上げれば恍惚とした表情で俺を見下ろし、時折首元で熱い吐息を繰り返す美月少尉。

 

「中尉、そう、子ども、子どもが出来たら結婚―― いえ、それだと遅いですよね、このまま二人で逃げた先で、直ぐに結婚してしまいましょう、国の定めた法など無くとも、真に愛し合っている男女ならば、それはもう結婚していると同義なのです、まだ男性が多く居た頃には『事実婚』なるものも存在していたそうですし、つまりそう、中尉と私は既に夫婦なのです、中尉が例え私を愛していなくても、きっと愛してくれるように努力します、何が何でも、絶対に、だからそう、これは『愛』の前借です、私達は既に夫婦なのです、そうでしょう?」

「いや、待って、おかしいよ、何か色々過程がぶっ飛んでる!」

 

 俺はまだ美月少尉が好きなんて言っていないよ! いや美人だけど、確かに凄く美人だけど!

 そこまで叫んで、俺はハッと自身の過ちに気付く。 

 ……あれ、もしかして今の状況って美人に迫られている図になっているのか?

 ふと、俺の思考に光が差し込む、そうだ、今のこの状況は美月少尉という普段お堅い女性士官に迫られている図だ、元の世界なら絶対にありえない光景だ。

 

 どうして俺はこんなにも抵抗しているのだろうかと、ふとそんな事を思った。美人とセッ〇〇出来るチャンスだぞ? 物凄く美味しい展開だ、素晴らしいシチュエーションだろう。

 

「はぁ……はっ、中尉、中尉は童貞ですよね? 軍の定期健診でも自慰行為以外は認められていませんし、腐れ〇〇〇に性病うつされても嫌ですもんね……?」

 

 いや美人だろうが何だろうが、これは身の危険を感じますって。

 

 さわさわと俺の息子を撫でる美月少尉に、俺は言い表せぬ危険を感じた。

 何だろう、このまま流されてしまったら一生日の光を見れない気がすると言うか、何と言うか。具体的に言うと拉致監禁されて一生面倒を見られる生活が続きそうな気がする。それも喜々として。今の美月少尉からは法とか倫理とかを超越した凄まじい何かを感じた、今の少尉はヤると言ったらヤるだろう。

 

「あぁ……中尉、中尉の匂い、凄く良い匂いなんです、何で今まで我慢していたのか、分からない位、もう、最高ですっ」

 

 蕩けた表情で俺の首筋に顔を埋め、息子を摩りながら胸を押し当てて来る美月少尉。そして前開きにしたシャツの中に手を入れて、鍛えた腹筋を撫でる。「なんて逞しい……」と口にしながら物欲しそうな顔をしないで欲しい、とてもマズい、主に下半身が。

 

「誰かッ! 誰かァー! 助けてぇ、犯されるぅッ!」

 

 恥も外聞も投げ捨てて、俺は叫んだ、このままでは俺のオコトヌシが起立してホワイトソースをぶちまけかねない。誰かに乱入して貰わなければ本当に歯止めが効かなくなる。

 

 しかしその目論見は早々に破れ、美月少尉の唇によって塞がれてしまう。最初に感じたのは白梅香の香り、次にぬるりとした唾液の感触に、舌が俺の口内を蹂躙した。人の舌の感触など生きてこの方味わった事も無く、歯茎の裏や俺の舌を隅々まで舐めた。

 憎たらしい事に、それは死ぬほど甘かった。

 ようやく離れた唇からは、互いの唾液が銀の橋を架ける。

 

「ぷはっ、あぁ、キス、キスです、これが愛し合う者同士の誓い……ふふっ、今、私は最高に幸せです」

 

 赤くなった首筋、耳、蒸気した頬、潤んだ瞳、象る笑み。

 ちゅ、ちゅっと頬や首筋、ついでに唇に何度も接吻を落とす美月少尉。僅かに唾液の染みた唇からは甘い匂いが香る。

 

 ここまで来て俺は精根尽き果てた、ナニがとは言わない。ナニだ。

 

「中尉の為なら、私何でもしますから、だから、どうか私と――」

 

 ………。

 いや、ほら、うん。

 美人なら良いじゃん、何も問題無いじゃん、凄く愛してくれてるじゃん。

 金玉ポロリよりはマシ、きっと、うん。

 

 決して思考放棄などではない。

 

 

 その後の詳細は余り語りたくない。

 主に俺の名誉(プライド)の為に。

 

 余談だが、結局金玉はポロリした。

 

 




 ついカッとなってヤった、後悔はしていない。
 などと供述しており。

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