このお話は、紅霧異変のちょっと前のことから始まる。
AM.6:00
森の中にある1つの小さな館。人間達は、ここには化け物がいると恐れ、誰も近づかない館だった。
ジリリリリリ………
その館のある一室の部屋から目覚まし時計の音が響く。
「むにゃむにゃ……zzz」
かなり大きめの音の目覚まし時計なのだが、全く動じずに寝ている、一匹の妖怪がいる。
後ろに黒い羽が生えた天狗……つまり、鴉天狗だ。
「うーん…もうちょっと……」
毛布を被り直してもう一度寝こもうとすると、バンッと部屋の扉が開かれ、中に女の子が入ってくる。
頭からもふもふの耳、後ろにも柔らかそうな尻尾がついた女の子は毛布に手を伸ばし、毛布をバッと投げ捨てると大声で言う。
「が~ろ~う~!!起きろ~!!」
その女のビッグボイスが部屋いっぱいに広がる。窓ガラスがみしみしいっている。流石に堪えたのか、その天狗は起き上がる。
「うるせぇよ!もう少し静かに起こせよ
「こうでもしないと起きないでしょ!もう何時だと思ってるの!」
「俺は毎日大変なんだよ!何時まで起きてると思ってんだよ!」
「仕事を早く終わらせないのが悪い!」
「ぐっ……はいはい、すいませんでしたよ。着替えてすぐそっちいくから待ってろ」
朱薇と言う女は首を縦に振って部屋を出る。その天狗、
服は真ん中にちょうど間が空いていて、右に男物、左に女物の服が入っている。ちなみに、雅狼はゲイでもホモでも女装好きでもない。至って普通の鴉天狗だ。今の状態なら。
雅狼は男物の服を手に取り着替える。手に取った服は長袖のパーカーと短パンだ。一応動きやすいようにとこの服しか入れていない。着替えが終わるとその部屋を出る。部屋を出ると廊下になっていて、それぞれの部屋の扉の隣には、机とその上にそれぞれ色の違う花が飾られている。
雅狼は緑の花が飾られている扉を開く。そこは食堂となっていて、かなり大きいところだ。天井にはシャンデリア、テーブルもかなり長いものだった。椅子も一つ一つ綺麗に並べられていて、どれも高そうなものばかりだった。
テーブルには色とりどりの料理が並んでいた。どれもおいしそうだ。雅狼は1番奥にある椅子に座る。他の席には、既に座っている者が4人いた。そこにはさっきの女の子、朱薇もいた。
「悪い、遅くなった」
「ほんとだよ!もっと早く来てよ!」
「それでもこの館の
朱薇の隣にいる朱薇に似た女の子がメガネをクイッと上げながらいう。
「はいはい俺が悪うございましたっと……んじゃ、食べようか」
雅狼が言うと、みんな食事を始める。じゃ、簡単にメンバーの紹介をしよう。
まずは雅狼。鴉天狗で、この中では主のような存在。黒から白のグラデーションがかかった髪、朱と蒼のオッドアイという何とも不思議で厨二チックな鴉天狗。ちょっと特殊なやつだが、それはまたの機会で。能力も公開しない。
次に雅狼から見て右側にいる女。名前は
その隣にいる、朱薇と似た青い人狼は
次は蒼の前の女。
最後に、朱薇の隣の男。
ちなみに、黒と白は既に付き合っている。いちゃいちゃしてるところを見ている狼牙は、リア充は爆発するべきだと思う。説明した通り、狼牙以外は全員狼関連、そして尻尾がついている。名前は1番狼っぽいのに鴉天狗とはこれいかに。
次に、幻想郷の住人にはお馴染みの能力である。
朱薇は「能力を強化させる程度の能力」。おもに身体能力を強化する。一見、どこかの僧侶と似た能力だが、こちらは1つだけの能力を大幅に強化するといった感じだ。
蒼は「他人に憑依し、憑依される程度の能力」。その名の通り、他人や幽霊に魂だけ憑依する。また、幽霊のようなやつらに憑依される。
白は「生物を従える程度の能力」。生き物なら何でも適用し、生物を従える……まあ仲間を増やせるとでもいっていい。ただし、人は従えさせないのが白のルール。
最後に黒は「能力を覚醒させる程度の能力」。体に秘めた能力を解放させ、目覚めていない能力を覚醒させる。他のゲームでいう限界突破のようなものだろう。
彼らの紹介が終わったところで食事が終わった。みんなはそれぞれの部屋に戻る。が、雅狼と黒は共に家を出る。
「さて、じゃあ仕込み行ってくるわ。雅狼、それまでにやれることはやっておけよ」
「おう、ちゃんともってこいよ。お前、前に持ってきたやつ全部落としてたよな……思い出すだけで笑えそう……」
「黙れ、撃つぞ。とにかく行ってくる」
黒は人里の農家が固まっている方へ、雅狼はそのまま人里の商店街に向かう。
雅狼達は人間達と仲が良く、いつも人里のみんなにお手頃な情報を教えたり、何か手伝いをしてあげたりしていた。それを受けて、人間達の好意で商店街にある小さな家をもらった。雅狼達はそれを利用して、食材や日用品といった多彩な物を売る、少し大きめの店を開くことにした。ちなみに店は繁盛している。つまり黒は商品の仕込みに、雅狼は店の準備に向かったというわけだ。
現在7:00、人里はまだ静まり返っている。雅狼は商店街真ん中辺りの閉まった店のシャッターを開ける。ここが雅狼達の店だ。
「早く準備しねぇとな……黒が来ちまう」
雅狼は商品棚の点検や店前に広告を貼ったりして、開店準備をしている。ちなみに、開店時間は8:00だ。慣れた手つきで準備を進め、7:30になる頃にはすべての準備が完了した。
「よし、後は仕込みを待つだけ……」
雅狼は用意が終わり、裏方の椅子で一息つく。近くにあるお茶の入った湯のみを手に取り、1口いただく。今日のお茶はいつもより美味しかったのか、雅狼は気の抜けたような顔をした。
「ふぅ〜……うめぇ……」
雅狼が一息ついていると、店の前にドサッと何かが置かれたような音がした。
「なに休んでんだ馬鹿野郎」
「主に向かって馬鹿はねえだろ。仕込みご苦労さん」
仕込みを終えて店にやってきた黒に、雅狼は頭を撫でてやった。黒はあまり表情に出ていないが、尻尾をぶんぶん振って嬉しそうだった。
「……おう……それよりさっさと準備しようぜ」
「素直じゃねえな、ほんと。別にそういうキャラで人気を取るならいいんだけどよ……」
「脳天に弾丸ぶち当てようか?」
「おお、怖い怖い……」
雅狼と黒はそんな会話をしながら、仕入れてきたものを商品棚に並べる。一つ一つ丁寧に、買いたくなるように置き方を工夫しながら置いていく。この店を開いて3年経っている。それだけやっていれば、それくらいのことは感覚でわかるようになってきた。何を並べれば買ってくれるか、どこに置けば買いやすいのか、それらを全て理解していた。
「これで全部か?」
「おう、これで終わりだ。よしやすも……」
「お前は休んだだろ。俺に休ませろ馬鹿野郎」
黒は威圧しながら椅子に座る。そして、ポケットから萃香のひょうたんのようなものを取り出し、それに口を付けて液体を喉に通す。
「まーたお前はそんなものを……」
「別にいいだろ。酔わないし」
「えー……俺にもちょうだい……」
「……これだぞ?」
黒がひょうたんをくるっと回すと、ラベルのようなものが貼られていた。雅狼はそれを読んで顔を真っ青にする。
「あ、いつものあれじゃないならやめとく、ごめん」
「そうか、なら無理やり飲ませよう」
「やめろほんとにやめてください」
雅狼は無理やり飲ませようとする黒を必死に押さえる。黒が飲んでいたのはアルコール度数96%のお酒だった。スピリタスというお酒と同じ度数で、雅狼からしたら原液で飲むのはくっそまずい。黒はアルコールに対する耐性が凄く、いくら飲んでも酔わないようだ。
「俺が飲むと酔っちゃって仕事にならないから……な?」
「……はいはい……(チッ)」
黒は雅狼に聞こえないくらいの大きさの舌打ちをした。その後、入口の方から声をかけられた。時計を見ると、いつの間にか開店時間になっていて、2人は急いで業務に取り掛かった。
仕込んだ商品を売ったり、最近起きた事件やお得な情報まで様々な情報を店前で話したりしていた。
立ち話してればいいので、情報仕入役の雅狼はとてもいい仕事だと思っていた。逆に、接待や商品の管理をしなくてはいけない黒は、雅狼を毎日ひっぱたいていた。自分の忙しさも考えろと。
感想よろしくお願いします