かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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今更ですがただイチャイチャが書きたいだけなんです。


再び園内をお散歩しましょう

 

 

 

 16:00 ホテル・シャングリラ テラスルーム

 

 

 

 パーク内を一望できるテラスで一通りイチャつき、ついでに折角なので持ってきた荷物の整理をしているうちに十六時を回ったのだが、ここで衝撃の事実が判明する。

 

「……えっ、ディナーの予定が決まってる?」

 

 俺の疑問の言葉に楓が頷いた。『予定を決めていない』のではなく『予定が決まっていた』という普通とは真逆の事態が起こっていた。その事実が、たった今プロデューサーから知らされたのだ。

 

「『普段大活躍されているお二人に事務所からのプレゼントです』だって」

 

「つまりそれは……346プロダクションが俺たちにディナーを用意してくれた……ってこと?」

 

「そうみたい」

 

 これは素直なサプライズである。ただ俺たちが個人的にディナーを予約していたらどうするつもりだったのか。

 

「……あ、言い忘れたんだって」

 

「しっかりしてくれよプロデューサー……」

 

 パーク内での迅速で的確なアドバイスに感心していたというのに、結構致命的なうっかりミスである。

 

「それで、何時に何処のレストランなんだ?」

 

「えっと……」

 

 ベッドに腰掛ける楓の隣に俺も腰を下ろし、楓のスマホを覗き込む。すると楓は自然と体をこちらに預けてきた。コテンと肩に頭を乗せて完全に甘える体勢になっているが、多分無意識だろう。

 

「……ナイショだって」

 

「そういうことをするからウッカリ忘れるんだぞ」

 

 結局何も分からず仕舞いである。

 

「十八時半には部屋にいて欲しいんだって」

 

「スタッフが迎えに来てくれるのか?」

 

 とりあえず他の予定と時間が被らなさそうで何よりである。……いや違うな。

 

「ショーが十九時からだから少し時間が被るな」

 

「でも流石にプロデューサーもその辺りのことはちゃんと考えているんじゃないかな」

 

 既に前科があるため全幅の信頼を寄せるわけにはいかないが、とりあえず現状はワンアウトなので信じることにしよう。

 

 さて、思わぬ形で予定がまた一つ追加されてしまったが、それでもまだ二時間以上空いている。

 

「そろそろパーク内に戻るか。まだ全然遊び足りないぞ」

 

「そうね……でもその前に」

 

「ん? ……わっ」

 

 首根っこに腕を回されてベッドに引き倒された。

 

「楓?」

 

「……園内では全然出来ないし、今ここでい~っぱい……チューしていかない?」

 

「……………」

 

 断る、という選択肢は当然存在しない。

 

 

 

 

 

 

 16:40 エキゾチックコースト

 

 

 

 荷物の整理などを終えてパークに戻ってきた俺たちはなんとなく反時計回りに園内を回ろうということになり、今日まだ一度も足を踏み入れていないエリアである『エキゾチックコースト』へとやってきた。

 

 ここは千夜一夜物語をモチーフとした異国情緒あふれるエリアであり、先ほどからスパイスのいい香りが漂っていた。

 

「ふぅくん、スパイシーカリーチキンだって」

 

「よし買うぞ」

 

 小腹も空いているので早速屋台で購入。ついでにビールまで買ってしまった。

 

「やっぱりこういう食べ歩き飲み歩きっていうのも醍醐味だと思うの」

 

 とはいえ歩きながらでは色々と危ないので、川辺の柵に寄りかかりながら小さく何度目かの乾杯をする。

 

「ん~! おいし~!」

 

 チキンに噛り付きながらビールを呷る。これだけ俗っぽい仕草でも美人がやると絵になる辺り、流石俺の嫁である。

 

「そういえば飲み歩きで思い出したけど、近々そういうイベントをやる予定だったらしいな」

 

「詳しく」

 

 迫真の声色と反応速度である楓にちょっと笑いつつ、先ほどチラッと調べていたイベント情報を再び検索する。

 

「ほらコレ。来月からフロンティアで開催される飲み歩き食べ歩きのイベントだって」

 

 様々な飲食店で期間限定のアルコールや軽食が販売されるイベントらしく、ある意味俺と楓にピッタリの催しだった。

 

「なんで……なんで、私たちはこのイベント期間中に来ることが出来なかったの……!?」

 

「イベント開催の発表がマジックリゾートへ行く予定を立てた後みたいだから、プロデューサーも提案出来なかったんだろうなぁ」

 

 彼女がそれに気付かないわけないし、きっと俺たちに気を使ってくれたのだろう。そんなイベントがあったのであれば絶対に楓はそのタイミングで行きたがっただろうし、なんなら俺だってそっちの方が良かった。

 

「……ねぇ、ふぅくん」

 

「時間が取れたらまた来ような」

 

 上目遣いの甘えた表情の楓が何を言いたいのかなんて言わずとも理解できた。

 

「ふふっ、まだマジックリゾートに来て半日しか経ってないのに、すっかりマジックリゾートの魅力に取り込まれちゃってるわね」

 

「それだけプロデューサーのプレゼンが上手かったんだよな」

 

 十分楽しんではいるのだが、きっとこれでも『マジック・フロンティア』の半分も楽しめていないのだろうし、この後の半日で全てを楽しめるとも思わない。こうして全てを楽しむことが出来ないほどの規模を誇り、更に様々なイベントを毎シーズン開催する。だからこそプロデューサーのような熱心なリピーターが生まれるのだろう。

 

 そんなことを話しているうちに、チキンを食べ終わりビールも飲み終わる。

 

「さて次は何処に行こうか」

 

「そうねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 17:20 ワン サウザンド アンド ワン ナイト シアター

 

 

 

 周囲のアトラクションを調べてみた結果、マジックショーを開催しているシアタータイプのアトラクションが近くにあったのでやってきた。待ち時間も三十分ほどで入場。

 

 入場して直後の待合室ではこの劇場のストーリーを聞くことが出来た。なんでも『うだつの上がらないマジシャンが魔法のランプの精の力で凄いマジシャンになったが、用済みとなった魔法のランプを封印してしまった。マジシャンの召使の少年は友人であるランプの精を助けることが出来るのか』……というものらしい。

 

 つまり今から俺たちは、そのマジシャンのショーを見つつ少年がランプの精を助ける様子を見ることが出来るわけだ。

 

「こういう物語と実際に起こる出来ことが一致してるのが面白いよな」

 

「本当に映画の中に入ったみたいよねぇ」

 

 どうやら途中から3D映像を使用するショーらしいので、専用の眼鏡を受け取っていざ劇場内へ。

 

 すると舞台の上には既に人がいた。

 

『あのー! すみません! どなたか鍵を知りませんか!?』

 

 座席へと着席する観客たちに向かって呼びかける少年は、先ほどのストーリーに登場していた召使だった。先ほどマジシャンがランプを封印するために使用した鍵を探している最中らしく、観客である俺たちにも鍵の在処を聞いて回っているらしい。

 

「……折角だし一番前に行かない?」

 

「マジですかふぅさん」

 

 全然身バレしないことをいいことに、だんだん危機感が薄れてやしませんか?

 

 しかし反論する前に俺の腕に自身の腕を絡めた楓はズンズンと最前の座席へと向かっていってしまった。楓に腕を引かれて抵抗できる男なんていないのだ。

 

『……あっ! そこの仲の良さそうなお二人さん!』

 

 うん、仲の良さそうな二人組は沢山いるからきっと俺たちではないな。

 

『腕を組んでいらっしゃるそこの幸せそうなお二人!』

 

 うん、周りに腕を組んでる人は俺たちしかいないな。

 

『お二人とも、これぐらいの鍵を見ませんでしたか!? ボクの大切な友だちを助けるためなんです!』

 

 これは他の人たちにも聞いていた質問だ。他の人たちは首を振ったり自宅の鍵を見せたりしているようだったが……。

 

「ごめんなさい、見てないわ」

 

 あろうことか楓はわざわざ声に出して対応してしまった。本当に気が緩みすぎてやしませんか……?

 

『っ、そうですか……』

 

 そして変装状態とはいえ真正面から楓の姿を見て声を聞いた召使の少年……に扮したキャストは、どうやら気付いたらしく一瞬の間があった。

 

(本当にそういう悪戯やめようぜ……心臓に悪い)

 

(でもこういうハラハラするのも楽しくない?)

 

 どうやら旅行中という空気に充てられてテンションが高くなりすぎているらしい。

 

 結局、実際にショーが始まってからもマジシャン役のキャストが俺たちの存在に気付いて一瞬間があったのだが、その後はそんなこともおくびに出さずにショーを完遂してくれた。ホントうちの楓がすみません。

 

 

 

「そんなこと言って、開演中は伊達眼鏡外してたの、私は気付いてるんだからね?」

 

「いやこれは3D用の眼鏡を付けるためだから。他意はないから」

 

 

 

 

 

 

「いやまさか最前に来るなんて思わないじゃないですか……?」

 

「分かります……自分もふっつーに座ってたから二度見しちゃいましたもん……」

 

 

 

 

 

 

 17:45 パラディンティス

 

 

 

 他のゲストたちとは少し味の変わった楽しみ方をした俺たちは、シアターを出るとあてもなくフラフラと歩きだした。十八時半までにまだ時間があるし、のんびりと辺りを散策しようとやってきたのは、エキゾチックコーストのすぐ隣にあるエリア『パラディンティス』。海底の人魚の世界をモチーフにしたエリアである。

 

「ここは小さい子が多い気がするわね」

 

「公園みたいに自由に遊べるスペースもあるらしいな」

 

 小さい子向けのエリアになっているらしく、なんとなく入ってみたショップもベビー用品を中心にしたお店だった。

 

「……そういえば『しんでれら』の店長さん、今度子どもが生まれるって言ってなかったかしら」

 

「あ、そうだったな」

 

 俺と楓だけでなく、楓の同僚のアイドルを中心に懇意にさせてもらっている穴場の居酒屋の店主がそんなことを話していたことを思い出した。

 

 あの居酒屋は本当に色々とお世話になっているので、彼の子どものためのお土産も買っていこうということになった。

 

「……でも男の子か女の子かも分からないのよねぇ」

 

「そうなると、どっちでも良さそうなデザインのものがいいか」

 

 そんなことを話しつつベビーグッズを見て回る。

 

 

 

 ――ねぇ、今すれ違ったカップル、顔面強すぎない?

 

 ――分かる。生まれる子も凄いことになるんだろうね。

 

 

 

 ……君たち、そういう会話は本人たちに聞こえないような声量で話してくれ。

 

 ほら見ろ、楓さんが蕩けきった表情で腕に抱きつく強さが強くなったじゃないかあぁやめて楓さんそんな表情で見上げないで見つめないでさっき散々チューしてきたでしょ!?

 

 

 

 ……ちょっと早いけどホテル戻りますか?

 

 

 

 




「なんかよく分からないんだけど」

「なに? お姉ちゃん」

「普通、両親がイチャイチャしてることを見るのって、子どもにとってはキツいんだって」

「えぇ!? なんで!?」

「分かんない」

「へぇ……世間は不思議だねぇ」
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