かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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ランド入園したらまずはこっち。


魔法のお城を巡りましょう

 

 

 

 9:10 魔法の鏡の物語 城内

 

 

 

「外観も凄かったが、中も結構作り込まれてるよなぁ」

「本当のお城……というよりは、本当の映画の中みたいよね」

 

 『イン・トゥ・ジ・アース』のときもそうだったが、マジックリゾートは待機列もしっかりとアトラクションの世界観に合わせて作りこまれているため、見ていて全く飽きることがない。現に俺と楓は先ほどからお城の内装に感心しっぱなしである。

 

「でもひぃくんは最近こういうの間近で見てたじゃない?」

「え?」

「ほら、先月まで……」

「あぁ」

 

 楓が言いたいのはきっと俺が先月まで出演していた舞台のことを言っているのだろう。『新解釈ロミオとジュリエット』といって、丁度今俺たちがいるお城のようなセットの舞台だった。

 

「どっちが凄いっていう優劣をつけるつもりはないが……そうだな、どっちも『物語を再現する』っていう点で言えば、演劇の世界に通ずるものがあるな」

「なにか参考になったりする?」

「流石に大道具さんの領域にまで口出しするつもりはないよ」

 

 それに『お城のようなセット』という話をするのであれば。

 

「ふぅだって、最近()()()()()を履いたばかりじゃないか」

「あら、そういえばそうだったわね」

 

 その年の346プロ人気ナンバーワンアイドルの称号である『シンデレラガール』を得た楓。選ばれたアイドルはガラスの靴を履き純白のドレスのようなステージ衣装で、お城のようなステージに立つ。

 

 目に涙を浮かべつつ堂々と歌い上げる『高垣楓』の姿は、紛れもなくお姫様だった。

 

「この『魔法の鏡の物語』も童話のシンデレラをモチーフにしてるみたいだから、意外と縁があったりするんじゃないか」

「そうね、私も『魔法の鏡の物語』のヒロインみたいに、素敵な王子様に見つけてもらったものね」

 

 そう言ってより一層身体を俺に預けてくる楓。素直に嬉しいが、これ以上くっつかれると純粋に歩きづらい。

 

「いや『お姫様』としてのお前を見つけたのは俺じゃなくてプロデューサーじゃないか?」

 

 『モデルの高垣楓』を見初めて『アイドルの高垣楓』としてお城へと連れ出したのも、そんな『アイドルの高垣楓』にガラスの靴を履かせたのも彼女のプロデューサーだ。

 

 しかしそんな俺の返答が不服だったらしく、楓は頬を膨らませながら可愛らしく抗議の意思を見せた。

 

「それに、俺は『俺の傍にいてくれたお前の背中』を見て、お前と結婚したいって思ったんだから」

 

 その光景は何度だって思い出せる。俺の部屋で正座をしながら洗濯物を畳んでくれた楓の背中。そんな背中に、俺はこの女性と共に人生を歩もうと決意したのだ。

 

「みんながステージの上で見るドレスやティアラで着飾ったお姫様のお前じゃなくて、なんてことのない私服で傍にいてくれるお前のことが好きになったんだから」

「……だからって、お姫様って思われないのはそれはそれで不服です」

「顔赤いぞ」

「……………」

 

 その後しばらくの間、俺に肩に頭をぶつけて無言の抗議をする楓であった。

 

 

 

 

 

 

「……なんか変じゃない?」

「何が?」

「いや、なんか『魔法の鏡の物語』のアトラクション降りてきた人たちの表情がまるで濃厚なラブコメを摂取した後のようで……」

「なにそれ。『魔法の鏡の物語』ってラブコメだっけ?」

 

 

 

 

 

 

 9:30 マジックランド・ファンシーエリア

 

 

 

 『魔法の鏡の物語』を乗り終えた俺たちは、次のアトラクションへと足を進めるのだったが……。

 

「うぅ……」

 

 その途中、楓が悲しそうな目で足が遅くなった。

 

「ひ、ひぃくん……」

「ダメだぞ」

「でも……」

「ダメだって」

 

 まるでおもちゃを買って欲しい子どもとのやり取りのようだが、実際似たようなものだったりする。その実情は到底子どものものとは思えないようなものだが。

 

「今日は一日我慢するって決めただろ?」

「うぅ……」

「それに考えてみろ。今の俺たちの恰好を」

 

 楓の提案により、今日はマジックランド制服デート。見た目だけとはいえ、俺たちは今学生なのだ。

 

「これでビールは飲めないって」

「はぁー……」

 

 それはそれはとても深い溜息だった。

 

 勿論楓も今日の禁酒は覚悟していたはずだった。しかし丁度道すがらに酒場のような装いのレストランがあり、さらに屋外の立ち飲みスペースのようなところでビールを飲んでいる人たちを見てしまったばかりに、その覚悟が揺らいでしまったようである。

 

「美味しそう……」

「そうだな。朝から飲むビールは格別だろうし、軽食のホットサンドやフライドポテトも合わせて最高に美味いだろうな」

「ひぃくんのいじわる!」

「俺だって我慢してるんだから」

 

 足を止めることこそしなかったが、そのスピードは牛歩よりも遅い。長くここにいても苦痛なだけだし、さっさと移動してしまおう。

 

「ほら行くぞ。今日は今日しかできないデートをするんだろ?」

「……うん、そうね。我がまま言ってごめんなさい」

「いいって。気持ちはよく分かるから」

 

 とはいえ、折角のデートなのだから我慢ばかりするのもつまらない。……ちょっとプロデューサーに相談してみるか。もしかしたら何かいいアイデアがあるかもしれない。

 

 朝から立ち飲みビールの後ろ髪を引かれつつも、俺たちは次のアトラクションへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「……なんか学生カップルに凄い見られてたね」

「だな」

「飲酒に興味があるんだろうなぁ……」

(いやアレ多分成人済みのなんちゃって学生……)

 

 

 

 

 

 

 9:40 マジックランド・キャッスルエリア

 

 

 

 ここはキャッスルエリア。マジックランドを構成するエリアの一つであり、マジックランドの中央にそびえ立つマジックキャッスルの城下町と言った様相のエリアである。

 

 『魔法の鏡の物語』から次の目的地となるアトラクションの途中で立ち寄ったエリアなのだが、そこで楓はとあるショップに目を付けた。

 

「分かった」

「何が分かったんだ?」

「今の私たちに足りていないもの」

 

 果たしてなんだろうかと首を傾げ、しかし分からなかったので楓に続きを促す。

 

「これ」

 

 そう言って楓は自身の頭を指差した。いや、これは頭上か。頭の上に何かが足りないということだろうか。

 

「……なるほど、カチューシャだな」

「正解っ」

 

 マジックリゾートの定番アイテムといえば、様々なキャラクターの耳や髪飾りを模したカチューシャだ。昨日のマジックフロンティアのときから、様々なカチューシャを付けたゲストとすれ違ったし、今も行きかう人々の多くの頭上にはカチューシャが装備されていた。

 

「制服デートしていてカチューシャを付けないなんて、ルーのないカレーみたいなものだと思わない?」

「それはライスだな」

 

 というわけで楓が目を付けたショップに入る。ここは衣服関係のグッズを多く取り扱っているショップのようで、様々なカチューシャも取り揃えているようだ。

 

 とはいえ、全体的に女性向けのカチューシャの方が多い印象である。

 

「マジックキャットのカチューシャだけでも種類が多いなぁ」

「あっ、これなんてどうかしら」

 

 そう言って楓が手に取って頭の上に掲げたのは、エメラルドグリーンの猫耳カチューシャ。楓の髪色とお揃いで、まるで本当に楓の頭から猫耳が生えているようである。、

 

「どうかにゃ? 似合うかにゃ?」

「あざといなぁ」

 

 とはいえ可愛いしとても似合っている。前川のアイデンティティがクライシスしてしまいそうなほどに。

 

「言われてみればふぅは猫っぽいな」

「そういうひぃくんはどちらかというと犬っぽいわよね」

「自分ではよく分からんけどな」

 

 犬というとマジックランド的にはメインキャラクターであるマジックドッグである。丁度黒い犬耳があったため、それを頭上に掲げてみる。

 

「どうだワン?」

「お似合いにゃー」

 

 というわけで二人してカチューシャを購入する。

 

「こちら、値札はいかがされますか?」

「あ、取ってもらえますか」

 

 レジで購入するとキャストさんが気を利かせて値札を取ってくれた。

 

「お二人とも、とてもお似合いでしたよ」

「ははっ、ありがとうございます」

「そう言ってもらえると、堂々と付ける自信が付くわね」

 

 まぁ今さら猫耳や犬耳ぐらいで恥ずかしがるような仕事をしていない。

 

「それでは良い一日を」

 

 笑顔のキャストさんに見送られてショップを出ると、早速装着。

 

「ひぃくん隊員、カチューシャを付けたら真っ先にしなければいけないことと言えばなんでしょうか?」

「えっ。……めっちゃ可愛いよ」

「ひぃくんも可愛いです。……じゃなくて、写真!」

「そっちか」

 

 偶然にもマジックキャッスルのすぐ傍だったため、二人並んでお城を見上げるような画角を探す。

 

「あ、抱き寄せるのは良いけどお尻はダメよ?」

「マジでそれ今日一日言われるの?」

 

 また一枚、思い出の写真が増えるのであった。

 

 

 

 

 

 

「……………」

「ど、どうかしたの?」

「私は今、推し夫婦の猫耳犬耳コスという可能性に目覚めている」

「本当にどうかしたの?」

 

 

 




「確かに言われてみれば、なんかセット似てた気がする」
「流石シンデレラガール殿堂入り……」
「そんなことより猫耳ママと犬耳パパだよ」
「なるほど、入園すれば合法的に付けてもらえるんだね」
「いや、あの二人なら頼めば普通につけてくれると思うけど……」
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