かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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食事回。


隠れ家で食事をしましょう

 

 

 

 11:35 カントリーエリア 『グランマ・メグの陽だまりダイナー』

 

 

 

 『フェアリーテイル・マウンテン』で濡れた身体をしっかりと拭き、乗車前に外していたカチューシャを再び装着。ふぅニャンとひぃワンに戻った俺たちは昼食にすべくアトラクション近くのレストランへとやって来た。

 

 ここは『フェアリーテイル・マウンテン』の主人公のウサギの少女のおばあちゃんが営んでいる大衆食堂という設定で、彼女が作るオムライスが看板メニューらしく、プロデューサーが絶賛していた。

 

「もうそろそろモバイルオーダーの受け取りの時間だけど、先に席を確保しておこう」

「……それで、ここがプロデューサーさんが言ってたおススメの穴場?」

「らしい」

 

 ダイナーは二階から入店する形式になっていて、階段を降りて下へ降りてさらに裏口から外のテラス席へと出ることが出来るのだが……。

 

「あれ、もしかしてここって」

「さっき俺たちが通ったところだな」

 

 竹の柵で仕切られた向こう側に川が流れているのだが、なんとそこは先ほど『フェアリーテイル・マウンテン』で俺たちが船に乗って流れた経路になっていた。なんとも楽し気な表情のゲストを乗せた船がゆったりと流れていて、そして誰もがびしょ濡れであった。

 

「どうやら落下直後に通ったところみたいだな」

「タオルで身体を拭いてて、周りがこんなことになってたなんて気付かなかったわね」

 

 若干人目に付きそうなところではあるものの、それでも隠れ家的な雰囲気もあって結構俺は好きな場所である。時間も少しだけ早いため、他に人もおらず俺たちにはうってつけの場所だった。

 

「っと、そろそろ時間だな。俺が受け取りに行くからふぅは待っててくれ」

「お願いします」

 

 少し広めの四人掛けのテーブルを確保し、席に荷物と楓を残してカウンターへと一人で向かう。

 

 ……とあるちょっとしたサプライズを受け取るために。

 

 

 

「お待たせ」

「お帰りなさーい。お腹空いて……えっ」

 

 俺の帰りを笑顔で出迎えてくれた楓だったが、手にしたお盆に乗っているものを目にして目を大きく見開いた。

 

「ひ、ひぃくん、それって……その大きめのカップはもしかして……!」

「そのまさかだよ」

 

 先ほど『魔法の鏡の物語』のアトラクションを降りた直後から楓が欲していたもの。今日は我慢せざるを得ないと諦めていた黄金色の飲み物。

 

「ま、まさか……!」

「そうだよ」

 

 ――生ビールである。

 

 実は『フェアリーテイル・マウンテン』の列に並びながらモバイルオーダーの注文をしていた際に、こっそりとビールも追加で注文しておいたのだ。

 

「ど、どうして……!? 今日は我慢するって……!?」

「そもそも今日飲めない理由は『学生の恰好で飲んでいるところを見られるのがよろしくない』っていうだけの話だからな」

 

 先ほどビールを飲んでいる人たちを羨ましそうな目で見ていた楓があまりにも不憫だったため、移動中のトイレ休憩の際に楓が出てくるまでの間にこそっとプロデューサーに相談してみたのだ。

 

「ここなら他のゲストの目を気にせずに飲めるしな」

 

 穴場というだけあって他に人はいない。通行客からの目もなく、たまにアトラクションのボートに乗って流れていくゲストの視界には入るだろうが、流石に飲酒していることまでは気付かれないだろう。

 

 しいていうならば学生服でビールを含まれた注文を取りに行った際に俺が少々気まずい思いをした程度だった。キャストからは何も言われなかったため、恐らく彼らも『そういうゲスト』がいるということは理解してくれているのであろう。流石に確認はされたけど。

 

「今日は楽しいデートなんだから、我慢ばかりさせちゃ悪いからな」

「……………」

「ふぅ?」

「ひぃくん」

「はい」

「今すっごいチューがしたいです」

「流石にそっちは我慢しようぜ」

 

 

 

 では改めて。

 

「「かんぱーい!」」

 

 対面に座る楓と紙コップをぶつけ、そのまま一気に中身を呷って半分ほど喉に流し込んだ。うん、やっぱり喉が渇いているときのビールは格別である。

 

「ほぅ……」

 

 紙コップから口を離した楓がうっとりとした吐息を漏らす。なんだかんだいって、お酒を飲んでいるときの楓は普段よりもずっと艶やかになる。勿論普段の楓に魅力がないわけではない。一億の魅力が一億五千万のになる感じ。

 

「本当に美味しい……」

「今にも泣きそうな表情で言われるのは流石に……」

 

 食事の方にも手を付ける。ワンプレートにオムライスとサラダが盛り付けられ、オムライスの上にはハンバーグまで乗った大変ボリューミーな一皿。外食でオムライスを食べる機会もあまりないので、余計に新鮮で美味しそうだった。

 

「んまっ」

「美味しい……流石プロデューサーさんのイチ押し」

 

 昨日のフロンティアでもそうだったが、たかがテーマパークの食事と侮るなかれ。

 

「はい、ひぃくん、あーん」

 

 顔を上げると、満面の笑みの楓がこちらに向かってスプーンを差し出していた。スプーンの上にはハンバーグが一欠けら。

 

「あーん」

 

 別に拒む理由もないので素直に口を開けて楓のスプーンを迎え入れる。うん美味い。

 

「はい楓も、あーん」

「あーん」

 

 俺も楓にお返しする。目を閉じて大きく口を開いている姿がとても可愛い。

 

 うん、周りからの視線もほとんどないし、確かに隠れ家的にいちゃつくにはもってこいの場所だ。

 

 

 

 半分ほど食事を進めたところで、お馴染みとなったこれからの作戦会議である。

 

「次は『ブラックダイヤモンド・マウンテン』に乗りたいな」

「やっぱり人気のマウンテンコースターには乗りたいわね」

 

 対面から隣の席へと移動してきた楓と肩を並べつつ、スマホを覗き込む。

 

 アプリを使って待ち時間を確認したところ、現在の待ち時間は90分。先ほど『フェアリーテイル・マウンテン』に並ぶ前と比べて30分伸びていた。

 

「九十分待つのは結構辛いよなぁ」

 

 となると、再び『マジックエンジョイパス』の出番である。

 

 どうやら次に『ブラックダイヤモンド・マウンテン』のパス習得の最速時刻は既に16時になっているようである。

 

「とりあえずこれを取得するとして……」

 

 現在時刻は12時過ぎ。今度は四時間ほどのフリータイムである。

 

「さっきは園内の右半分を回って来たから、今度は左半分をを回っていかない?」

 

 マジックランドの敷地はマジックランドを中心として円形になっており、今俺たちがいるのは大体時計で言うと十一時の位置。『魔法の鏡の物語』が四時の位置だったため、そこからぐるっと反時計回りに回って来た。次の『ブラックダイヤモンド・マウンテン』は十時の位置にあるため、四時間かけてゆっくりと園内を一周しようという提案だった。

 

「いいな。折角なら園内を見て回りたいし、プロデューサーが教えてくれた『比較的空いてる場合が多いアトラクション』も途中にあるみたいだ」

 

 俺も楓の提案に異議はないため、この後の行動はこれで決定。

 

「それで、ランドでもフロンティアと同じように19時からショーがあるんだよな」

「ランドではパレードね」

 

 マジックランド名物と言っても過言ではない、園内をぐるっと一周するナイトパレード。これが今回のマジックリゾートデートの締め括りである。

 

「『前の方で座ってみたいなら二時間ぐらい前から待つ必要がある』ってプロデューサーさんは言ってたけど……」

「『逆に前方に拘らないのであれば直前でも座ってみる場所はある』とも言ってたな」

 

 折角なので前方で見たい気もするが、そのために二時間座って待つというのもそれはそれで勿体ない気もする。

 

「……まぁ、間を取って十八時ぐらいから待ってみるか」

「さんせーい」

 

 これで大まかな予定は決まった。

 

「……そっか、パレードを見て、終わりなのよね」

「……お休みもこれで終わりだからな。流石に昨日みたいに最後までいるのは難しい」

 

 荷物をホテルに預けているため、それを引き取りに行く時間も考えるとパレードを見終わってから退園するのが無難だろう。

 

 少しだけしんみりした雰囲気になり、楓がコテンと頭をこちらに傾けてきた。

 

「まだお昼で夜まで時間があるっていうのに、デートの終わりを想像して寂しくなってきちゃった」

「そうだな。いざ終わりのことを考えると、やっぱり寂しいな」

 

 昔、子どもの頃に遊園地に連れてきてもらった記憶がある。遊園地の帰り際、奈緒が帰りたくないと大泣きしていた記憶はあるのだが、俺はどんな気持ちだったのかは覚えていない。けれど、きっと今そのときと同じ気持ちになっているのだろうと思う。

 

 楽しい時間の終わりは必ず来る。

 

「惜しむのも寂しがるのも、きっとそれだけ楽しかったっていう証拠だ。なら逆に今日の夜の俺たちをめちゃくちゃ惜しがらせるぐらい、残りの時間を楽しもうぜ」

「……うん」

 

 なんて終わりの雰囲気を醸し出し始めているが、先ほどから言っているがまだ十二時過ぎなのである。

 

「あ、ここよさげー」

「見て! ボート流れてるじゃん!」

 

 お昼時になり店内も込み始めたため、隠れ場的雰囲気のここにもゲストが流れ始めてきた。

 

「食べ終わったことだし、そろそろ行くか」

「そうね……あ、そうだひぃくん」

「なに……んっ」

 

 一瞬。楓に呼びかけられて振り返った一瞬。

 

 唇に触れた熱と、優しい香り。

 

 

 

「ふふっ、チューがしたいって、言いましたよね?」

 

 

 

 不意打ちはズルい。

 

 

 

 

 

 

「……今見た? っていうか見えた?」

「え? 何を?」

「いや、見てなかったのならいい。寧ろ見ていたのは私だけでいい」

「なになに、めっちゃ気になるんだけど……なんでそんなに目ぇバキバキなの!?」

 

 

 




「ここのオムライス美味しいんだよねぇ」
「……えっ!?」
「どうしたの月ちゃん」
「今ここ、グランドメニューにオムライス無くなってる……」
「えぇっ!?」
「ちょっとショック……」
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