14:15 マジックランド・キャッスルエリア
「やっぱりマジックランドと言えばパレードだったな……」
「私たちはこれをスルーしようとしていたなんて、今になって思えば信じられないわね」
キャッスルエリアの通路の立ち見鑑賞エリアでパレード鑑賞を終えた俺たちは、邪魔にならないように人の流れに乗って移動しつつそんな感想を溢す。
マジックランドの昼のパレード『マジックランドパレード・デイドリームス』は、マジックドッグたちの夢の世界を表現した各フロートが園内を巡るパレード。各フロートごとに周囲を練り歩くパレードダンサーさんたちの雰囲気もガラリと変わり、初見ということを差し引いてもずっと見ていて楽しいパレードだった。
さて、流れに任せて歩いている内に俺たちは再びアマゾンエリアへと戻って来た。『ブラックダイヤモンド・マウンテン』のマジックエンジョイパスの時間までまだまだあるため、また何処かのアトラクションに並びたいところである。
「この辺りにあるアトラクションだと……」
「この『パイレーツ・ナイト・クルーズ』っていうのがいいんじゃないかしら」
楓に言われて調べてみると、そのアトラクションはすぐ傍にある上に待ち時間も三十分とさほど長くない。
「そういえばプロデューサーさんも、ここは『一時間ぐらいの余裕があれば確実に乗れるアトラクション』の一つみたいなこと言ってたっけ」
「……冷静になって考えると『アトラクションに乗るために一時間並ぶのは普通』っていう考えにすっかり染まっちまったな、俺たち」
「マジックリゾートで遊ぶっていうことは、きっとそういうことなんでしょうね」
たった二日間で自分たちの価値観が少し変わり始めていることを自覚しつつ、俺たちはそのアトラクションへと向かうのだった。
14:20 マジックランド・アマゾンエリア
『パイレーツ・ナイト・クルーズ』
ボートに乗ってかつて海賊たちが暴れたという海域を遊覧するアトラクション。建物の中は常に夜のため、どの時間に乗ってもナイトクルーズになるらしい。
「結局今日も船旅することになったな」
「そういえばさっきはそういう理由で船じゃなくて機関車にしたんだったわね」
ぞろぞろと列に並んで歩きつつ、スマホを操作してSNSを確認する。
「……あれから投稿は増えてないみたいね」
「あくまでも『似ている』っていうだけで話題になったみたいだから、これ以上増えようがないだろう」
ここで俺たちが『マジックランドで学生服デート中です』と呟かない限り、学生服を着ている俺たちが本物の『神谷旭』と『高垣楓』だと断定するような人はいないだろう。……あくまでも一般人として来園している俺たちを隠し撮りするようなマナー違反はないと信じたい。
「でもこれで学生服デートの有用性が証明されちゃったわね」
「嘘だろ」
いや確かに『俺たちが学生服を着ているわけがない』という先入観のおかげで俺たちの身バレ対策になっているところもあるだろうけれど、だからと言ってそれを有用性とは表現したくない。
「まさか普段のデートでもたまに着るなんて言い出さないよな」
「……たまにでもダメ?」
「もしやお前、普通にハマった?」
最愛の恋人が学生服コスチュームプレイにハマってしまった。なんてことだ。
「着るだけで心が十歳も若返るなんて、素敵だと思わない?」
「そんな川島さんみたいなこと言いだして」
「さっきからひぃくん、凄く怒られるようなことばっかり言うわね」
楓はプクッと頬を膨らませ、腰に手を当てて下から俺の顔を覗き込んできた。
「それとも、なぁに? 今の私、可愛くない?」
「……………」
俺はスマホを取り出してメモアプリを起動すると、スッスッとフリックして文字を入力する。
『今俺は口を開くとふぅ可愛いと絶叫してしまう』
「……こんな些細なことでも嬉しくなっちゃう」
悩まし気に、それでいて嬉しそうに楓の頬に朱が差した。
『かわいいいいいいいい!!!』
「連打しなくていいから」
大分話が逸れた。
「とりあえず制服姿のふぅが可愛いことは分かった」
「話が逸れたままよ。……ひぃくんだってカッコいいわ」
再び声が出そうなところをぐっと我慢する。
「でもこの格好を変装として使いたい場合、一つ問題点が発生する。何か分かるか?」
「……間違って学生料金で支払ってしまう?」
「その辺りはちゃんと間違えないように自分でしっかりしよう」
そうじゃなくて。
「コラム作成の依頼もあるし、二日間の写真は後日公開することになるだろ? そうなったら『俺たちが学生服デートをしていた』っていうことが明るみになるわけで」
「……あっ」
『学生服を着ているわけがない』っていう先入観による身バレ対策は機能しなくなるのである。
そのことを指摘すると可愛らしく「ぐぬぬ」と唸った。
「……白状します」
「ん?」
「学生服を着るのも、ひぃくんが学生服を着ているのを見るのも……好きになってしまいました……!」
高垣楓、マジックリゾートデートにて新たな癖が開花する
「うーむ、凄い会話を聞いてしまった……」
「なんというか、二人ともビジュアルがとても良いからとても同意できちゃうわね……」
「……着る勇気、ある?」
「私はない」
「私もない。生まれ変わって『高垣楓』みたいになれたら喜んで着たい」
「死後に全てを望みすぎでしょ」
「死後ぐらい希望を持たせてよ」
「生前にもっと希望を持てって言ってんの」
14:40 パイレーツ・ナイト・クルーズ 乗り場
「次はセーラー服も……」
「こんばんはー。何名様ですか?」
「二人です」
ずっと制服デート談義をしている間に時間は経ち、気付けば俺たちはアトラクションの乗り場へと辿り着いていた。乗り場のキャストさんに二人であることを告げると、そのまま船の最後尾の席へと案内される。
(……ん?)
座席の一部が少しだけ濡れているような気がした。
実はこのアトラクション、昔からあったという話なのだが残念ながら内容をイマイチ覚えていなかった。周囲の反応から何となくただののんびりとした船旅、というわけではなさそうだということは何となく分かるのだが……。
「それでは出航です! 良い船旅を~!」
そんなことを考えている内に船が出航する。キュキュキュというベルトコンベアで船が運ばれる音に続いて、そのまま船が入水して揺れた。
そうして出航した直後、そこは屋外だった。正確には『屋外のように作られた屋内』だった。天井や壁が黒く夜空に塗られ、チカチカと輝く星々によって彩られている。かすかに虫の声も聞こえている。
「なるほど、これは確かにナイトクルーズだ」
「あれ、もしかしてあそこで食事してる人たちって……」
楓に袖を引かれて彼女が指差す方に視線を向けると、そこには薄明りの下のテーブルで食事を楽しむ人たちが……。
「え、あれ人形じゃないのか?」
始めはいつもの動く人形だと思っていた。しかしよく目を凝らしてみると、それは人形ではなく本物の人間だった。聞こえてくる喧騒も普通の会話のように聞こえる。
「もしかしてここ本当のレストランなの……?」
「演出の一部としてレストランが組み込まれているのか……」
きっとレストランを利用しているゲストからも、俺たちは演出の一部として組み込まれていることなのだろう。
昨日から何度も体験している『ゲストたちがお互いに演出の一部になる』という設定だが、まさかこんなところでこんな形で体験することになるとは思わなかった。
「ちょっとあっちのレストランにも行きたくなってきちゃった……」
「でも、どう見ても予約が必要なタイプのレストランだよなぁ……」
流石に今から予約を取ってすぐ入れるようには見えないので、今回は残念ながら諦めるしかないだろう。
「それじゃあ、次に来たときの楽しみにしておきましょう」
「……そうだな」
「そのときは、セーラー服と学ランね」
「その話まだ引っ張るのか……?」
そんな会話をしている間にもボートは進む。レストランから聞こえてきていたささやかな喧騒も鳴りを潜め、今は虫の声だけが……。
(……なんか、ザーザーっていう水の流れる音が聞こえるような)
それは『フェアリーテイル・マウンテン』でも聞こえてきた音に似ていて、乗船時に座席の一部が濡れていたことも合わせて、俺はこの後起こるであろう展開が読めてきたような気がした。
「なるほど、これはただの遊覧ってわけじゃないってことか」
「えっ」
シートベルトとか安全バーとかが無いから大したことないんだろうけど。
「落ちるなコレ」
「えっ」
――きゃあああぁぁぁ!
「折角こんなにいいレストランに来たんだから落ち着きなって」
「ゴメン……でも私の第六感が囁いてるの……絶対に二人はいるって……!」
「いたとしても声かけたりしたら迷惑でしょ」
「当然でしょそんなことしないって」
「じゃあ見つけてどうするの」
「ご馳走様でしたって言いたい」
「寧ろ写真撮影をお願いした方が健全だと思えるぐらい倒錯した願望が来たな……」
「私たちの制服をお母さんに来てもらうっていうのはどうかな?」(混乱)
「ナイスアイデア!」(混乱)