かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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楓さん、今年もお誕生日おめでとうございます!

マジックリゾート編はもうちょっとだけ続くんじゃ!


炭鉱探索へと向かいましょう

 

 

 

 16:05 マジックランド・ウエスタンエリア

 

 

 

 『アイスクリーム・カップ』のアイスクリームをベンチに座ってのんびりと食べた俺たちは、ようやくマジックエンジョイパスの時間となった『ブラックダイヤモンド・マウンテン』までやって来た。

 

 

 

『ブラックダイヤモンド・マウンテン』

 かつてブラックダイヤモンドと呼ばれた石炭が大量に採掘された炭鉱を、トロッコに乗って駆け巡るアトラクション。実は石炭以外にも金が発掘されたという噂も……。

 

 

 

 スマホに表示させたQRコードをキャストに読み込んでもらい、俺たちはマジックエンジョイパス専用列へと並ぶ。

 

「そういえばこの二日間で普通のジェットコースターに乗るのはこれが初めてになるな」

「……そういえばそうね」

 

 『フェイアリーテイル・マウンテン』も『パイレーツ・ナイト・クルーズ』も落下はあったものの基本的にボートに乗っていただけだし、辛うじて初日のフロンティアの『イン・トゥ・ジ・アース』がそれに近いかもしれない。

 

「三大マウンテン最後の一つ『アストロノーツ・マウンテン』も本格的なジェットコースタータイプのアトラクションらしいけど」

「休止してるものね」

 

 地味に楽しみにしていたので少し残念である。次に来たときは是非乗ってみたい。

 

 100分を超えた通常待機列を横目に、マジックエンジョイパスの列はスイスイと前へと進み、あっという間に通常待機列との合流までやって来てしまった。ここから先は普通に並ぶことになるものの、これまでの体感からすると大体十分ほどで乗り場まで到着することだろう。

 

 ふと、アトラクションの建物の外から黄色い悲鳴が聞こえてきた。西部開拓時代をモチーフにした建物の窓から外を窺うと、丁度トロッコが通過していくのが見えた。どうやら待機列からコースの一部を見ることが出来るらしい。

 

「楽しそうな声が聞こえてくるな」

「耳を澄ませてみると、もしかしてらアイドルの声が聞こえてきたりして」

「ははっ、まさかそんな……」

 

 

 

 ――みぎゃあああぁぁぁ!?

 

 

 

「「……………」」

 

 年若い女性にしては情けない叫び声に若干の既視感ならぬ既聴感を覚えた。

 

「……今日、梨沙ちゃんたち以外にアイドルに会った?」

「ううん、会ってない……」

「……ユニクスの三人、最近何処かお出かけする予定立ててたりした?」

「それは分からないけど……」

 

 いや流石にあのピンク頭がいたらもっと騒ぎになっていただろうし、きっと声がよく似た女の子がいたのだろう。

 

 しかしどうしても気になって、ゆっくり列を進みながら視線は窓の外を走り抜けていくトロッコから離せなくなってしまうのであった。

 

「私たちも声だけで人に気付かれたりしたりするのかしら」

「ふぅの声は結構特徴的だから、もしかしたら『イン・トゥ・ジ・アース』とか『フォール・オブ・ザ・カース』あたりで気付いた人がいたかもしれないな」

 

 だからこそ『マジックリゾートに神谷夫妻と激似のカップル!?』なんて目撃情報がSNSに上がったりした可能性もあるわけだし。

 

 またトロッコが走り抜けていく。一瞬ではあったがあの特徴的に頭髪は見つからなかったし、なんならあの特徴的な黄色い声も聞こえなかった。本当にただの気のせいだったようである。

 

「……なんだか、みんなこっちに向かって手を振ってるわね」

「そうだな、こっちから振り返してる人もいるし」

 

 トロッコ上のゲストが待機列に向かって手を振り、並んでいるゲストもそれに振り返している。『マジックフロンティア・クルーズ』や『エクスプレス・トラベル』のときと同じ……いや、それよりももっと純粋に楽しいから手を振っているのだろう。

 

 そんな気持ちの一端に自分たちも触れてみたくなり、俺と楓もトロッコに向かって手を振る。なんだからステージの上から観客たちに向かって手を振っているときと同じ感覚だった。

 

 

 

 

 

 

「みぎゃあってアンタ、凄い声出してたわね」

「……………」

「え、うそ、逝った……?」

「三度目の幻覚……私はもう、真実に至ったよ」

「私は……この子を……救えなかった……!」

 

 

 

 

 

 

 16:15 ブラックダイヤモンド・マウンテン 乗り場

 

 

 

 ようやく……というほど待っていたわけではないが、ついに俺たちはトロッコの乗り場まで辿り着いた。これまでのアトラクションのときと同様に二名であることを告げると、キャストによって案内されたのは五両編成の内に一番後ろだった。

 

「どうせならジェットコースターは一番前に座りたかったな」

「あ、でもプロデューサーさん曰く『ブラックダイヤモンド・マウンテンは後ろの方も悪くない』らしいわよ」

「そうなのか?」

 

 なんでもコースターが五両編成と長いため、レールの頂上から加速して落ちていくのが大体真ん中の車両が頂点に達したタイミングになっているらしい。つまり前方の車両は少しだけ下った状態から加速するため少しだけスリルが弱く、逆に後方の車両はレールの頂上から一気に下に落ちていくスリルを味わえるとのこと。

 

「なんというか不思議な造りだな」

「他のジェットコースターもそうなのかしら」

 

 正直俺も楓も人生でジェットコースターに乗った回数が少ないため、他と比べることは出来なかった。ともあれ、一番後ろに座ることになったのは悪くないということらしい。

 

 そしてついに俺たちが乗る順番が回って来た。前の乗客が反対側に降りていく後に続く形で乗車する。荷物を足元に置き、そして安全バーを前方から引き下げる。

 

「それでは炭鉱探索ツアーへ、行ってらっしゃーい!」

 

 手を振るキャストさんに見送られ、トロッコが発進した。

 

「おっ」

「きゃー!」

 

 いきなり洞窟の中に入って加速を始めたことで、隣の楓が楽しそうな悲鳴を上げる。高低差はないが暗闇の中を左右に振られ、既にジェットコースターとして十分楽しい。

 

 やがてトロッコがスピードを落とすと、トロッコが前方斜め上に向かって傾いた。ジェットコースター特有のカタカタという音と共に、落下までのカウントダウンが始まる。

 

 明るい光が差す洞窟の出口を目指してトロッコは昇っていき、ついに俺たちが乗る最後尾の車両まで洞窟の外へ……。

 

「っ、ふぅー!」

「きゃぁぁぁ!」

 

 明暗の差に目が慣れて景色が見えたかと思った次の瞬間、ついにトロッコが急加速して落下し始めた。顔を打つ風と浮遊感に、他の乗客たちと同じように完成に似た声が漏れ出てしまった。やはり絶叫系という乗り物に乗ると、どうしても声というものは出てしまうものだ。

 

 波打つように小さく落下と上昇を繰り返したかと思うと、急旋回。チラリと視界の隅に先ほど俺たちが並んでいた建物が見え、そこの窓から手を振っているゲストたちの姿が見えた気がした。どうやらトロッコから手を振るタイミングを逃してしまったらしい。

 

 トロッコのスピードを楽しみつつ歯がゆんでいると、トロッコはそのままグルッと一周する気配。今度こそは俺もと安全バーから手を離して両手を挙げた。隣の楓も両手を挙げていた。

 

 夢中で手を振る。まるで学生の頃、好きだった舞台の千秋楽でカーテンの向こうに消えようとする役者さんたちに全力で手を振ったときのようだった。

 

 そんな感慨に浸る暇もなく、トロッコはさらに炭鉱奥深くへと進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

「今のトロッコの一番後ろに乗ってたカップル、すっごい満面の笑みでこっちに手ぇ振ってたね」

「やっぱりあぁ言うの見ると、ちょっとこっちまで楽しくなってくるよな」

「ただ誰かに似てたような気が……」

「俺は流石にそこまで見えんかったな」

 

 

 

 

 

 

 16:30 マジックランド・ウエスタンエリア

 

 

 

「え? 金鉱脈見つけた?」

「うん、多分」

 

 暴走する炭鉱探索ツアーのトロッコから無事に帰還したのだが、どうやら俺は重要なものを見落としてしまっていたらしい。

 

「確かにアトラクションの説明文に『金が採掘』っていうワードがあったけど、あれってフレーバーテキストじゃなかったのか」

「途中、ガラガラ音を立てながら登って行った洞窟があったでしょ? そこの上に動く岩があって、その隙間にキラキラ光るものが見えたの。黄色だったし、あれがそうだったんじゃないかなって」

 

 話を聞く限り、どうやら隣に座る楓のリアクションが見たくて余所見していたタイミングだったようだ。ジェットコースターのスリルに興奮して目を輝かせている楓も可愛いななんて思っている最中、楓は楓で別のお宝を見つけていたらしい。

 

「……いや、悔しくないぞ。俺にとっては、隣に座る目を輝かせているふぅを間近で堪能出来たんだからな。全然悔しくないぞ」

「そういう負け惜しみはよくて、本当は?」

「許されるのであればもう一回乗りたい……!」

 

 普通に悔しかった。こういう隠し要素というかイースターエッグはネタバレを踏んででも自分の目で直接確認したいタイプなのだ。

 

「それじゃあ、それは次の機会の楽しみに取っておきましょう?」

「……次か。そうだな」

 

 日程的に多分もう一度『ブラックダイヤモンド・マウンテン』に乗るのは現実的ではないだろう。

 

 でもそれは()()()()()()()()()()。初めてのマジックリゾートでのデートということで可能な限り全ての遊び尽くしたいという思いに駆られていたが、気に入ったのであれば()()()()()()()だけの話なのだ。

 

「閉園までまだまだ時間があって、今からもしっかりと遊ぶっていうタイミングで言うことでもないけどな」

「それもそうね」

 

 クスクスと笑う楓と手を繋ぐ。腕を組んで歩くのもいいが、こうして手を繋いでいる方がより学生服デートらしい気がしてなんか好きだった。

 

 

 

「次は何処に行こうか」

「ひぃくんと一緒なら、どんなところでも楽しいわ」

 

 

 

 ……なんかここで終わりのような雰囲気を醸し出しているものの、普通に次に何処へ行くのか悩んでいるだけである。さてどうしようか。

 

 

 




「ママお誕生日おめでとう!」
「いきなりどうしたの!?」
「言わなきゃいけないような気がして……」
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