「……ふぅ……」
一人食後のお茶を飲みつつ、一息つく。専らコーヒーばかりを飲む俺だが、たまには日本茶を飲みたくなることもある。
いつも傍らにいる楓は不在で、今日は事務所のアイドルたちとの飲み会だそうだ。なので今日はこうして一人で晩飯を作り、一人で食事をしていたわけだ。
別にこのシチュエーション自体は珍しいものじゃない。なんだかんだ言って、一年前はまだ同棲もしていなかったので夕飯を別々に取るということも多々あったし、今でも仕事の関係上どちらかが自宅で食事を出来なくなることもある。
……しかしまぁ、それでも嫁さんがいないというのは、それなりに寂しいものだ。
さて、それじゃあ先に風呂にでも入って……。
――ピリリリリッ
「ん?」
着信を告げるスマホを手に取る。画面に表記された名前は『kwsmさん』。
……何だろう、川島さんから連絡が来ることなんて多々あるというのに、言いようのない既視感のようなものを感じた。確か彼女も、楓と一緒に飲み会に参加しているはずなのだが……。
「今晩は、川島さん」
『……旭君、ホントゴメン』
その開口一番の謝罪は、何故か心配よりも先に不安が湧いてくるものだった。
「何かあったんですか?」
『……とりあえず端的に説明すると、礼子さんたちにガッツリ飲まされた楓ちゃんが潰れたわ』
「……まぁ、そんな気はしてましたけど」
川島さんの説明をまとめると、何でも楓を除いたクール酒飲み四天王の三人が突然「実は私たちも神谷旭のことが気になっていた(要約)」「神谷旭を守りたかったら私たちに飲み比べで勝ちなさい(要約)」などと訳の分からない発言をし、何故か楓がそれに乗ってしまったらしいのだ。
『おかげで、今までにないぐらい完全に酔い潰れちゃって……』
「人の嫁に何やってんすかアンタら」
『で、でも楓ちゃん、「旭君は私が絶対に守ります!」って、すっごく真剣だったのよ?』
その方法が飲酒じゃなかったらもうちょっと素直に感動したんだけどなぁ……。
「とにかく、またいつもの店に迎えに行けばいいんですね?」
『ゴメン、お願いね』
「はい分かりましたよ……」
通話を終わり、はぁっと溜息を一つ。
そういえば、去年の楓の誕生日、俺が楓にプロポーズした日もこんな感じだったなぁなんてことを考えながら、俺は羽織るジャケットを取りに寝室へと向かった。
「……ほら楓、帰って来たぞ」
「………………」
背負った楓から反応は無く、ただ意味もない小さなうめき声のようなものしか聞こえてこなかった。
いつものお店から楓を回収してきたのだが、確かに完全に酔い潰れていた。正直、楓が外でお酒を飲んでここまで酔い潰れたことはだいぶ珍しかった。少なくとも、俺との交際が始まってからは殆ど無かったと思う。
川島さん曰く「外で酔っぱらうと二人の関係をポロッとこぼしてしまう可能性があったから自重していたが、その心配がなくなったからタガが外れたのではないか」とのことだ。出来ればそのタガは関係を公にしてからも外さずに丁寧にハメておいてもらいたかった。
「よいしょ」
とりあえず寝室まで楓を連れてきて、ベッドの上に寝かせる。
「って、おわっ」
首に回された手が離れなかったため、楓に覆い被さる形で俺もベッドに倒れ込むことになってしまった。そのまま胸元に顔を埋めて、さらに枕か何かと勘違いして俺の頭を強く抱きしめられるところまでお約束ではあるが、シャツのボタンと下着のホックが鼻っ柱に当たって普通に痛い。そういうのはふんわり優しくやるのが楽しむコツである。
「よっと」
少々強引に引き剥がす。ただ寝ているだけならばもう少し丁寧に扱うのだが、酔っぱらって寝ている状態は何をしても基本的に起きないので、多少乱雑に扱っても問題ない。
そう、酔って寝ている場合は本当に雑に扱っても起きないのだコイツ。まぁその辺の色々は過去に何回か既に経験済みだが……以前それを逆手に取られて楓本人にカメラを隠されていたことがあるので、もう懲りた。
「さてと」
こうして楓を連れ帰って来たわけだが、これで終わりではない。こんなだらしなく酔い潰れていたとしても、紛いなりにも楓はアイドル。流石にこのまま翌朝まで寝かせておくわけにはいかない。
本当は無理矢理風呂に放り込みたいところではあるのだが、深酒直後の入浴はNG。どうせ明日の朝にもう一度入ることになるだろうが、いくら酔い潰れているとはいえ楓も汗臭いのは嫌だろうし、とりあえず濡れタオルで体を拭いて着替えさせることにする。
あ、ただ別に俺は楓の汗の匂いとか全く気にしな(ry
風呂場で桶にお湯を張り、タオルと共に寝室に持ってくると、ベッドの上の楓はそれまで羽織っていた薄い上着を脱ぎ捨てていた。どうやら暑くなって無意識的に脱いだらしい。ただ脱がせるものが少なくなったのはちょうどいい。
ただ服を脱がせるその前に……。
「えっと……あったあった」
寝室の楓の荷物を少々失敬して、化粧落としを見つけ出す。素のままで十分美人な楓だが、大人の身だしなみとして当然普段からメイクをする。まずはメイクを先に落とさないと。
「えっと、まずはポイントメイクを……」
落としづらい目元口元のメイクから落とし始める。
実は楓のメイクを落とすことは初めてじゃない。珍しいというだけであって楓が酔い潰れたことは過去にも何回かあったし、その度に俺がわざわざメイクを落としている。初めは電話で川島さんに指示されながらだったが、今では慣れてしまった。
そもそも俺とて俳優の端くれで、ドラマばかりではなく舞台にだって度々出演する。そんな仕事を十年もやっていれば、簡単なメイクの仕方と落とし方ぐらい分かるし、実際一人でメイクをする機会だって何回かあるのだ。
「最後に軽く拭いてっと」
やはり化粧をしているときも美人だが、個人的にはこうして化粧を落とした素の状態の楓の顔も大好きだ。そもそも天然でこのまつ毛の長さなのだから、まさしく生まれついての美人である。
さて、着替えだ。
「ほら楓、服脱がせるぞ」
「……うぅん……あさひくんのえっち……」
「グヘヘー観念しろー抵抗しても無駄だぞー」
適当に楓の寝言に相槌を打ちつつ、着ているシャツのボタンを上から外す。そーいえば女性物のボタンってのは男性物の逆だから、こういうとき外しやすいよなぁなどとどうでもいいことを考えながら全て外し終えると、薄緑色の下着に包まれた胸と何にも包まれていないお腹が露わになった。
「はい、身体起こせ。シャツ腕から抜くぞ」
抱き寄せる形で楓の上半身を起こし、両腕からシャツを抜く。そしてついでに背後に手を伸ばして下着のホックを外し、そのまま下着も一緒に脱がせた。彼女の桜色の胸の頂を隠すものは何もなくなり、上半身裸となった。
流石アイドルというだけあって、やはり身体のバランスは見事だと感心する。346プロにはやたらと胸の大きなアイドルが多いため少々見劣りしてしまうのは仕方ない。しかしそれでもこの腰のクビレのラインに関しては、誰にも負けていないと自信を持って言える。
「………………」
ムニムニ
「……んっ……」
いや、嫁さん以前に惚れた女性が上半身裸で横たわっているのだから、手を出さない方がおかしいと自分自身に言い聞かせる。やわっこいなぁ……。
堪能したところで、本来の目的である楓の身体を拭くことにする。
桶のお湯はちょうどいい温度になっていた。それでタオルを濡らし、適度に絞ってから身体を拭いていく。これは今年の正月明けに楓が風邪を引いた際に身体を拭いたときと同じ。ただ今回は楓の意識がなく、殆ど脱力している状態なので少し大変だ。
両腕、肩、腋の下、胸、お腹、首と余すところなく拭いていく。胸の頂にタオルが触れて楓が「んっ……」と小さく声を漏らした際には、少々アレな気分になったことは否定しない。
上半身を拭き終わったので次は下半身なのだが、いくら暖房を入れているとはいえ全裸は流石に寒いだろうから、とりあえず上を着せることにしよう。寝るときには下着を付けないので、代わりに肌着を着せてからパジャマを着せる。
よし、今度こそ次は下だ。
「下も脱がせるぞー」
「……うぅん……あさひくんのすけべ……」
「ふひひーお前の身体は既に俺のものなのだー」
一部例外を除きステージ衣装はスカートが多い楓だが、私服はパンツ系が多い。今日も例に漏れずショートパンツで、下に黒のストッキングを履いていた。
まずはショートパンツを脱がせるためにベルトを抜き、ボタンとファスナーを外す。そのままベッドに寝かせた楓の腰を抱き上げるように浮かせ、徐々に見えてくる黒スト越しの下着にフェチシズムを感じつつショートパンツを脱がせていく。
足からショートパンツを抜き、次はストッキングを伝線しないように丁寧に脱がせると楓の生足が徐々に剥き出しになった。
やっぱり高垣楓という女性の魅力を語る上で、脚は外せない。全体的に肉付きがよくないので太腿の柔らかさは若干物足りなさを感じるが、逆にその細く長い脚はモデル高垣楓のスタイルの良さの象徴とも言える。
見慣れていてもなお見惚れそうになるが、さっさと最後の一枚脱がせてしまおう。上とお揃いの薄緑色の下着は、布面積的にショートパンツやストッキングよりも簡単にスルリと脱がせることが出来た。
「……そーいえば、同じ色なんだよな……」
目線を上げて楓の鶯色の髪を一瞥してから、こちらも濡れタオルで拭いていく。
足先から股座まで。何度も身体を重ねてお互いを余すところなく知り合った仲ではあるが、こうして明るい中で見るのは少々気恥ずかしいものがあった。
下着はどうせ明日の朝もう一度シャワーを浴びた際に変えるだろうから、とりあえず適当に俺が選んだ白色を履かせる。別に俺の趣味嗜好は一切入っていない。
それから下もパジャマを履かせて、これで着替えは完了である。
布団をかけて寝かせる体勢にしてから、一先ず脱いだ洗濯物とお湯の桶を持っていく。洗濯機はまた俺が風呂に入ってから回すので、とりあえず下着はネットに分けて全部洗濯機の中に入れておく。ショートパンツは……デニム生地だし、確かまだ今日しか履いていないはずだから、洗濯はなし。
「……すぅ……すぅ……」
お湯も捨てて再び寝室に戻ると、既に楓は静かに寝息を立てていた。全く、人がアレコレやってるっていうのに……。
さて、仕上げのスキンケアだ。これも川島さんから教わった手順で、楓の化粧水を塗り込んでいく。
「ぷるぷるになーれ、つやつやになーれ、ぴちぴちになーれ」
ついでに川島流アンチエイジングの呪文も一緒に唱えておこう。楓の童顔がこれ以上若返ったら、それこそ本当に中高生と間違われる可能性が出てくるが……今以上に綺麗になった楓を見たいという気持ちを抱くのは、俺だけじゃなくファンにみんなも同じだろう。
軽く頬を摘まんで伸ばしたり、耳の中をくすぐったり、途中遊びながらもスキンケアを終える。
これでようやく全行程終了だ。あぁ疲れた。
「ったく、一体どんだけ飲んだんだか」
なんとなく楓の寝顔を肴に一杯やりたくなり、ウイスキーのロックを持って来てベッドの腰かけながらチビチビ舐めるように飲む。酔っているので当然楓の顔は赤いが、それ以外は問題なくスヤスヤと眠っている。
「……そういえば、元は俺を守るために飲んでくれたんだよな」
いやまぁ、元々飲む口実さえあれば何でもいいのかもしれないが、それでも少しぐらいは俺の為に必死になってくれたのだろう。しかも相手は同じクール酒飲み四天王の三人だ。先ほど迎に行ったときに見たメンツから考えると、きっと片桐さんとか姫川とかその辺りも悪ノリしたことだろう。
――奏ちゃんも、愛梨ちゃんもそうでしたけど!
――旭君は未来永劫私のものです! 誰にだって譲ってあげません!
そんなことを言っていたと、川島さんが教えてくれた。
「俺がお前から離れることがあるわけないだろ、このおバカ」
しかしそう思って行動してくれたこと自体は、素直に嬉しかった。まさか守られるお姫様側の気分を体験する羽目になるとは思わなかった。
「……ありがとな、楓。でもこれからは、もう少しぐらい酒の量を減らす努力しような」
寝ている楓と唇を合わせる。当然のことながら、随分とアルコール臭い口付けになってしまったが、それもまた楓らしいので嫌いではなかった。
□月□日
昨日は日記を書けなかったので、昨日の事もまとめて書くことにする。
昨日はアイドル部門のみんなと一緒に飲み会があった。最近は家で旭君と飲む機会の方が増えたため、こうしてアイドル部門のみんなと一緒にお酒を飲むのは久しぶりだった。
ただ初めは楽しく飲んでいたのだが、途中で礼子さんたちが「実は私たち、旭君のこと気になっていたのよねぇ」「ねぇ楓ちゃん、一度、旭君と二人きりでお酒を飲ませてくれない?」などとトンデモナイことを言い出した。
今になって考えてみれば、それは礼子さんたちの冗談だったと思うのだが、アルコールも入っていた私がヒートアップしてしまい、そこから旭君を賭けて飲み比べが始まり……。
気が付いたら、翌朝自宅のベッドの上だった。
どうやって帰って来たのか一切記憶がなく、服から下着まで全て着替えが終わっており、さらにメイクまで落としてあった。どうやら旭君が全てやってくれたらしく、さらにスキンケアまでしてくれたというのだ。
酔って迷惑をかけたばかりかそんなことまでしてもらい、ごめんなさいと謝ると旭君は「役得だったからへーきへーき。でもあんまり飲みすぎるなよ」と笑って許してくれた。
……旭君は意外と平然としていたが……私の方は、こうして日記を書いている今でも顔から火が出るくらい恥ずかしかった。
確かに夫婦なのでお互いの身体なんて隅から隅まで見知った仲ではあるのだが、だからといって上下の着替えをさせられて身体中を拭かれたことに対して何も思わないわけではなく、何故か無性に恥ずかしかった。
そしてそれと同時に、ほんの少しだけズルいという感情も湧き上がって来た。
……私も、一度でいいから酔い潰れた旭君を介抱してみたいと、そう思ってしまった。
「旭君も
「今
「っ……!?」
「なんでそんなにショックを受けた顔してんだよ……」
まず最初に、書かれそうな感想に先んじて返信するけど、R18版は書かないからな! というか書けないからな!(スキル不足)
作者の読む量が少ないだけでもしかしたらあったかもしれないけど、泥酔した楓さんを着替えさせるだけのお話は初ではないかと自負している。……ないよね?
ちなみに本文中の『以前それを逆手に取られて楓本人にカメラを隠されていたことがあるので』の詳しい詳細はツイッターで『#楓一緒 美味しいお酒の飲み方』を検索(露骨な宣伝)
あとついでに、奏さんSSRお迎え祈願のIF奏ルートなるものも上げてますので、よろしかったらどうぞ(しつこい宣伝)