かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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楓さんをメインヒロインに据えつつ他のアイドルとイチャつかせる方法第二弾。


もしも○○が旭の妹だったら……?

 

 

 

 

「もしもなんだけどさ」

 

 それは、あたしの部屋での女子会というの名のお酒の席でのことだった。

 

 

 

「私が旭さんの妹だったら、どんな感じだったと思う?」

 

 

 

 御猪口を揺らしながら加蓮が、突然そんなことを言い出した。

 

「……加蓮、いきなりお前は何を言い出してんだ……?」

 

「もしかして酔ってる?」

 

「酔ってないよ~。これぐらいで私を酔わせたら大したもんよ!」

 

 ケラケラと笑う加蓮を見つつ「言動が既に酔っ払いだね」と凛がため息を吐いた。

 

 しかし、女子会が始まってから加蓮が飲んだのは缶ビール二本に日本酒一合。まだ彼女が酔っ払うには少ない量だ。ちなみにあたしと凛はまだ一本目の缶チューハイが空いていない。あたしたちと加蓮の間の飲酒格差が年々広がっている気がする。

 

「ほら昔、旭さんたちが『もし楓さん以外の女性と結婚していたら』みたいな話をしてたっていう話題があったじゃん?」

 

「……あったっけ?」

 

「……あー、あったなぁそんなの」

 

 凛は覚えていないようだが、あたしはうっすらと覚えていた。確かあれは、兄貴と楓さんが結婚して間もない頃だった気がするから……多分五年前ぐらいか。

 

「兄貴たちが宅飲みしてたときに、心さんを中心にして瑞樹さんと早苗さんが悪ノリしたんだったっけ?」

 

「……なんか思い出して来たかも。そのときの話を楓さんが話してくれたんだっけ?」

 

「何が悲しくて兄貴が別の女性とイチャついてる妄想話を義理の姉から聞かにゃならんのだって辟易したもんだよ……」

 

 グイッと缶チューハイの残りを一気に飲み干す。うん、これならあたしももう一本行けそうだな、ともう一本の缶チューハイに手を伸ばす。

 

「それで? それがどうしたんだよ」

 

「それを私たちもやってみよーってゆーこと! でも恋人だと奈緒が何かに目覚めちゃいそうだから、妹ってことにしたの」

 

「誰が何に目覚めるんだよ!?」

 

「そりゃあもう禁断の……ぐえっ」

 

 凛と共に加蓮の顔面に向かってクッションを投げつける。加蓮が手にしていた御猪口から日本酒が零れるが、それぐらいでこのバカの口を塞げるのであれば安いもんだ。

 

「もー、お酒の席の可愛い冗談じゃないのよー」

 

「加蓮って本当にお酒飲むようになってから色んな意味でイイ女になったよね」

 

 凛の嫌味も酔っ払いには通じず「ありがとー」と笑っていた。

 

「それで、私が旭さんの妹だったらなんだけど」

 

「続行するのか……」

 

「んー、今でこそお兄ちゃん欲しいって思うけど……多分昔だったらそんなこと考えないと思うんだよね」

 

「その辺りの考察は冷静なんだな」

 

 確かに、なんとなく昔の加蓮は『兄貴ウザい』を地で行きそうな雰囲気を醸し出していたと思う。多分あたしなんかよりも兄貴への()()()が強いだろう。

 

「でも折角の妄想だから、思いっきりダダ甘にいこうと思います!」

 

「自分自身でそれやっちゃうのか!?」

 

「やっぱり酔っ払いっていうのは無敵だなぁ……」

 

 

 

 

 

 

「加蓮、起きてるかー?」

 

 コンコンと加蓮の部屋のドアをノックしながら声をかけると、中から「起きてるよー」という彼女の声が聞こえてきた。そのまま「入るぞー」と宣言しながらドアを開ける。

 

「よっ、調子はどうだ?」

 

「うん、お昼頃に熱も下がって、ご飯食べて寝たら大分良くなった」

 

「そいつはなにより」

 

 自身のベッドの上で体を起こしてた加蓮。俺もそのベッドの縁に腰を下ろしながら、ちょいと前髪を弄ろうとしたらペシリと手を叩き落とされた。

 

「ほら、三村と十時からの見舞いだ。二人イチオシの洋菓子店の焼きプリンだと」

 

「えっ! やった! 二人にお礼言っとかないと……!」

 

 紙袋を渡すと、途端に加蓮はキラキラと目を輝かせた。うん、顔色もいいし体調が良くなったというのも本当だろう。

 

「お兄ちゃん!」

 

「次にお前は『スプーン持ってきて!』と言う」

 

 どうせすぐに食べたがるだろうと思って、あらかじめスプーンを一緒に持ってきていた。

 

「わっ、よく分かったね?」

 

「これでも十七年お前の兄貴やってるからな」

 

「それじゃあ、次のお願いも分かるよね?」

 

 そう言いながら加蓮は俺に向かってプリンの容器を差し出して来た。

 

「……ったく、毎度飽きないな」

 

「飽きるわけないもーん」

 

 苦笑しつつ容器の包みを開く。小さな陶器に入ったプリンへスプーンを差し込んで掬い上げると、そのまま加蓮の口元へと運ぶ。

 

「はい、あーん」

 

「あーん」

 

 パクリと俺の手のスプーンから加蓮はプリンを口にする。

 

「……んー、美味しー! さっすが二人のイチオシ!」

 

 パッと加蓮の目の色が変わった。両手を頬に当て、典型的な『美味しい』を表現する姿勢である。

 

「そんなに美味いのか」

 

「お兄ちゃんも食べてみなよ!」

 

「どれどれ」

 

 促されるままに俺も食べようとすると、パッとプリンとスプーンを取り上げられた。

 

「はい、今度は私の番。あーんして?」

 

 プリンを掬い上げたスプーンが、今度は加蓮の手によって俺の口元に運ばれる。

 

「あーん……確かに美味い」

 

「でしょー?」

 

 こういうやり取りは今までにも何度も繰り返してきていたので、同じスプーンを使うことに対して特に抵抗も遠慮もない。兄妹だから当たり前とまでは言わないが、そんなことを気にするほど俺も加蓮も子どもではなかった。

 

「はい! 残りは私の分!」

 

 そう言いつつプリンとスプーンを押し付けてきた。残りも俺に食べさせて欲しいらしい。

 

「これ食ったらまた大人しく寝てろよ?」

 

「分かってまーす」

 

 雛鳥のように口を開けて待っている加蓮へ、再びスプーンを向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「こんな感じかな」

 

「……なんというか、ガチ」

 

「凄いなお前……」

 

 あたしと凛のやや引いた視線を受けて尚、ドヤ顔を崩さない加蓮。本当に酔っ払いってのはつえーな……。

 

「で、どう? 本物の妹的には? 今のイベントって実際あったりした?」

 

「……ね、ねぇよ!」

 

「今ドモったね?」

 

 キュピーンと目を光らせる加蓮と、えっと驚く凛。

 

「か、風邪引いたときに看病してもらっただけだ! そんな『あーん』とかするわけねぇだろ!」

 

「同じスプーンを使ったことは?」

 

「……べ、別に兄妹なんだから、珍しいことでもねぇだろ」

 

「「へぇ~」」

 

 凛まで感心したような声出すんじゃねぇよ!

 

 

 

「それじゃ、次は凛ね」

 

「え、私もやるの?」

 

 自分に振られるとは思ってなかったらしい凛が、手にしていたスモークチーズをポトリと落とした。

 

「当り前じゃん。凛だって、ちょっとぐらい『旭さんがお兄ちゃんだったら』って考えたことあるでしょ?」

 

「……ちょ、ちょっとぐらいなら、その……あるけど」

 

 ツイッと視線を外す凛の頬が赤いのは、多分アルコールのせいだけじゃないはずだ。あの凛が素直にこういうことを言う辺り、やっぱり凛も酔っているのだろう。

 

「折角だから凛も話してよー! ほらほら、ここには私たちしかいないんだしさー」

 

 凛の顔を覗き込むように「はやくはやくー」と促す加蓮。

 

 ……正直に言うなら、あたしも少しだけ興味があった。加蓮はともかく、凛がこういう少々馬鹿っぽい話をする機会なんて滅多にないし。

 

「……別に、加蓮が期待してるようなものじゃないけど……」

 

 

 

 

 

 

「くっ~っ! いい天気だなぁ~!」

 

 河川敷の散歩道を歩きながら、グッと大きく背伸びをする。明け方はまだ涼しかったりする昨今ではあるが、昼間は大分ポカポカとした陽気な気候が続いていた。

 

「でもすぐに暑くなるんだろうなぁ……」

 

「もう、折角いい気分なんだから気が滅入るようなこと言わないでよ」

 

 隣を歩く凛が足元を歩くハナコに向かって「ねぇ?」と同意を求めるように声をかけると、それに応えるように我が家の愛犬は俺たちを見上げながら「わふっ」と鳴いた。

 

「ほらハナコも『そうだ』って言ってるよ」

 

「そいつはスマンかった」

 

 お詫びとしてポケットからおやつのジャーキーを取り出すと、目敏く気付いたハナコはその場に立ち止まって自然と『待て』の体勢になった。鼻先でゆらゆらと左右に揺らすと、ハナコの視線もそれに釣られて左右に動くのが面白かった。

 

 このままだと道の真ん中で少々通行人の邪魔になりそうだったので、少し脇に逸れる。

 

「……『よし』」

 

 言うが早いか、俺の手元のジャーキーは一瞬で無くなってしまった。小柄なハナコにはやや大きかったジャーキーを、伏せの体勢で前足を使って抑えるようにガジガジと齧り始める。

 

 これを食べ切るには少々時間がかかりそうだったので、凛と二人で近くのベンチに腰を下ろした。

 

「こうやって、二人でのんびり散歩に出るのも久しぶりだな」

 

「そうだね。何処かの誰かさんが、人気トップアイドルと結婚するなんて言い出したおかげで色々と忙しかったもんね」

 

「あれ、俺、責められてる?」

 

 一体どの辺りが凛の不況を買ったのかと頭を捻るが、クスクスと笑っているところを見ると彼女なりの冗談だったようだ。

 

「それで、実際どうなの? 色々と大変?」

 

「そりゃあな。相手が人気トップアイドルだとか超絶美人だとかそれなのに可愛いとか、そういうことを一切抜きにしても結婚っていうのは大変なんだぞ」

 

「あれ、私、惚気られてる?」

 

 先ほどのやり取りの焼き直しに、二人顔を見合わせて笑ってしまった。

 

「………………」

 

 その後は何故か会話が続かず、ジャーキーを食べ終えて「もっと寄越せ」と言わんばかりに顔を見上げてくるハナコの喉を撫でる。

 

「……えっと、さ」

 

 どうやら言葉が見つかったらしい凛が口を開いた。

 

 よいしょとハナコを膝の上に抱きかかえながら凛に視線を向けると、彼女の視線はゆらゆらと泳いでいた。

 

「言いたいことは、色々あるんだ。驚いたとか、付き合ってたんだったらもっと早く教えてくれてよかったんじゃないかとか、そもそも妹の先輩だってことをもうちょっと考えて欲しかったとか、世間に公表してからお父さんとお母さんが方々に自慢しまくって本当に大変だったんだよとか」

 

 どうやら言葉を選んでいたわけではなく、どれを言うべきか悩んだ結果全部吐き出してやろうという結論に至ったらしい。

 

 何個か理不尽と言うか八つ当たり気味なものも含まれていたが、凛に迷惑をかけたこと自体は事実なので甘んじて受け入れよう。

 

「……っていうことを色々言いたいんだけど、今は置いておいて」

 

「散々言った後にそれかよ……」

 

 これ以上何を言いたいのかとハナコを地面に下ろすと、凛は泳がせていた視線をしっかりとこちらに向けた。

 

「一番言いたかったのは、二つ。……結婚おめでとう。あと……たまには帰ってきて、またこうやって散歩がしたいな」

 

「………………」

 

 凛にしては珍しく素直な物言いに少々面食らってしまったが、妹のそんな可愛い姿に笑みが零れない兄はいなかった。

 

「勿論だ。そのときは楓も一緒でいいか?」

 

「大歓迎。なんだったら子どもも一緒でいいよ」

 

「なら、ハナコには長生きしてもらわないとな」

 

「わふっ」

 

 

 

 

 

 

「ほーう? ほ~~~う?」

 

「………………」

 

 自分で話しておいて、その内容を思い返して真っ赤になった凛が机に突っ伏してしまった。絵に描いたかのような華麗な自爆っぷりに思わず拍手してしまいそうになった。

 

「いやぁ凛も可愛いところあるじゃん!」

 

 ぷはーっと焼酎を飲み干しながら満足げに笑う加蓮。結局、凛は加蓮の酒の肴を提供しただけのようだった。

 

「さて名誉妹の奈緒! 今の凛の話はどう!?」

 

「なんだ名誉妹って。あたしは何をコメントすればいいんだ」

 

「凛の妹具合はどうかなって」

 

「妹具合なんて日本語初めて聞いたぞ」

 

 本当に酔っ払いとの会話は疲れるなぁ……ん?

 

「……加蓮、何してるんだ?」

 

「ちょっと音声データを旭さんに送ろうかと思って」

 

「マテ」

 

 凛の喉から今までに聞いたことがないような低い声が響いてきた。

 

「大丈夫大丈夫、私の分も一緒に送ったから」

 

「なにも大丈夫じゃ……事後報告!?」

 

 止める暇もなかった凛はそのまま床に倒れ伏してしまった。

 

 

 

 ……瑞樹さんと早苗さんで知った気になってたけど、やっぱり酔っ払いって怖ぇ……。

 

 

 

 

 

 

「……旭君、何を聞いてるの?」

 

「えっ、あ、いや、別に大したもんじゃないぞ」

 

「へぇ……大したものじゃないのに、そんなにニヤニヤしてたの?」

 

「………………」

 

「私にも、聞かせて……ネ?」

 

 

 




トライアドプリムスの三人に妹ムーブをさせるのが好きな作者であった。

楓さんメインなのに楓さんの出番が殆どないという暴挙ですが、次回はイチャつかせるのでたまにはお許しを。

次回で四周年ってマ?

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