かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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現実は真冬ですが、夏休みスタートです。


高垣楓と合宿へ行こう

 

 

 

「やめっ! ペンから手ェ離せー」

 

 

 

 チャイムと同時に先生がテストの終了を告げる。

 

 俺もふぅと小さく息を吐いてからシャーペンを置いた。二問ほど分からずに適当に埋めた所があるが、途中式が全く書けていないので得点にはなっていないだろう。しかしそれ以外はそれなりに自信があるので、少なくとも赤点は回避したはずだ。

 

 答案用紙が全て回収され、教室から監督の先生が退室すると……クラス中が歓喜の声に包まれた。

 

 

 

「テスト終わったー!」

 

「みんなお疲れー!」

 

「ぐおおお最後間に合わなかったぁ……!」

 

「えっ!? 最後の選択肢、Aじゃないの!?」

 

「えぇい問題の見直しなんて後々!」

 

「そうそう! これでようやく……!」

 

 

 

 ――夏休みだあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 それは期末試験から開放される者たちの魂の叫びだった。真面目な面々が「あまり叫びすぎると先生が戻ってくるぞ」と警告をしつつも、それでもその表情は夏季休暇に期待を寄せる明るいものだった。

 

「お疲れ様、神谷君」

 

「高垣さんもお疲れ」

 

 クルリと振り返った高垣さんが労いの言葉と共にニコリと微笑んだ。席替えによって高垣さんと席が離れてしまうと絶望し、その後今度は高垣さんの後ろの席になったことで盛大に心の中でガッツポーズを決めたのは、既に過去の話である。

 

 休憩時間には高垣さんがクルリと振り返って話しかけてくれるという最高のポジションであり、授業中は常に彼女のうなじが目の前にあって全く先生の話に集中できないという有難迷惑なポジションである。

 

 ……こっそりとブラウスが透けないかなぁとか思ったり思わなかったりするけどまぁ当然下にTシャツ着てるだろから見えるわけが……。

 

「ふんっ!」

 

「っ!? え、いきなり自分の頬を叩いてどうしたんですか!?」

 

「いや、蚊が止まってたような気がして」

 

「文字通り虫一匹いませんでしたけど……」

 

 突然の俺の自主規制ビンタに目をパチクリとさせる高垣さんも大変キュートであるが「変な神谷君」とクスクス笑う高垣さんも負けず劣らずのキュートさであった。

 

「神谷君には()()出来なかったことがあるんですね、きっと」

 

「ん?」

 

「それで神谷君、夏休みの予定は何かあるんですか?」

 

「っ」

 

 自分から尋ねるタイミングを見計らっていた夏休みの予定を、まさか高垣さんの方から聞かれるとは思っていなかった。

 

「そんな大層な予定はないけど……しいて言うなら、演劇部の合宿があるぐらいかな」

 

 我が演劇部では夏休みの終わりに近隣の劇場を借りて舞台を披露する。そしてその舞台のための合宿をするのが恒例行事となっているのだ。

 

「合宿ですか! 実は合唱部でも夏休みに合宿があるんですよ」

 

「そういえばそうらしいね」

 

 中間考査の後に合唱部に入部した高垣さん。合唱部の友人から聞いた話によると、入部して早々その歌唱力からあっという間に部のエースとしての立場を物にしてしまったようだ。その友人も俺が高垣さんに対して好意を抱いていることを知っているので、合唱部での高垣さんの様子を色々と教えてくれるのだが、事あるごとに「羨ましい? 毎日高垣さんの歌声聞けるの羨ましい?」とドヤってくるのが大変腹立たしい。女子じゃなかったら一発引っ叩いていた。

 

「仲間内でワイワイ集まるってのも楽しいもんだから、お互いに楽しみだな」

 

「はい、とても楽しみです」

 

 欲を言うならば一緒に合宿をしてみたかったが、お互いに違う部活なので無理な話である。

 

「……その、合宿以外はさ、特に予定もないし」

 

 ならば、まだ叶いそうな欲を、勇気を出して口にする。

 

「何処か遊びに行けたらいいな」

 

「……はいっ! 夏休みの間、ずっと会えないなんて寂しいですから」

 

「~っ!?」

 

 想定していた最高のパターンを遥かに上回る凄まじい答えが返ってきたため、心臓の鼓動が一気に跳ね上がった。え、何コレ夢じゃないよね? 今、高垣さん「夏休みの間、ずっと会えないなんて寂しいですから」って言ったよね!? 言ったよね!?

 

「課題もあることですし、またはぁとちゃんや美優ちゃんと一緒に集まりましょうね」

 

「……あぁ、うん、ソウダネ」

 

 中間考査の試験勉強以来、その四人で集まって勉強する機会が多くなった。高垣さんと並んで勉強出来るだけでも十分に価値がある集まりだが、普通に勉強する時間が増えて成績が少しずつ伸びているのが有難い副次効果だ。ちなみに、たまに速水や十時も参加することがある。

 

(まぁ、高垣さんの方から遊びに誘ってもらおうなんて甘い考えじゃダメだよな……)

 

 気を削がれてしまったため、今はやめておくが……夏休みの間中には俺から遊びに誘おうと、そう心の中で決心するのだった。出来れば海かプールに誘いたいものだが……うん、頑張ろう。

 

 夏はまだ、これから始まるのだから。

 

 

 

 

 

 

「よーし、期末試験で赤点はいなかったようだな。というわけで、今回の夏休みの合宿はちゃんと部員全員で参加するわけだが……今年は少々事情が違う。なんと合唱部と一緒に一つの施設を貸し切りで使わせてもらうことになった。つまり今年は合唱部との合同合宿だ。次の舞台で取り入れることはないが、いい機会だから合唱部から歌に関するノウハウを伝授してもらって、いずれ歌劇なんかも……ん? おい神谷、なにをいきなり天を仰いでるんだ。『神はいた』? 何を言っているのかさっぱり分からん。オイ佐藤、そいつ引っ叩いて黙らせろ」

 

 

 

 

 

 

 夏。照り付ける日差し。広がる青空に浮かぶ白い雲。さざめく波の音に漂う潮の香り。

 

 そう――。

 

 

 

「「「「「ひゃっほおおおぉぉぉ! 海だあああぁぁぁ!!!」」」」」

 

 

 

 ――海である。

 

「はっしゃいでんなぁ」

 

「到着したばかりだというのに、皆さん元気ですね……」

 

 制服のズボンを捲り上げ靴を脱ぎ捨てて海へと突撃していく演劇部の男子生徒と、そんな中に一人混ざった女子生徒である佐藤を、隣の三船さんと共に嘆息しつつ見送る。

 

「しかしウチの学校はいつの間にこんな海辺の合宿施設を手に入れたんだ?」

 

「元々、理事長のお知り合いの会社の保養所だったそうです……」

 

 それを何かしらの縁で譲り受け、この夏からうちの高校の合宿施設として使うことが可能になったらしい。それなりの人数が揃っている演劇部と合唱部が同時に利用しても十分な部屋があるとか、以前保有していたのはどんな大企業だったのだろうか。

 

 そんな施設の利用権を、俺たちの知らないところで行われていたらしい抽選会で勝ち取った部長には感謝してもしきれない。

 

 何故なら――。

 

 

 

「ふふっ、はぁとちゃん、とても楽しそうですね」

 

 

 

 ――こうして高垣さんと一緒に海へ来ることが出来たのだから!

 

 夏休み始まる前は『海に誘うのはハードル高いよな……』とか思っていたのだが、まさかハードルの方から俺の下を潜り抜けていくとは考えすらしなかった。勿論目的は部活なので遊ぶ時間は限られているが、誘い易くはなっているはずなのでとにかくヨシッ!

 

 三船さんと並んで日傘を差している姿が大変様になっており、二人とも大企業のご令嬢だと言われても疑われることはないだろう。向こうで「はぁとスターアタック!」と叫びながら男子に向かってヒトデを投げつけている佐藤とは大違いである。男子たちから「いや、流石に生き物投げるのはダメだろ」とマジお説教を喰らっているところがなんというか本当に佐藤だった。

 

 ……いや本当に比べるわけじゃないんだけど、高垣さんのお嬢様感がパない。お嬢様というかお嬢さんって感じ。制服姿で日傘を持っているだけでこれなのだから、麦わら帽子を被って純白のワンピースなんか着た日には夏の海という背景に大変映える美少女の完成だ。勿論今でも美少女だけど。

 

(……純白)

 

 高垣さん、色白だし、白の水着とかも似合いそう……。

 

「ふんっ!」

 

「えっ!? 神谷君、一体何を……!?」

 

「また虫がいたんですか?」

 

「うん、虫。百八匹ほど」

 

「ひっ……!?」

 

脳内の高垣さんに自分好みの水着を着せた後ろめたさと、怯えた表情でキョロキョロと周囲を警戒する三船さんへの罪悪感からツイッと視線を逸らす。

 

「おーい! 美優ちゃんと楓ちゃんも来いよー! 特別に神谷も来ていいぞー!」

 

 そんなお誘いの声が佐藤からかかる。男子連中からは(お前は来るんじゃねぇ……!)という無言の圧力がかかってくる辺り、佐藤の男子たちからの裏での人気の高さを窺い知れる。気さくに接してくる女子生徒(一応美少女)の人気が低い分けないんだよな。

 

「寧ろお前らが戻ってこーい! 部長から集合かかってんぞー!」

 

「遅れると怒られますよー……!」

 

「戻ってきてくださーい」

 

 三船さんや高垣さんと共に呼びかけると、佐藤以下男子連中は「マジで!? やっべっ!」とバシャバシャと戻って来た。

 

「それじゃあ高垣さん、演劇部(おれたち)は行くね」

 

「はい。合唱部(わたしたち)もすぐに集合することになると思いますので……」

 

 高垣さんは、パチリと小さくウインクをした。

 

 

 

「海で遊ぶのは()()()()、ですね」

 

「……あぁ、()()()()

 

 

 

 合宿初日の練習は、きっと俺はどんな役柄でも完璧に演じることが出来るだろう。

 

 

 

 

 

 

めーちゃん

 

何この写真凄い施設20:30

 

こんな施設で合宿とか、楓ちゃんの高校お金持ち?20:31

 

既読

20:33

一応、名目上は理事長の私有地になるそうです

 

凄すぎて凄い以外の感想が思い浮かばない……20:35

 

そんな凄い施設で、偶然幼馴染君の部活と合宿とか20:37

 

相変わらず楓ちゃんは神様に愛されてるね20:37

 

既読

21:10

神様よりも旭君に愛されたいです

 

めっちゃ悩んだ末に

めっちゃ恥ずかしいこと言い出した

21:12

 

既読

21:15

そんなことよりも明日旭君と海で遊ぶことの方が重要です

 

はいはい、そうだね21:16

 

楓ちゃんスタイルいいんだから、

幼馴染君もイチコロだよ、きっと

21:18

 

既読

21:21

イチコロって表現、古くないですか?

 

オヤジギャグが趣味の楓ちゃんに

それを言われるの

凄く納得いかない

21:22

 

 

 

 




椛「いやぁ、青春してるなぁ~」

月「高校生って感じだね」

椛「まさか両親が青春してる姿を見れるとは思わなかったよ」

月「まぁ、普通はあり得ないよね」

椛「しかも次回は海だよ! これは期待したいね!」

月(でも、演劇部での合宿ってことは……)
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