かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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ラブコメに必須なものってなーんだ?(パート2)


高垣楓と海で遊ぼう

 

 

 

 分類上演劇部というのは運動部ではない。しかし運動部並みの運動を必要とする文化部である。

 

 今回の合宿も、夏の終わりの舞台に向けての稽古は勿論の事、部長の方針でトコトン基礎を鍛え抜くために走り込みと発声練習を嫌というほどすることになった。

 

 普段とは違い砂浜での走り込みは随分と足に響き、その日の晩は全員大浴場で黙々とマッサージをする羽目に。なにせ全員明日に疲れを持ち越したくないので、それはもう入念なマッサージと持ち込んだ湿布で足のケアをしまくった。

 

 何故なら合宿の本番は二日目なのだ。二日目に舞台の台本が渡されるとか、そのまま舞台に上がる生徒の選抜テストが行われるとか、そういった演劇部的にも重要なイベントも待ち受けているのだが、それとはまた別に大切なイベントがあるのだ。

 

 そう――。

 

 

 

「「「「「ひゃっほおおおぉぉぉ! 海だあああぁぁぁ!!!」」」」」

 

 

 

 ――海である

 

 

 

「昨日見た」

 

「初日からハードな練習だったのに、皆さん元気ですね……」

 

 昨日とは違い今度こそ水着に着替えて海へと突撃していく演劇部の男子生徒と、そんな中にまたもや一人混ざった女子生徒である佐藤を、隣の三船さんと共に嘆息しつつ見送る。

 

「女子生徒の方に混ざらず、自然に男子生徒グループに入ってる辺り、なんというか本当に佐藤って感じだな」

 

「あ、あんなに激しく動いて大丈夫でしょうか……」

 

 どうやら三船さんは佐藤の黄色いビキニがズレないかどうかが心配になっているらしい。

 

 自前の大型水鉄砲を振り回しながら大はしゃぎしている佐藤は、同年代の女子生徒と比べるとかなりスタイルが良い。包み隠さずに表現するならば胸がデカい。勿論漫画やアニメのような規格外さではないが、それでも激しく動けばちゃんと揺れるほどの大きさである。

 

 佐藤と一緒になってはしゃいでいる男子連中の彼女に対する下心も目に見えており、若干佐藤に対して水をかける割合が多かった。

 

 佐藤の性格上、女子連中から「男子に媚び売って……」みたいな妬みを受けることはないだろうが……どうか一部の男子のせいで俺を含め他の男子まで「これだから男は」という蔑みの対象になりませんように。

 

 

 

 というわけで、合宿二日目。昼食後のフリータイムに、俺たち演劇部の面々は海へと遊びにやって来た。「ただでさえ疲れてるのにこんな暑い中、外に出たくない」と部屋へ閉じこもった生徒もいるため全員というわけではないが、それなりの人数が水着に着替えて海遊びに興じている。

 

「三船さんはどうすんの? 海に入らないなら、向こうの木陰で休んでた方が……」

 

「はい……でも、もうちょっとだけここで皆さんを見てようかと……」

 

 真っ白なワンピースに麦わら帽子という昨日俺が想像していた完璧なお嬢様ルックに日傘を差した三船さんは、そう言って微笑んだ。多分、見ているのは皆さんというよりは佐藤だろう。……三船さんに対しても失礼だと理解しつつ、どうして二人が親友同士なのかずっと疑問に思っている。

 

「神谷君こそ……いえ、神谷君は()()()()んでしたね……」

 

「……ハイ」

 

 海パンにパーカーを羽織ったまま海に入らずこうしている理由に気付いたらしい三船さんにクスクスと笑われてしまい、太陽の日差しとはまた別の熱に頬が熱くなる。

 

 そう、俺は()()を待っていた。

 

 結局昨日はお互いの部活の練習で忙しく、さらに食堂でも席が離れていたため会話も出来ず、当然男女別なので浴場でも顔を合わせることもなかった。しかし就寝前に勇気を振り絞って『明日のお昼、演劇部はフリータイムあるんだけど、もし時間が合うなら一緒に海で遊ばない?』というメッセージを送信したところ、なんとオッケーを貰ってしまったのだ!

 

「……三船さん、今の俺、別に変なところないよね?」

 

「お顔が、ちょっと……」

 

 顔がちょっと!? 佐藤ならともかく、三船さんにそれを言われると流石に立ち直れないぐらいショックなんだけど!?

 

「ご、ごめんなさい、言い方を間違えました……! 表情が強張っていると、言いたかったんです……!」

 

「あぁ、そっち……」

 

 緊張で顔が強張るどころか、ショックで心臓が固まるかと思った。

 

「私が言うのもなんですし、人の事を言える立場でもないですが……もう少しだけ、リラックスしてみてはいかがですか……?」

 

「自分としては心掛けてるつもりなんだけど……」

 

 水着姿の彼女が目の前に現れると考えると、どうしても緊張が解けないのだ。

 

 しかしそれではきっと一緒に遊んでも楽しめないと考え、深呼吸してみたり肩をグルグル回してみたり屈伸してみたり、色々な方法で緊張を解そうと試みる。

 

 ……よし、佐藤に集中砲火していた男子連中が女子たちから「いい加減にしろっ!」とバケツで水をかけられている姿を見ていたらなんとなく落ち着いて――。

 

 

 

「神谷せーんぱい!」

 

 

 

 ――きたと思ったら、そんな声に反応して振り返った途端に再び身体が強張った。いや、きっと強張ったのは俺だけではなく、隣の三船さんも固まっていた。

 

「やっぱり先輩も海に来てたんですねぇ!」

 

「ふふっ、大口開けたままどうしたのかしら?」

 

 ニコニコと笑いながらブンブンと手を振っている十時と、クスクスと笑いながら髪の毛を耳にかけている速水。演劇部の一年女子の中でも飛びぬけて美少女で抜群のスタイルを誇る二人が、ビキニ姿で現れたのだ。

 

「あっ、三船先輩こんにちは! 先輩は水着に着替えないんですか?」

 

「こ、こんにちは……えぇ、私はちょっと……」

 

 側に寄って来た十時に三船さんが半歩下がった。彼女の水着はどうやら同性も思わず後退るほどの破壊力を秘めているらしい。

 

「それで? 神谷先輩は海にも入らずに何をしていたの? ……もしかして、三船先輩と一緒になって怪しいことでもしてたのかしら」

 

「……俺はいいとしても、三船さんを巻き込むんじゃない。ただ喋ってただけだ」

 

 ニヤニヤと口元を歪めながら、俺の顔を下から覗き込んでくる速水に思わず怯みそうになる。体勢が体勢なので、すぐそこに速水の胸の谷間が……!

 

「それじゃあ神谷先輩も一緒に遊びませんかぁ? あたし、ビーチボール持ってきたんです!」

 

 そう言ってお腹の辺りで抱えていたビーチボールを掲げる十時。……別に「ボールが三つ」とかか、そんなオジサン臭いこと考えてないからな。

 

「いや、俺は……」

 

「あら、可愛い後輩のお誘いを断るの?」

 

「遊びましょうよー神谷先輩!」

 

 謎の圧を感じて思わずジリジリと後退りをしてしまうが、何故か二人はグイグイと距離を詰めてきた。

 

「二人ともちょっと落ち着けって! 俺は……」

 

 

 

「……神谷君?」

 

 

 

「っ」

 

 背後から聞こえてきたのは、俺のことを呼んでくれる俺の待ち人の声だった。

 

 待ちわびた人の声に、一体どんな水着なのかという期待と、あの白い肌を直接見ることが出来るという若干の下心と、水着の女子二人に詰め寄られているこの状況はマズいのではないかという罪悪感と、様々な感情が入り混じりつつ、慌てて振り返ろうとして――。

 

 

 

 ふにっ

 

 

 

 ――右の二の腕に、何か柔らかいものが当たった。

 

 

 

「っ!?」

 

 一体それは何だったのか。

 

 顔を真っ赤にした高垣さんが腕で胸を隠すようにして俺から距離を離したことから、その答えはすぐに分かった。分かってしまった。

 

「たたた、高垣さ、ご、ごめ……!」

 

「……ご、ごめんなさい……!」

 

 俺が謝るよりも先に何故か謝罪の言葉を口にした高垣さんは、そのまま踵を返して小走りでその場を立ち去ってしまった。

 

「………………」

 

「……か、神谷君……?」

 

 まるで地面が崩れ落ちていくような感覚と共に、足から力が抜けてその場に膝を付く。頭上から三船さんの心配そうな声が聞こえてくるが、申し訳ないことがそれに応える余裕なんて一切あるはずなかった。

 

(……なんだ、このベタな急展開は……)

 

 頭の何処かの冷静な俺が、まるで奈緒がよく読んでるラブコメ漫画みたいだなぁと、まるで他人事のようにこの状況を称していた。

 

 本命の女の子と遊ぶ約束をしていたのに他の女の子と一緒にいる所を見られるというシチュエーションと、うっかり女の子のデリケートなところに触ってしまって怒られるというシチュエーションの合わせ技。そんな状況になったことないし演じたこともないからどう対応したらいいのかなんて分かんねぇよ……!

 

 ついでというかトドメとばかりに、多分着ていたであろう高垣さんの水着すら見ることが出来なかった。泣きっ面に蜂だってもうちょっと手心があると思う。

 

 ……つい先ほどまで、水着の彼女と共に海で遊ぶことに対する期待と不安が胸に満ち溢れていたというのに、今の俺の胸をに渦巻くのは大いなる絶望だ。なんかもう色々と自棄になってどうでも良くなってきてしまった。我ながらマズい兆候である。

 

「……おい、そこの男子連中……さっきから見てるんだろ……」

 

 先ほどまでギャーギャーという喧騒が全く聞こえておらず、こちらの様子をずっと窺っていたことは知っていた。

 

 そんな彼らに要求する。

 

「……一思いにやってくれ」

 

 

 

「「「「言われずともやったらあああぁぁぁコノヤロオオオォォォ!!」」」」

 

 

 

 海から走って来た男子連中に担ぎ上げられる俺。あぁ、空はこんなにも爽やかな青に染まっているというのに、どうして俺の心はこんなにも濁ったブルー一色になってしまったのだろうか。

 

 そんなことを考えている内に俺の体は宙を舞い、勢いよく海の中へと叩きこまれるのであった。目と鼻に海水が入ってとても痛かったが、それ以上に心が痛かった。

 

 

 

 

 

 

「か、奏ちゃん……やっぱり、あたしたちのせい……だよね……?」

 

「………………」

 

 

 

「あーあー、やっちまったなぁ神谷の奴」

 

「だ、大丈夫でしょうか……神谷君もですが、高垣さんも……」

 

「……ほんっと()()()()()()()だよ!」

 

 

 

 

 

 

めーちゃん

 

もしもーし21:02

 

楓ちゃーん?21:02

 

どうしたのー?21:02

 

今日は幼馴染君と海で遊んだんじゃないのー?21:03

 

連絡ないのはちょっと不安なんだけど21:03

 

既読

21:15

しにそうです

 

一体何事!?21:16

 

既読

21:19

事故だったというのは、分かってます

 

既読

21:19

その

 

既読

21:19

むね

 

既読

21:19

胸を

 

既読

21:20

触られてしまって

 

あーうん21:25

 

分かった21:25

 

今から通話出来る?21:25

 

 

 

 




椛&月「「うわぁ……」」

椛「なんというか……やっちゃったね、お父さん」

月「ラキスケ&怒らせイベントはラブコメの定番とはいえ、これは……うーん」

椛「これこのまま二人がくっつかなかったら私たち消えちゃうとかないよね!?」

月「……いやいやいや、いくらなんでもそれは……」

椛「なんか私の手ぇ透けてない!?」

月「透けてないから! 落ち着いてお姉ちゃん!」
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