かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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ついにあの子の登場!


高垣楓と初デート!?

 

 

 

「……ふぅ」

 

 何度目になるか分からない溜息を吐きつつ、心臓に手を当てる。相変わらず心臓は早鐘を打っており、一向に収まる気配を見せない。舞台に上がる直前の緊張を和らげるルーティーンも効果を見せず、まるで演劇を始めたばかりの頃のように落ち着かない。

 

 けれど、どれだけ俺の緊張が解けなかろうとも時計の針は動きを止めず、そしてついにその時がやってきてしまった。

 

「こんにちわ、旭君」

 

「っ……やぁ、こんにちわ、楓」

 

 九月を目前に控えていてもまだまだ熱い日差しの中、日傘を差しながら待ち合わせ場所にやってきた楓は、かつて俺が妄想したような真っ白なワンピースに麦わら帽子という良いところのお嬢様スタイルだった。

 

「……スッゴイ可愛い」

 

「えっ……!?」

 

 間違えた!? いや間違ってないけど間違えた! まずは服装を褒めようと思ったら主語が抜けた! いや楓が可愛いことも間違いじゃないんだけど! それを堂々と言えるほど俺のメンタルは強くないぞ! いや言っちゃったんだけど! 言い訳も出来ないぐらいハッキリ言っちゃった上にしっかりと聞かれちゃったんだけど!

 

「あ、いや、その……ワンピースが、可愛くて……」

 

「あ、そ、そうよね、ワンピースよね……私もこれお気に入りで……」

 

 ……えぇい! こなくそ!

 

「……その……楓が可愛いっていう意味でも……あるから……」

 

「……そ……そう、ですか……ありがとう……ございます……」

 

「「………………」

 

 出会って数分でお互いに真っ赤になって黙ってしまったが、こんな調子で俺は今日という日を生き延びることが出来るのだろうか…

 

 

 

 

 

 

 さて、どうして我ながらこんなにも青春物のワンシーンのような状況になっているのかというと、なんてことはない。

 

 

 

 俺が楓をデートに誘ったのだ。

 

 

 

 ……自分で言っておいてなんてことはないことはなかった。俺の人生のおいて誕生の次ぐらいに衝撃的なことだった。

 

 例の海での出来事をきっかけに、俺は楓との距離を縮めることが出来た。お互いに下の名前で呼び合うし、口調も割と砕けたものになった。実はダジャレ好きだったという意外な一面を知ることが出来たし、楓も会話中に遠慮なくダジャレを放り込んでくるようになった。

 

 そうやって一歩進んだ関係になることが出来たと確信した俺は、さらにそこから新たな一歩を踏み出すべく、ついに勇気を振り絞って楓とデートへと誘ったのだ。

 

 

 

 ――楓、今度二人で遊びに行かないか?

 

 ――はい、喜んで。

 

 

 ……かなり気合いを入れて誘ったのだが、あっさりと了承されてしまい嬉しい反面肩透かしを喰らった気分になった。いや、嬉しいんだけど……楓的にはそれほど特別なイベントだと思っていないような気がしてちょっぴりショックだった。

 

(いやいや違う違う、それを特別なイベントだと思ってもらえるように頑張るんだよ!)

 

 ブンブンと頭を振って気合いを入れ直す。

 

「今日も暑いですね」

 

「あぁ、ホントに。夏休みが終わるっていうのに、この暑さはまだまだ終わりそうもないな」

 

 パタパタと手で顔を仰ぎながら楓の言葉に同意する。一応熱中症対策として中折れ帽を被ってきているが、果たしてこれがどれだけ役に立つのか分からない。

 

「……もしよかったら」

 

「ん?」

 

「……入る?」

 

 そう言って楓は日傘を俺の方に少し傾けた。どうやら楓は俺へ『自分の日傘に一緒に入らないか?』という提案をしてくれたらしい。

 

(くぁwせdrftgyふじこlp)

 

 突然の提案に思考がバグったが、表情筋をフル稼働させて顔に出さないように押さえ込む。

 

 同じ日傘の中に入るとなると、その距離はとても近くなる。それはもうかなり近くなる。というかほぼゼロ距離にならないと、雨傘よりも小さい日傘の中に二人で入ることは不可能だろう。

 

 どうにか手を繋ぐことぐらいは出来ないだろうか、なんてことを考えていた矢先のそんな提案に思考が追いつかない。可能性としては俺の聞き間違いという線もありえるが、楓が何かを待つようにこちらに視線を向けたままじっとしているところを見ると、それもなさそうである。

 

「……それじゃあ、ちょっとだけお邪魔しようかな」

 

 本音を言うと、別に日傘を必要とするほど暑さに耐えられないわけではない。しかし合法的に楓へと近付けるという誘惑に負けてた俺は、素直に楓の提案を受け入れた。

 

 男として少々悔しいものがあるが俺と楓の身長差はそれほどなく、彼女が少し高いヒールを履くだけで目線の高さは同じになってしまう。しかし今回ばかりはそれが功を奏し、無理なく彼女が指す日傘の中に入ることが出来た。

 

「………………」

 

 距離が近い。想像していた以上に近い。並んで歩いていると度々お互いの二の腕が触れ合いそうになってしまう。楓と触れたいというほぼ下心の欲求を抑えこみ、なんとかそうならないように気を付けながら距離を取る。

 

「……旭君、そんなに離れちゃ意味ないですよ」

 

 しかし他ならぬ楓がその距離を詰めてきた。俺が離した距離以上に体を寄せてくるため、ピトリとお互いの腕が触れ合うことになってしまった。

 

「か、楓?」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、どうかしたのって……」

 

 寧ろ楓がどうしたのだろうか。

 

 全く平静を装えない俺に対し、楓の反応は平静そのもの。しかし顔が赤いので、彼女は彼女で色々と無理しているらしい。

 

「………………」

 

 俺も男である。それも十七歳の思春期男子高校生なので、そういう想像や妄想をしたことはいくらでもある。そんな中でも、こうして好きな人と並んで歩くなんてシチュエーションなんて数え切れないぐらい考えた。

 

 こうして腕が触れ合うほど近く体を寄せているのだから、悪い感情を抱かれているということはないだろうし、なんだったら良い感情を抱かれている可能性も十二分に存在する。

 

 だから今更遅いかもしれないが、それでも今一度楓を誘ったとき以上の勇気を振り絞って、俺は彼女の手を握――。

 

 

 

「あっ! ホントに楓ちゃん見つけ…しまった…!」

 

 

 

 ――ろうとしたが、そんな声が聞こえてきたことにより思わず行動を中断してしまった。

 

「えっ?」

 

 自分の名前が呼ばれたことで振り返る楓。俺も(誰だ俺の勇気を邪魔したのは…!?)という恨みを少々込めつつ振り返ると、そこにいたのは()()()()()()()()()()()()()を被った少女だった。肩まで届くウェーブがかかった茶髪を揺らしながら、彼女は「邪魔するつもりはなかったんだけどな~……」と苦笑していた。

 

「め、めーちゃん……!?」

 

 どうやら、というかやはり、楓の知り合いらしい。

 

 

 

「前の学校の?」

 

「えぇ。小学校の頃からの親友なの」

 

「初めまして! 並木(なみき)芽衣子(めいこ)です!」

 

 なるほど、『めいこ』だから『めーちゃん』なのか。

 

「私のことは『かーちゃん』でいいって言ってるのに、全然呼んでくれなくて……」

 

「いやだからそれだと意味が変わってくるでしょって」

 

 仲良くなって分かったが、楓は結構天然が入っている。どうやら彼女はそのツッコミ役を任せられるぐらい仲が良い存在だったということか。

 

(なんかよく分からないポジションに任命されてしまった気がする……)

 

「それでめーちゃん、どうしてここに?」

 

 楓の以前の学校は和歌山県だと聞いている。ということは彼女は和歌山から遥々やってきたということだが……。

 

「もしかしていつものアレですか?」

 

「そう! いつものアレ! 折角の夏休みなんだから!」

 

 そう言って並木さんは自分が背負っているデイバッグを揺らしてみせた。なんでも彼女は根っからの『旅好き』らしく、なんと中学の頃から一人で色んな場所を飛び回っているらしいのだ。……その資金は何処から出ているのかとか、花の女子高生がデイバック一つで旅が出来るのかとか、色々聞きたいところであるが……とりあえずその凄まじい行動力に今は驚きである。

 

「この辺に寄ったのは『もしかしたら楓ちゃんに会えないかな~』っていう考えもあったんだけど、まさか本当に会えるとは思ってなかったよ。……しーかーもー、こんな重大そうな場面をお目にかかれるなんて……ね」

 

「「っ!?」」

 

 ニヤニヤと笑う並木さんに隣の楓と一緒にビクリとしてしまった。

 

「……それでも離れようとしない辺り、随分とまぁホントっぽいね」

 

 未だにお互いの腕が触れ合う距離でいることを並木さんに指摘され……それでも俺は離れる気になれず、そしてまた楓も離れようとしなかった。

 

「そこまでしておいて()()なんだから、二人して何やってんだかっていう感想なんだけど……」

 

 はぁ……と目の前で露骨なため息を吐く並木さん。初対面の筈なのに、何故彼女は俺のことを知っているような発言を……?

 

「ねぇ、君」

 

「……俺、だよね」

 

「うん、そうそう。()()()()()()()()()()()()? 特に()()()()()()()()とか」

 

「め、めーちゃん!?」

 

 楓との関係……か。

 

「いきなり何を言い出してるんですか!?」

 

「いやーゴメンゴメン、余計なお世話だったね。君もゴメンね、話は楓ちゃんから……」

 

「俺は」

 

「えっ」

 

「おっ」

 

「俺は楓のクラスメイトで――」

 

 

 

 ――この先どんな関係になろうとも、ずっと一緒にいたい。

 

 

 

「……そんな感じ、かな」

 

 告白できなくてもいいからせめて友だちのまま……なんて日和ることはしない。けれどせめて彼女が幸せに笑うその姿を、ずっと見ていたい。まるでストーカーのような思考かもしれないが……それでもこの先、きっと楓以上に好きになる女性は現れないと、そう確信できるから。

 

「……はぁぁぁ……」

 

 何故か並木さんに再びため息を吐かれてしまった。

 

「これでまだ()()っていうんだから、ホントなんなのアンタたち。楓ちゃんちょっとどうなってんのコレ」

 

「そ、その話はまた、メッセージアプリで済ませますので……」

 

 先ほどよりも真っ赤になった楓が並木さんへ縋るように懇願する。

 

「……どうだろう、もしよかったら並木さんもこの後一緒にお茶でもどうかな」

 

「えっ」

 

「えぇ……女の子とデート中に他の子を誘うのはマイナスだよー?」

 

 うぐっ……それは俺も重々承知してるけど……!

 

「楓のことをもっと教えて欲しいんだ。……もっと色々と知りたいから」

 

「……あ、旭君……」

 

「……オッケー! そういうことなら協力しようじゃないの! 楓ちゃんのあれやこれや、色々と教えちゃうよー!」

 

「ちょっとめーちゃん!?」

 

 

 

 二人きりのデートは中断になってしまったが……それでも、十分一歩先に進めたような気がする。

 

 

 

 

 

 

めーちゃん

 

既読

17:20

めーちゃん酷いです

 

既読

17:22

あのことまで話しちゃうなんて

 

ゴメンゴメン17:24

 

いい人だね、旭君17:26

 

既読

17:29

はい

 

既読

17:35

神谷旭(いい人)ですから

 

その評価は微妙な気がする……17:37

 

でもまぁ、久しぶりに会えて嬉しかった17:39

 

既読

17:40

私もです

 

今度会うときは、違う関係になってるかな?17:42

 

既読

17:44

私も、頑張ります

 

もしかして上の『神谷旭(いい人)』って22:10

 

カッコいい人っていう意味……?22:11

 

 

 

 




椛「並木芽衣子さん、346プロ黄金期のアイドルだね」

月「お母さんの同郷のアイドルだから、故郷の同級生役ってことなのかな」

椛「それにしても……ホント、この二人これで付き合ってないんだから凄いよね」

月「その二人から産まれた私たちから見てもホント不思議だよね」

椛「お父さん、基本的には奥手というか一歩が出ないというか」

月「でも追い込まれるとビックリするぐらいの火の玉ストレートが飛び出すところが、ホントお父さんって感じ」
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