かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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残り三話。


高垣楓と俺の関係は 序

 

 

 

「神谷先輩、今度の休日遊びに行きましょう!」

 

 

 

「………………え?」

 

 それは、昼休みに突然俺たちの教室に乗り込んできた十時が放り込んできた爆弾発言だった。

 

 一体何が起こったのか全く分からずフリーズしてしまい、その直後に教室にいたクラスメイトの男子からとてつもない呪詛を感じ取って我に返る。どうやら俺の聞き間違いや幻聴なんかではなく、本当に

 

「……えっと、十時、風邪でも引いたか? 季節の変わり目だから体調管理はしっかりしろよ? 特にお前はすぐに薄着になるんだから、夜はしっかりと布団に入ってだな……」

 

「違いますぅ! 風邪なんて引いてませんし、布団にも入ってますぅ!」

 

 薄着になるというところは否定しないのな……。

 

 しかし風邪を引いていないというのであれば、いきなりどうしてそんなうわ言を言い始めたのだろうか。

 

「……私が神谷先輩を遊びに誘うのって、そんなにおかしいですか……?」

 

「いや、おかしいというか……」

 

 どうしてだろうかという純粋な疑問である。それなりに懐かれているという感覚はあったが、だからといって休日に遊びに行くほど特別仲が良いつもりはなかった。それが俺の一方的な認識だったとしたら、それは確かに俺の落ち度だが……。

 

「……ダメ……ですか……?」

 

 しょんぼりとしながらやや上目遣いに俺を見てくる十時。人によってはあざといとも取られてしまいそうな仕草ではあるが、十時の性格上わざとではないだろう。

 

「………………」

 

 そんな十時の姿を見て、真っ先に俺の脳裏を過ったのは楓の姿だった。

 

 夏合宿の一件と夏休み終わりのデートの一件で、俺は楓への自分の気持ちをしっかりと把握した。まだ()()()()()()()()()()()もあるけれど、それでも俺はこの気持ちの嘘は吐きたくない。

 

 だからこそ、例えこれが自分の独りよがりになってしまったとしても、楓以外の女の子と二人きりで遊びに行くつもりにはなれなかった。

 

「……悪い。誘ってくれるのはありがたいけど、十時も俺と二人きりで遊びに行くのは色々とマズくないか?」

 

「? 何がマズいのか分かりませんが……二人きりじゃないですよ?」

 

「……えっ」

 

「ふ、二人きりが良かったんですか……?」

 

 ヤメテ。そんな赤ら顔で俺のことを見ないで。違う意味で俺の顔から火が出そうなくらい恥ずかしいから。

 

「わ、分かった……俺も行くよ……」

 

「わぁ! ありがとうございます! 詳細はまたメッセージで送りますねぇ!」

 

 恥ずかしさから逃げるように了承の返事を出すと、十時は花が咲くような満面の笑みで小さく手を振りながら足早に教室を去っていった。

 

「……はぁ~……」

 

 しかしあれだけ『俺には楓が』みたいなことを考えておきながら、結局他の女の子と遊びに行くことになってしまった。自分の不甲斐なさに思わずため息が出てしまう。

 

(……いや、多分これも先輩としての役目だよな……)

 

 後輩である十時がわざわざ教室に来てまで直接遊びに誘ってくれたのだから、それに応えてあげるのがきっと先輩である。そうに違いないと……自分自身に言い訳をする。

 

「……あら、旭君、どうかしたの?」

 

「っ!」

 

 一人机に肘を突いて悶々としていると、席を離していた楓が戻って来た。

 

「あ、いや……なんでもない」

 

「なんでもないっていう雰囲気じゃないけど……」

 

 キョロキョロと周りを見渡す楓。空気を読んでくれているのか知らないが、周りのクラスメイトの中に誰も先ほどの俺と十時のやり取りを口にしようとする奴はいなかった。

 

「……旭君」

 

「な、なんだ?」

 

 ズイッと顔を寄せられ、思わず椅子からズリ落ちそうになるほど後ろに下がってしまった。

 

「何か私に隠し事してなーい?」

 

「え、えっと……隠し事というか、なんというか……」

 

 一瞬、言うべきかどうか悩んでしまった。しかしこれを隠し事にするということは、すなわち俺がそれを後ろめたく感じてしまっていることになる。

 

「……十時に遊びに誘われてさ」

 

 故に、罪悪感に負けた俺は素直にそれを口にした。

 

 次の瞬間、楓の眉間に皺が寄った。

 

「っ、それは……」

 

「で、でも他にも人がいるらしくてさ、多分演劇部の奴らだと思うんだ」

 

 詳細は聞いていないが、あの口ぶりと態度からすると他の演劇部の男子もいるはずだ。

 

「……ふーん、それなら別にいいんですけどー」

 

 俺から離れた楓は、背中の後ろで手を組みながら分かりやすく頬を膨らませた。そんな子どもらしい仕草を可愛らしく思いつつ……未だに俺の心は罪悪感でズキズキと痛みが走っていた。

 

「……また遊びに行こうな、二人で」

 

「……はい、二人で。コン()()()()ぐらい気軽に遊()()()()のは賛成です」

 

「はいはい」

 

 楓のいつものそれを苦笑で流す。

 

 

 

 ……このときの俺は完全に油断していた、というか夏休みの一件で楓と急接近したことですっかり忘れてしまっていた。『そもそもどうして俺と楓がすれ違いかけてしまったのか』という間接的な原因の存在を。

 

 決して彼女たちのせいにするわけではないが……それでも、その一件で俺は()()()()のことを気にしておくべきだったのかもしれない。

 

 今更そんなことを考えても、遅い話なのだが。

 

 

 

 

 

 

 さて、迎えた休日。十時から送られてきたメッセージによると、今回は水族館へと行くらしい。高校生のグループが大声で騒いでは怒られそうな場所のチョイスではあるが、それでも仲間内で回れば十分に楽しい場所に間違いはないだろう。

 

 楓と二人で遊びに行くときほどではないものの、仲間内ということでそれなりに気合いを入れた格好で集合場所である最寄り駅へと向かう。

 

「あっ、神谷先ぱ~い! おはようございま~す!」

 

「おはよう、神谷先輩。約束の時間よりも早いとはいえ、女の子を待たせるなんて罪な人ね」

 

「……おう、おはよう、十時、速水」

 

 そこには既に到着していた十時と速水の姿があった。演劇部での活動で二人の私服を見る機会は多々あったが、それでも何故かいつも以上に気合いが入っているような気がする。けれどそれを指摘してセクハラだのどーだの言われたくないので、俺は口を噤むことにする。

 

「あら、何か気の利いたことは言ってくれないの?」

 

「えへへ、今日はお気に入りのワンピースなんですよぉ?」

 

 だというのに、何故この二人は俺が避けたことを尋ねてくるのだろうか。

 

「……まぁ、なんだ、その……」

 

「「………………」」

 

「……速水はいつも以上に大人の女性って感じで綺麗だし、十時はふんわりした女の子って感じで可愛いと思う」

 

 余計なことまで言ってしまったような気もするが、感想を求められた以上中途半端の濁しておくのが嫌だった。実際、速水も十時も俺の言葉以上によく似合っていた。

 

「……ふ、ふぅん、やれば出来るじゃない」

 

「え、えへへ、真っすぐ褒められると照れちゃいますね」

 

 素直に喜んでくれた十時はともかく、速水の上から目線がなんか腹立つが……少々赤くなった耳共々見逃してやろう。

 

「それじゃあそろそろ行きましょうか」

 

「チケットは優待券を貰ってるので、私に任せてください!」

 

「ん?」

 

 まだこの場には俺たち三人しかいないのに、何故出発しようとしているのだろうか。

 

「……あ、もしかして他のメンバーは現地集合とか?」

 

「まぁ、そういうことにしておいてあげてもいいんだけど」

 

「えへへ、今日は私と奏ちゃんと神谷先輩の三人だけですよ~」

 

「……え?」

 

「あら、愛梨はちゃんと()()()()()()()()と言ったはずよ?」

 

 速水の言葉に、まさかそんなという思いで十時に視線を向けると、彼女はペロッと小さく舌を出しながら片眼を瞑った。

 

「ごめんなさい。こう言えば神谷先輩は絶対来てくれるって、教えてもらっちゃって……」

 

「お世話になった私たちが言うのもあれだけど……もうちょっと友人は選んだ方がいいんじゃないかしら?」

 

「……あぁ、是非ともそうさせてもらう」

 

 どうやら脳内でゲスい笑みを浮かべているあの野郎がこの二人に入れ知恵をしたらしい。

 

「それじゃあ改めて」

 

「い、行きましょう!」

 

「ちょっ!?」

 

 一体どうやって報復をしてやろうかと考えていると、突然速水と十時がそれぞれ俺の手を握って来た。右手を握る速水は余裕そうな表情とは裏腹に少し痛いぐらい力が入っていて、左手を握る十時は真っ赤な顔で触れるか触れないかといった程度の力しか入っていなかった。

 

「お前ら本当になんのつもりだよ!?」

 

「それに気付いてもらうのが、今回のデート……じゃなくて、三人で遊びに行く目的よ」

 

「デートって言ったな!? 今お前デートってハッキリ言ったな!?」

 

「か、神谷先輩、その、はっきりデートって言われると、少し恥ずかしいです……」

 

「じゃあ手ぇ放そうぜ!?」

 

 本当にこいつらが何を目論んでいるのかが一切分からず、ただただ困惑する他なかった。

 

「大体、俺には楓が……」

 

 

 

「……あら、高垣先輩は」

 

「……神谷先輩と、どういう関係になるんですか?」

 

 

 

「………………」

 

 その瞬間、ぞくっとした寒気を背筋に感じた。まだ肌寒くなるには早い時期故に、気味が悪いその寒さに思わず身体が震えてしまった。

 

 先ほどまで力が入っていた速水の手も、全く力が入っていなかった十時の手も、何故か妙に冷たくて。

 

 まるで……。

 

 

 

「……なんて。冗談よ、冗談」

 

「……へ?」

 

「うふふ、私たちだって、演劇部なんですよぉ?」

 

 そう言って、ニヤニヤと笑う速水とニコニコと笑う十時。先ほど背筋に感じた寒気は、まるで最初からそんなものはなかったかのように秋晴れの暖かさに消えていた。

 

「今日はそういうのを深く考えないで頂戴」

 

「純粋に私たち、神谷先輩と一緒に遊びたいだけなんです」

 

「……それなら、まぁ……」

 

 別に何も問題はない……はずだ。元々十時を含めた友人たちと遊びに行くと楓には伝えてある。未だに罪悪感で胸が痛むが、贖罪という名の埋め合わせは今度何処か二人で遊びに行くことで解消することにしよう。

 

「……よしっ! それじゃあ行くか!」

 

「わーい! 行きましょー行きましょー!」

 

「ふふっ、ようやくその気になってくれたのね」

 

「とはいえ、騙してくれたことには変わりねぇんだから、お前ら後で覚えてろよ?」

 

「え~!?」

 

「心が狭い先輩ねぇ」

 

 流石に手は放してもらったものの、それでも両脇のポジションを二人に取られたまま、俺たちは今回の目的地である水族館へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

めーちゃん

 

へぇ、それはそれは……19:58

 

既読

20:01

どう思います?

 

あんまり楓ちゃんの前でこういうこと言いたくないけど20:03

 

ないわー神谷君それはないわー20:04

 

あんだけカッコいいこと言っておいて、後輩の女の子と遊びに行くのは流石にないわー 20:05

 

え、神谷君はその子からの好意に気付いてないの? 20:07

 

既読

20:09

気付いてない……のかもしれません

 

既読

20:11

あれだけのことがあって、ようやく私のことに気付いてくれたみたいですし

 

えぇ…… 20:13

 

既読

20:14

鈍感さんですから

 

さっきから気になってたんだけど 20:17

 

楓ちゃん、そんなに気にしてない? 20:17

 

既読

20:20

そうですね、それほどは

 

既読

20:20

だって

 




椛「月ちゃん!? なんか奏さんと愛梨さんが怖いんだけど!?」

月「……こういう二人もアリ!」

椛「え?」

月「なんでもない。……でもなんだろうね、この不穏な感じ……」

椛「本当に大丈夫だよね……? 今度こそ本当に私たち消えたりしないよね……!?」

月「………………」

椛「月ちゃん!?」
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