かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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これでこの小説で誕生日をお祝いするのも六度目!

高垣楓さん、お誕生日おめでとうございます!


高垣楓と俺の関係は 急

 

 

 

「あれだけ大見得を切ってくれたのに、クレーンゲーム苦手だったのね」

 

「うるせぇ! アレはアームが弱すぎるのが悪いんだよ!」

 

「で、でも一つだけでも取ってくれてありがとうございました!」

 

 クスクスと笑う速水にイラッとするが、素直に感謝の言葉を述べてくれた十時に免じて許してやろう。

 

 というわけで、水族館を後にしたやって来たのはゲームセンターだった。俺を含めて普段から余りゲームセンターを訪れることがない三人だったので、ゲームの結果的な意味では散々なものではあったが、それでも十分楽しめた。なんというか、随分と高校生らしい楽しみ方が出来たような気がする。

 

「……もうそろそろ夕方だな」

 

 まさかゲームセンターでニ時間近く遊び呆けるとは思っていなかった。意外と遊べるもんだなと思いつつ、このニ時間で消費したお金のことを考えるとゾッとするので意識から外す。

 

 そのまま先ほどのゲームセンターでの出来事で話の華を咲かせながら駅までの道のりを歩く。口には出さずとも、このままお開きの流れだった。

 

「……今日は悪かったな」

 

 道すがら、そんなことを口にすると二人はポカンとした表情になった。

 

「いきなりどうしたのよ」

 

「どうして神谷先輩が謝るんですか?」

 

「いや、思えばお前たちには随分と失礼な態度を取り続けたなと思ってさ」

 

「まぁ、こんな美少女二人と一緒にお出かけしておいて、失礼な態度には間違いなかったわね」

 

「そっちじゃなくて」

 

 いやそっちでもあるけど。

 

「初めに十時が遊びに誘ってくれたときも断ろうとしたし、待ち合わせ場所にお前たちが来たときも三人だけって分かったときも露骨に避けようとしたことだよ。あれは本当に悪かった」

 

 二人とも純粋に俺と遊びたいと思ってくれていたというのに、自意識過剰な俺は二人からの純粋な意味での好意を無碍にするところだった。

 

「……誘ってくれてありがとうな、二人とも。今日は本当に楽しかった」

 

「「………………」」

 

 真正面からお礼を言うのはだいぶ恥ずかしかったが、こうして二人からのリアクションが薄いというのものだいぶ恥ずかしかった。

 

「……あの、何か反応していただけると本当にありがたいのですが……」

 

 

 

「「……ぷ、あははっ!」」

 

 

 

 ……反応が欲しいとは言ったが、笑われるとなると話が別だぞ。心折れそう。

 

「あーおかしい……ありがとう先輩、最後に笑わせてもらったわ」

 

「はい、ありがとうございます、先輩」

 

「はいはいどういたしまして……」

 

「うふふ、拗ねても可愛くないわよ」

 

「えー? 私は可愛いと思うけどなー」

 

 本当なんなんだよ……。

 

 まるで今回の俺の失礼な態度に対する遺恨返しでもするかのように、駅までの道中ひとしきり二人に笑われ続けるのだった。

 

 

 

「ったく……人のこと散々笑いやがって」

 

「ごめんなさ~い」

 

「悪気はないのよ」

 

 ならせめて演技でもいいからすまなさそうな態度を見せろ。

 

 そんなやり取りをしながら駅の改札を潜る。電子掲示板を見上げると、どうやら俺が乗る電車がもうすぐ来るらしい。

 

「それじゃ、本当に今日は誘ってくれてありがとな」

 

「いえいえ」

 

「こちらこそありがとうございました~」

 

 手を振りながら、二人とは別のホームへと続く階段を昇る。電車が到着するアナウンスが流れ始めてるから急がねば。

 

「「せんぱーい!」」

 

「っ、なんだぁ!?」

 

 急がねばって言っているのに、二人に呼び止められる。ちょっ、なんだ!?

 

 

 

 ――さようなら。

 

 

 

「……おう、また学校でな」

 

 十時と速水に手を振ってから、俺は二人に背を向けて階段を駆け上がった。

 

 

 

 二度目は、呼び止められなかった。

 

 

 

 

 

 

「……奏ちゃんは()()()()()良かったの?」

 

「そういう愛梨こそ、今日こそ()()んだって意気込んでたじゃない」

 

「そのつもりだったけど……なんだか気が抜けちゃった」

 

「そうね……神谷先輩、私と愛梨が()()()()()()なんて微塵も考える素振りがなかったものね」

 

「きっとそれだけ、ずっと高垣先輩のことを考えてるんだろうね」

 

「……少し悔しいわね。スタートは私たちの方が早かったはずなのに、あっという間に追い越されちゃうなんて」

 

「違うよ奏ちゃん。私たちはスタートラインでずっと立ち止まっちゃってたんだよ」

 

「……確かに、そうかもね」

 

「………………」

 

「………………」

 

「……ふふっ、今同じこと考えてるでしょ」

 

「うん。……せーの」

 

 

 

 ――神谷先輩の、バーカっ!

 

 

 

 

 

 

 なんか電車止まった。

 

「まぁ、晴れてるし歩いて帰れない距離ではないのが不幸中の幸いか……」

 

 どうにもしばらく運行再開する様子がなかったので、停車した駅から歩いて帰宅することにする。歩いて帰れないというだけで近いというわけでもないが……まぁ、今は色々と考え事がしたかったから丁度良かったかもしれない。

 

 考えることは先ほどまで一緒に遊んでいた速水と十時のこと……ではなかった。

 

 勿論、年下の美少女と一緒に水族館に行ったのだから思うところがないわけでない。

 

 それでも。今日の水族館が楽しかったという感想の次に思い浮かぶのは。

 

(……楓と一緒に来てたら、もっと楽しかったんだろうな)

 

 無神経だと思われることは承知だ。しかしそれでも、今回二人と遊んでハッキリと理解した。

 

 

 

 俺には二人よりも、ずっとずっと、隣を歩きたい少女がいる。

 

 

 

 そう、隣を歩けるだけでいい。別にデートじゃなかったとしても、おしゃれな場所やロマンチックな場所でなくてもいい。別に着飾っていなくたっていい。

 

 例えばこういうなんでもない街中の道を、それこそ部屋着のようなラフな格好でのんびりと並んで歩くだけでも、俺は……。

 

「……ん?」

 

 はたと立ち止まり、グシグシと目を擦る。なんだろう、今日一日遊び尽くしたせいで疲れたのだろうか。幻覚が見えたような気がする。

 

 

 

 そう、具体的にはショートパンツにタンクトップで薄い上着を一枚羽織っただけの凄いラフな格好の楓がコンビニから出てくるという、そんな幻覚である。

 

 

 

「……あ゛」

 

 こちらに視線を向けた幻覚の楓がそんな聞いたことないような声を発したかと思うと、クルリと背を向けて足早に立ち去ろうとしていた。

 

 思わず追いかけてしまった。

 

 幻覚じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

「……どうして追いかけてきたんですか……!」

 

「……なんか……ゴメン……」

 

 顔が熱い。ただひたすら熱い。

 

(絶対に見られることないって完全に油断してた……!)

 

 まさか部屋着に上着を羽織っただけのラフな格好を、よりによって旭君に見られるなんて……!

 

 恥ずかしさを誤魔化すついでにこの顔の熱さを冷ますために、先ほど買ったばかりのアイスバーをガリガリと齧る。

 

「こういうとき、普通見て見ぬふりするでしょう……!?」

 

「いや、その……滅茶苦茶新鮮で、もっとよく見たかったというか……」

 

 どうしてそんな素直なこと言っちゃうんですか!? ちょっと顔赤らめて可愛いじゃないですか!?

 

 お互いに顔を赤くしつつ、それでも横に並び同じ歩幅で夕暮れの道を歩く。

 

「……コホン! それで、どうしてこんなところを歩いてたの?」

 

 一つ咳払いをして空気を誤魔化しつつ、ずっと疑問に思っていたことを尋ねる。学校から徒歩圏内の旭君が、どうして私の家の近くを歩いていたのだろうか。

 

「それが帰りの電車が事故で止まっちゃってさ。しばらく動かなさそうだったから家まで歩いてたんだよ」

 

「……結構距離ありますよ?」

 

「色々と考え事もしたかったし」

 

「……考え事……ですか?」

 

「そう、考え事」

 

 旭君はチラリとこちらに視線を向けた。

 

()()()はどんな関係なのかなーって」

 

「っ」

 

 思わず吹き出しそうになってしまった口の中のアイスを、かろうじて飲み込むことに成功する。

 

「……わ、私と旭君の、ですか」

 

「うん。今こうやって、学校以外のプライベートな状況で、しかもお互いに気軽に並んで歩いている俺と楓は……どんな関係なんだろうな」

 

「それは……」

 

 どんな関係、なのだろうか。

 

 ……始まりは、多分十年以上前の私の初恋。記憶の中の旭君はとてもカッコよくて、バカみたいに幼稚園の頃の結婚の約束を夢見ていた。きっと旭君は覚えていない。昔の話なのだから、無理もない。

 

 けれど、それでもいい。再会した想い人はそれ以上にカッコよくて()()()惚れをした。そして友人として付き合う様になって()()()惚れをした。

 

「……()()友だち、かな」

 

 きっと私はこれから先も、ずっとずっと旭君のことを好きになり続ける。だからこれはきっと私の願望。それ以上の関係になれたらいいなという私欲。

 

「……そっか、まだ()()()か」

 

 旭君は「それじゃあ」と言いつつ、私が手にしていたコンビニの袋を優しく奪うと、空いた手をギュッと握った。

 

 

 

「これで()()()()()()()()()ぐらいにはなれたか?」

 

 

 

 ドキリと心臓が跳ね上がる……どころの話じゃなかった。既に私の心臓はドキドキという表現を通り越していて、自分自身の心臓の鼓動を自分自身で把握できない。

 

「……そうですね。それじゃあ」

 

 かろうじて掠れなかった声を発した後……私は、そのまま彼の体に自分の体を寄せた。

 

 繋いだ手はそのままで、自分の二の腕が彼の二の腕にピッタリとくっ付くように。

 

 文字通り、寄り添いながら歩く。

 

 

 

「これで、きっと()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「「………………」」

 

 楓と身を寄せ合って歩きながら、互いに何も言葉を発しない。けれどその沈黙は決して気まずいものではなく、逆に居心地のいい静寂。

 

 ……始まりは、多分十年以上前の俺の初恋。記憶の中の楓はとても可愛くて、バカみたいに幼稚園の頃の結婚の約束を夢見てしまった。きっと楓は覚えていない。昔の話なのだから、無理もない。

 

 けれど、それでもいい。再会した想い人はそれ以上に可愛くて()()()惚れをした。そして友人として付き合う様になって()()()惚れをした。

 

 

 

 今はまだ、俺と楓との関係を口にはしない。

 

 

 

 でも、きっと優しく俺の手を握り返してくれる楓も、同じことを考えていてくれているって、文字通り手に取るように分かるから。

 

 

 

 今はこうして、高垣楓といっしょに、ただ歩くだけで、それでいい。

 

 

 




椛「あぁぁぁなんかもやっとする終わり方ぁぁぁ!」

月「結局一貫して『はよくっつけ』っていう感想しか思い浮かばなかった……!」

椛&月「「……え、来月から別の世界線?」」



『あとがきというなの反省会』

 今年もこの日がやって来ました。楓さんの誕生日です。まずは誕生日おめでとうございます。今年もシンデレラガールのつよかわおねえさんとしての活躍を期待しています。

 そして今回の学パロ編ですが、個人的には失敗だったと思っております。なんというか、自分でも中途半端だったかなぁと。

 ……という反省を踏まえて、次の一年は完全に趣味に走る楓一緒をお送りしたいと思います。ぶっちゃけ趣味に走りすぎた結果、引かれて読者が減る覚悟を持って趣味に走りたいと思います。



 というわけで次回からは『IF外伝 おねショタ編』だぁぁぁ!!

 旭よ、ショタになれぇぇぇ!!

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