かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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遅ればせながらあけましておめでとうございます。
今年も高垣楓さんをお願いします!

それはそうと今年も旭くんと楓さんはイチャコラします。


俺と高垣楓さんのちょっとだけ変化した日常のお話

 

 

 

 一月。驚くべきことに、早くもお正月から二週間が過ぎてしまった。

 

 年末年始は様々な番組やイベントにお声がかかり、冬休みなんてあってないようなものになってしまうほど多忙な日々だった。特に神谷家(わがや)の場合は姉がアイドルで弟が俳優のタレント姉弟。二人とも未成年故に色々なサポートをしてくれた両親の方がきっと忙しかったに違いない。ただただ感謝である。

 

 しかし二週間も過ぎれば、もう『あけましておめでとうございます』と挨拶することも無くなり、冬休みが終わって新学期が始まれば小学生タレントである俺の仕事量はグッと少なくなる。

 

 今日も終業と同時に事務所へとやって来たのだが、本日の予定は次の舞台の打ち合わせだけ。しかもそれも他の出演者の都合で夕方からなのでしばらくフリータイム。

 

 そんなわけでたまたま同じようにフリータイムな梨沙や桃華と共に、小学生でも気軽に来れるリーズナブルな事務所のカフェテラスへとやって来たのだった。

 

 

 

「「……はぁ~……」」

 

「お二人とも、だらしないですわよ」

 

 梨沙と共に息を吐きながら机に突っ伏したところを桃華に注意される。

 

「ちょっとぐらい勘弁しなさいよ~」

 

「そーそー。なんか年末年始の疲れがドッと来た感じ」

 

 冗談のつもりで「俺たちも歳だな」とか言ったら、たまたま俺たちの注文した飲み物を持ってきてくれた安部菜々さんにすっごい目で見られた。ゴメンナサイ冗談です……でも菜々さんだって十七歳で十分若いじゃん……。

 

「全く……事務所以外でそういうことはしないように、気を付けてくださいまし?」

 

「「はーい、桃華ママ」」

 

「こんなに大きな子ども二人もいりませんわ」

 

 

 

「そういえばアンタに聞きたいことがあったんだった」

 

「ん? 俺?」

 

 三人でホットココアをちびちびと飲んでいると、梨沙が「忘れてた」と頬杖を突いた。

 

「クリスマスが失敗だったって話は聞いたけどさ」

 

「初球デッドボールやめろ……」

 

 当時味わった脱力感がフラッシュバックして再びドサッと机に突っ伏してしまったが、今度は桃華からのお咎めは無かった。

 

 クリスマス。それは()()()()()()甘い記憶と()()()()()()()()苦い記憶が混ざり合った複雑な思い出である。

 

「本当に良かったんですの? 意地を張らずに仰ってくれれば、今からでも同じ指輪を用意出来ますけど……」

 

「格好悪く失敗したんだから、せめて意地ぐらい張らせてくれ……」

 

 いくらなんでも『指輪を落として失くしたから、もう一つ用意してください』なんて言えるはずがないし、それを言うぐらいならば俺は今からでも川で指輪を探す。

 

「それよ、アタシが聞きたかったのは。アンタ結局『指輪を川に落として失敗した』としか言わなかったじゃない」

 

「傷心中だったから、自分から傷口を広げる真似をしたくなかったんだよ……」

 

「失敗の詳細を聞きたいわけじゃないっての。アタシが聞きたいのは『そのクリスマスが終わってから楓さんはどうして()()()()()になったのか』よ」

 

「それは……確かに、わたくしも不思議でしたわ。楓さん、年末年始はずっと()()()()()でしたものね」

 

 梨沙の疑問に桃華も同意した。

 

 ……なるほど、二人とも楓さんの()()を聞きたかったのか。

 

「それなんだけど……実は俺にもよく分かんなくて」

 

 しかし残念ながら俺はその疑問に対する回答を持ち合わせていなかった。

 

「はぁ?」

 

「心当たりがありませんの?」

 

 怪訝そうに眉を寄せる梨沙と桃華。

 

 クリスマスの一件に関して、正直俺は格好悪く失敗したと考えている。愛想を尽かれることはあれど、好かれるようなことは何もないと思っていた。

 

 だから俺も疑問に思っていたのだ。

 

 あのクリスマス以来、楓さんが……。

 

「「……あっ」」

 

「ん?」

 

 梨沙と桃華が、俺の背後に視線を向けて固まった。

 

 一体どうしたのかと振り向こうとして――。

 

 

 

「旭く~ん!」

 

 

 

 ――後ろからムギュっと抱きしめられた。

 

「か、楓さん!?」

 

「は~い。()()()楓さんですよ~」

 

 頭上から聞こえてくる楽しそうな楓さんの声。椅子に座る俺の肩の上を通りお腹辺りで交差された楓さんの腕。そして顔を見上げようとしてさらに強く俺の後頭部に押し付けられる楓さんの胸。……顔めっちゃ熱い。

 

「きょ、今日は撮影で事務所に来る予定はなかったって聞いてますけど……!?」

 

「うふふっ。撮影が早く終わったので、旭君に会うために来ちゃいました」

 

 ニコニコと笑う楓さんは一度ギュ~ッと腕に力を込めてから、そこでようやく俺の目の前の二人へと視線を向けた。

 

「梨沙ちゃん、桃華ちゃん、お邪魔しちゃってごめんなさいね」

 

「いえ、大丈夫ですわ」

 

「寧ろアタシたちお邪魔じゃありません?」

 

 楓さんの行動に平然としている桃華と梨沙。これは二人が俺と楓さんのことを知っているから……という理由だけではなく、既に()()()()()()()()()だからだろう。

 

 

 

 ――楓さんは、俺への好意を一切自重しなくなった。

 

 

 

 

 

 

 楓さんはすれ違えば笑顔で小さく手を振ってくれるし、俺のことを好きだと公言もしてくれる。しかしそれはあくまでも事務所内でのことであり、流石にテレビ局などの他の現場であからさまなことをしなかった。要するに『外では大っぴらに恋人らしいことを殆どしなかった』ということだ。

 

 しかし、それはクリスマスが終わった直後のことだった。

 

 

 

『実は私、神谷旭君のことが大好きなんです』

 

 

 

 とあるお昼の情報番組の生放送にゲストとして登場した楓さんは、司会の『最近ハマっているものはありますか?』という問いに対してとてもいい笑顔でこう言い放った。言い放ってしまった。

 

 しかもそれだけで済めばよかったのだが、それから楓さんが考える『神谷旭のカッコいいところや可愛いところ』を熱く語ってしまったのだから、さぁ大変。いくら相手が小学生とはいえ、あの『高垣楓』が大好きだと言って男の名前を上げれば当然大騒ぎになった。

 

 重ねて言うが、コレ生放送での出来事である。

 

 俺は舞台の稽古に参加していたためその番組を観ていなかったのだが、休憩中にいきなりスマホを見てキャーキャー騒ぎ出した共演者のお姉様方に教えてもらってそれを知ることになった。なんとSNSで『高垣楓』と『神谷旭』がそれぞれトレンド入りしてしまったのである。これには堪らず飲んでいたスポーツドリンクを吹き出してしまった。

 

 それからは本当に大変だった。学校や事務所の友人たちからは続々とメッセージが届いたし、ついでに姉さんやその友人のアイドルたちからもメッセージが届いた。共演者のお姉様方は興味津々と言った様子で色々なことを聞いてきたし、共演者のお兄様方は『羨ましいなこの野郎!』とバシバシと背中を叩いてきた。共演者の中に楓さんのファンが一人もいなかったことが救いである。

 

 これだけならば数日ネットのおもちゃになる程度で済んだ話なのだが、話はまだ終わらない。

 

 その日を境に、事務所内外問わず楓さんからのアプローチが明らかに増えたのだ。

 

 顔を合わせれば駆け寄ってきてハグをしてくるし、時間が合えば出来るだけ俺と一緒に居ようとする。そしていつも俺の顔を見ながらニコニコと笑うのだ。

 

 ハッキリと言おう。

 

 めっちゃ嬉しいけどめっちゃ恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

「あーもー、楓ちゃんってばまた旭君を揶揄って」

 

 背後から新しい声。楓さんに抱きしめられたままなので振り返ることが出来ないが、どうやら楓さんは瑞樹さんと一緒に来たらしい。

 

「揶揄ってるんじゃなくて愛情表現をしてるんです」

 

 そう反論しながらギュッと腕に力を入れる楓さん。胸が後頭部に押し付けられるというか、既に服の上から胸の間に後頭部が埋まっているような状態になっていた。

 

「うわっ。見なさいよ桃華、あの旭の顔。だらしないったらありゃしない」

 

「仕方がありませんわ梨沙さん。旭さんも殿方なのですから」

 

「うっせぇ!」

 

 この状況でニヤけない男なんているわけないだろ! 

 

 結局瑞樹さんも楓さんを離すことを諦め、俺たちに断りを入れてから一緒のテーブルにつくことになった。当然のように楓さんは俺の隣の椅子である。そして密着するぐらい近い。

 

「旭君は他に何か注文したんですか?」

 

「いえ、ココアだけです。楓さんはコーヒーですか?」

 

「はい。()()()コーヒーで()()()しようと思ってたんですけど、旭君に会えたからそれだけで心がポカポカしてます」

 

「そ、そうですか……」

 

 ダジャレに対するリアクションに困ったわけではなく、普通に楓さんの言動が恥ずかしかった。

 

「……はぁ……以前から恋人宣言するぐらい旭君にご執心だったのは知ってるけど、まさか本気だとは思わなかったわ……」

 

「あっ、瑞樹さんもアレが本気だって分かってるんですね」

 

「流石にわかるわ。……というか、貴女たちも?」

 

「わたくしたちはクリスマスより前に旭さんから相談を受けていましたので」

 

「楓さんにグイグイ来られて焦ってるように見えますけど、アレ内心ではめっちゃ喜んでますよ」

 

「旭君も男の子ねぇ……」

 

 瑞樹さんからの視線が生暖かい。それまでは瑞樹さんからの視線は『楓さんに絡まれてる男の子』に対するものだったのに、今では『大好きなお姉さんにチヤホヤされている男の子』に対するものになっていた。

 

「そうだ旭君、デートの予約をさせてください」

 

「デートの予約、ですか?」

 

「はい」

 

 突然、楓さんはそんなことを聞いてきた。人前でデートの話をすることに関してはこの際置いておくとして、『約束』ではなく『予約』という言い方をしたことに対して首を傾げる。

 

「私もお仕事があるので長くは時間を作れませんが……絶対に何とかします」

 

 だから、と楓さんの唇が俺の耳元に迫ってきて、クリスマスの一件を思い出して顔が熱くなり……。

 

 

 

 ――旭君の『二月十四日』を、私にください。

 

 

 

「っ……!?」

 

 耳元で囁かれた楓さんの吐息と、その内容が意味するところを理解した俺は、燃えているのではないかと思うほどの熱を顔から感じた。

 

 二月十四日。その日が何の日かなんて、今時小学生は愚か園児だって知っている。

 

 愛とチョコレートの日、バレンタインデー。日本ではクリスマスに次ぐ『恋人の日』。

 

(……せめて、俺も何か楓さんに出来ることを考えておかないと……)

 

 頷いて楓さんの言葉に了承を示しながら、俺は心の中でそう決心する。

 

 

 

 男として、このまま楓さんに押されっぱなしというわけにはいかないのだ……!

 

 

 

 

 

 

「……楓ちゃん、何する気かしら」

 

「大丈夫ですわ。何かあっても情報統制はバッチリでしてよ」

 

「桃華、何か起こる前提の話するのやめない?」

 

 

 




椛「去年のクリスマスの一件でどうなるかと思ったら……」

月「お母さんが自重しなくなったというか、タガが外れてない……?」

椛「コレは私たちのお父さんとお母さんに匹敵するぐらいのラブさだね」

月「? ……あぁ、私たちの世界のっていう意味ね」

椛「このままどんどんイチャイチャして欲しいね!」

月「そうだね、ご飯が進みそう」

椛「ご飯……?」

月「なんでもない」
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