かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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珍しくずっと楓さん視点。


酔っぱらった旭×3

 

 

 

・神谷旭(25)の場合

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 俳優仲間である旭君の友人に見送り、私はそっと溜息を吐く。

 

「……いきなり『旭が倒れた』なんて言われて、ビックリしちゃった……」

 

 一体何があったのかと焦ってしまったが、よくよく話を聞いてみるとどうやらお酒を飲みすぎて酔い潰れてしまったらしい。ビックリしすぎて心臓が止まるかと思った……。

 

「旭くーん、大丈夫ですかー?」

 

「……ん~……」

 

 夜も遅いのでしっかりと鍵を閉めてから寝室へと様子を見に行くと、どうやら一応起きてはいるらしい。ベッドの上でぐでーっと力なく横たわりながら、旭君はボヘーっとした表情でこちらを見ているが、どうやら焦点はあってなさそうだ。

 

「気分はどうですか? お水飲みますか?」

 

「……ん、なぁ~……」

 

「え何それ可愛いもう一回」

 

 普段の旭君の口からは聞くことが出来なさそうな猫撫で声が聞こえてきた思わずスマホを取り出してしまった。あわよくば録音したい。もう一回言ってくれないだろうか。

 

「旭くーん、もう一回……きゃっ」

 

 スマホを手に近づいたところ、旭君に捕まってしまった。なんという巧妙な罠。可愛らしい鳴き声で獲物を誘き寄せるなんて。

 

「……かえで……」

 

「……あ、旭君?」

 

 旭君が私の体に覆い被さる。お酒に酔っている状態にも関わらず、驚くぐらい旭君は力強かった。

 

 ……あ、あら? これは本当に食べられてしまう感じ? 本当に獲物になってしまった感じ?

 

 旭君は恋人だし、()()()()()()だって既に何度もしているし、旭君と()()()()()()をするのは嫌じゃない。しかし今はちょっと待って欲しい。

 

「え、えっとね、旭君、遅くなるかもとはあらかじめ聞いてたからお風呂には入ってるんだけど、あの、えっと……」

 

「かえで……」

 

 おかしい、何故か呂律が回らない。焦る必要なんてないのに何故か焦ってしまう。今更自分のことを生娘だなんて言うつもりはないが、生娘じゃないからこそ段取りというか準備というか、えっとえっとえっと……!

 

「ね、寝るだけだと思ってたから、恥ずかしくないやつ付けてない……!」

 

 

 

「すやぁ……」

 

 

 

「………………」

 

 あら可愛らしい寝息……とでも言うと思ったか。いや一瞬言いそうになったけどグッと我慢した。ついでに「お前ふざけるなよ」という罵倒もグッと飲み込んだ。

 

 別に今すぐシたかったわけではないが、それでも期待したところを肩透かしにされるのはイラっとするものがある。いっそのこと寝顔に悪戯してそれを動画で撮ってくれようか。

 

(……動画?)

 

 そのとき、私に電流走る。

 

(逆に私が酔っぱらった場合、旭君は私に一体どんな悪戯を……!?)

 

 旭君が私に悪戯をするという前提の話だが、私が旭君のことが大好きなように、旭君だって私のことが大好きだ。ならば既に結婚が決まって同棲もしている今の状況ならば、酔ってふわふわしている私に対して悪戯するに決まっているそうに違いない。

 

 寝室にカメラを設置しておいて、わざと旭君の前で酔い潰れる。私の意識がはっきりしなくなってしまうことだけが気になる点だが、それ以上にカメラに映るであろう映像をまたお酒の肴にするのも一興である。

 

 ちなみにこんなことを考えている私は酔っていない。本当である。旭君の帰りを待ちながらちびちびと晩酌を続けていたが全然酔ってない。まだ一升瓶に半分も残ってたし。

 

 降って湧いた天啓を忘れないうちにスマホにメモをしつつ、思わせぶりな態度を見せた罰ですよーと旭君の鼻先を指で突くのだった。

 

 

 

※『美味しいお酒の飲み方』に続く

 

 

 

 

 

 

・神谷旭(20)の場合

 

 

 

 今日は私の誕生日。先に誕生日を迎えた旭君と共に、二人揃って20歳になった記念の日でもあるこの日、私と旭君は初めてお酒を飲んだ。

 

 場所は高校を卒業後に家出て一人暮らしを始めた旭君の部屋。たまたま明日は日曜日で、旭君のアルバイトや舞台稽古も、私のモデルとしてのアルバイトもない。だから日付が変わった瞬間に近所のコンビニでお酒を買って、初めて二人で乾杯をしたのだが……。

 

「ビールはビックリするぐらい美味しくないな……」

 

「そうですね、あんまり……」

 

 グーッと一気に飲むと少しは美味しい気がするけれど、味わって飲むには二人とも飲酒初心者だったようだ。

 

 次に飲んだ缶チューハイは、まるで炭酸のジュースのようで飲みやすかった。さらにその次に飲んだ日本酒もとても飲みやすく、二人揃って『お酒を飲んでいる』という大人の行為そのものに酔いしれていて……その結果。

 

「うぇ……」

 

「大丈夫ですか? 一度出しちゃった方が楽に……」

 

「いや……このままで……」

 

 旭君が飲みすぎてダウンした。意識がハッキリしているからまだ大丈夫だと思うが、かなり辛そうだった。

 

「楓は……なんともないのか……」

 

「少しふわふわしますけど、それほどでは……」

 

 あっ、なんですか旭君その目は。まるで人を大酒飲みみたいな目で見て。私がそんな風になるわけないじゃないですか失礼ですね。

 

「……だっせぇな……俺……」

 

「そんなことありませんよ。……よいしょっと」

 

 旭君の頭を持ち上げて枕代わりにしていたクッションを退けると、そのまま私の足を滑り込ませて膝枕をしてあげる。

 

「お酒を飲めることがカッコいいだなんて思いません。例えお酒が飲めなくても、私は旭君のことを世界で一番カッコいいと思ってますから」

 

「……この情けない状況でそれを言われても、イマイチ喜びきれない……」

 

「……本当ですか?」

 

「……嘘です、今楓の胸が目の前にあるからすっごい嬉しいです……」

 

 素直で宜しいです。チラチラ見てるのはしっかりと把握してるんですからね。

 

「これからちょっとずつ。私たちなりのお酒の楽しみ方を模索していきましょう。もし強くならなくても、こうしているだけできっと幸せですから」

 

「楓……」

 

 優しく旭君の額を撫でてあげる。

 

 ……少しだけ本心を言えば、酔って旭君に介抱されるのもありかな、なーんて考えたり。

 

「……ゴメン込み上げてきた吐きそう」

 

「ちょっと待ってくださいよ!?」

 

 

 

 

 

 

・神谷旭(12)の場合

 

 

 

「……あら?」

 

 それは『主演ドラマ最終回記念』の打ち上げを個人的に私の部屋で、旭君と瑞樹さんと早苗さんの四人でやっていたときのことだった。

 

「旭君、どうしたの?」

 

「……んー……?」

 

 何やら顔が赤く熱っぽい。もしかして疲れちゃったのだろうか。フラフラと上半身が揺れて覚束ないし、眠くなってしまったのかもしれない。

 

「あら? 旭君どうかしたの?」

 

「風邪っぽいのかもしれません……最近ずっと忙しかったですから」

 

「そうねぇ、楓ちゃんと一緒に番宣やらなんやらで、色々な番組に引っ張りだこだったものね」

 

 とりあえず手に持っているお水のコップを置いてもらって、少し横になって……。

 

「あっれ~? 楓ちゃ~ん、瑞樹ちゃ~ん、あたしの日本酒のコップしらな~い?」

 

「「………………」」

 

「あらら旭君おねむなの? カッコいいお芝居見せてくれたけど、やっぱりまだ子どもなのね~。ほら楓ちゃん、旭君が恋しいのは分かるけど静かに寝かせてあげた方が……」

 

「「そこに正座ぁ!」」

 

「なになになにっ!?」

 

 

 

「えっ!? 旭君飲んじゃったの!?」

 

「早苗ちゃん貴女ねぇ……!」

 

「いやいやいや事故事故事故! 本当に事故! 確かに旭君の水のコップと紛らわしいところに置いちゃった責任はあるのかもしれないけど、そんな気は一切なかったのよ!」

 

 瑞樹さんが早苗さんにお説教をしている中、私は顔から血の気を引くのを感じながら旭君の肩を軽く揺する。

 

「あ、旭君、だ、大丈夫ですか?」

 

 どうやら一口二口飲んでしまっただけのようではあるが、量が多かろうが少なかろうが飲酒は飲酒。今は私の立場よりも旭君の健康の方が大切なため、いざとなったら逮捕されることを覚悟で救急車を呼んで……!

 

「……かえでさん」

 

「は、はい」

 

 反応があったことに対して少しだけホッとする。しかし顔は赤いままだし、目はトロンとしているし、呂律も回っていないようだし。

 

「おれ、かえでさんのこと、だいすきです」

 

「……はい?」

 

「あいしています」

 

 それは突然の愛の告白だった。

 

「あの、旭君? 大丈夫ですか?」

 

「だいじょうぶにきまってます。としがはなれていても、おれはぜったいにかえでさんとけっこんします」

 

 その宣言自体は嬉しいのだけど、今は本当に大丈夫なのかどうかが心配だった。

 

「だからちゅーします」

 

「えっ!?」

 

 カーペットに直接座る旭君の顔を覗き込んでいた私は、突然体重をかけてきた旭君の身体を支え切ることが出来なかった。

 

 強く身体をぶつけることはなかったが、そんなことよりも旭君によって押し倒される形になってしまったことの方が重要だった。

 

「ちょ、ちょっと待って? ね?」

 

「まちません。おれは、かえでさんと、ちゅーします」

 

「今はちょっと、ほら、二人もいるから……」

 

「いません」

 

「え?」

 

 首を傾けると、確かに今さっきまでそこで正座をしていた早苗さんと説教をしていた瑞樹さんの姿がいなくなっていた。かと思いきや、リビングを出た先の廊下からこっそりとこちらの様子を覗いている人影が二人……ちょっと!?

 

「……やっぱり、おれなんかじゃ、ダメですか」

 

「……旭君」

 

「おれが、こどもで、かえでさんが、おとなだから」

 

「……そんな寂しそうな顔をするなんて、ズルいですよ」

 

 覆い被さる旭君の背中に手を当てて優しく力を加えてあげると、旭君の身体はそのまま私の身体の上に倒れこんできた。

 

 丁度胸の位置に旭君の頭が来たので、そのままぎゅーっと抱きしめる。

 

「私だって旭君のことは大好きです。でも今はダーメ。お酒の力を借りてキスをせがむなんて十年早いですよ」

 

 旭君が飲酒できるようになるまで正確には八年だけど。

 

「だからキスは、また旭君が素面のときにおねだりしてくださいね。そのときは私も喜んで……アレ?」

 

 ぽんぽんと優しく後頭部を撫でているうちに、いつの間にか胸元から小さな寝息が聞こえてきた。どうやら本当に眠ってしまったらしい。本当は沢山水を飲んで血中アルコール濃度を下げてもらいたかったけど……。

 

「おやすみなさい、旭君」

 

 ちゃんとお酒を飲めるようになったら、そのときは……。

 

「……さてと」

 

 さっきから「可愛らしい旭君が見れちゃったわねぇ」「これもいい肴になるわねぇ」なんてことを言っている二人を、今度が私が説教する番ですね……!

 

 

 




そういえば酔った旭ほとんど書いてないなっていうことで今回のお話。
ついでに二つの外伝verの旭にも酔ってもらった。



Q 『美味しいお酒の飲み方』って?

A 以前にも触れたTwitterの短編。『#楓一緒 美味しいお酒の飲み方』で検索!
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