かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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また一年が経ちました!

楓さん、お誕生日おめでとうございます!


高垣楓というアイドル

 

 

 

 ――これは、とある一人のアイドルの記録。

 

 

 

 高垣楓。

 

 彼女はかつて346プロダクションに所属するモデルだった。そこで同事務所のアイドル部門のプロデューサーのスカウトを受けてアイドルへと転向。僅か一年でその類稀なる才能を発揮し、一躍トップアイドルとして輝くこととなる。

 

 

 

 

 

 

「初めは何の冗談だって思いました」

 

 ある日の晩酌中、何気なく『アイドルとしてスカウトされたとき、どう思った?』ということを尋ねてみると、楓は目を瞑って当時を振り返りながらしみじみとそう答えた。

 

「アイドルといえば、天海春香ちゃんや星井美希ちゃんみたいな可愛い子が可愛い衣装を着て歌って踊る……そんなイメージでしたから。そんなこと、私が似合うわけないって思ったんです」

 

(……そうかなぁ……)

 

 ビールのコップを傾けながら、楓がフリフリの衣装を着ているところを想像する。

 

 ……うん、全然ありだと思う。なんなら佐藤とか片桐さんよりは似合うと……。

 

 ブー! ブー!

 

「………………」

 

 突然スマホにメッセージが届いた。なんとなく見るのは後にする。

 

「でも実際にこうしてアイドルの世界に飛び込んでみて、よかったって思っています。沢山のファンの人たちに応援してもらいながらキラキラに輝く世界に立っていると、そう思います」

 

「勇気を出してみて良かったな」

 

「ふふっ、その勇気をくれたのは他ならぬ旭君ですよ」

 

「……え」

 

 まさかの一言に呆気に取られてしまった。どうしよう、マジで覚えてない。

 

「ふふっ、あのときは珍しく旭君が深酒をしてしまったときでしたから、もしかして覚えてないかもしれませんね」

 

 ……あ、なんか該当する記憶があるぞ。楓がアイドルになる直前に、なんかそんなような出来事があった気がする。

 

「あのときの旭君の言葉、私は今でも忘れていませんよ」

 

「……俺、そのときなんて言ったの?」

 

 

 

「『かえではさいしょからおれのアイドルだぞ』って」

 

「………………」

 

「『おれのめっちゃかわいいアイドルをじまんさせてくれ』とも」

 

「………………」

 

 

 

 な、なにを言ってるんだ(こいつ)……!?

 

「その後も、何度も何度も『可愛い』『可愛い』って言ってくれて……恥ずかしかったけど、少しだけやってみようって思ったんです」

 

 楓は恥ずかしそうにポッと頬を染めているが、多分俺もそれ以上に顔が赤くなっていると思う。

 

(……まぁ、うん、なんだ)

 

 ぜ、全国の『高垣楓』のファンは俺に感謝してくれてもいいんだぜ……?

 

 

 

 

 

 

 しかしそのままモデルとして活動を続けていたとしても、彼女はきっとトップモデルとして今と変わらぬ輝きを放ったことであろう。現役のトップモデルであっても、彼女のスタイルを羨む女性は数知れない。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、ちょっと楓の脚を見ててな……」

 

「あら、旭君のえっち」

 

 そんなことを言いつつ、ソファーに座る楓は見せつけるように脚を大袈裟に組み替えた。

 

「ふふっ、お胸は少々自信ありませんが、脚だったら愛梨ちゃんにも奏ちゃんにも負けませんよ」

 

 確かに黒のパンストに包まれた楓の脚は、まさしく美脚と表現するに値するほど艶めかしい。思わず手が吸い寄せられそうになる誘惑を、ペチリと自分の手を自ら叩いて堪える。

 

「それで、突然どうしたんですか? ……ま、まさか本当に、脚にムラッとしちゃいました?」

 

「その言い方ヤメロ」

 

 否定しないわけではないが、一番最初に考えていたことはそれではない。

 

「……ちょっとな、気付いちゃったんだよ」

 

「気付いちゃった……?」

 

 それはなんて事のない写真。飲み会終わりに瑞樹さんと共に三人で街を歩いている際に見つけた、楓の写真が使われた広告の前で、二人並んで撮ってもらった一枚の写真。楓と二人並んで写る一枚の写真を見て、気が付いてしまったのだ。

 

「……俺と楓の腰の位置、殆ど変わらないよな」

 

「? それがどうかしたんですか?」

 

 アイドルとしてはそれなりに高身長の部類に含まれる楓ではあるが、辛うじて俺の方が身長は高い。しかし腰の高さはほぼ同じ。寧ろ楓の方が少しだけ高いような気もする。

 

 つまりそういうことである。

 

「……俺だって一応俳優としてはそれなりにスタイルいい部類に入るんだぜこれでも……とはいえ流石に高垣楓が相手って言うのは分が悪すぎるんだよ……」

 

「え、えーっと……」

 

 一人で勝手にダメージを受ける俺に、楓はリアクションに困ってオロオロしていた。困らせるつもりはなかったのだがこれでも結構本気で落ち込んでいたりする。

 

「あ、旭君」

 

「なんだ楓……お前より足の短い俺に、一体何を……」

 

 

 

「旭君は、かっこいいですよ」

 

 

 

「足の長さとかじゃなくて」

 

 

 

「旭君だから、私は大好きです」

 

 

 

「………………」

 

 めっちゃ元気出た。

 

 

 

 

 

 

 彼女のことを語る上で欠かせないものとして、まずはその圧倒的な歌唱力が挙げられる。アイドルでありながら『歌姫』とも称される歌唱力を有するのは、かの有名な765プロダクションの如月千早の他には彼女ぐらいなものである。

 

 

 

 

 

 

 ~♪

 

「……ん?」

 

 リビングのソファーに腰を下ろして次の舞台の台本に目を通していると、キッチンの方から楓の歌声が聞こえてきた。どうやら346プロダクションのアイドル部門を代表する曲である『お願い!シンデレラ』を歌っているらしい。

 

 あの歌姫とも呼ばれている高垣楓の歌声をBGMに台本読みが出来るなんて、随分と贅沢な時間だな……なんてことを考えながら、少しだけ意識を台本から楓の歌声へと傾けつつコーヒーを一口飲む。

 

 

 

「おーねがいー〇―んでくれー夢は夢ーで終わってくれー」

 

 

 

「ブフッ」

 

 コーヒー吹いた。

 

「旭君!? どうしたんですか!?」

 

 盛大に咽ていると異変を察した楓が慌てて飛んできてくれた。心配してくれるのはありがたいが、原因の半分はお前である。

 

「ゲホッ……なんで『お願い!シンデレラ』じゃなくて『OTAHENアンセム』なんだよ……!」

 

「? りあむちゃんがとても楽しそうに歌っていたので、私もちょっと歌ってみたくなっちゃいました」

 

「なっちゃいましたって、お前なぁ……」

 

 真っ先に思い浮かんだ感想が『高垣楓の無駄遣いにもほどがある』というものだった。

 

「面白い曲ですよね。今度プロデューサーさんにバックダンサーと合いの手で参加させてもらえないかお願いしてみるつもりなんです」

 

「お前は夢見を殺す気か……?」

 

 あの『高垣楓』がガニ股ダンスとコーレスすることになったら大炎上間違いないし、それ以前に罪悪感で夢見が血を吐いて倒れるに違いない。

 

「いくらなんでも可哀想だから勘弁してやってくれ」

 

「何が可哀想なのかは分かりませんが……とりあえず分かりました」

 

 納得をしないまま理解はしてくれたらしい。これで一人の少女の命が救われた……。

 

 

 

「その代わりに、りあむちゃんと一緒に『こいかぜ』を歌うのはどうでしょうか」

 

「もしかして夢見のこと嫌い?」

 

 火を付けたガソリンだってもうちょっと慎ましやかに燃えるぞ?

 

 

 

 

 

 

 さらにそのユーモラスな性格も、人気を支える一つの要因であろう。『高垣楓と言えば?』という問いかけに対して『歌』や『モデル体型』という答え以上に『ダジャレ』や『お酒』といった答えの数が多いことがそれを物語っている。これらは言い換えれば『親しみやすさ』とも言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

「どの柔軟剤を使うかは、私の自由なんじゃい(じゅうなんざい)

 

 

 

 いつものスーパーで、突然楓がキリッとした表情でそう言い放った。

 

「………………」

 

「どの柔軟剤を……」

 

「同じネタを続けて言うのは減点対象だぞ」

 

「聞こえてないかなーって思いまして」

 

「俺がお前の声を聞き逃すわけないだろ」

 

「キュンッ」

 

 そんなやりとりをしながら楓が持って来て買い物カートのカゴの中に入れたものは、結局いつもウチで使っている柔軟剤だった。

 

「それで結局何点でした?」

 

「……悔しいことに結構うまいって思っちゃったから七点かなぁ……」

 

「やった」

 

 小さくご機嫌になりながら、楓は俺の左腕に自身の右腕を絡めた。

 

「……楓ってさ、いつもそれ考えてるの?」

 

「むっ、失礼ですね、まるで私の頭の中がダジャレで一杯みたいじゃないですか」

 

「そこまでは言わないが」

 

「でも、少しでも笑顔でいた方が楽しいじゃないですか」

 

「……え」

 

「ほんの些細なことでもいいんです。それで少しだけでも笑顔にすることが出来れば、楽しい気持ちになることが出来れば、幸せになれると思いませんか?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

 まさかそこまで深く考えていたとは露知らず、ただのダジャレ好きだとばかり思っていた自分を少しだけ恥じて――。

 

 

 

「っていう理由を今思いつきました……痛い(いひゃい)痛いです(いひゃいれす)

 

 

 

 ――恥じてしまった自分が悔しくて、ちょっとだけ強めに楓の頬を捻り上げた。

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女の人気を説明するために、毎年346プロダクションで行われていた『シンデレラガール総選挙』というイベントについても触れさせてもらう。このイベントは346プロダクションのアイドル部門全員が対象となる人気投票なのだが、彼女はこの総選挙において幾度も十位圏内への入選を果たし、第六回総選挙では一位の座に輝いた。

 

 しかし、あまりにも毎年入選することから一部の人間からは殿堂入りという形で候補からの除外を望む声も上がった。だがそれ以上に彼女の活躍を望む声が多かったため、結局毎年のように総選挙の上位順位に彼女の名前を見ることとなった。

 

 

 

 

 

 

「四位入賞おめでとう、楓」

 

「ありがとうございます、旭君」

 

 その日の夜、俺と楓は二人きりの部屋で少しだけいいワインを開けた。流石に一位になったときと同じレベルのお祝いとまではいかないが、それでも四位というとても素晴らしい順位をお祝いするには十分な上物を用意させてもらった。

 

「……私、旭君に『おめでとう』って言ってもらえて、少しだけホッとしてるんです」

 

 ソファーの隣に座る楓がコテンと俺の肩に頭を乗せてきた。

 

「私がいることで、他のアイドルの子たちが上位に入れなくなること……少しだけ気になっていたんです。ファンのみんなの期待には応えたい……でも、()()()()()に言われることは、私も知っています」

 

 それは僅かな、本当に僅かな、一部の人間の声。楓のことが嫌いなわけではなく、楓以外のアイドルのことが好きすぎる故の、少しだけ棘の存在する言葉。

 

「だけどこうして旭君に……大勢のファンのみんなに『おめでとう』って言ってもらえると、やっぱり『頑張ってよかった』って思えるんです」

 

「……少なくとも、俺はいつまでも言い続けるよ」

 

 楓が自らの意志でこの道を退くと決めるその日まで――。

 

「――俺は、お前に期待し続ける」

 

「……ありがとうございます」

 

 それはもしかして、ただの重荷になる言葉なのかもしれない。

 

 けれどその重さは、俺も隣で一緒に背負おう。

 

 俺は神谷旭。

 

 

 

 ――楓の最愛のパートナーなのだから。

 

 

 

 

 

 

 高垣楓の歌声は、今日も世界中の人々の心を魅了し続ける。

 

 

 




 これでこの小説で楓さんの誕生日を祝うのも八度目となりました。十回まであと二年ですね。もうちょっとです。

 きっと今年はAfter20のアニメも始まるでしょうし(願望)、きっと楓さん大活躍の一年となるでしょう! 自分は自分なりにこの小説で楓さんを応援し続けます!

 というわけでまた一年、よろしくお願いします。

 最後に改めて、楓さんお誕生日おめでとうございます!
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