かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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ガバは続くよどこまでも。


私たちがアイドルになるんですか?

 

 

 

「きゃー! 椛ちゃんも月ちゃんも可愛いですよー!」

 

 そんなママの様子に((いやはしゃいでるママの方が可愛いよ))なんてことを考えながら、私たち二人はプロのカメラマンによってパシャパシャと写真を撮られる。

 

 双子ということで仲良く手を繋いだり抱き着いたり頬を合わせたり……お姉ちゃんが可愛すぎるので、私の心の中のオタクが(ふおおおぉぉぉ)と荒ぶっていた。なんで双子の妹である私と殆ど同じ見た目のはずなのに、どうしてこんなに可愛いの……?

 

 

 

 さて、何故こんなことになっているのかということを説明せねばならない。

 

 事の始まりは、私たち姉妹の小学校入学直後、とある日の夕飯のときであった。

 

「……え、ママ、もう一回言ってもらっていい?」

 

「もしかして私たちの聞き間違いかもしれないから……」

 

 突然ママの口から発せられた言葉の内容がスッと頭の中に入ってこなかったため、お姉ちゃんと共に聞き返してしまった。

 

「うん、アイドルになってみる気はある?」

 

 どうやら聞き間違いではなかったらしく、先ほど私たちが把握した内容と殆ど同じことをお母さんは繰り返した。うん、やっぱりママは私たち姉妹をアイドルにしたいらしい。

 

 ……いやなんで?

 

「ママ、いきなりどうしたの……?」

 

「なにがどうしてそうなったの……?」

 

「えっとね……」

 

 ママの話を簡潔にまとめると……。

 

 

 

 1 先日久しぶりに姉妹でママの事務所の見学へ。

 

 2 そのとき、ママと手を繋いで歩ているところを事務所のプロデューサーが目撃。

 

 3 楓さんの親戚の子、アイドルに興味はありませんか?

 

 

 

 ……ということらしい。要するに私たちの可愛さが、芸能事務所のプロデューサーのお眼鏡にかかってしまいアイドルとしてスカウトをされたということらしい。

 

 ……かーっ! 見る目あるわーっ! そのプロデューサーさん、見る目あるわーっ! 高垣楓の雰囲気を醸し出す美少女双子をスカウトするとか、見る目あるわーっ! 私がプロデューサーでもするもん! お姉ちゃんめっちゃ可愛いからスカウトするもん!

 

「それで、どうかな? ママも、二人ならアイドル、やれると思うんだよね」

 

「え、えっと……」

 

「やろうよ、お姉ちゃん! 楽しそうだよ!」

 

 何故か躊躇しているお姉ちゃんの背中を押す。

 

「う、うん……月ちゃんが、そう言うなら……」

 

「やったっ! ママ!」

 

「えぇ、分かったわ。明日、私からプロデューサーさんにお話してみるわね」

 

(アイドル……アイドルかぁ……!)

 

 前世の私では決してこんなこと考えなかっただろう。アイドルとは愛でるものであって、自分が目指すべきものではなかった。

 

 けれど! 今は! 違う! 今の私は美少女! あの高垣楓ちゃんの娘であり、彼女の血を引いた美少女! ならばアイドルに! アイドルになるしかない!

 

 傍から見ればとんでもない自画自賛だが、今の自分の見た目を否定するということは、それすなわち双子のお姉ちゃんの否定にも繋がってしまう。逆に言えばお姉ちゃんの容姿を肯定するということは、それすなわち自分の肯定なのである。故に私は一歩も引かない。

 

「………………」

 

 人知れずテンションが上がり切っていた私は、隣で何か言いたそうなお姉ちゃんの視線に全く気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

「えっと……月ちゃん、本当に良かったのかな?」

 

「え、なんで?」

 

 小学生になった今でも続いている深夜姉妹会議。始まりはお姉ちゃんからの何かを確認するかのような疑問だった。

 

「その……私たちがアイドルになって……」

 

「いいに決まってるじゃん! アイドルになるチャンスは誰にだってあるんだよ!」

 

 みたいなことを、確か前世で聞いたことがある。多分765プロの天海春香ちゃん辺りが言っていたような気もする。

 

「お姉ちゃんは可愛いんだから、自信持って!」

 

「う、うん、そのことに関しては私も自信あるよ。月ちゃん可愛いもん」

 

「好きっ!」

 

 ひしっとお姉ちゃんに抱き着く。

 

「わ、私が言いたいのはそういうことじゃなくて……」

 

 一通り姉妹愛を確認したところで、お姉ちゃんはコホンと一つ咳払い。

 

「ほら、私たちって『高垣楓』の娘であることを世間に隠しているわけでしょ?」

 

「うん。トップアイドルが未婚で出産したなんて大スキャンダルだもの」

 

「それはきっと私たち以上にママの方が理解しているはず。……それなのに、どうしてママは私たちをアイドルなんて()()()()()()()()()()()()にしたがるんだろうなって」

 

「……あ」

 

 全然気が付かなかったが、言われてみればそうだった。

 

 私たち姉妹は、当然現在も高垣楓の娘だということを隠して生活している。戸籍ではお母さんの妹ということになっているため、もし『本当は親戚の子ではない』という嘘がバレたとしても、その先にある『実は姉妹だった』という二つ目の嘘によって真相に辿り着くことが出来ないという万全の状態だ。

 

 しかしそれでも正体を隠す以上、出来るだけ人目に付かないような生活を心がけるべきである。ママは現役アイドルである以上それも難しいが、せめて娘である私たちぐらいは目立たないような行動をするべきなのだ。

 

 ……だというのに、ママは『私たちがアイドルになる』ということに肯定的だった

 

「……なにか、理由があるのかな?」

 

「そう考えるべきだよね……」

 

 ママは一体どんな理由で、私たちにアイドルを進めたのだろうか。

 

 私たちがアイドルになった場合のデメリットは先ほども述べたように、私たちの存在が世間の目に留まりやすくなること。世間の目に留まるということは、それだけ私たちとママの関係がバレるリスクが高まるということに繋がる。

 

「つまり、そんなデメリットを上回るぐらいのメリットがあるっていうこと……?」

 

「出来るだけ私たちを自分の目の届くところに置いておきたいとか?」

 

「ううん月ちゃん、それは違うんじゃないかな。だってアイドルになったとしてもずっと『高垣楓』と一緒の仕事なんて無理だと思う」

 

「あ、確かに」

 

 寧ろ一緒にいる時間が減るぐらいだからママ自身のメリットは無さそうに感じる。

 

 となると、アイドルになることで私たち姉妹にメリットが生じるということになる。

 

「アイドル……芸能事務所……芸能界……」

 

「……あっ」

 

 連想ゲームのように呟いていると、お姉ちゃんは何かを思い付いたようだ。

 

「いや、でも、それは……」

 

「なになに? 何を思い付いたの?」

 

 しかしすぐに自分の考えを否定するように首を横に振るお姉ちゃんだったが、どんな些細なことでもいいので考えをまとめるためにも教えて欲しかった。

 

「……荒唐無稽な考えだよ。パッと思いついただけだよ」

 

 そう前置きをしたお姉ちゃんは「もしかしてなんだけど」と自分の考えを口にした。

 

 

 

「私たちの父親が、芸能界にいるんじゃないかな」

 

 

 

「……えっ!? えええぇもがっ!?」

 

「ちょ、月ちゃん、声声!」

 

 深夜だということを忘れて絶叫してしまった私の口をお姉ちゃんが手で塞いだ。

 

「ご、ごめん……で、でもどういうこと?」

 

「大分前にさ、ママが私たちに『パパのことをどう思うか』って聞いてきたこと、あったよね」

 

「えーっと……あぁ、うん、あったね」

 

 

 

 確かそれは一年ぐらい前だったか。

 

 それまで私たち姉妹は意図的に父親の話題をしないようにしてきた。ママが父親のことを隠していることは分かっていたので、私たち姉妹からもその話題にならないように気を使っていた。例えば父と子の物語とかは読まないようにしたし、テレビで父の日の話題が取り上げられているときは別のことに意識が向いているように見せかけた。

 

 そんなある日のこと。

 

『二人はパパに会いたい?』

 

『……よ、よくわかんない』

 

『わ、私たちはママのことが大好きだから、パパいなくても大丈夫だよ』

 

 まさかママの方からその話題に触れてくるとは思わなかった私たちだったが、咄嗟にそんな返答を出来たのは我らながらグッジョブだったと思う。

 

 私たちの返答に納得したのかどうかは分からなかったが、ママは最後に一言だけ、とある言葉を私たちに告げた。

 

 そして今日に至るまで、私たち家族の間で父親の話題は出てきていない。

 

 

 

「ママもきっと、私たちが気を使ってるっていうことに気が付いてるんだろうね」

 

「だからあんなこと言ったんだろうね」

 

 

 

 ――()()()()が来たら、パパのことを教えてあげるからね。

 

 

 

「……って、まさか!?」

 

「うん。ママが言っていた『そのとき』のために、私たちが父親と会いやすい状況を作っておこうとしてるんじゃないかなって」

 

「な、なるほど……」

 

 その考え方の論理的な正誤はよく分からないが、少なくとも私には目から鱗が落ちるような発想だった。

 

 もし父親が芸能関係者だった場合、名目上は一般人である私たち姉妹が直接接触する機会は限りなく少ない。ママに仕事の現場へ連れて行ってもらったことは何度もあるが、それも限度がある。しかし私たち自身が芸能人になれば、ママとは関係なく事務所や現場に行くようになり……。

 

「芸能関係者である父親と……!」

 

「接触しやすくなる……!」

 

 つまりママは、私たちに『自分たちの力で父親の正体に気付かせよう』としている!

 

「きっとママにも、父親の名前を出せない事情があるんだろうね」

 

「だからこんな回りくどいことを……」

 

 ママの意図は分かった。ならば、私たち姉妹もその意図を組んで行動するべき!

 

「なんだか、すっごいやる気が湧いてきた……!」

 

「この際、アイドルへのスカウトが目的だったのか手段だったのかは考えない!」

 

 私たちは、ママが言った『二人ならアイドル、やれると思うんだよね』という言葉を疑わない。ママの目を見ていれば、それが本心からの言葉だということぐらいすぐに分かる。

 

 

 

「目指せ! ママのようなトップアイドル!」

 

「そして、私たちの父親を見付ける!」

 

 

 

 こうして私たち姉妹は二つの目的を胸に、芸能界へ入ることを……アイドルになることを決意する。

 

 絶対、絶対に、絶対に!

 

 

 

「「えい! えい! おー!」」

 

 

 




・高垣楓は二人の娘が大好きである。

・高垣楓は二人の娘が世界で一番かわいいと思っている。

・高垣楓は二人の娘ならば世界一のアイドルになれると考えている。

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