かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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姉妹アイドル編?スタート?


大切なことってなんですか?

 

 

 

 アイドルにスカウトされたからと言ってそのままデビューなんて出来るわけもなく、まずはレッスンからスタートするのは当然である。

 

「二人とも、よろしくね」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

 というわけでここは346プロダクションの事務所に設けられたスタジオで、私たち姉妹はボーカルレッスンを受けることとなった。

 

 ちなみに今日のママはお仕事のために不在。学校終わりに迎えに来てくれたプロデューサーさんと共に初めてママ抜きでの事務所である。

 

「今日は二人がどれぐらいお歌が上手なのか、先生に聞かせてくださいね」

 

「「分かりました」」

 

 私たちは小学一年生ということで先生は言葉を選んでくれているが、要するに初日なのでまずは実力テストということらしい。

 

(……ふふふっ、ここから私たち美少女双子アイドルの伝説が始まるのね!)

 

 これは決して過信ではない。何せ私は『高垣楓』の娘! 美少女! 負ける要素なんて一切ないのだ!

 

 勝ったな! 風呂入ってくる!

 

 

 

「………………」

 

 なんて思っていたときが私にもありました。

 

「だ、大丈夫だよ月ちゃん……! 上手だったよ……!」

 

「ありがとう……お姉ちゃん……」

 

 休憩スペースのベンチに座って項垂れる私の後頭部に投げかけられたお姉ちゃんの励ましの言葉が、逆に私の心に強くのしかかった。

 

 私の歌は先生からも褒められた。下手ではなかった。()()()()()()()()だけ。

 

 ()()。それが私の私に対する評価だった。

 

 一方でお姉ちゃんは凄かった。隣で聞いている私も思わず聞き惚れてしまうぐらいの歌声で……間違いなく『高垣楓の娘』なんだなって、そう思った。

 

「も、椛ちゃんの言う通りよ、月ちゃん。貴女はまだまだこれからなんだから」

 

「……はい」

 

 レッスンの様子を見守ってくれていたプロデューサーさんからも励まされ、これ以上ここで腐っていても仕方がないと顔を上げる。何せ今日はボーカルレッスンだけじゃないのだ。

 

「この後はダンスレッスンよ。……本当に大丈夫?」

 

「大丈夫です。頑張ります」

 

 とても心配してくれるプロデューサーさんにも悪いので、そろそろ私も気持ちを切り替えよう。

 

 ……そう、アイドルは歌だけじゃない。ダンスだってあるのだ。

 

 私もお姉ちゃんも運動神経は悪くない。体力だって申し分ない。リズム感だって悪くない。

 

 今度こそ……今度こそ、美少女双子アイドルの伝説が始まるんだ!

 

 

 

「………………」

 

 やっぱりダメだったよ……。

 

「つ、月ちゃん……大丈夫……?」

 

「大丈夫……大丈夫だから……」

 

 レッスンスタジオの床に倒れ伏す私の後頭部に投げかけられたお姉ちゃんの励ましの言葉が、再び私の心に強くのしかかった。

 

 ダンスも悪くなかった。悪くなかったけど……少なくとも自分自身にセンスがないということだけはヒシヒシと感じていた。

 

 そして、やっぱりお姉ちゃんは……。

 

「……そ、そうだ! 二人とも甘いもの食べましょう! 私ちょっと買ってくるわね!」

 

 慌てた様子でレッスンスタジオを飛び出していったプロデューサーさんに申し訳なくなってしまう。きっと私たちをアイドルにスカウトした張本人として、色々と気を使ってくれているのだろう。

 

 ……ただそれはそれとして、レッスンの先生もいなくなったこのレッスン室に私たち

姉妹だけを残して飛び出して行ってしまうのはどうなんだろうと思う。それだけ慌ててたんだろうけど、流石に六歳の女児二人だけっていうのは少しマズいと思う。

 

「……あれ」

 

「「っ」」

 

 ほら、今みたいに誰か知らない人が……!?

 

「……モミジちゃんとユエちゃん? 二人ともどうしたの?」

 

「「旭さん!?」」

 

 レッスン室に入って来たのは知らない人じゃなくて、よく知っている人だった。

 

 

 

 

 

 

「え、二人ともアイドルに!?」

 

「「はい」」

 

「そっかー……うん、二人とも可愛いから、きっと人気出るんじゃないかな」

 

「「えへへ~」」

 

 アイドルを見た目だけで判断するのは諸説あるところではあるけれど、今は純粋に可愛いと褒められたことに照れる。

 

「旭さんはどうしてレッスン室に?」

 

「俺? 俺は演劇の練習」

 

 旭さんの手には台本と思われる冊子。どうやら次の舞台のための自主練をする場所を求めてきたらしい。

 

「でもまぁ二人が使ってるみたいだし、お邪魔だったね」

 

「そ、そんなことないですよ!」

 

「私たち、もう終わってますから!」

 

「そうなの? ……あれ、じゃあどうして? というか大人の人と一緒じゃないの?」

 

 私たち以外の人がいないことに気が付いた旭さんは「おや?」と首を傾げた。

 

「えっと、その……」

 

 かくかくしかじか。

 

「なるほどね……二人を残していっちゃったのはちょっと問題だけど、優しいプロデューサーさんみたいだね」

 

「はい」

 

「レッスンのときも、いっぱい褒めてくれて……」

 

 私とお姉ちゃんが歌ったり踊ったりするたびに「可愛い!」「上手!」「最高!」とまるでオタクのように雑な語彙力で褒めてくれた。その度に先生から「邪魔をしないでくださいね」と笑顔で怒られていた。

 

(……でも、それを『私たちの気分を盛り上げるために言ってるんだろうな』って思っちゃう私は、嫌な子どもだな……)

 

 一度大人になったことがある私は、どうしても言葉の裏を考えてしまった。私は私の容姿に自信があるから、可愛いという称賛の言葉は素直に受け取ることが出来る。でも一度自分で自信を無くしてしまった歌とダンスは、どうしても額面通りに受け取ることが出来なかった。

 

 それでも「お姉ちゃんが完璧ならそれでいい」と思っている自分がいる。別に双子のアイドルとしてデビューして、双子という希少さで有名になってから、それからお姉ちゃんが実力でアイドルとして人気が出てくれればいいとも思っていたりする。

 

 しかしその一方で「私だってアイドルとして頑張りたい」と思っている自分もいる。『高垣楓の娘なんだから』とか『折角可愛いんだから』とか、そういう考えがないと言えば嘘になるけど……。

 

(………………)

 

 私だって、一度ぐらい、キラキラ輝くアイドルに夢見たことぐらい、あるのだから。

 

「……お兄さん、実はミュージカルに出たくて俳優になったんだ」

 

 突然、旭さんはそんなことを言いながら私たちの傍に腰を下ろした。

 

「「……ミュージカル?」」

 

「そう。小さい頃に見たミュージカルが凄い面白くて、そこで歌う俳優さんがカッコよくて……そうなりたいって思ったのが、俺の俳優の始まり」

 

 そうだったんだ……そういえば、そんなことが書いてあったインタビュー記事を読んだことがあるようなないような。

 

「でもここだけの話」

 

 こそっと耳打ちするように顔を寄せてきた旭さんに、私たちもそっと耳を寄せる。

 

「お兄さん、歌上手くないんだ」

 

「「そうなんですか?」」

 

「そう。名誉のためにも言っておくけど、別に音痴ってわけじゃないよ。リズム感だってあるし音程だってしっかりしてる。なんだったら楽譜だって読めるぞ」

 

 え、楽譜読めるって普通に凄いと思うんだけど。

 

「……でも、どれだけ頑張って歌っても、俺の歌って『フツー』なんだよね。特筆すべき点がないというか、パッとしないというか」

 

(それって……)

 

 私と、同じ……?

 

「それでもミュージカルに出演するっていう『夢』はまだ諦めてないぞ。例えパッとしなくても、華が無くても、舞台に立つっていうことは()()()()()()()()()()

 

「っ」

 

「ヘタクソで見るに堪えないなら……まぁちょっと考えた方がいいかもしれない。それでも努力して立てるようになればいい。舞台に立つっていうのはそういうことで……きっとこれは俳優もアイドルも同じなんじゃないかな」

 

 そう言って笑いながら、旭さんは私の頭をクシャクシャと撫でた。少し粗雑で、それでいてとても優しくて、まるでママが撫でてくれているような、そんな感覚だった。

 

「って、小学生にはちょっと難しかったかな」

 

「ううん。大丈夫、分かりました。……もうちょっとだけ、頑張ってみます」

 

「うん、頑張れ。初日で諦めるのは早いぞ小学生。……というかそもそもなんだけど、ユエちゃんは自分を『過小評価』してる」

 

「え?」

 

「あ、ごめん、過小評価っていうのは」

 

「いえ、意味は分かりますけど……」

 

 意味は分かるけど、言われる意味が分からない。自分で言うのもあれだけど、寧ろ私は自分で自分のことを過大評価しすぎていると思っているんだけど……。

 

「そう? それならお兄さんから言わせてもらうけど……『今の自分こそが最高の自分だ』って思うことは最大の過小評価だよ。六歳の子どもが成長を諦めちゃダメでしょ」

 

「………………」

 

 それは、きっと自分の心の何処かにもしっかりとあった言葉。それを口にすると自分に対する甘えだと思って飲み込んでいた言葉。自分で口にしていたら逃げるための口実に使ってしまっていた言葉。

 

 けれど、それを旭さんの口から言われると……不思議なことに、すんなりと私の心の中に納まってくれた。

 

「歌とダンスの才能がないなんて些細なことだよ。ユエちゃんとモミジちゃんは、お母さんからその可愛さをしっかりと受け継いでるんだから。きっと将来はお母さんみたいに美人になるぞ~」

 

「「え、えへへっ」」

 

 グリグリと更に頭を撫でられて、お姉ちゃん共々笑みが零れてしまった。

 

 

 

 

 

 

(……あれ?)

 

 

 

 

 

 

「ごめんね二人とも遅くなっちゃった色々買ってきたからおやつにしましょ!」

 

「「「っ!?」」」

 

 プロデューサーさんが勢いよくレッスン室に飛び込んできた。その手には事務所のコンビニの袋を携えていて、その中には様々なお菓子やスイーツが詰め込まれていた。

 

「おっと、保護者のお帰りだ」

 

「……ってアレ!? 神谷さん!? なんで!?」

 

「全く……いいですか……?」

 

 この場に旭さんがいることに驚いているプロデューサーさんに対し、旭さんからのお小言が始まってしまった。三十を超えた女性が十九歳の青年からお説教を受けている図だ。

 

「……お姉ちゃん。私、頑張るね」

 

「違うよ、月ちゃん」

 

 え?

 

「『一緒に頑張ろうね』だよ」

 

「……うん!」

 

 

 

 

 

 

(月ちゃんは気付かなかったみたいだけど……さっきの旭さん……つまり……)

 

 

 




・高垣椛はアイドルとしての才能に溢れている。

・高垣月のアイドルとしての才能はイマイチである。

・神谷旭の歌の才能はイマイチである。

・ついでにダンスの才能もイマイチである。
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