かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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ようやく最初のアトラクションへ。


地底世界への冒険です

 

 

 

 9:15 ポルト デ メディテレニア

 

 

 

「はいピース」

 

 眼前に広がる港とヘスティア火山をバックにしてまずは自撮りをしてから、改めて次の目的地へと移動を開始する。

 

 現在俺たちがいるのは、入園直後のゲストたちが全員訪れることになる中央エリア『ポルト デ メディテレニア』。中央には大きな港が広がっており、他のエリアへ向かうためにはここでは進むルートが左右に分岐する。

 

 右のルートの途中には先ほど『マジックエンジョイパス』で予約をした『ファンタジーフライトツアーズ』があるため、ここで右に曲がる人たちは主にそのアトラクションへと向かう人の流れだろう。

 

 だからといって左のルートへ進む人が少ないわけではなく、こちらはこちらで人気アトラクションが多数存在するエリアへと向かう道のりとなっているため、やはりこちらへ進む人も多い。

 

 結局どちらへ進んでも人は多く……というかそもそもパーク内に入場したゲストの数が多いのだから当たり前の話だった。

 

 というわけで『ファンタジーフライトツアーズ』へは後で行くからという理由で、とりあえず左のルートで次の目的地……ヘスティア火山の麓のエリア『ストレンジアイランド』へ。

 

 

 

 

 

 

 9:30 ストレンジアイランド

 

 

 

 ここはストレンジアイランド。『ほの暗い海底の底から』というまるでホラー映画のようなタイトルのアドベンチャー映画をモチーフとしたエリアであり、ここにも『ファンタジーフライトツアーズ』に負けず劣らずの人気アトラクションが二つも存在している。

 

 俺たちはそのうちの一つであるジェットコースタータイプのアトラクション『イン・トゥ・ジ・アース』へ乗りに来た。

 

 

 

 『イン・トゥ・ジ・アース』

 

 科学者であり冒険家でもあるノア船長が開発した地底装甲車に乗り、地下深くを探検するアトラクション。ジェットコースタータイプであるためとても人気が高い。

 

 

 

 ……のだが。

 

「ひぃくん、もう三十分待ちになってるわ」

 

「開園して三十分でこれだけ並ぶのか……」

 

 ヘスティア火山の内部に作られたアトラクションの入り口に表示された待ち時間の表記に、楓と二人で少しだけ唖然としてしまった。

 

 プロデューサー曰く『人気アトラクションの待ち時間が一時間以下は実質待ち時間なし』らしいのだがちょっと何を言っているのか分からない。ただまぁ、普段聞き及んでいる人気アトラクションの待ち時間が二時間や三時間であることを考えると、十分少ない待ち時間であることには間違いないだろう。そもそも『マジックリゾート』へ遊びに来ておいて待ち時間の長さに文句を言うのはナンセンスだろう。

 

「それじゃあ予定通りに並ぶか」

 

「そうね」

 

 というわけで、今回の『マジックリゾート』デート初のアトラクションに並び始めるのだった。

 

「……こういう作り物見てるだけでも時間潰せちゃうな」

 

「特に私たちは久しぶり過ぎて殆ど初見みたいなものだものね」

 

 待機列の途中に作られた標本などを金網越しに楓と並んで観察する。それはまるで本物の研究室のようで、つい先ほどまで誰かがここに座っていたかのような臨場感があった。

 

「本物を見たことあるはずないのに『地下の世界にはこういう植物があるんだろうな』って思えるような不思議な説得力があるんだよなぁ」

 

 それはさながら『映画』という名の説得力に似ているような気がする。

 

「でももし本当に地下の世界があったとしても、とても住みづらいでしょうね」

 

「そりゃあな。空気だって薄いだろうし……いや空気の問題以前に人間が住む環境にはなってないだろうし」

 

「ううん、そうじゃなくて」

 

 楓はフルフルと首を横に振る。

 

 

 

「だって……地下は()()が低いんだもの、住みづらい環境なのよ」

 

「………………」

 

 

 

 今日一番のドヤ顔だった。そして今日一番のスッキリした顔でもあった。

 

「ようやくノルマがこなせた……もう悔いはないわ」

 

「嘘だろ」

 

 一日一ダジャレなんてノルマ初めて聞いたし、その程度のノルマをクリアしたぐらいで満足されては堪ったものじゃない。

 

「大丈夫よ、もう一つのノルマは現在進行中だから」

 

「もう一つのノルマ? なにかあるのか?」

 

「んー、これは今日のノルマというか……一生を費やしてこなすノルマだから」

 

 そう言いつつ、俺の左腕に絡めていた腕の力を強めた。

 

「ひぃくんとず~っとイチャイチャするっていうノルマ」

 

「……嬉しいんだけど、それをノルマにされるのは少し複雑なんだが?」

 

「喜んでもらえて私も嬉しい」

 

「複雑だって言ったの聞こえなかった?」

 

 とはいえ最愛の妻にまるで付き合いたてのカップルのようにムギュムギュとくっつかれて喜ばない夫はいないので、俺の言葉は所詮負け惜しみなのである。

 

「それではお次の二名様はこちらへお進みくださ~い」

 

「あ、はい」

 

 キャストのお姉さんの指示に従って進む。どうやらここからはこのエレベーターに乗って地下深くまで潜っていくことになるらしい。

 

 ……あれ、他の人たちが聞かれているような『皆様は何名様ですか?』って聞かれた?

 

 

 

 

 

 

(しまった、あまりにも二人だけの世界になっていたから思わず当たり前のように二名だと決めつけて案内してしまった……)

 

「……よ、ようやく前のバカップルと距離を取ることが出来た……」

 

「危うく一般オタクの砂糖漬けで一品出来上がるところだったぜ……」

 

(幸い間違ってなかったみたいだけど、気を付けないと……それにしてもラブラブなカップルだったなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 エレベーターを降りれば乗り場まであっという間だった。

 

 地底装甲車は二人並んで座るタイプの六人乗り。ジェットコースターとしては残念なことに一番後ろの座席になってしまったが、少しでも身バレのリスクを回避するためにはこちらの方が都合が良かったのかもしれない。

 

「うふふっ、なんだかドキドキしてきちゃった」

 

「俺も。なんかワクワクしてる」

 

 手を振るキャストさんたちに見送られながら出発。

 

 まずは煌びやかな宝石の洞窟を抜け、そのまま不思議な植物や虫たちが生息する地下世界へと進んでいく。当然見たことがない生き物たちに思わず目を輝かせてしまい、二人であれはなんだこれはなんだと大はしゃぎ。他の乗客に迷惑だと一瞬我に帰るも、前に座る二組のカップルも似たような感じだった。

 

 しかしそんな観光気分は終わりを告げる。

 

『火山活動が発生! 火山活動が発生!』

 

 突然鳴り響く警告音に緊迫感が増し、やがて地底装甲車は地底奥深くへと迷い込んでいき……。

 

 

 

 

 

 

「「……楽しかったぁ……!」」

 

 無事に地底世界の冒険から帰還した俺と楓の第一声がそれだった。

 

 なんというかこう、純粋に楽しんでしまった。折角楓とのデートなのだから彼女のリアクションとかそういうのも観察しながら楽しみたいなとか思っていたのだが、二人揃ってアトラクションの世界にのめり込んでしまった。

 

「最後、ひぃくんったら凄い声出てたわよ」

 

「ふぅこそ楽しそうに悲鳴あげてたじゃないか」

 

 いやこれは仕方がない。二人揃って声に特徴のある芸能人なので声量は抑えたいところではあったのだが、楽しすぎてそれどころじゃなかった。人間って楽しいと我を忘れてしまうということが身をもって分かった。SNSで『今イントゥジアースから神谷旭と高垣楓の叫び声が聞こえてきた』なんて書き込みがないことを祈ろう。

 

「さてひぃくん……次は分かってますね」

 

 再び俺の腕に抱き着く楓は、キラキラと目を輝かせて何かを期待している様子だった。

 

「あぁ、分かってるよ」

 

 今回の旅のしおりを貰い、プロデューサーから提案された予定で楓がずっと楽しみにしていたところなので忘れようにも忘れられない。

 

 一体何が楓をここまで突き動かすのか。

 

 そんなものは決まっている――。

 

 

 

「呑みましょう!」

 

 ――アルコールである。

 

 

 

 

 

 

 10:15 タキプレウスギャレー

 

 

 

 プロデューサー曰く『朝イチでイン・トゥ・ジ・アースに乗ってすぐ傍にあるタキプレウスギャレーで餃子を食べながら一杯呑むのが楽しいんですよ!』らしい。

 

「正直ひぃくんからは反対されると思ってたけど、意外と乗り気だったわね」

 

「節度は大事だけど、俺だって飲むのは好きだよ」

 

 というわけで、餃子とビールを購入するために近くの飲食店へ。こんな時間なのでまだ空いている……と思いきや結構人がいる。ここの餃子が人気という話は聞いていたが……それに加えて、俺たちと同じ目的の大人がチラホラ。どうやら考えていることは同じらしい。

 

「あぁ……こんなに日の高い午前中からお酒を飲めるなんて……」

 

「こんなときじゃないと気後れしちゃうもんな」

 

「私は飲めるのであれば普段から飲みたいですよ」

 

 こいつ純粋な目で……。

 

 さてそこそこ時間はかかったが、無事に餃子とビールを購入。残念ながら席は空いていなかったが、幸い紙のお皿とお盆なので何処で食べてもいいらしい。というわけで店を出て近くのベンチへと移動すると、早速二人で乾杯する。

 

「「カンパーイ!」」

 

 楓と共にそこそこ大ぶりな紙のカップに入ったビールを煽る。

 

「っ、く~っ!」

 

 まだ朝と呼んでも差支えの無い時間からお酒を飲む背徳感で余計にビールが美味い気がした。

 

「あぁ、もうこれだけで(しゅあわ)せ……」

 

 うっとりとした表情の楓。美人は口元に泡の髭を作っていても絵になるのだから本当にズルい生き物である。

 

 ……そうだ。

 

「ふぅ、あーん」

 

 唐突に思い付いたので、箸で餃子を持ち上げると楓にあーんをする。勿論酔っているわけではなく、本当にただの思いつき。俺だってイチャつきたい欲はあるのだ。

 

「……うふふ、あーん」

 

 楓は幸せそうに笑うと口を開けて餃子を一口。

 

「はいお返し、あーん」

 

 今度は楓からのお返しを俺も口で受け取る。

 

 

 

 ……それなりに往来のあるベンチで何をやっているのだろうと我に返るのは、全て食べ終わってからである。やっぱり朝からの一杯で酔ったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「めっちゃビール飲みたくなった」

 

「分かる。あんなの見せられちゃ飲まずにはいられない」

 

「あとなんか口の中じゃりじゃりしている気がする」

 

「不思議だよな……海が近いから塩かと思ったら砂糖なんだもんな……」

 

 

 




「そういえばいつも行くたびにここで餃子食べてたっけ」

「こんなときからの定番だったんだね」

「……私も早くパパとママとお姉ちゃんと一緒にお酒飲みたい」

「飲めるようになったら、今度はここで四人で飲もうね」
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