女王蟻と放出系と女王蜂   作:ちゅーに菌

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明けましておめでとうございます、どうもちゅーに菌or病魔です。なんだかとても時間が経った気がしますけど多分気のせいですね。私のFGOの手持ちに何故かクレオパトラさんとか、イシュタルさんとか、アルテミス姐さん(3体目)とか、ケツアルコアトルさんとか、マーリンとか、武蔵さんとか増えているのも多分気のせいです。

あ、福袋はケツアルコアトル(2体目)さんでしたよ(メイヴ狙い爆死)。



それはそうと何と無く急にQ&Aコーナーを設けたくなったのでしちゃいます。


Q:何故だろう、初めて読んだ時からハクアが「白襲」に出てくる某蚕娘にしか見えなくなった。もしかしてモチーフは…?

A:………………………………みんな…………。
"白襲-繕/綻-"って絶対に検索するなよ! 絶対だぞ!? 絶対だからな!(煽り)




人形

カエデから電話のあった翌日の昼過ぎ、俺はくじら島の浜辺にいる。試しに海上を走ってザバン市に向かう事にした。と言うのも最近、飛行船よりも走った方が早いような気がしたためである。序でに方法によっては修行になる気がする。

 

浜辺まで見送りに来たゴンの頭をわしわし撫でてから少し距離を取り、家で抑えている時のオーラを解放して通常の時のオーラに戻す。オーラで俺を中心に砂浜が軽く波打っているが仕方あるまい。

 

「ねえアニキ!」

「あん?」

海上へ飛び出そうと構えた俺にゴンは声を掛けてきた。

 

「アニキのそれって俺も使える!?」

「難しい事聞いてくるなぁ…」

 

当たり前だが、ゴンはオーラが見えているわけではない。俺のオーラによって俺を中心に起こる現象を見て言っているんだろう。だが、念は今のゴンには遠い存在だ。何故ならば俺は念を暫くはゴンに教え無いし、自分から教える気もないからな。

 

念は危険ないし取り扱い注意。これだけは俺もカエデもハクアも共通して認識している事だ。

 

例えば今年で5歳になったゴンに念を覚えさせたとしても、如何に丁寧に教えたところで子供の精神では扱いに限度がある。幼稚な念で無能力者に触れてしまえば殺してしまう事など容易。無論、それをゴンは望まないだろうが、説明も出来ない。念とはまっことむず痒いモノだな。

 

俺はふと思いつきオーラを広げ、ゴンを包む。殺意も敵意も親愛も好意も込められていない無機質なオーラだが、ゴンの身体は一度大きく跳ね上がり、その後は硬直しながらも真っ直ぐと澄んだ瞳で俺を見ていた。

 

「俺のそれはゴンにはどんな感じがする?」

「とっても力強くて暖かいけど…もの凄く怖くて寒い……」

「ほう」

 

ゴンは俺のオーラの性質をピタリと当てて見せた。ゴンの念の才能は多少贔屓も入ってるかもしれんが、やはり大したモノだろう。大成すればハクアのお眼鏡にすら叶うレベルになるのは間違いない。

 

しかし、才能があればある程にそれだけ危険度は増す。まあ、これは刃物にも、ディクロニウスにも置き換えられる事だな。だからこそ過ぎたるモノを今教えるわけにはいかないのだ。

 

俺はゴンを包むオーラを止め、地平線を見つめる。

 

「そうだな、ハンターライセンスを取って俺の所に来れば教えてやるよ」

 

ゴンはハンターになる、なろうとする。これはもう確定したようなものだ。

 

何故ならばゴンは既にジンの背中を追い始めている。その為にハンターライセンスは絶対に欠かせない。何せ持っているだけで民間人が入国禁止の国の約90%と、立入禁止区域の75%まで入ることが可能になる。ジンがそう言った場所に留まっているとなれば民間人がそこに向かうのは容易ではない。故にハンターライセンスはあくまでもゴンの夢のスタートラインに過ぎないのだ。その夢には無論、念も必須。ならば教えない理由も無い。

 

「ホント!? 嘘じゃない!?」

「嘘じゃない。嘘だったらカエデの前でこれ以上無いほどリラックスしながら、エロ本音読してやるよ」

「やったー!」

 

俺やカエデにとってはハンターライセンスは身分証代わりになるのでそのうち取ろうとは思っている。もう、半分ぐらいは公的施設の95%が無料で使用出来る事が目当てな気もしないでもないがな。

 

「じゃ、行ってくる」

「じゃあね! アニキ!」

 

俺は健在のオーラの70%を背中と足に集め、とりあえず一気に爆発させ、海上を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ザバン市まで海上を一直線に走って行くとなんと1日で到着した。これなら他の人と行動する時は兎も角、ひとりで移動するときは走ればいいな。余りオーラが減っていないが多少は修行にもなるし。

 

ちなみに秒速30m以上の速度で移動し続けるか、1秒内に11回以上水面を蹴れれば水面を走れると聞いたことがある。発展途上のシズクは出来ないかもしれないな。ああ、マコはそもそも水面を走る必要が無いので出来ないかもしれない。俺は疲れないで走り続けられる平均速度は時速300~600kmと言ったところか、コンディションによるところが大きいので触れ幅も大きい。今日は調子が良いのでかなり出ていただろう。

 

市内の様子は非常に閑散としていてる。まあ、流石に一般人は殺人鬼が闊歩する中で外に出ようとする者が少なくなるわけで自然とそうなるか。

 

とりあえず公衆電話からカエデの持っている幻影旅団のシャルナークという奴が用意してくれたと言っていた携帯電話に電話を掛けた。俺も欲しいな。

 

『はーい、ボクがカエデさんだよー』

「誰だお前は」

 

カエデ以外の人間が出た。声から察するに若い女性だろうか。その声に何故か聞き覚えがあると思えば、カエデがにゅうと電話越しで漫才していた時に電話をきった人ではないか。

 

『なんと、ボクの声真似が見破られるとは。君中々やるね』

「……真似る気ねぇだろ」

 

中々個性的なお人のようだ。

 

『ま、兎も角街の中心の時計台の前で待ってるよ。じゃーねー』

「ちょ…まっ…」

 

彼女にメインストリートの時計台の前で待っているという事だけ言い残されて電話を切られた。カエデの居場所の手掛かりも無いので仕方がなく俺はメインストリートを目指す。

 

メインストリートということはあり、向かうとそれまでの閑散とした人通りも幾らかましになり、ちらほらと見掛けるようになる。そして、駅前に建っている小さな時計台の前に着いた。

 

駅前にはかなり人で溢れていたが、時計台の前だけ何故か切り取られたかのように人が居ず、代わりにひとりの女性が立っていた。その女性は俺を視界に入れると小さくパタパタと手を振る。彼女が電話の相手だろう。

 

「結構、早かったね」

 

ウェーブの掛かったショートヘアに金色の瞳。紫色の長袖で六つのボタンの付いた服を身に纏い、オレンジの短パンを履いている女性が立っていた。

 

にまにまと人を食ったような笑みから何と無く行動に猫のような印象を受ける女性である。

 

「話に聞くより随分イイ男だなぁ。それにとっても君強そうだ」

 

彼女は片手を胸に当て、恭しく頭を下げると更に言葉を続けた。

 

「ボクは"ネフェルトゥム。幻影旅団"No.8"でカエデとにゅうの友達だよ。盗賊と傀儡師とフィギュア造形師をやっている」

 

3番目が急に俗なものになった事について突っ込むべきなのだろうか? しかし、彼女が特に俺の反応を伺っている様子は無いので、本当にその職業をしているのかもしれない。ならば突っ込むのは野暮というものだ。

 

ネフェルトゥムからカエデの居場所を聞き出そうと考えると、それよりも先に彼女が人差し指をピンと立てながら口を開いた。

 

「カエデは先に殺人鬼を探すんだって今日の朝方から気配を殺してザバン市中を駆け回ってるね。だからボクが君の連絡係に残ってたのさ」

「そうか…」

 

どうやらカエデはにゅうの軽い煽りにすら堪えられなかったらしく、自分でも出来るという事を証明する為に奔走しているようだ。ああ見えてカエデは非常に負けず嫌いなのである。

 

「それで何処にいるんだ?」

「なら早速探そうか」

 

次の瞬間、駅前で多数の人々がいるハズにも関わらず、その騒音が嘘のように止む。辺りを見回すとこの周囲にいる全ての人間の視線が俺とネフェルトゥムに向いており、それら全ての頭上に道化師のような人形を象った何かが浮いていた。人形から伸びた糸が人間を操作しているように見受けられる。

 

そして、ネフェルトゥムから悪戯っぽい笑みと、粘着質で纏わり付くような黒紫色のオーラが溢れ出る。家には居ないタイプの狂い方をしたオーラの性質だ。悪戯な悪意とでも形容しようか。

 

「"人形傀儡師団(マリオネット)"」

 

ネフェルトゥムは念能力の名をそう溢す。駅前の百数十人は居るであろう人間をほぼ全て同時操作可能な念能力。操作系か、特質系辺りの系統の念能力者が妥当か。

 

「行ってらっしゃーい」

 

ネフェルトゥムが手をパタパタと振ると、傀儡師の人形に操られた人間は散開していき、瞬く間に消えていった。

 

「絶状態のカエデを見付けるなんて不可能だからね。ボクのマリオネットに探させればいいのさ」

「そうか」

 

特に言うことはない。早く見付かるに越したことは無いだろうと考えていると、滲み出る黒紫色のオーラが念能力を使用して尚止めどなく溢れ、徐々にネフェルトゥムの視線が悪戯っぽい様子から、餌を前にした猛獣のように変わる。

 

「ああ……もう…カエデの惚気話よりずっとイイなぁ…殺りたいなぁ……」

 

お預けを食らったペットのようにうずうずと身体の各所をひくつかせながら此方を眺めるネフェルトゥム。恐らく彼女に挑発行動を取れば嬉々として襲い掛かって来るだろう。幻影旅団の団員同士のマジギレは御法度らしいが、他なら特に制限もないらしいしな。とすると踏み止まっているのはカエデの友人としての最後の良心か。

 

俺は溜め息を吐くとタイマー付きの腕時計を外し、時間を設定する。その動作を見たネフェルトゥムは驚きと興奮、そして感激の表情を浮かべていた。

 

絞っている全身の精孔を開き、オーラを行き渡らせる事で絞っている時の十数倍程の健在オーラを持つ通常の状態に戻る。

 

「"10分"だ。それ以上はカエデに怒られちまうからな」

 

返事はネフェルトゥムの全身から濁流のように溢れ出た粘付く黒紫色のオーラが物語っている。時計のボタンを押して地面に落とせば即襲い掛かってくる事だろう。

 

俺はネフェルトゥムの念能力が何なのか期待を膨らませながら時計を放り投げた。

 

 

 

「"黒子舞想(テレプシコーラ)"」

 

 

 

ネフェルトゥムの呟きの後、背後に浮かぶ黒い人形を視認した瞬間。眼前で肉体操作で爪を伸ばしたと思われる彼女が、腕を降り下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「Kyrie, ignis divine, eleison~♪」

 

カエデはとても機嫌が良かった。聖書の一文を歌にして声に出す程度には上機嫌である。

 

それと言うのはカエデの近くにいる気絶させられ、簀巻きにされているかなり大柄な金髪の男性がいるためだろう。カエデは一人で無事このサバン市で素手の握力のみで殺人を行い続けていた殺人鬼を既に捕獲していた。

 

「ご機嫌だねカエデちゃん」

「ああ」

 

歌い終わるのを待っていたのか、直ぐにカエデの分身であるもうひとつの人格のにゅうが表に出る。回りから見れば一人が自分と会話している奇妙な光景に映るが、彼女らにとってはこれが掛け替えのない行為なのだ。

 

「モーくんに褒めて貰えるね」

「そうだな……ふふ」

「私も大好きだけど本当にカエデちゃんはモーくんが好きだねぇ」

「私の初めてだからな、色々と」

 

カエデは昔のモーガスとの思い出に浸ろうと記憶を掘り起こし……。

 

街の中心部で突如発生した強大な念能力者同士のぶつかり合いによるオーラの波動とも言えるものを肌で感じ取り、無理矢理現実に引き戻された。

 

カエデは両者のオーラをよく知っているのか、肩を震わせ怒りが滲み出ている。

 

ネフェ()()トゥム()……あれだけ釘を刺しておいたというのに…どうやら仕置きが必要なようだなッ!」

「あははは……お手柔らかにねカエデちゃん」

 

カエデは簀巻きにした男をベクターで運びながら街の中心部へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

落とした時計に一瞬目を移す。丁度タイマーは5分進んだようだ。いや、まだ5分しか経っていないと言ったところだろうか。

 

その間も高速移動を続け、一撃離脱で攻撃を繰り出し続けるネフェルトゥムの迎撃を続ける。

 

視認は出来るが、俺の動作の数倍の速度を常に出しているネフェルトゥムが使っているのは明らかに操作系。自身を背後の黒い奴に操作させる念能力か。

 

突き詰めてしまえば"ただ速い"それだけの念能力だ。しかし、異様な速度と、操作に伴い生み出される機械的な力。それらにより攻撃自体の破壊力もかなり上がっていると見える。更に操作もかなり精巧らしく、攻撃・回避・撤退・再行動の全てに不自然なまでの急加速が加わり、最早人間の機動ではない。人と肉食獣程の瞬発力の差が生まれている。

 

故にネフェルトゥムの攻撃に対応し、攻撃を加えても、それを避けられ更にカウンターを貰うという状態が続いている。

 

「うーん、硬いねぇ君。ボクの爪が先にダメになりそうだよ」

 

急に俺から15m程距離を取ったところで立ち止まり、顎に手を当てて目を細めながらそんな事を愚痴るネフェルトゥム。

 

相変わらず背後では黒子のような人形がネフェルトゥムを操作したままなのでいつでも動けるのだろう。

 

それもそのはず、今の今まで俺はほぼ無傷だ。どうやらネフェルトゥムのオーラ総量自体が俺の十分の一程らしく、攻撃を繰り出す瞬間にオーラの厚みを増やせばそれだけでネフェルトゥムの攻撃は完全に遮断出来るのだ。ほぼというのは開幕で繰り出された初撃だけは不注意で貰ってしまったからだ。まあ、致命傷には程遠いが。

 

ブリオンさんは基本的にピンチにならない限り直立不動なので速さで攻められるのは中々新鮮だな。いや、これではまるで俺がブリオンさんになったような気分だな。

 

「じゃあ、そろそろこっちから行くか」

「およ?」

 

ネフェルトゥムの念能力"黒子舞想(テレプシコーラ)"は大方見終えた。単純故に非常に攻略の難しい中々良い念能力だ。こちらとしても非常に楽しめた。ブリオンさんとの修行の息抜きには丁度良かっただろう。

 

カエデ曰く、幻影旅団は戦闘用の念能力を2つは持っているそうだ。テレプシコーラがネフェルトゥムのいつもの念能力なのだろう、ならばこのような遊びで奥の手を出す事はまず無いと思っていい。

 

「ところで、カエデから俺の話を聞いているなら俺が念弾使いな事ぐらいは知っているな?」

「うん、知っているよ。放出系で念弾使い、イケメンで長身、幼馴染みで大好きってぐらいだね」

 

カエデの俺の評価は置いておき、念弾というモノの性質について少し語ろう。

 

念弾とは文字通りオーラで作られた弾だ。身体から切り放されたオーラの維持が得意な放出系の十八番とも言える基本技能であり、放出系の修行には欠かせないモノである。

 

しかしてその撃ち方や、念弾の形状は人により様々。野球ボール大の念弾を投げるように放つ、五指の先から弾丸のように放つ、子供のように手を銃に見立てて放つ、両手で溜めて光線のように放つ等々多種多様切りがない。

 

ただ、共通している事がひとつある。それは基本的に念弾は手或いは腕から放つという事だ。というのもそれはそもそも念弾が球であるという大前提があるからだ。

 

ボールは手で投げる、銃は手に持って放つ、小さな球は指で弾く等が例だろう。まあ、要はイメージの問題である。念はイメージしやすい程扱えるという事が念弾にも現れているのだ。

 

故に制約と誓約の観点で念弾の強化をはかるならば、制約なら手の機能を制限する、誓約なら手の一部切り落とす等すると爆発的に向上する。

 

まあ、サッカーを念能力にでもすれば蹴る念弾も生まれるであろうが、それはそれだ。無論、鍛えれば足だけでなく、舌先や、肩、爪先から念弾を放つ事も可能だしな。

 

「ふーん、念弾なんてあんまり使わないからちょっと勉強になるね」

「まあ、大事なのはここからだ」

 

ネフェルトゥムは興味津々といった様子で目を輝かせているので説明してしまっているが……まあ、いいか。この間もタイマーは進んでるしな。

 

それらを踏まえると念弾の一番の問題点は手からの発射が基本になる為、どうしても攻撃角度が制限される事だ。精々、水平視野120度、垂直視野130度程の前面のみが攻撃範囲となり、手から放つ以上自身の身体が邪魔になりどうしても後方に念弾を放つ事は非常に難しい。だが、これでは正直なところ拳銃を強化して放つのと大差無い。なので俺はより応用の効くオーラ技能を編み出した。それはな…。

 

「爪先から念弾を放つように、"全身のオーラを身体の一部に見立てて念弾を放つ"事だ」

「へー…………………………え"?」

 

俺との会話からふた回り程厚みを増した纏を凝視して固まるネフェルトゥム。これから何が起こるか理解したのだろう。次の瞬間から俺の全身のオーラの表面に無数の念弾が瞬時に形成され、数百を超え、数千の念弾が俺を囲むように静止していた。

 

俺は笑顔を作るとネフェルトゥムに微笑み、口を開いた。

 

「君ならできるよ」

次の瞬間、360度全ての方向に無差別に横殴りの雨のような念弾が放たれる。念弾はこの辺りのあらゆるモノを穴だらけにし続けて尚、一切止まらない。

 

「ちょ……何それ反則過ぎる…!」

 

テレプシコーラで器用にも縦横無尽に駆け回りなから、念弾を回避し続けるネフェルトゥムはそんな叫び声を上げた。

流石にこの念弾の撃ち方だと火力はそこまで乗らないので、ブリオンさん相手なら猫だましもいいところだが、テレプシコーラに大きくオーラを割いているネフェルトゥムのオーラ防御力ならば、1発でも防御せずに当たればダメージになるだろう。そして、1発でも当たれば動きが止まるのでその瞬間、蜂の巣である。当然、そんな状態で俺に態々近付くような自殺行為が出来るわけもない。

 

俺は必死に回避を続けるネフェルトゥムを眺めなからあるタイミングを待った。

 

テレプシコーラを使っている今のネフェルトゥムはさながら操り人形だ。人間の形をした人形故に人間の限界を超えた機動と速度を出せる。しかし、人形である以上はその動きはやはり人間だ。だから人間では出来ない動作はどうやってもすることは出来ない。

 

俺はネフェルトゥムの足が地面からとある方向に離れる直前、念弾の豪雨の中で1発だけ色の違う念弾をネフェルトゥムの後方に放った。

 

「え……?」

「はい、おしまい」

 

例えば、真後ろに跳んだ瞬間に、瞬間移動で後ろに立たれると当たってしまうとかな。

 

俺の胸の中にぽすっと音が出てもおかしくない程ネフェルトゥムが綺麗に収まり、極力傷付けないように抱き止めた。

 

その瞬間、時計のアラームが鳴り響き、10分が経過した事を告げる。

 

念弾の嵐は俺が消えた事で当然止み、念弾で穴空きチーズのようになった瓦礫が崩れ落ちる音だけがたまに響いていた。

 

ポカンとした表情のネフェルトゥム。面白いのでそのまま暫く見ていると俺を見上げて来た。

 

「むー、思ってたよりだいぶ強かったなぁ…本気にすらさせれないなんて」

「そりゃ、どうも」

 

まあ、ハクアもブリオンさんも明らかに超一流念能力者だからな。ハクアから念を習い、ブリオンさんに修行して貰っているんだ。そう易々と負ける訳にはいかない。

 

「でも悔しいからちょっとだけ復讐」

 

そう言うとネフェルトゥムはくるりと身体を回し、俺に向き合うと少し背伸びをして、頬にキスをしてきた。それから最初見たような悪戯っぽい笑みに戻り、俺から離れた。

 

「むふふふ、またねぇ」

 

手を大きく振ってからネフェルトゥムは走り去って行った。

 

いったい、あれの何処が復讐なんだと思いながら何気なく背後を振り返る。

 

 

 

「やあモーガス」

 

 

 

そこには殺人鬼が裸足で逃げ出すであろう眼光を宿す髪に隠れた片目に、器用にもハイライトを消した眼差しで俺を見つめるカエデが立っていた。

 

…………………………。

……………………。

………………。

…………。

……。

オワタ

 

 




幻影旅団8番 ネフェルトゥム
1997年以降シルバ・ゾルディックに殺害される番号の団員。
ネタバレ:とある猫っぽい蟻の原料その2

この作品オリキャラ出ますが安心してください。大体死にますので覚える労力は最小限で済みます。


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