女王蟻と放出系と女王蜂   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。なんかいつもより早いですね、作者死ぬんでしょうか?(感覚麻痺)

今回はわりと真面目なお話です(大嘘)

前回のあらすじ
俺が!俺たちが!メイドさんだ!







モーガス・ラウラン 下

「さて、風呂に入ってくる」

「待て」

 

二人が食べた朝食の食器を片付けて一息ついてから立ち上がると、何故かカエデがベクターで俺を止めてきた。

 

「なんだ? やっぱりまだ正気に戻ってないじゃないか」

「え、エッチなのはダメだよモーくん! カエデちゃんと私がいるよ!」

 

どこからともなく取り出した鉄パイプをベクターに握らせたカエデはそれを俺の頭上に浮かせている。言動的ににゅうも止める気がないようだ。

 

盛大に勘違いしてやがるな、このムッツリスケベ共め。

 

「む、むっつり!?」

「すけべ!?」

 

そもそも俺がメイド服を着せようとしたり、自分で着てみたのは念能力の開発の為である。他意は特にない。というか、カエデなら俺の今の身体で自慰しただけでキレるのは目に見えている。そんな地雷原でタップダンスを決めた挙げ句、ハンドスプリングで着々するようなことを誰がするというのか。そもそもそんなに飢えてもない。

 

「た、確かに……カエデちゃんなら…」

「にゅう、お前が私をどう思っているかよくわかった。それでどうして風呂に入るんだ?」

「造形が見たいんだ。メイド服の下のな」

 

何せ俺が作ろうとしているのは"人間の念獣"だ。それならば実際にちゃんと見ておくべきだろう。こんな機会他に逃せば無いかもしれないからな。

 

「"人間の念獣"か……大丈夫なのか?」

 

カエデが心配したのは"人型の念獣"ではなく、"人間の念獣"と言ったところであろう。

 

人型の念獣ならば難易度はそこまでではない。何せ、あくまでも人に似せた形をしているだけなのでその本体はそれに付いた付属効果の方だからだ。故に人型の部分はおまけ、もっと言えばハリボテでしかない。ハリボテでは本格的な戦闘を念獣にこなさせるのは難しい上に、中身を作り込むには消費オーラも跳ね上がる。例えるならば人の形をした風船に中の気体を変えて強化するようなものだ。全くもって効率的だとは言えないであろう。

 

故に人間の念獣なのだ。人間の念獣ならば元々知識として中身が存在するため、作り込みも比較的容易。念獣により現実的(リアル)な再現を行うことで結果的に人型の念獣よりも消費オーラが少なく済み、人型の念獣とは比べ物にならない程に強靭で細かな念能力を宿した戦闘用の念獣になるというわけだ。

 

ならば何故誰も人間の念獣を作らないのか? 理由は大きく二つある。

 

単純な話あまりに人道に反するからというのが一般的な理由であろう。念獣は体外にオーラを留める技能である放出系或いは、単純に物体の具現化をさせる具現化系の分野だが、その開発方法自体は具現化物を生み出すものと大して変わりはない。つまり、一体の人間の念獣を完成させるまでに何十・何百の人体を解剖(バラ)して観察しなければならないかということだ。無論、新鮮ならば新鮮なモノほど望ましい。言ってしまえば生きたままじっくりと観察出来るなら十数体程度で済むかもしれないな。

 

そして、もうひとつは人体というものを五感を通して完全に理解する難易度の高さであろう。未だに人体というものは解き明かされていないことも多々ある為に難易度の高さは人型の念獣と比べるべくもない。少なくとも人間を正確にパーツに分けることが可能で、その全ての名称等を暗記している必要があるだろう。例えば筋繊維ならば少なくとも起始、停止、作用、支配神経を覚えている程度は基本中の基本だ。

 

そこまでして本当に得る必要がある念獣ではないのだろう。まあ、単純にもっと放出系らしく、単純な念能力の方が得だな。よほどの執着と執念がなければあえてやる意味も必要もない。

 

「そこまでわかっているんだったら無理に人間の念獣にしなくても…」

「カエデ、お前はハムストリング辺りの肉が好みだったな」

「何を言って……?」

「そう、俺は頬肉が一番好きだったよ」

 

そう言うとカエデはハッとした顔になり、哀愁とも望郷にも慈しみにも似た目に変わる。その瞳はここではない、どこか遠くを眺めていた。

 

レクターさんに進められて初めて食べた時の衝撃と美味しさは今も覚えている。いや、きっと生きている限り忘れることは出来ないだろう。

 

シリアルキラーは居よう。しかしそれは殺すことへの快楽に趣を置く者だ。

 

カニバルキラーは居よう。しかしそれはこの世界では非日常の光景だ。

 

俺とカエデのようにただの食事という日常としてそうしていた者はそうは居まい。いや、カエデは種族的にはディクロニウスなのだから実際に共食いと言えるのは寧ろ俺か。

 

人間の内と外の感触、食感、味わい、解体法、調理法、筋の走行、臓器の重さ、神経の意外な頑丈さ、腱膜の人体パーツとは思えない固さ。生きる上で知らなくて良いが、最も身近な事を五感全てを通して知っている俺に人間の一人や二人程度再現できない事はないだろう。

 

「お前が初めから趣を置いていたのはメイドではなく、人体そのものか……」

「そう、メイドはあくまでも俺の趣味。俺の好みの服装を考えた時に一番最初に浮かんじまったからな。けど念能力にはそうした好きなものとかイメージしやすいものが絡んでいる方が作りやすいし、オーラの消費も少なくなる。だからメイドを足した」

 

まあ、もっと単純に例えるとだ。

 

ここに2次元の笑顔が眩しい美少女の絵があるとしよう。確かに彼女は絵だが、彼女は服を着ている。その下には皮膚がある。その更に下には筋肉がある。そして、一番深い場所には骨だってある。無論、それらは書き込む必要は特にない事であるが、書き込んだ方が彼女はより人間足り得る美少女となるだろう。

 

ならばどうする?

 

作り込まないわけにいかないじゃないか!

 

「………………何か納得いかないが、まあそうだな。お前の中ではな」

 

何か納得いかないらしい。解せぬ。

 

「げ、芸術家みたいだね! モーくん!」

 

おう、その人を褒める万能な言葉止めーや。

 

それに俺はもうほとんど放出系と後天的な特質系の人間だ。最近、またハクアに測って貰ったら90%越えたらしいからな。特質系により、幾らでもアレンジが効くので十分可能であろう。

 

まあ、実のところもうほとんど開発は成功している。後は造形的な最後のひと押しが欲しいのでリアルな女体が見たいのである。

 

「と、いうわけで風呂に入ってくる」

「待て」

 

再びカエデに止められた。今度はベクターではなく、手であるが、生憎これ以上はカエデに説明できる理由を持たない。

 

「その…だな…」

 

どうしたものかと考えていると、カエデは何やら頬を赤らめながらもじもじとしおらしい態度を取っていた。大変可愛らしいがなんだろうか。

 

「その…見るのに参考にするのは別にお前に限ったことではないのだろ…?」

「それはどういう? 」

 

俺に疑問符が浮かぶ。

 

「だから…だなっ! わ、私も一緒にお風呂に入ろう!」

 

…………………………マジで…?

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

かぽーん

 

 

 

(どうしてこうなった…)

 

一般家庭よりも広い浴場でカエデは早くも頭を抱えたい衝動に駆られていた。

 

さっきはあのように言ったもののカエデとしてはメイド服を着てやらなかった後悔やら、明後日の方向に全力で念能力開発に取り組むモーガスの姿勢等に押され、ついつい言ってしまい、今こうしているのである。

 

そして何よりも……。

 

「よくってよ!」

 

やはりと言うべきか、モーガスは浴場の洗い場の鏡の前でまたポージングしていた。必要ないであろうそのフレーズは気に入ったのであろうか。

(ぽけー)

 

(くそっ……案の定にゅうは使い物にならない…)

 

にゅうはこの空気と、控え目に見ても絶世を付けたくなるような美人のモーガスの裸体を見てショートしている。そんなのだからムッツリスケベなのだろう。

 

(と、というか私……小さい頃にモーガスと水遊びぐらいはしたことあるがその程度で、前の住み処の飛行船はシャワーだったからシズクとはお風呂に入ったことないし、施設の大浴場は角を見られたくないから使わなかったから誰かとお風呂に入るのってこれが初めてなんじゃ…)

 

「えいっ」

「ひゃぁ!?」

背中にヒヤリとした感覚が伝わり、思わずカエデは声を上げた。後ろを振り替えれば泡を付けた身体洗い用のスポンジをカエデの背中につけているモーガスがいた。

 

「背中を洗ってやろう」

「あ、ああ……」

 

 

 

ゴシゴシ……

 

 

 

「………………」

「………………」

 

(な、なんだこの時間は…)

 

 

 

ゴシゴシ……

 

 

 

「………………」

「………………」

 

(長いな…)

 

無口なカエデと、仕事は真面目なモーガスなため、暫く背中を流す時間が続いた。

 

(と、というか……)

 

風呂場に入ってきた時から赤面したまま満足にモーガスを見れていないカエデは心の中で叫んだ。

 

(こういう展開なら普通男女の役回りが逆じゃないのか!? 女なのは私だろう!?)

 

ちなみにカエデの知識はカエデが寝た後にパソコンや携帯で見ている漫画やら同人漫画やら小説等で仕入れた知識である。

 

「~♪」

 

そんなこんなで終始ご機嫌なモーガスに身体を洗われ、頭を無駄に上手くシャンプーされたりしてお風呂の時間は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今なら行ける。確実に行ける」

「そうか……」

 

何故か疲れた様子のカエデを連れて、俺の念能力を発現させるために外に出ていた。

 

どう見てもメイドである今なら行ける気がする。念能力はイメージが重要だからな。メイド服を着て、女性の身体であり、風呂場でのイメージが焼き付いている今ならば行ける気がするのだ。

 

「よし」

 

と、言うわけでオーラを片手に集めて発を行う。既に自分で念能力を作っているのでこの辺りは手慣れたものだ。

 

とは言え、発現は慎重になりながらも大胆に作業を進めればならない上、俺の念能力の中で間違いなく最大の記憶(メモリ)消費をする念能力だ。緊張もする。

 

今この瞬間にも俺の心の何処かでこんな念能力を作っていいのか? 記憶の無駄ではないのか? 真面目に地味な戦闘用の念能力を開発した方がいいのではないか? という感情が渦巻いているが、それらはハクアが言った言葉で全て一蹴する。

 

 

"つまらないものは、それだけでよい念能力ではあり得ない"

 

 

そう心に刻み込んだ直後、収縮したオーラが像を結び、掌の上に念獣が出現した。

 

「ああ、完成した……完成したぞ…」

「は……?」

 

俺の着ているメイド服と同じデザインをした"メイド服を着た10cm程のデフォルメキャラのようなメイドさんの念獣"である。

 

「これがっ! これこそがっ!」

 

「俺の全ての記憶の60%を使った大型複合念能力っ!」

 

「"手乗りメイドさん(ハンドメイド)"だっ!」

 

『ぽえー』

 

俺の叫びと共にハンドメイドの何とも言えない鳴き声のようなものが周囲に木霊した。カエデは口をあんぐりと開けたまま心ここにあらずといった様子で停止している。

 

「ば、バカかお前は!? バカなのか!? いや、昔からバカだったな!?」

 

やがて動き出したカエデは俺を兎に角捲し立てる。無論、自覚はしているので何も言い返せない。

 

いやん、カタリナちゃんそんに罵倒されたら目覚めちゃう。

 

「真 面 目 に 話 を 聞 け」

 

カエデにベクターによるアイアンクローで顔を掴まれて持ち上げられた。

 

「いやー、わたくしとしてはですねー。ひじょーに真面目に念能力の開発に取り組んだ結果がこれでござんして……」

「ああ、バカは死ななきゃ治らないって言葉があったな…」

「馬鹿は死んでも治らないって言葉もあるな」

 

とりあえずカエデのベクターから力ずくで抜け出す。そして、カエデの眼前に手を出してその上にハンドメイドを置いた。

 

「なんだ? 突然_」

『ごしゅじんさまー』

 

ハンドメイドは笑顔でカエデに語り掛けた。更に畳み掛けるように花が咲くような優しい笑みを浮かべる。

 

『あそぼう?』

 

10cm程の大きさで小首を傾げながらそう言う姿はいっそ清々しいまでに覇気がなく、無邪気である。

 

そして、それがカエデにどういった印象を与えるかは俺がこの世で一番よく知っている。

 

「かっ、可愛い……」

『えへへー』

 

よし、落ちたな。

 

ハンドメイドに手を伸ばそうとするカエデ、しかし俺はそれを制した。

 

「あ、遊んじゃダメなのか…?」

「念能力の制約でな。俺のオーラから離すと消えるんだ」

「制約だと…? あっ…」

 

カエデの目に理性の光が灯る。これが見た目通りのものではなく、特殊な念能力を持った念獣だとようやく気が付いたのだろう。

 

「この"オーダーメイド"は4つの制限を守りながら6つの条件をクリアすることで始めて念能力が発動する念獣なんだよ」

「そうなのか…団長の念能力みたいだな」

「ああ、それのことだがな。その団長さんの念能力に多少発想を借りた」

「え……?」

 

カエデはよく他人のことを話す。その中には無論、カエデの所属する幻影旅団の念能力の話も含まれている。

 

そして、その情報の中で俺が少し参考にしたのは幻影旅団団長クロロ・ルシルフルさんの念能力、"盗賊の極意(スキルハンター)"だ。

 

カエデから聞いた話ではスキルハンターの発動条件は4つ。

 

①相手の念能力を実際に目で見る

②念能力に関して質問し、相手がそれに答える

③本の表紙の手形と相手の手の平を合わせる

④1~3を1時間以内に行う

それに加えて何らかの制限があるかもしれないが、兎も角条件を満たすことで発動出来る念能力なのである。俺はその条件と制約を参考にしたのだ。

 

「それでその項目なんだがな……えーと」

 

俺は持ってきたメモにハンドメイドの制約もとい条件と制限を書き出して書き出してカエデに見せた。

 

条件

①相手の念能力をハンドメイドが実際に見る

②相手との戦闘を10分間ハンドメイドに見せる

③ハンドメイドに相手の念能力を食べさせる

④ハンドメイドに発動者のオーラ総量の50%を食べさせる

⑤ハンドメイドに相手の身体の一部分を食べさせる

⑥1~5まで項目の作業を30分以内に行う

 

制限

①ハンドメイドは手に触れていなければ何も食べない

②ハンドメイドは一回のオーラの餌付けでオーラ総量の0.1%のオーラまでしか食べれない

③ハンドメイドは発動者のオーラから離れると消滅する

④ハンドメイドは非力なため片手で押さえておかなければ速く動くだけで落ちる

 

「なんだこれは……団長の念能力よりも数倍……いや数十倍難しいじゃないか」

「そんだけしないと戦闘用の念獣としてはちょっとな。俺より強いか、同じぐらいにするにはそれだけ必要だったってことだ」

「言わなかったら団長の念能力が元なんてわからなかったろうに……」

 

普通は念能力の話というものは幻影旅団の仲間内だとしてはあまりして欲しい話題ではないだろう。しかし、カエデはそれを俺に話した。ならばそれはカエデなりの信頼の証なのだろう。無論、幻影旅団と俺の両方に対してのだ。だからこそ俺も嘘は吐かない。

 

そして俺は幻影旅団の念能力についての話は誰にも口外する気はないし、墓場まで持っていくつもりだ。それが、念能力者として、カエデの理解者として、流星街に生きた者としてせめてもの義理という奴だろう。

 

「……………………そういうところがちゃんと真面目だから私はお前が好きになったんだ…」

「ん? すまん。小声過ぎて聞こえなかった。今なんて言った?」

「なんでもない。ただの一人言だ」

 

ふむ、そうか。ならばいいのだが。

 

「あー、それでひとつ聞きたいんだが、にゅう……いや、現実の私理想の私(イデアル)は常時発動型の念能力でいいんだよな?」

「いきなりだな。そうだが…?」

「それはにゅうが表に出ていなくてもか?」

「まあ、そうなるな」

「制約はあるか?」

「制約と言えるのかはわからないが、人格はにゅうはひとりしか存在できないぐらいだ。それがどうしたんだ?」

 

ふむふむ、聞いていた通りだ。なら大丈夫だな。

 

俺は条件の1番目の項目の"相手の念能力をハンドメイドが実際に見る"に斜線を引いた。

 

「む、やっぱり私に念能力を掛けるのか?」

 

カエデは少し顔をしかめてそう言った。まあ、他人から念能力を使われるなんて基本的にいい気はしないだろうな。その上、団長さんの"盗賊の極意"を多少参考にしたんだから尚更だろう。

 

「なーに、これは能力を奪う念能力ではないから大丈夫だ。というか奪った上で相手に能力の使用を制限するなんて効果を付けようものなら流石に俺でもキツい」

 

そもそも俺は盗賊を生業とはしていない。そう言ったものは適正が薄いだろう。態々そんなことをする意味もない。

 

それから俺は条件の2番目の項目の"相手との戦闘を10分間ハンドメイドに見せる "に斜線を引いた。

 

「いや、別に戦ってないだろ?」

「いいや、戦ったさ。少なくともハンドメイドはそう認識した。さっきカエデは俺の頭をベクターで掴んだだろ?」

「お前……そのために」

 

なので戦闘を見せるというカウントはもう進んでいる。 これでクリアしたようなものだ。

 

「5番はどうするんだ? 髪とかでもいいのだろうか?」

「いや、血か肉だなやはり。俺のイメージがそっちしか浮かばない。だからハンドメイドもそうだろう」

「仕方ないな…」

 

カエデが指をオーラで傷付けようとしたのでそれを止めた。 そして、小指ほどのサイズの小瓶を自分の胸の谷間から取り出す。

 

「ほれ、これで大丈夫だろ」

「お前なんて場所から取り出して…」

 

しかし、女性とは便利だな。全裸でも小さなものを隠せる場所が男性より2ヶ所も多いからな。

 

「なんだそれは?」

「カエデの背中の垢だ。さっき風呂場で採った奴。これなら大丈夫だな、皮だって肉だ」

「おい、待て。お前まさか始めから私を風呂に入れるように誘導して__」

 

アーキコエナイキコエナイ。

 

カエデのことは無視して小瓶の蓋を開けてハンドメイドに持たせた。ハンドメイドはそれを呷るように食べると空になった小瓶を俺の方に向けてくる。うん、いい娘いい娘。

 

俺は5番目の項目の"ハンドメイドに相手の身体の一部分を食べさせる"に斜線を引いた。

 

「これで3番と4番以外の条件はクリアしたようなもんだ。まあ、先に4番だな」

「オーラ総量の50%を食べさせるか……ん? 待て」

 

カエデは何故か俺に待ったを掛けてきた。

 

「ハンドメイドは一回のオーラの餌付けで最大0.1%のオーラまでしか食べれないのに、それも戦闘中にこれを30分以内で自分の50%のオーラを喰わせるのか…?」

「そうだけど?」

「いや、無理だろう……」

 

何故かカエデがそう言ってきた。俺は意味がわからずハテナが浮かぶ。

 

「そもそも0.1%ってなんだ? オーラ操作は健在オーラにしても精々5%刻み、どんなに刻んでも1%刻みで動かすものじゃないか。そもそもオーラというものは身体を流れる液体のようなものだから、動かす具体的な精度を求めるというのは蛇口から出た水をコップに入れて目盛りも無しに量り取るようなものだろう? それに正確に0.1%だとしても500回に分けて食べさせるのだろう? それも戦闘中にだ。私だって平常時だって一時間は無いとそんなこと出来ないぞ……」

「んー、じゃあ、やってみるか」

 

俺はハンドメイドを肩に移動させ、乗せている側の片手の指先にぴったり総量の0.1%のオーラで作った念弾を五指全てに出現させた。

 

「は…? え…? まさか…」

『まうまう』

 

カエデの声をバックミュージックにひとつずつハンドメイドに与えては余った指に念弾を生成するのを同時に行い、ついでにハンドメイドが落ちないように押さえるのを片手でこなす。ハンドメイドの食べる速度自体は速いので秒間ふたつぐらいは食べさせられるだろう。それをしばらく繰り返した。

 

 

 

 

 

~5分後~

 

 

 

 

 

「まあ、こんなもんだな」

『けぷー』

 

時計を見るとぴったり5分掛かっていた。秒間ふたつより少し遅かったようだ。戦闘中ならば倍は掛かると思っていいので10分ぐらいか。ハンドメイドの食べ方に慣れればもう少し速く出来るかもしれないといったところか。

 

ふむ、やはり余裕をもって30分に設定したのは正解だったな。

 

「全く誤差無しにオーラ総量の0.1%のオーラを込めた念弾を500個ぴったり喰わせたというのか……」

「なんだ数えたのか?」

「いったいどこでこんなこと覚えたんだ……?」

「いや……ハクアに念弾喰わせてる間って自分のオーラ量を考えながら念弾作るぐらいしかやることないから自然に身に付いたんだが…」

 

果たして何か可笑しかったのだろうか? ハクアに聞いたら"ターム族の上位者ともなれば誤差0.001%のオーラ操作ぐらい朝飯前よぉ"とか言っていたので大したことは無いし、それも修行の内なんだなと思っていたのだが……ちなみに俺の精度は精々0.01%程度である。

 

「もういい、続けよう…」

 

カエデはどうにでもなーれとでも言いたげな表情でそう言った。まあ、だったら俺も深くは追求すまい。

 

俺は4番目の項目の"ハンドメイドに発動者のオーラ総量の50%を食べさせる"に斜線を引いた。

 

「それで最後に残った"ハンドメイドに相手の念能力を食べさせる"だが……」

 

ぶっちゃけこれが1番簡単である。

 

俺はハンドメイドを指で摘まんだままカエデの頭に乗せた。

 

「なにをする…」

 

メイドの乗せカエデという可愛らしいものの完成であるが、今は置いておこう。

 

カエデみたいな自分に掛けている念能力はこのようにしなければ難しいが、普通の攻撃用念能力ならばハンドメイド自体を盾にすれば良いのである。ハンドメイド自体は一切攻撃手段を持たない代わりに攻撃を受け付けないからな。

 

するとハンドメイドは何かを吸い込む動作を行い、それに伴い、カエデの中から何かが抜け出したように見えた。

 

「にゅう…?」

 

そして、異変に気が付いたカエデは血相を変えて俺にすがり付くように詰め寄ってきた。

 

「な、何をした……おい! にゅうはどこだ! にゅうをどうした!?」

「やっぱりこうなったか。大丈夫だ。心配するな」

 

まあ、家族が突然消えたのなら誰だってそうもなろう。しかし、別に消えた訳ではない。にゅうは人格としてひとりしか存在できないのだからこうなるのがむしろ正しいのだ。

 

カエデを抱き寄せながら背中を落ち着くように優しく叩きながら片手のハンドメイドを手から離した。無論、ハンドメイドは重力に従って地面に落ちる。

 

次の瞬間、ぼんっと軽い音がするのと共に足元から生えるように人影が現れ、それを俺は勢いよく抱き寄せた。

 

「にゅうっ!?」

「え……?」

 

カエデはその人影を幽霊か絶対にあり得ないものでも見たように目を丸くしてただ呆然と眺めていた。

 

そして、その人影は、俺と同じデザインのメイド服を着ていること以外は全くカエデと瓜二つの容姿をしていた。

 

家族であり、姉妹であり、親友であり、半身であり、様々なものを共有している存在。

 

そして、カエデにとっては誰よりも近く、最も遠い存在でもあった者。

 

"にゅう"が"カエデ"の隣にいたのだった。

 

俺はカエデと似たような表情で互いに顔を見合わせている二人をもっと強く抱き寄せた。

 

「これが俺の念能力"あなたのお手伝いさん(オーダーメイド)"。条件を満たした相手の特定の念能力を丸々コピーしたメイドの念獣を作る念能力だ。何も言わないで俺の話を少し聞いてくれないか?」

 

二人は腕の中で俺を見上げながら頷いた、俺は最初にカエデと視線を合わせながら話を始める。

 

「カエデは俺の幼馴染みだ。俺にとっても流星街で始めてできた友達でもある。不器用で口下手、人間関係が絶望的、料理とか家事もあまり得意ではなく、思い込みが激しい。けれど根は誰よりも優しく思いやりがあり、自分よりも相手のことを大切に思える素敵な女性だ。そして俺にとってかけがえのない人でもある。これからもずっとだ」

 

そう言うとカエデは頬を赤く染める。しかし、いつものように顔を背けることも逃げることもなくこちらを見ていた。

 

俺は次ににゅうと視線を合わせ、話を始める。

 

「にゅうはカエデの念能力から生まれた存在だ。社交的で明るく料理も家事もできる。まさにカエデがこうありたいと思った理想の形そのものだ。だが、にゅうはカエデと同じぐらい根が優しい女性だ。それが何よりも偶像なんかじゃないと俺は思う。にゅうはカエデの立派な妹だよ。そして、にゅうも俺にとってもうカエデと同じぐらいかけがえのない人だ」

 

そして、最後に二人の両方を見つめる。ここまで言ってかなり照れ臭くなってきたが、ここまで来たらやはり最後まで言うべきだろう。誤魔化すことも出来るだろうが、それはやはり男らしくない。

 

「だからこそ、こういうのは俺の方から言うべきだと思う。有耶無耶にするのは嫌だったんだ。それで、二人とも一緒に聞いて欲しかったからこんな念能力にしたんだ」

 

そこで言葉を区切り一旦呼吸を整える。そして、二人を更に抱き寄せてから口を開いた。

 

「まだ、少し時間は掛かると思うけど……カエデ、にゅう。結婚してください。俺と……ずっと一緒にいてください」

「……………ぁぁ…」

「…………モーくん……」

 

言い切った。言い切ったぞ。とっくに後戻りは出来ないが、これで今度こそ俺からも後戻りは出来ないな。何せ、自分の意思でこの二人を選んだのだから。

 

二人はいつの間にか泣いていた。そして、俺が抱き締めるよりも強い力で自分から俺に抱き付いていた。

 

「全く……せめて男に戻ってから言ってくれればな」

「ふふ、そうだねぇ」

「それを言うな…」

 

今が最も早く念能力を作れるタイミングだったからな。いや、まあムードとかあったかもしれないが、生憎俺はそう言うのには非常に疎い。これで勘弁して欲しい。

 

「モーガス」

「モーくん」

 

いつものように交互ではなく、二人同時に俺の名を呼んだ。俺はその光景が堪らなく嬉しく、それだけでこの念能力を作る意味があったと思えた。

 

「ありがとう……私も大好きだよ」

「嬉しい……幸せにしてください」

 

こうして俺の最大の念能力開発という一世一代の大仕事と、カエデとにゅうへの一世一代の大勝負は終わった。

 

なんだかんだあっても結局のところ俺はこの二人が大好きだったのだと思う。自分でいうのもなんだが、女の趣味はよくないかもしれないな。けれどそれはお互い様、二人も男の趣味が悪い。こんな奴を好きになるのが悪いんだ。

 

絶対幸せにしてやるからな。覚悟しろよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談であるが、その日もゴンたちは帰ってこなかったので3人で俺の部屋で寝ることになった。

 

そして、俺の始めてはカエデだったので、女性の方の俺の始めてはにゅうになった。

 

翌日、起きると身体は元に戻っていたが、猛烈に複雑な気分になったことを記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 




いい最終回だった(大嘘)


~モーくんが今回作った念能力の概要~
手乗りお手伝いさん(ハンドメイド)
放出系及び特質系を中心とした大型複合念能力。手乗りサイズのメイドの姿をした念獣を生み出す。6つの条件をクリア及び4つの制限を守ることで能力発動を行い、ハンドメイドは"オーダーメイド"へと進化する。また、ハンドメイドは攻撃能力を持たない代わりに一切攻撃を受け付けない。
◇条件
①相手の念能力をハンドメイドが実際に見る
②相手との戦闘を10分間ハンドメイドに見せる
③ハンドメイドに相手の念能力を食べさせる
④ハンドメイドに発動者のオーラ総量の50%を食べさせる
⑤ハンドメイドに相手の身体の一部分を食べさせる
⑥1~5まで項目の作業を30分以内に行う
◇制限
①ハンドメイドは手に触れていなければ何も食べない
②ハンドメイドは一回のオーラの餌付けでオーラ総量の0.1%のオーラまでしか食べれない
③ハンドメイドは発動者のオーラから離れると消滅する
④ハンドメイドは非力なため片手で押さえておかなければ速く動くだけで落ちる


あなたのお手伝いさん(オーダーメイド)
放出系及び特質系を中心とした複合念能力。ハンドメイドが条件を満たした相手の念能力を持った女性の姿をしたメイドの念獣を具現化する。念能力は幾つもの関連のある念能力の場合、全てを統合してひとつの念能力とカウントされる。また、一度オーダーメイドとして具現化すればルームメイドに登録され、いつでもオーダーメイドとして具現化出来るようになる。また、オーダーメイドが消滅した時に残っていたオーラは発動者へと還る。
制約
①オーダーメイドの持つオーラ総量は発動者のオーラ総量の50%となる
②オーダーメイドを直接具現化する場合、オーダーメイドのオーラ総量の限界までオーラを込めなくてはならない


お手伝いさんの台帳(ルームメイド)
ポケットサイズの手帳の具現物。具現化系の念能力。これまで登録したオーダーメイドがここに記録されており、それらの削除や整理や付属のペンでメモ書き等が管理が出来る。また、この手帳に直接オーラを込めることで登録したオーダーメイドをいつでも呼び出す事が可能。更に盗む借りる等の念能力に対して貸し出しも可能。モーガスの具現化系の修行用の念能力でもある。
制約
①登録可能なオーダーメイドは100体まで



正直に言いましょう。カエデさんとにゅうさんを幸せに出来たと思うので私としてはこの小説は9割方満足です…そしてダクソ3では満足した不死人は死ぬ…ということは作者も…うっ…(サラサラ)

シュワー←ソウルの入る音

楔石の原盤←ドロップアイテム


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