女王蟻と放出系と女王蜂   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。

今回は190階クラスまでのお話となるのでやや短めです。ではどうぞ。


そうだメイドをふやそう その2

 

 

 マコの話によれば天空闘技場は大きく2つに別れている。

 

 ひとつは1階から190階クラスまでのフロアで、10階クラスごとに区切られているフロアだ。基本的に無能力者がここで凌ぎを削っており、念能力者なら念能力を使わずとも別段苦労することもなく突破できるぐらいらしい。

 

 そして、もうひとつが200階クラス。こちらがマコに言わせれば本当の天空闘技場であり、念能力者はここに集まってくるんだとかなんとか。200階クラスでは10勝するとフロアマスターに挑戦することが可能となり、勝つとフロアマスターになれる。そして、フロアマスターは4年に1度のバトルオリンピアというものに参加出来るというのが概要らしい。まあ、ぶっちゃけこの辺りは興味ないので蛇足だな。

 

 何故俺が急にこんなことを考えているかと言えば簡単な話である。

 

 目の前に頭部の上半分を失った男の死体が転がっているからだ。いや、失うというよりも弾けとんでいるというのが正しいだろう。

 

 現在はその天空闘技場の1階フロア。AからPまでの16のリングの中のGのリングに俺は立っており、倒れている死体は俺の対戦相手だったものである。

 

 うん、あれだ。加減を間違えたわ。

 無能力者が相手だったが、俺よりも体格がふた回り程大きく見えたので、念無しで一発ぐらい強めに叩き込んでも大丈夫かと思った結果がこの様である。

 

「せ、2943番……」

 

 俺は足で床のタイルを軽く踏み締めた。するとタイルは音を立ててクモの巣状に破砕し、パラパラと破片混じりの煙を巻き上げる。

 

 何がいけなかったんだろうな? というか念無しでもかなり加減しなきゃならないなんて聞いていないぞ……全く。

 

 単純に目立つから極力バレる殺しは無しにしようと心がけていたが、早くもその目論見が崩れてしまったじゃないか。まあ、天空闘技場は誓約書や諸々によって流星街並みに無法地帯……もとい治外法権らしいので殺しても特に問題はないのだが、既に決意していたので腹が立つ。

 

「2943番!」

「あ、はい」

 

 おっとレフリーが居たことを忘れていたな。シャバの人間に多少グロデスクな光景を見せてしまって申し訳ないと思うが、これぐらいここの施設の方ならばよく見ていることではないだろうか。

 

「き、君は50階に行きなさい」

「わかりました」

 

 マコから聞いた話では普通、一階から階段上に進むらしいが、一階で戦闘能力が高いと他の闘士の生命のために飛び級させることがあるということを思い出しながらまずカエデたちのいるところへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり殺したの。まあ、飼主ならそうすると思ったわ」

 

 152ジェニーという缶ジュース一本程度のファイトマネーを貰ってから、 とりあえずマコと合流したところ、開口一番にマコから吐かれた言葉がこれである。マコの俺への認識に対して、これはジャポンに習って遺憾の意を示さねばならないと考えていると、先にマコが更に口を開いた。

 

「個室が貰える100階クラス以上の闘士は、そこに留まりたいために嫌がらせだって妨害だってなんでもするのよ。恋人連れなんて格好の標的ね。でも、流石にそういう奴らでも人を殺す人間にまではあんまり手を出さないんじゃないかしら?」

「はーん」

 

 つまりあれか。この先、俺のカエデとにゅうだけではなく、腹の子まで危険に晒す可能性があるということか。

 

 へぇ……。

 

「え……? ちょ……飼主? そんなマジな目をしてる飼主見たこと無いんだけど……ねえ、待って! 何する気よ!?」

 

 知れたことを。怖いものは全部取り除いておく、それが俺の流儀である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1回目の試合からほんの少しだけ経った頃。俺は早くも90階クラスにいた。

 

 適当に試合を組んで上の階へ進む。無念能力者しか見かけないため、完全に消化試合のそれであるが、俺のお目当ては200階クラスなので期待はしていないのでこんなものだろう。

 

「幾らなんでも試合中に闘士を皆殺しにしなくてもよかったんじゃ……」

 

 不慮の事故である。一瞬だけ頭を掴んだら脳出血で数時間後に命を落としたり、偶然に床の石畳から舞い上がったナイフのように鋭利な破片が側頭様に深く突き刺さったり、漫画のように軽いチョップをしたら頸椎損傷をしたりしただけで、俺自身は普通に戦っていただけだ。

 

「ちなみにモーガスは、解剖学的に見た暗殺と人体破壊の達人だ」

「なんでカエデはちょっと嬉しそうなのよ……」

 

 その辺りの技能は、レクターさんからたっぷり仕込まれたからな。正直、肌に指で触れれば念能力や過度な力抜きでソイツを廃人に出来る自信はある。

 

 それに相手には予め、俺と戦うと死ぬからリタイアした方がいいと再三警告してやっているので、仕方なかろう。

 

 お陰で死神モーガスなんて不名誉な渾名まで貰ってしまったがな。

 

「なんというか……モーガスに守られてると思うと嬉しくて……ふふふ」

「その優しさをミリ単位でも相手に向けないのが流星街の流儀なのね……」

 

 マコも流星街のことを理解し始めているようで結構結構。

 

 

 

 

 

 

 

 

 現実が少し頭が痛くなってきたため、ついさっきしたそんな会話を思い出すのを終えてから、俺は漸く対戦相手に目を向けることにした。

 

 そこには丁度ゴン程の背をした銀髪の子供が、棒立ちで片手で眉間を押さえている俺を不思議そうな目で見つめながら立っていた。

 

「兄さん。なに黙ってんの?」

 

 参ったな……女子供だからとかではなく、単純にゴンと同じぐらいの子供を抹殺してしまうのは流石に倫理的にアレ過ぎると思うぞ。

 

 うーん、そもそも俺は多少の理由が無ければあまり殺人は好まない質である。流石にこんな小さな子を殺めたからといって何が変わる訳でもないだろう。

 

 しかし、不戦敗となってしまえば、100階クラス以上の連中に子供を盾にとれば余裕な奴という認識が付いてしまうかもしれない。それではカエデ達を守るには本末転倒もいいところだろう。

 

 仕方ない……。

 

「悪いな君。俺には君ぐらいの弟が居てな。少し気が引けただけだ」

「あー……そういうのね」

「軽く行くぞ?」

「いらな――」

 

 俺は少年が何か言おうとする瞬間に一歩で約15m程の間合いを詰めて背後に立つと、少年の片方の耳の中に小指を差し込み軽く震わせてから引き抜いた。

 

「っ――!?」

「おお、中々速いな」

 

 少年はすぐに耳を押さえて俺から距離を取った。その反射神経と瞬発力足るや並みではない。念を使っていないのが不思議な程だ。

 

「な……」

 

 しかし、その場でぐらりと少年の身体がふらつき、まるで酩酊したかのように左右に傾きながら千鳥足になり、最後には片耳と頭を抱えて膝をついてしまった。まあ、そうもなろうなあ。

 

「君の平衡感覚を狂わせてみた。大丈夫、30分もすれば元に戻るぜ?」

 

 俺は歩いて少年の目の前まで向かった。更に目の前でしゃがんでみても少年は変わらずに踞っている。まあ、感覚的には天地がぐるぐるしているような今の状態で吐かないだけでも上等というものだろう。

 

「悪く思うな。これでも特別待遇だ」

 

 殺らないし、後遺症もない。なんと温情なことだろうか。流星街の人間からすれば聖人君主のようだな。まあ、現実的にはナメプしている外道だが。

 

 俺は一撃で意識を刈り取るため、片手をデコピンの形にして少年に向けて――。

 

「子供扱いすんなって言ってんだよ!」

 

 突如、跳ね起きた少年に腹を刺された。

 

「あん……?」

 

「なんだこりゃ!?」

 

 俺は綺麗に自身の腹直筋周辺に突き刺さっている少年の手を筋組織で受け止め、人体構造からすると異常な強さと、ありえないヶ所の収縮して抜けなくしつつ、少年のもう片方の手を、俺の片手で押さえつけて考えた。

 

 復活が早すぎるな……1分も経ってはいない。何か特殊な訓練でも受けていたのだろうか?

 

 それと、今俺の腹に刺さっているのは少年のただの手と爪だ。刺さる前に見えたが、やはり肉体操作でナイフのようにして刺したのだろう。この歳で肉体操作なぞ少なくともマトモな生い立ちの人間が出来るものではない。

 

 少年に目を向けると、抜け出そうと腹に刺さっている手を更に尖らせたり、空いている足で俺を蹴ったりしているが、如何せん体格差と肉体の頑強さが違い過ぎる。

 

 更に俺は最初にレクターさんに教え込まれ、そしてハクアに更なる応用を教え込まれたため、肉体操作ぐらいならば全身で使える。使えれば傷口の瞬間的かつ物理的な止血だったり、一瞬だけ爆発的な力を生み出すことや、今のように筋組織で攻撃を受け止めることも容易である。だが、見たところ少年はそこまで極めているわけではないようだ。

 

………………ふむ。

 

「気が変わった」

「―――ッ!」

 

 掴んでいた手を離し、腹から手を離してやる少年は即座に俺から大きく距離を取った。

 

「悪かったな。子供扱いはしていないといえば嘘になる。実際、俺からすればそうなるからな」

「………………」

 

 その言葉で少年の目が更にツリ上がるのを感じた。まあ、事実なのだからその通りだろう。

 

 俺はいつでも動けるように少しだけ気を張ると、片手を肉体操作で強化してから少年へ小さく手招きをした。

 

「だから……」

 

 別に少年にゴンを重ねたとかではない。単純に仮にこの少年が俺ほどの歳になり、念を覚えていればどれ程の実力者になるのかと想像したら……少しだけ手折るのも無下にするのも惜しいと感じたからである。

 

「さっさと本気で俺を殺しに来い。君に舐めて掛かられるほど俺は弱くはないぜ――"殺し屋の卵"くん?」

 

 身のこなし、目付き、肉体操作etc見るものが見れば誰だって後ろぐらい者だとは気づく。その中でもあまりに躊躇のない殺害を目的とした攻撃を撃ち込めるのは殺し屋か、テロリストの鉄砲玉か、流星街の人間ぐらいのものだろう。鉄砲玉ならこんなとこに来るわけもなく、流星街の人間にしてはずっとマシな目をしている。ならば殺し屋の子辺りが妥当だろう。

 

 驚きに目を見開いた後に挑戦的な目になった少年に時間と得点が許す限り、効率的な殺しと人体破壊のスペシャリストとして真面目に手合わせをすることにした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天空闘技場記録

・50階クラス

 マコ曰く飛び級したらしい。とはいえ、念を使える奴はだいたいそうなるらしいので普通のことなのだろう。

 

 

・60階クラス

 幸いにも金にも時間にも特に困ってはいないが、早いに越したことはないだろう。嬉しそうなカエデとにゅうの姿を拝めればそれでいい。

 

 

・70階クラス

 しかし、マトモな世界で生きるには必要とはいえ、やはり血気盛んな相手を殺せる状況で、理由もなく生かしておくということに違和感を覚えるのは元流星街の住人故か。我ながら甘くなったものである。

 

 

・80階クラス

 カエデのお腹の子はすくすくと成長しており、たまに声に反応して動いているのではないかと思うのは親バカなだけだろうか。

 

 

・90階クラス

 あの少年はキルアくんというらしい。あれだけボロカスにされたのに後で俺らの部屋に来ていた。中々強心臓である。キルアくんは外に出て初めて身体を本気で動かせたということや、オヤジやジイちゃんでもあそこまで変態染みた肉体操作はしないなどと話し。終いには家族の愚痴に発展していった。どうやら暗殺家とやらも世知辛いらしい。新しい発見である。

  

 

・100階クラス

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・110階クラス

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・120階クラス

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・130階クラス

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・140階クラス

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・150階クラス

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・160階クラス

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・170階クラス

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・180階クラス

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

・190階クラス

 きょうはなんにもないすばらしい一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅ~疲れました! これにて200階クラスです!」

「こんなこと言っている奴が天空闘技場で歴代最速で200階クラスまで上がったのね……」

 

 個室が貰えるから危険だとマコが言っていた100階クラスから190階クラスまでの階層。きょうはなんにもないすばらしい一日だった……もとい90階クラスで試合が組まれたキルアくんに比べたらマジで何も語ることがなく、処理レベルの作業だったから仕方ない。あんなゴンのように生きる才能塊みたいな人間は早々御目にかかれるものではない故、他が全て色褪せたのだ。

 

 そういや、キルアくんの家名の方を聞き忘れたな。まあ、いいか。袖振り合うも多生の縁。いつかまた会うときもあるだろう。会わなかったらそれはそれで結構なことだ。

 

 何故か隣にいるマコが影の差したひきつった笑みをしている気がしないでもないが、知らないったら知らない。ちなみに100階クラスからはもう面倒になり、さっさと上がるため、開幕と同時に俺のオーラで相手を包んで失神させたりしていた。

 

 対戦相手の身体が無事ならいいだろし、精孔も開いちゃいない。精神が無事かどうかは保証しかねるがな。

 

「私はモーくんがつけてる天空闘技場記録の後ろの方を見て、モーくんがおかしくなっちゃったのかと心配したよ……」

「元からおかしいだろ」

 

 にゅうは天使だなあ。カエデさんヒドいです。

 

 そういや、死神モーガスというかなりアレな異名が、現実味を帯びてきたせいでオッズが大変なことになっていたな。

 

「130階クラスぐらいから元返し(1.0)だったものね……」

 

 ディープインパクトですら1.0は一回だけだったんだがな。まあ、あれは単勝だから一概に比べられないだろう。

 

「大穴狙いが多い天空闘技場で元返しなんて滅多にないわよ……」

 

 マコのぼやきは置いておき、200階クラスにあがるまでで良いニュースと、上がってから悪いニュースがある。

 

 ます、良いニュース。なんと100階クラスから一度も他の闘士に嫌がらせ等を受けることなく上がれたのだ。カエデと俺の子には一切被害はなかったたため万々歳である。

 

 そして、悪いニュースなのだが―――。

 

 

 

 

 

「200階クラスって……闘士同士の申告制で試合組むんですね……」

「そうよ……」

 

 いかん……100階クラスから微妙に念を使ったせいか、エントランスに来た200階クラスの闘士と思われる連中が俺を見た瞬間に回れ右して去っていく。

 

「…………どうしよう?」

「こっちのセリフよ……まあ、飼主の欲しい念能力はちゃんとした戦闘向きの念能力だろうから、本当に飼主と闘いたいような闘士は自分からやって来るでしょう」

「そうかな……そうかも?」

 

 俺はマコの慰めを余所にメイド増産計画が傾き始めていることに頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 ちなみに結果だけいうと"誰でも受けて立つゾミ☆"と書いて天空闘技場の自室の扉に貼り紙をしておいたところ、結構入れ食いで対戦相手は見付かったことを記しておこう。

 

 

 

 




モーくんに肌を触れさせるということはレクター博士に肌を触れさせるのと同じぐらいの覚悟がいります。

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