女王蟻と放出系と女王蜂   作:ちゅーに菌

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9000字行きそうになりました。作者はポロッと掛ける小説を目指してるから3000~4000字ぐらいが理想なんですがねぇ。

コウモリのキメラアントと検索すると容姿が出ますよ。可愛い(啓蒙↑)。


コウモリのキメラアント

1992年6月9日

 

くじら島に無事に帰って来る事が出来た。何処にも寄らずに真っ直ぐ帰って来たのである。というわけでミトさんにはジャポンのお土産のお菓子、ひよ子を渡した。寄り道をしたことを白い目で見られた、解せぬ。

ミトさんはカエデとシズクを唖然とした表情で眺めてから、俺にレバーブロウを浴びせてきた。どうやら二股を掛けているか、節操無しか、人買いでもしてきたかと誤解したらしい。

いつもは10分の1以下程に控え目に抑えているとは言え、俺の纏を貫通してミトさんの拳が突き刺さる。どうやらミトさんは精孔すら開いていないが、無意識に念のような何かを使えるらしい。そんなこと俺も出来きた試しがないので念のような何かである。垂れ流される全てのオーラを拳に集め、その擬似的な硬で俺をぶん殴るのだ。よく考えたらこの人、ジンのいとこなわけで念に才能がない方が可笑しいだろう。考えてもみれば、何故か絶が既に出来ているゴンが、外から自分の部屋の窓から帰ってきても確実に発見するので納得も出来る。

ん? おいまて、日記書いている今気付いたが、擬似硬殴りとかはゴンには絶対しねぇじゃねぇか。俺に殺意でもあんのかミトさん。支援センターに駆け込んでやる。

 

 

 

1992年6月10日

 

今日はシズクの部屋を空ける為に馬車馬の如く働いた。カエデ用の部屋はミトさんが空けていてくれたが、ひとりだと思っていたため、シズクのは用意されていなかったからだ。

一言電話してくれれば良かったのにと言われ、携帯電話が無い事の不便さを噛み締める。流星街出身者はこういうところが不便だな。法を犯すか、他人から名義を借りて契約しなければならない。

カエデが俺に着いてきたので、子犬のようにカエデに着いてきたシズクであるが、くじら島はどうかと聞いたところ、空気が美味しくて、待ってればタダでご飯が出てくるから良いところだそうだ。相変わらずの返答で何よりである。

 

そう言えば、ミトさんとお祖母さんへのお土産物のひよ子を箱から開けて皆で食べることになった。ひよ子の包装を解いて中身を取り出してカエデの掌に乗せると急ににゅうのように目を輝かせてひよ子を見ていた。カエデは生き物が大好きなところが可愛い。お菓子のひよ子に、これを食べろと言うのか!? と何やら狼狽していて更に可愛い。首狩り族の女王もひよ子の魔力には形無しである。

ちなみにシズクは全く躊躇無く頭からがぶりといっていた。ひよ子の魔力も形無しである。

 

 

 

1992年6月11日

 

カエデにハクアの事を話すと、どんどんカエデの目がゴンには見せられない程に鋭く暗くなり、背中にベクターを覗かせ始めたのでハクアの巣に連れて行った。

まあ、残っているのは異様に巨大なシロアリの脱け殻と、それに付いている何故か全く腐らない極太で極長の卵巣だけであったが、少なくともそれでカエデの中のハクアという物体のイメージ図を乱すことに成功したらしい。

何故か開いた口が塞がらないという様子で、脱け殻のオーラの残り香ですらこんな…バカげてる……と何やら呟いていたのがそんなに驚く事なのだろうか? 俺はハクアの以外のオーラを見たことがないので良くはわからない。最もハクアの本体は常に絶をしているか、体表面の0.1mmをオーラで覆っている姿しか見たことがないために俺の基準は更に当てにならんか。

 

 

 

1992年6月12日

 

朝起きたらシズクが俺に抱き着くように隣で寝ていた。勿論、そんな美味しい記憶があるわけもないし、致した形跡などは何処にもない。俺は無実である。

とりあえず部屋に送り返そうとシズクを持ち上げようとした瞬間、カエデが一体いつからそこにいたのか、開け放たれた俺の部屋の扉の前でベクターを全開にしながら練で赤黒いオーラを渦巻かせていた。俺は無実である。

その後、"ドキッ!ベクターだらけの大激闘 ポロリもあるよ! INくじら島編"が開催され、カエデ相手にくじら島を横断するぐらい念弾の引き撃ちでベクターを撃ち落としながら逃げ続けた末、シズクがさも当たり前の用に昼御飯に呼びに来た事で終幕を迎えた。今日ほど放出系だった事と、俺にポロリか起こらなかった事に感謝したことはない。俺は無実である。

その晩、にゅうに聞いた話によると、シズクが天然である事は明白だが、寝惚けている時が特に酷く、トイレに起きた後に部屋の風呂場で寝ている事や、部屋から一端出て何故かカエデのベッドまで来て寝ている事が多かったらしい。ミトさんも昨日シズクがベッドに入ってきたとの事である。何故それを知ってるにも関わらずカエデは襲ってきたというとシズクがパンツとブラのみ着けて寝るタイプの人間だからだろう。やはり、俺は無実であった。

 

 

 

1992年6月13日

 

起きるとゴンがカエデにベクターで高い高いされていた。ゴンはご満悦である。それよりも俺はゴンのムスコが感染して他界他界してしまったのではないかと顔を真っ青にしていたが、カエデによるとベクターを自分のオーラで薄く覆うだけでまず感染しなくなるらしい。

ゴンにとっては兄1匹から姉が突然、2.5匹も増えたわけだが、楽しそうで何よりである。ゴンにカエデとシズクの印象を聞いたところ、カエデは力持ちの魔法使いの姉ちゃんで、にゅうはとっても優しい姉ちゃん、シズクはなんでも吸い込む姉ちゃんだそうだ。おいこらシズク、デメちゃん使ってゴンと遊ぶんじゃない。

午後はくじら島の湖に魚釣りに行った。そこのヌシとやらを見る為にシズクが水を全て吸い上げようとしていたのでデメちゃんを取り上げた。なにやっとんじゃおみゃーは。

その後、甘露煮にしようとフナを釣ろうとしていたにゅうだけが、何故か狙ったようにヌシに数度糸を切られてブチギレて出て来たカエデは、湖に飛び込むとヌシをベクターで持ち上げて陸に戻ってきた。おみゃーらやめろっちゅーとるに。

ヌシは甘露煮に適してないのでサイズを測ってから湖に戻した。俺が昔に釣り上げた時よりも30cmぐらい成長していたようだ。放っておくだけでカエデの胸ぐらいじりじり増えるな。

 

最近、何か忘れている気がする。

 

 

 

1992年6月14日

 

そう言えばマコを最近全く見掛けない事に今日気が付いた。いつもなら決まった時間に窓の外の木か、部屋の懸垂器具にぶら下がっているはずだが、帰ってきてから数日間1度も見ていない。

俺よりこの家の古株のマコが棲みかを変えたとは考え難い。まさか、木登りをして獲物をとる事もあるキツネグマにでも獲られたのではないだろうか。

にゅうにちょっとくじら島のキツネグマ絶滅させてくると言って家から出ようとしたらベクターで縛り上げられて止められた。解せぬ。

 

 

 

1992年6月15日

 

明日でハクアが行ってから丁度1ヶ月が経つ。何だかんだで時間には凄まじく正確なハクアの事だから明日帰ってくるのだろう。

そうだ、ハクアが来たら円でマコを探して貰う事にしよう。ターム族は戦闘兵ですら俺より円の範囲があると言っていたので女王のハクアならもっとあるハズだ。もし、死んだのなら死んだで墓ぐらい建ててやりたいしな。明日の為に今日は早く眠る事にする。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー、兄さん」

 

何故かキツネグマの着ぐるみを着たシズクに起こされた。顔だけ出ているタイプの着ぐるみである。楽し気な雰囲気で、着ぐるみまで着ているにも関わらず無表情なのが笑えるが言わぬが華だろう。

 

「それはツッコミ待ちか?」

「村長に貰ったんだよー」

 

そう言えば俺が来た頃、くじら島のキツネグマをマスコットにして村起こしをしようという企画があった事を思い出す。まあ、結果は数年後にこの着ぐるみをシズクが貰っているところからあえて語ることもあるまい。

 

シズクの後について居間に向かう。

 

そう言えば、確かその着ぐるみはシズクの着ている子キツネグマと、大人キツネグマの二種類があったような気が…。

 

「姉さん、兄さん連れてきたよ」

「………………ああ」

 

居間で死んだ目をしながら大人キツネグマの着ぐるみを着ている、いや着せられている感が滲み出ているカエデと目をがあった。こちらも顔だけ出るタイプの着ぐるみである。

 

「一思いに殺してくれ…」

「に、似合ってるよカエデちゃん!」

「ならにゅう代わってくれ…」

「え"…?」

 

にゅうがフォローに入るレベルと言うことは相当にカエデの精神が弱っているのだろう。

 

「がおー!」

「わー!」

 

シズクとゴンは歳がそこそこ近いせいかとても仲が良さそうである。何故か吠えながらゴンを追いかけ回している。

 

娯楽が無い島と思っていたが、案外そうでも無かったようだ。娯楽が無いことよりも歳の近い人が居ない方に問題があったのだろう。今は中々楽しい。

 

「ただいまアナタぁ」

 

そう考えた瞬間に俺の背後から聞き慣れた声か響き、俺が振り向くよりも先に背中に軽めの衝撃が走った。それから甘ったるい蜜のような仄かな香りが鼻孔を擽り、俺の肩に艶やかな髪をした頭が乗る。

 

「うふふ……補給補給ぅ」

「流れるようにオーラを吸い取るんじゃない」

「えぇー」

 

ミトさんとお祖母さんが居なくて良かったなぁ。こんなところ見られたら俺はグーパンじゃ済まない。まあ……。

 

「あ…………あ………あ……あ…あああああ…ああああああ!!!!」

 

目の前で大人キツネグマの着ぐるみ着て吠えるカエデを先にどうにかせねばならない。シズクの吠え方とは雲泥の差である。

 

俺はハクアを背負ったまま家から飛び出し、家の外で一端とまった直後、シズクのあー、姉さん脱いじゃダメーという声が響き、玄関扉を吹き飛ばして白のシャツに赤のミニスカートを履いているカエデが現れる。

 

カエデは俯いたまま暫く進み、直ぐに止まると顔を覆いながら背中にベクターを生やした。

 

「あは……あははは……あはははははは!!!!」

 

更に絞り出されたような叫びと共に練が行われ、カエデの身体とベクターを赤黒いオーラが覆う。カエデに言語が通じそうにない状態になるのは慣れたが、今回は更に酷いらしい。カエデのオーラはこの状態から2回り程大きく膨れ上がると口から言葉を漏らした。

 

「"百手巨人(ヘカトンケイル)"」

 

その直後、カエデの背中の4本のベクターが引っ込められたかと思えば、数え切れない数と十倍以上の長さになったベクターがカエデの背中から飛び出て来る。

 

あまりにも凄まじい数のベクターにより、レースカーテンが掛けられたかのようにカエデの姿が霞むと同時に、波のようにベクターがうねり、俺に打ち寄せられた。要は数え切れない数で凄まじい長さのベクターが俺目掛けて殺到してきている。

 

俺は発のひとつを発動し、念弾を後方に撃ち込むとベクターの波に飲まれる前にその場から消える。

"移動弾(いどうだん)"。この念弾が当たった地点に俺を瞬間移動させる念能力。また、片手で持ち上げた物ならそれだけを瞬間移動させることが可能だ。 4日前にカエデに追い掛けられた時はこれで逃げ切った。まあ、その時のカエデは発を使用していなかったから今度は本気でマズいかもしれない。

 

次の瞬間に俺が居た場所に覆い被さるようにその空間上にあった全てが抉り取られ、ベクターが通り過ぎた跡には草木の1本すら残ってはいない。

 

「うーん、数は100本で、長さは50mぐらいかしらぁ?」

「冷静な分析ありがとな…」

 

未だに背中から俺の首に掴まっているハクアの言葉を信じるのならば、カエデの百手巨人とやらの能力は単純にベクターの本数を4本から100本に、更に長さを5mから50mにする念能力なのだろう。見たところ具現化物やオーラで出来た代物には見えないのと、ディクロニウスのベクターの長さと本数は個人差があるらしいという事から考えるに、ベクターの発生源を劇的に強化する強化系の能力か何かだろうか。

 

ただ、偉く燃費が良いらしくカエデのオーラは全く衰える様子がないどころか、次第に強まり続けている。あんなのにマトモに戦いを挑んだら持って2分が関の山だろうか。

 

何故か俺の方にゆっくりと歩いてくるカエデは足取りは確かだが、その目と流れ出るオーラは殺人鬼や狂人を通り越して、大量破壊兵器か何かに片足突っ込んでいると感じ取れるレベルである。

 

「…大丈夫だモーガス…大丈夫だ……だからソイツをこっちに寄越せ……」

 

移動弾で瞬間移動した距離が300m程、カエデが歩いて来た距離がそろそろ200m程になる。既に百手巨人の射程圏内に入っているであろう。そんな中でカエデはそう言葉を吐いた。

 

どうやらカエデがベクターのシュレッダーに掛けたかったのは俺ではなくハクアだったらしい。そう言えばとカエデの行動を思い返してみると、俺を襲った事はあるが、俺を物理的に傷付けた事はないし、あの発を俺に対して使った事はなかった。

 

つまりアレか、カエデは俺は傷付け無いけどその周りの害虫はシュレッダーに掛けてしまおうという思考をしているのか。俺の経験上、大丈夫と言う自分で言う人間は大概の場合は大丈夫じゃないんだがな。

 

「あらそうだったのねぇ? それならそうと私に言ってくれれば良かったのにぃ…」

 

ハクアは俺の首から手を離すと、俺の前に立つ。カエデはそれに反応してハクアに向かって駆け出し、全てのベクターを横殴りの槍の雨のようにハクアへと向ける。その様子は巨大な剣山の壁が迫ってくる錯覚すら覚えた。

 

「でもアナタじゃそうねぇ…"3秒"ってトコかしらぁ」

 

あっけらかんと言い切るハクアの両腕の鉤爪にオーラが集中する。その集中したオーラの量を俺が測る間も無く、ハクアの発が起動した。

 

「"地獄爪殺法"」

 

右手で左から右へとベクターに対して斜め下から打ち上げるように振るわれた鉤爪は、当然のように"射線"上のカエデのベクターの波を全て凪ぎ払う。

 

その"射線"はカエデの頭上の少し上を通り過ぎて青空へと抜ける。最後に"射線"は偶々漂っていた巻雲に細い線を刻み込み、それ以上は俺の目には観測出来なくなった。

 

いったい何が起こったのか俺とカエデが理解する前に、ハクアは未だにオーラを纏っているもう片方の鉤爪が、カエデの首筋をなぞるように振るわれる。

 

するとカエデの紅い長髪が半ばから落ち、襟に掛からない程度に髪が切り揃えられていた。首は水平についた赤い跡が付いるだけだが、首に隠れてこちらから見えない髪まで切られているようだ。

 

「ほら私のか・ち。そっちの方が可愛く見えるわよぉ?」

 

それだけ言うとハクアは、どんな顔していいかわからない俺をその場に置いて、放心状態のカエデの頭をそっとひと撫でしてからひとりで俺達の住む家へと戻ってしまった。

 

結果だけ言えば、ディクロニウスの女王は、1歩も動いてすらいないタームの女王にたったの2回の攻撃で敗北したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

色々あったが、今日も1日が終わって部屋で寝る時刻になった。俺は部屋に戻って日記を書きながら寝る前にその後の事を思い返していた。

 

家に入ってまずカエデが飛ばした扉を修理していると、ゴンに何をしてきたのかと聞かれたのでカエデの散髪をしてきたと当たり障りの無い事実を伝え、ハクアの事は森の妖精さんなんだと子供心をくすぐっておく。帰って来たハクアの事はミトさんには偶々仲良くなったくじら島の洞窟に隠れ棲んでいる魔獣と説明しておいた。何も嘘は吐いていない。

そう言えばカエデのベクターがバッサリとハクアに斬られたわけであるが、即座に再生するので特に問題ないらしい。オーラの産物に近いモノなのだろうか。しかし、余ほどに自分のベクターの防御面に自信があったらしく、"ウボォーの超破壊拳も無傷で耐えれるのに……"となにやらカエデが自分のベクターを手で撫でながら落ち込んでいた。また出たなウボォー。

 

カエデにハクアの事を俺の念の師だと何気無く伝えると、何故その事を先に言わなかったのかと怒鳴られた。そういや、俺のオーラ食べてハグして来るへんないきものとしか説明してなかったな。"だってお前、話し聞かないじゃん?"というとグーで殴られた。グーで殴られた。家庭内暴力で訴えてやる。

 

「さて……」

 

ペンを置き、日記を閉じてから俺は机の隅に目を向ける。本日のメインイベント開始である。そこに置いてあるのはハクアから俺へのお土産物らしきモノだ。

 

100円均一店に売っている手乗りの鉢植えに植えられたメタリックな芽。同じく手乗りの鉢植えに植えられた香草。3本のペットボトルに入ったそれぞれ色の異なる水。輪ゴムで縛られた稲穂。申し訳程度に置いてある石。

 

そして、"新大陸紀行"とタイトルのある本が2冊とサイン色紙がひとつ。東と表記のある方はなんだか古ぼけているが、西(急増版のため未完)と括弧付けされている方は真新しい。 サイン色紙には"ドン=フ……"後ろの方は達筆過ぎて読めないが、多分この本の著者のサインだろうか。

 

まあ、ここまではハクアのブラックジョークだろう。旅先でついつい買ってしまったいらないモノを押し付けてきたのだろうな。何せ全体的になんか粗末である。本と色紙はそうでもないが俺には価値がないので本棚の漫画の奥にでもしまっておこう。必要な時以外で本は読まないのが俺のポリシーである。よってこの本は何時か読む、そう何時かな。

 

とすればハクアのお土産物は机の横に置かれた方だろう。大きめで容器や念で加工まで施されたそれらを眺める。

 

開けてもいいわよと書かれた御札の貼られた壺。なんか耳を当ててみると偶に"あい"と小さく何かの声が聞こえる気がするがたぶん幻聴だろう。

 

更に御札の貼られた壺だが嫌いな奴に投げ付けなさいと書いてある。偶に何故か蓋が極僅かに開いており、そこから"ぼんやりと光る双眼"がじっと覗いているのを見る気がするが、瞬きすると何もなかったかのように閉じているのできっと幻覚だろう。

 

"殺しても殺しても憎いと思う人にどうぞ"と書いてある付箋の貼られて密封された粉薬5袋。よく見ると粉が蠢いている気がしないでもないが目の錯覚だろう。

 

孵卵器に入ったサツマイモ並に紫色の卵。付いている貼り紙には"コレクター垂涎のヘビの卵"と書かれている。

 

真っ黒で"真ん丸"の種。アボガドの種に似ているが人間の頭部ぐらいはある。貼り紙には修行に便利な植物兵器とある。

 

だが、これらよりも先にどうにかしなければならないモノは俺のベッドの脇に立て掛けられた棺桶だろう。デカい上に明けてとばかりの存在感だけなら未だしも時より揺れ、ついでにくぐもった声も聞こえてくる。トドメに貼り紙には"コウモリのキメラアント"と書いてある。

 

この中に入っているモノはコウモリな上に合成獣でアリらしい。意味わからん。

 

「はぁ……」

 

溜め息を吐きながら俺は棺桶に掛かっている鍵に手を掛ける。そして鍵を開けると勢い良く扉を開いた。

 

ぽすっと小さな衝撃が俺に伝わる。見れば何故か猿轡を噛まされ、全身を縄で縛られた女性が倒れてきたのだ。服装は赤地に黒の線の虎柄の肩紐のワンピース、目には赤地に黒い線の入った目隠しが付けられている。

 

取り敢えずこんな光景をカエデに見られれば俺は血の海を渡ったり、ヨットの上で首だけになったりするかも知れないので彼女を抱え上げる。彼女の重量が恐ろく軽い事に面食らいながらも俺のベッドに下ろし、猿轡と縄を解いた。

 

すると彼女はベッドにへたり込むような姿勢で暫く息を整えている。その姿は細身の身体に黒灰色の肌、少しだけ紫を帯びた銀髪、そして何よりも象徴である掌の骨が発達して形成している翼手がコウモリであることを知らしめている。エッロいなコウモリのキメラアント。

 

その邪な一瞬の考えを汲んだのか、偶々か。コウモリさんは立ち上がる。何故かその顔は赤く、服と配色が同じなのでファッションだと思われる目隠しが無ければ親の仇のような目で睨まれている事だろう。

 

「こんのッ…」

 

そして、コウモリさんは翼を翻し、部屋の中で低く飛び上がると態勢をその場で整え、強く1度羽ばたいた反動で弾丸のように飛び出す。

 

「バ飼い主ィ!」

 

硬で強化した独楽の先のように鋭く尖った脚先がほぼノーガードの俺の額を蹴り抜く。何故か俺はこの攻撃を甘んじて受けねばならない気がしたので、彼女の硬の半分程の量のオーラだけ残してもろに受けた。

 

脳を大きく揺さぶられ、ぐらりと身体が傾く。それと同時に徐々に視界の隅から白く染まっていき、この感覚は久し振りだなと感じながらもそれが訪れる前にコウモリさんと棺桶を何気無く見ていると、床にある謎の染みを見つけた。いったい棺桶の中が発生源だと思われるあの床の染みは何故出来たのだろうか。

 

バ飼い主というのはどうやら俺の事であり、コウモリさんが顔を羞恥に染めて怒りに震えている原因も俺なのだろう。となるとハクアがこの棺桶をここに置いた正午前の時刻と、今の0時過ぎの時刻、それからこのコウモリさんが顔を真っ赤にしている訳を顧みる。要するにコウモリさんは12時間以上この棺桶に閉じ込められていたわけだ。染み、液体、時間、羞恥。

 

ああ、成る程……それは悪い事をしたなぁ…。

 

俺は納得したが、まずコウモリさんに言わなくてはならない事がある。家に帰ってきたらまず言われなければならないのだ。

 

話は変わるがオーラとは個々によって微かに異なるモノ。それは精孔が開いていなくとも微かに漂うオーラですら特徴が俺には見て取れる。流石に数度会っただけのモノや、出会って数日のモノは相当特徴的な場合以外はまだ区別はつかないが、それでも家族のオーラを忘れるほど俺は落ちぶれてはいない。

 

例え何者であろうと、人類の癌であろうと、変わり果てた姿になろうとも家族は家族。故に全てを受け入れる。

 

「お帰り……"マコ"…」

 

願わくばこれが最後の言葉にならない事を祈り、カエデが俺に強く当たった後によくしているやってしまったといった表情に変わったマコと、今はマコのワンピースの胸元に付いている俺が脚に結んだのと同じ"小さなリボン"を見ながら意識を手放した。

 




少し先の未来でハクアのお土産物の真実に気付いた後のモーガスさんの釈明かつ開き直り。

「どんな希望も危険もそれを認知していなければ等しくゴミなのだ」




ちなみにマコちゃんの服はハクアさんの手編みです。

それと感想でエルフェンリートなのにおも○しが足りないと言われた気がする(曲解)のでさっそくマコちゃんに犠牲になって貰いました(虚ろ目)。

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