女王蟻と放出系と女王蜂   作:ちゅーに菌

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5話以上で2話同時に投稿したのなんていったい、いつ以来だろうか…(クソ作者の鏡)。


ロマンシング・GI ①ルビキュータ ハクア

広大な平原に佇むシソの木と呼ばれる奇抜な監視塔のような建造物。その建物の出口……正確にはグリードアイランドの入り口に3人の女性が立っていた。

 

「おー」

 

一人目は驚くべき感動詞のレパートリーの少なさで今の気持ちを語るシズク。無表情と相まって全く何を考えているか掴めない。

 

「なんで私まで……」

 

二人目は翼と両耳が項垂れているコウモリのキメラアントのマコ。無理矢理連れてこられた感満載である。

 

「うーん…ヨークシンの少し東にある島辺りかしらぁ? ゲームの中の世界ではないのねぇ…」

 

三人目は何故かグリードアイランドに入った瞬間から目の輝きが若干衰えているハクア。何かが思っていた事と大きく違った事に気付いたらしい。

 

「というかいきなり見られてるわね…最悪」

「あっちとあっちからだね」

 

ぶつぶつ独り言を言っているハクアを放置して、マコは顔をしかめ、シズクはふたつの方角を指差した。

 

監視する視線は、気配の消し方すら知らないような念の基礎すら成っていない幼稚なモノだが、平原のみが広がる光景の中には人影は何もない。故に彼女らが視認出来ないような距離から監視されているのだろう。

 

「まっ、いいでしょ。あんなのいつでも殺せるわよ」

「そうだね」

 

二人は気にしないと言う事を決定し、ハクアへと顔を向けた。すると視線に気付いていたハクアは眉を潜めており、言葉を呟いた。

 

「"凝視"」

 

ハクアの目が煌めいた直後、こちらを監視していた全ての視線が初めから存在していなかったかのように消える。

 

「今何をしたの…?」

「お・し・お・き」

 

顔が引きつっているマコにそれだけ言うと、ハクアはシソの木から南の方向へと歩き出し、シズクとマコはそれを追った。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「ここはルビキュータの街だよ」

「私が町長ですぅ」

 

ハクアはゲームキャラクターのように同じ言葉しか話さないNPCにご満悦のようである。自身も妙な事を口走りながら街の入り口にたっているNPCに話し掛け続けているのを、シズクとマコは何とも言えない様子で眺めていた。GIのプレイヤーらは、青い異形の女性が行っている謎の言動と、その近くでコウモリに似た女性型の生物によって、イベントか何かが発生したのかと足を止める者も続出したが、二人がプレイヤーの証である指輪を填めている事に気が付き、微妙な顔で立ち去っていく光景が繰り広げられる。

 

暫くして満足した様子のハクアは、ふたりを連れて街の中央広場に移動した。

 

「さてまずはお金と情報集めからねぇ」

「お金なら結構持ってるよ?」

「良いシズクちゃん? こういうゲームに外のお金は持ち込めず、ゲーム内で独自の通貨が使われているモノなのよぉ。"三顧の礼(ブラックワーク)"」

 

発を使ったハクアの手に記入用紙とペンが現れ、"グリードアイランド"、"男"、"人間"と記入をし終えるとペンをへし折った。すると記入用紙が瞬間移動し、代わりに特筆すべき事は何もない男性の念能力者が首根っこを掴まれていた。

 

ちなみにこう見えてもハクアは、ゲーマーのモーガスの影響で結構なゲーマーと化している。万年単位で暇をもて余しているハクアにとってゲームは、暇潰しとして優秀な娯楽らしい。ちなみにモーガスは太く長くゲームをやる派で、ハクアも同様である。どうあっても女王蟻らしく基本的に巣に引き籠っているのは変わらないらしい。

 

故にこのグリードアイランドにもやたら乗り気なのだろう。正しく本気でゲーム感覚で来ている為、他のプレイヤーからすれば堪ったものではない。

 

「うふふ、"有り金とバインダーの中身ぜーんぶ置いていきなさぁい"」

「盗賊じゃねーか…」

「マコちゃんそれは偏見だよ、姉さんのいる幻影旅団は仕事も方法も選ぶよ」

 

シズクは要はハクアは旅団以下のゲスだと言いたいらしい。しかし、シズクもマコも止める気は更々無い。いや、止められる訳もない。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

ハクアのフリーポケットに1万Jが20枚なので、20万Jのグリードアイランド内通貨が収まっている。

 

しかし、ハズレを引いたのか指定ポケットカードは1枚も持っておらず、呪文(スペル)カードと言われるモノも、指定した番号のカードの説明を見ることができる(No.000は除く)解析(アナシリス)が11枚、対象アイテムのカードを所有している人数とカードの合計枚数を知ることができる名簿(リスト)が3枚、ランダムに何かのアイテムカードに変身する宝籤(ロトリー)が4枚。

 

アナシリスの名前の隣に書いてある文字はG-400、つまりはランクGで、カード化限度枚数は400枚という意味だ。リストはG-350。ロトリーはG-350。ちなみにランクはSS~Hまでの10段階、カード化限度枚数はランクが高いと少なくなり、ランクが低いと多くなる。要するにこれらのスペルカードはいらない物を引き受けたような有り様だ。効果を見る限りでも使わなかった結果の余り物だろう。

 

ちなみにスペルカードとは、グリードアイランドをプレイするには必要不可欠のものらしい。呪文には主に攻撃型、防御型、移動型、調査型などの4種類の効果を持つものがあり、全部で40種。人を負傷させるようなスペルカードは無いそうだ。尚、スペルカードは魔法都市マサドラで1万Jで3枚入りの袋が買える。全てこの男から仕入れた情報である。

 

「た、頼む……そ、それだけは止めてくれ! これが俺の唯一の希望なんだ!」

「あらあらぁ?」

 

とは言え、どんな者にも1つぐらいは取り柄があるもの。この男にもあったらしい。まあ、今はハクアのバインダーに収まっているが。

 

徴収(レヴィ) B-25

周囲(半径20m)のプレイヤー全員から1枚ずつランダムにカードを奪う。

 

ランクBの攻撃スペルカードである。恐らくは心の拠り所というよりも使うタイミングが無さ過ぎただけだろう。底辺のプレイヤーでは初級者以上になったプレイヤーに使っても直ぐにカードを奪い返されてしまう。

 

ただ、こうやってカードを差し出してもらう事が可能なハクアとしては、攻撃スペルは微妙なところか。

 

「ちょっとジャンプしてみなさいなぁ」

「へ…?」

「2度も言わせないのよぉ」

「ヒィィィィィ!!?」

 

古風な不良のような事を言いつつ、ほぼ絶状態から0.1mm程オーラで身体を覆ってハクアが威圧すると、男は叫び声を上げつつ滑稽なまでに垂直にぴょんぴょん跳び跳ねる。するとハクアは何かの音に気付いたのか、男の懐に手を入れて引き抜いた。

 

「グリードアイランドの地図ねぇ」

 

衣類と紙の擦れる音から気付いたらしい。街や地名などが最初から細かく記載されている地図である。お得情報満載。街の店などで65万ジェニーで売られており、D-70とまあまあな価値のあるカードと言えるだろう。ハクアにとってはジェニー以上の収穫である。

 

「ああ……ああ………」

 

正真正銘全てを失った男は地面にへたり込み、真っ白に燃え尽きたかように項垂れる。そして、終わった、もうだめだ、ゲームから出られない等といった言葉が呪詛のように紡がれる。

 

「ゲームから出られない?」

 

ハクアがその中のひとつの単語に反応した。それは彼女にとっても関係があるらしい。

 

「お昼には帰らなきゃいけないのにね」

「当たり前よ。今日も山の麓で伸びてる飼主を拾って来ないといけないもの。後、昼ご飯」

 

ハクア含めてシズクとマコも観光半分程度で来たらしい。他のプレイヤーが聞いたら嘲笑されるか、哀れまれるかのどちらかだろう。ハクアは屈んで男の肩に手を置くと口を開いた。

 

「グリードアイランドの外にある自分の家を思い浮かべなさい。それか親しい友人や家族でも構わないわぁ」

「え…?」

「思い浮かべなさい」

「は、はい!?」

 

男は地べたで目を閉じた。外の事を思い浮かべ、今の現状と暖かい思い出を感じているのか、男の目蓋にうっすらと涙が浮かぶ。それを確認したハクアは口を開いた。

 

「"家路(ノスタルジア)"」

 

次の瞬間、男を中心とした地面に小さな魔法陣のようなものが現れ、淡く優しげな光が男を包み込んだ。光りが晴れると男の姿は既に無い。

 

「なんだぁ、帰れるじゃない。驚かせないでよぉ」

「何したの?」

「家に帰してやったわぁ、私達もこれで帰るのよぉ」

「じゃあ、そろそろお昼だし一端帰ろうか?」

「そうねぇ、二人とも目を瞑って今の家を思い浮かべなさい」

 

さっきと同様に目蓋を閉じているシズクとマコの両肩に触れると、直ぐに二人の姿が消え、その場にはハクアだけが残る。

 

「さーて、この街では何のカードが取れるのかしらぁ?」

 

ちなみにハクアは生物として完成し過ぎているので、生命活動としての食事と睡眠が必要ないので、彼の顔を見たくなった時に帰るだけで十分なのだ。

 

ある意味、さっきカモにされた男は凄まじく幸運だったのかもしれない。ちなみにハクアがこの能力を作った経緯は、行きは良いが、帰りが面倒なので帰りの時間を短縮する為に作った念能力である。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

現在この街のプレイヤーはとある話題で騒然としている。なんでも駆け出しの街であるこのルビキュータの街と、その反対側に位置するアントキバの街で、新参プレイヤーを監視する為に駐留していた自称中級プレイヤー数名が、生きたまま石化する事件が発生したという。

 

生きたままというのは、石像がゲームから離脱されないからだ。無論、ブックと言えるわけもないため、バインダーは開けず終いなのでバインダーの中のカードを移動させる事すら叶わないという始末。

 

更に石化した全員が、シソの木が見える位置で監視していた者であったため、視認した瞬間に見ていた対象を石化させる念能力が発動するタイプの念能力者が来たのではという噂だ。

 

ちなみにそれを聞いたハクアは"凝視ぐらい見切ってないのが悪いのよぉ"と何やら言い訳を呟いていたが、その意味がわかる者はハクア以外には存在しなかった。

 

「んー…」

 

そして現在、このルビキュータの街で1枚のAランクの指定ポケットカードをさらっと手に入れたハクアは、街の外れの公園に設置されたベンチに座り、バインダーを見ながら渋い顔で唸っていた。

 

トラエモン A-22

絶滅寸前の猛獣。腹の袋に色々なものを詰め込む習性がある。貴重なアイテムが始めから入っている場合も少なくない。

 

中々のレアカードである。しかし、ハクアの表情の理由はどうやらトラエモンの名前と絵柄にあるらしい。

 

「これってどう考えてもドラえも…」

「トラエモンを寄越せ、そうすれば命だけはとらねぇ」

 

呟きが遮られた事でハクアはバインダーから顔を上げる。いつの間にかハクアの座るベンチの周囲10m程の距離で、11人の男女のプレイヤーが囲んでいた。その中のリーダー格の男の発言らしい。その男は筋肉質で腕っぷしの強そうな見た目をしており、如何にも荒くれ者と言った風貌である。

 

「そろそろシズクちゃんとマコちゃん戻って来る頃かしらぁ…」

「おい、聞いているのか?」

 

ハクアは目すら向けずに小さく溜め息を吐く。人間の中堅念能力者にすら及ばないオーラだが、この街ですれ違った念能力者の中では一番マシな部類ではある。とは言っても彼と比べれば1万人居ようとも比較にすらならないだろう。

 

ハクアは少しグリードアイランドの敷居の低さに落胆の色を強めたが、練をするだけでゲームプレイが可能な為、真っ当に進めれば念能力の応用を知らない念能力初心者を育成する為のゲームなのかもしれないと好意的な解釈で思考を閉じる。そして、寛大な心でハクアは胸の内を語る事にした。

 

「折角、人間…それも彼の知り合いの作ったゲームなんだから、極力人間に沿ったルールと方法で楽しみたいのよぉ。だからここ(グリードアイランド)では私に何もしない限り、私は命を取るような真似はしないわぁ」

 

そう言ってハクアは手で小さく何度も押し返しながら、羽虫でも払うかのようにシッシッと声を出す。気に入らない上、目障りで耳障りな相手に対するハクアの対応としては、これを七英雄にでも見せれば目を大きく見開いて暫く固まる程、他人への思い遣りと優しさに満ち溢れた発言である。

 

「ッ! 舐めやがって!」

 

しかし、ハクアの最大限の努力を11人のプレイヤーは踏み倒した。リーダー格の男の手に拳程の念弾が、ハクアにとって欠伸が出るような時間を掛けて形成されて放たれる。しかし、些末な念弾は、ほぼ絶状態のハクアにデコピンで弾かれて爆散した。余ほどにその念弾に自身があったらしいリーダー格の男は驚愕の表情を浮かべ、周囲の10人も同様のようだ。

ここで使ったのが、よりにもよってハクアの言う彼が、戦闘において絶大な信頼を置く念弾ではなく、念能力や単純に他の方法で攻めてきたのならハクアはもう1度か2度ぐらいは、警告をしていた筈だった。しかし、余りにもお粗末な念弾を見たハクアの頭の中で何かが千切れる。

 

明確な感情の揺れに片手を震わせているハクアに対し、リーダー格の男はバインダーからスペルカードを取り出して掲げた。

窃盗(シーフ)使用(オン)! ハクア!」

「"ミサイルガード"」

 

そう呟いた瞬間、ハクアの周囲をシャボン玉のように透明の膜のようなものが覆う。それに遅れてシーフが殺到した。

 

盗れると初めから確信している11人のプレイヤーらは既に盗る事に成功したかのような表情を浮かべている。しかし、透明の膜に触れた瞬間、窃盗の攻撃そのものが霧散した事で、彼らは鳩が豆鉄砲を喰らったかのように唖然とした表情へと変わった。

 

それとは逆にハクアは能面のように全くの無表情になっている。いつもは誰よりもニコニコしている為に知り合いが見れば、夢に出るような光景だろう。

 

ハクアは誰にでもなく語るように言葉を吐いた。

 

「ハクアっていう名前はねぇ。まだ私が孵化し立てのただの大きな白蟻だった頃に彼が付けてくれた名前なのよぉ。まあ、私は同化の法の延長線で卵になってただけなんだけどぉ…」

 

その直後、ハクアの表情が完全な侮蔑へと変わり、体表面を1cm程オーラが包み込む。

 

「塵に等しい下賎の者共が、吐いていい名ではない」

そして、ここに来てハクアは明確な殺意をぶつける。オーラに乗せた殺意でも何でもなく、ただ純粋な感情の起伏による殺意である。

 

「あ、同行(アカンパニー)オン! マサド……」

「あらぁ? 話の途中で何処に行こうというのかしらぁ?」

 

素の表情に戻ったハクアの手には、リーダー格の男が発動しようとしていた移動スペルであるアカンパニーのスペルカードが握られていた。11人は何か念能力で取ったのかと考えたが、実際には視認できない速度で動いて掴み取っただけである。

 

「それとも私の話を耳にするのが、身に余ると思っての行動かしらぁ? だったら塵にも踏み躙られる悦びを教授てあげなきゃねぇ」

 

ハクアの手に何処にでもあるような簡素で白いリモコンが出現した。

 

「"敬虔な蜜蟻(ミニチュアアント)"」

 

その言葉の直後、11人の周りを覆うように数百匹の子猫程の大きさの白蟻が、取り囲んでいた。一人頭、数十匹が狙いを定めている計算になる。

 

「な……なんだこりゃ!?」

 

男がそう叫んだ後、11人に一斉に白蟻の群れが飛び掛かる。最初の何匹かは対処出来たようだが、雪崩れのように襲い来る白蟻を全て対処出来る筈もなく、瞬く間に白蟻の群れに呑まれる。

 

暫くすると白蟻は一斉に消滅し、殆ど無傷の11人がそこにいた。しかし、全員の肩、胸、腰等様々な箇所に一人につき、1匹づつ白蟻が張り付いている。張り付いた白蟻の手足は身体に一体化しており、自力で外す事はまず不可能だろう。また、白蟻の尻の部分が透けて液状のハクアのオーラが中に入っているのが確認出来る。

 

「その念獣は作製の時に込めたオーラの量に比例して爆発力と、起爆までのカウントが伸びるのよぉ」

 

見れば全てのミニチュアアントの尻には、ストップウォッチのように00:00:00:09と模様のような数字が刻まれている。

 

「起爆時間は込めたオーラ量に比例した初期設定の時間以下には設定出来ないけど、それ以上には設定可能なのぉ。今のままだと0.09秒で爆発しちゃうからぁ、今回はそうねぇ。300秒でいいかしらぁ」

 

そう言うとミニチュアアントの尻の文字が00:00:00:09から00:05:00:00へと変わった。

 

「解除方法だけど、このリモコンのボタンを私以外の誰かが押せば念獣は一斉に消滅するわぁ」

 

説明を終えた瞬間、11人に付いているミニチュアアントのカウントダウンが開始され、時計の秒針を強く鳴らすような音が響き、11人はそれに狼狽する。

 

「この念獣の弱点を説明することが、カウントダウンのトリガーになっているのぉ。このままだと全員5分の命ねぇ」

「な、何が望みだ…」

 

リーダー格の男が呟くと、ハクアはにんまりと笑顔を浮かべて言葉を投げ付けた。

 

「まず、持っているスペルカード全て、それから全指定ポケットカードを破棄するのよぉ」

「ふ、ふざけるな! そ…」

「BANG!」

 

一時の感情を表に出そうとしたリーダー格の男の次の言葉が吐かれる前に、ハクアは手元のリモコンでエアコンの温度を変えるような軽い動作を行いながら擬音を口にする。

 

するとリーダー格の男の右脇腹に付いていたミニチュアアントのカウントが一気に00:00.00まで落ちる。それに従い、リーダー格の男の全身が跡形もなく吹き飛び、名実共に塵と化した。その光景に残りの10人は絶句している。

 

「んー? 何か言ったかしらぁ? 生憎、塵との会話手段なーんて持ってないし、持ちたいとも思わないわぁ。人間に戻ってからもう一度言いなさいなぁ。ちなみにカウントを終えた敬虔な蜜蟻は今の10倍の爆発力があるわよぉ」

 

その言葉にリーダーが爆破されたのを見て顔が真っ青になっていた残りの10人は、真っ青を通り越して真っ白になっていた。

 

「ほらぁ、250秒切ったわよぉ。捨てればとりあえずカウントは停止してあげるわぁ」

 

10人に行動選択の権利などあろう筈もなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「はーい、良く出来ましたぁ。じゃあ、カウントを一時停止するわよぉ」

 

ハクアは10人がカードを破棄するのを見届けてからリモコンを操作すると、一斉にカウンターが止まる。それからカードを捨てている最中に書いていた紙を、10人に向けて適当に投げ渡した。

 

そこに書いてある内容はこうである。

 

 

~10ヶ条~

①ひとりでもグリードアイランドから出たら起爆する。

②私の呼び出しにひとりでも応じなかったら起爆する。

③私のお願いを拒否したら起爆する。

④簡単なお使いを全う出来なかったら起爆する。

⑤指定ポケットにカードが入っていたら起爆する。

⑥無理は嘘つきの言葉なので似たような言葉を吐いたら起爆する。

⑦私の気分を害したら起爆する。

⑧指定額のジェニーを1週間以内に献上出来なければ起爆する。

⑨会ったら挨拶しないと起爆する。

⑩1日3枚宝籤を献上しないと起爆するかも。

 

「ま、待ってくれ! 指定ポケットにカードが入っていたら起爆されるんじゃ俺たちゲームすら出来なくな」

「BANG!」

 

ハクアの似ていない擬音と共に、 人体が粉々に吹っ飛ぶ爆発が起こる。これで10人から9人に減った。

 

「私の貯金箱になれる光栄を蹴るなんて照れ屋さんねぇもう」

 

ハクアは笑顔を崩さずそんな冗談を言い終えると、急激に表情が消え、底冷えするような声色で呟いた。

 

「それで他に異論はあるかしらぁ? 大丈夫よぉ、私がゲームクリアすれば敬虔な蜜蟻は解除してあげるからぁ、精々頑張ってねぇ」

 

誰一人として口を開ける筈もなかった。そして、逸脱した恐怖に股を濡らしている一人の女性が悲鳴を上げながら逃げると、蜘蛛の子を散らすように9人はバラバラに消えていった。

 

「ふぅ……余計なオーラ使っちゃったわねぇ」

 

ひとりに戻った事でハクアは溜め息を吐く。そして、とある方向に目を向けると更に口を開いた。

 

「ねぇ? ずっと見ていたアナタもそう思わないかしらぁ?」

 

その言葉で30m程の距離に生える木の裏で絶が乱れる。木の裏に隠れていた人物は観念したのか、絶を止めてハクアの目の前に現れる。

 

「いつから気付いていた…?」

 

それは金髪にサングラスのような形状の眼鏡を掛けた男だった。十字の模様があしらわれた白のコートを纏い、青いスカーフを着けている。

 

「アナタが怒り心頭な様子で公園の前の道で石を蹴って、公園を横切ろうとした時からよぉ」

「俺が気付くより前かよ…」

 

ハクアは男を値踏みするような目で眺めると、感心した或いは良いモノを見付けたといった様子に変わる。

 

「才能はかなりある方ねぇ。絶も悪くなかったし、オーラ量も及第点ぐらいはあるわぁ。それ以上に具現化系なのに戦闘特化の念能力なんて素敵じゃない。イ・ビ・ツで」

「な…!?」

 

念能力すら見せずに系統を言い当てた事に男は目を見開く。しかし、一先ずはその場で殺されるような事は無いとハクアの様子から読み取った男は内心胸を撫で下ろしていた。

 

「見てたならわかると思うけどぉ、私とーっても強いでしょう?」

「……………ああ…」

 

能力を見せたのみで、纏すらマトモにしていないにも関わらず、少なくとも一部始終を見ていた男には絶対に勝てないと思わせる程には格上である事は明白だろう。

 

「でもグリードアイランド(このゲーム)は強さだけでプレイするとつまんないし、"ゲームを楽しむ"って趣旨から外れるのよねぇ。だからプレイヤーから奪ったりは極力無し。非効率的で地道なプレイをしたいのよぉ。でもフリーポケットカードの45枚の制限と、島から出ちゃうと消えちゃう制限でそういうプレイはひとりじゃ難しいと思うのぉ。連れは二人いるけど彼女達は1日に何度か島から出るから結局は、カードを一時的に持ってくれる人は必要不可欠だしぃ。まあ、私が提供出来るのは"絶対的な報復力"、"無敵のバインダー"、最後に時間は掛かるけど"ゲームクリアまでのフリーパス"ってところかしらぁ? まだここに来て1日だけどぉ、私がクリア出来ない程のクソゲーなわけないしぃ」

「要するに…?」

「アナタの指定ポケットカードに100枚カードを集めた上で、ゲームクリアさせてあげるから私のフリーポケットになりなさいなぁ」

 

それを聞いた男は眼鏡の奥の瞳を丸くしている。何せハクアはさっきの奴らのように男も容易く捻り潰せてしまうであろう別次元の念能力者なのだから。

 

「クリアさせてやるから仲間になれって事か…?」

「あらぁ? 不満?」

「…………ひとつ聞きたい、お前はバッテラからの依頼でここに来たのか…?」

「誰それ? なんだかお菓子みたいな名前ねぇ、家のジョイステからよぉ」

 

それを聞いた男は一瞬、会心の笑みを浮かべたようにハクアには見えたが、直ぐに表情を戻した。

 

「ならこっちにもひとつ条件がある」

「へぇ? 何かしらぁ?」

 

男は冷や汗を隠しきれていないが、危ない橋を渡るような感覚なのだろう。無理もない。しかし、心を決めたのか真っ直ぐにハクアへと言葉を返す。

 

「何かあっても俺の連れの安全は保証してくれ。もし殺すなら俺だけでいいだろう?」

「…………顔に似合わず殊勝ねぇアナタ。まあ、いいわぁ。アナタの友達は何があっても絶対に殺さない。これで交渉成立ねぇ、改めて自己紹介。私はハクア。アナタはだぁれ?」

 

男は身なりを整え、額の汗を拭き、眼鏡を直してから口を開いた。

 

「"ゲンスルー"だ」

 

こうしてハクアはグリードアイランドでそこそこ使える荷物持ちを手に入れたのだった。

 

 




ちなみにこのロマンシング・GI編は、本編であまり役割のがないシズクとマコに役割を持たせる為のモノでもあります。んんww役割が持てますぞwww

~ハクアの念能力コーナー~
家路(ノスタルジア)
自宅や親しい人のところへ自身か、触れた対象を瞬間移動させる帰宅用念能力。帰路限定でしか使えず、発動まで行程がある為、戦闘用の念能力ではない。
制約
①帰り道でしか使用出来ない。
②目を瞑っていなければ発動出来ない。
③帰りたい場所を強く思い浮かべていなければ発動しない。
④オーラを消費するのは家路に就く者。
⑤家路の発動オーラ足りない場合は、家路に就く者から全てのオーラを消費させた上で家路の発動者が残りを肩代わりする。

敬虔な蜜蟻(ミニチュアアント)
爆発する蟻の念獣と、リモコンのセットの念能力。作製時に込めたオーラの量に比例して爆発力とカウントが伸びる。目標に辿り着くまでは比較的簡単に破壊可能で倒しても爆発しないが、1度張り付くと硬化し、爆破するまで一切攻撃を受け付けなくなる。また、リモコンでカウントを待たずに起爆する事も可能であるが、爆発力は10分の1に落ちる。
制約
①ひとつのリモコンにつき1000体まで操作可能。
③張り付ける最大数は生物ならば1体まで。
④込めたオーラ量が多ければ多い程に爆発力が上がるが、比例して起爆時間も増える。
⑤起爆時間は込めたオーラ量に比例した時間以下には設定出来ないが、以上には設定可能。
⑥カウントダウンをスタートさせるには敬虔な蜜蟻の消滅条件を説明しなければならない。
⑦リモコンのボタンを他人が押すと念獣とリモコンは消滅する。

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