居酒屋で愚痴を聞くだけの簡単なお仕事です   作:黒ウサギ

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ちょっぴり後半シリアスかも


第18話

でででデートちゃうわ!

待ち合わせに一時間早く着いてしまいました。緊張とかしてないし。ドキドキなんてしてないし!

ごめんなさい見栄張りました。周子ちゃん見たいな可愛い子とお出かけなんて心音半端ないっす。刻むぞ魂のビート‼︎

まぁ実際問題そこまで緊張はしてないのよ。女の子とお出かけの時点で少しテンション上がるけど、所詮はただのお出かけよ。だからこの足の震えは武者震いです。

 

「わーお、神楽さん早いねー」

 

「待ち合わせには一時間早く着いて待つのが男の仕事です。」

 

「うん、思いが重い。」

 

解せぬ。

本日は観光というなのショッピング。取り敢えず時間は昼時。ご飯食べに行こう

 

「うん、お腹空いたしいいねー。それじゃ、はい。」

 

はい。って手を差し出されました

握れと、握れと申すか‼︎

 

「待って、全力出して手を洗ってくるから。」

 

「大袈裟すぎるねー。ほら、はい。」

 

ギュっと握られました。女の子の手、柔らかいなりぃ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちひろさん、神楽に春が来ました。見てくださいあの緩み切った笑顔‼︎」

 

「本当ですねー、いい笑顔しちゃってもー!」

 

お前ら仕事しろ。アイドル達の心境が一致した。

現在彼らがいる場所は346プロ内部。あきえもん特製の監視カメラを散布し、空中から映像をスクリーンに映している。あきえもんまじドラえ⚪︎ん。

 

「いやでも、塩見さん凄いね。一ヶ月でいきなりデートに持ち込むとは…」

 

「大学生の神楽さんを知ってる身としては、あり得ない光景を見てる感じですね…」

 

神楽さん、大学時代に何があったんですか…?

またもやアイドル達の心境が一致した。

 

「でも惜しいなぁ、アイドルになれる逸材だと思うんだけど…。」

 

「これ以上担当アイドル増えたら確実に倒れますよ?健康第一、ドリンクを飲んで日々過ごしましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心なしかPの財布が軽くなった気配を感じた。

そして現在進行形で俺の財布も軽くなっています。

 

「追加でみたらし3本と抹茶パフェお願いしまーす」

 

ブラックホール周子(胃袋)

何処にその量が入ってるんですかねぇ。

オススメの甘味処を雑誌で見かけ、行ってみたかったという彼女の弁に従い入店してみたんですけど。値段ぱないっす。

 

「女の子の胃袋はね…、甘い物は別腹なんだよ…」

 

実感しました。

体感しました。

 

「ふー満足、ご馳走様でしたっと」

 

「お粗末様でしたっと。次は何処か行きたい場所ある?」

 

「んーとねー、カラオケ行きたいんだよねー」

 

観光とは何だったのか。しかし本日の主役は周子ちゃんなので異を唱えることはありません。

 

「それでは行きましょうかお嬢さん。お手を失礼。」

 

「お、おーう。神楽さん手慣れてるねぇ」

 

手慣れてないんですけどね。なんてボヤいて周子ちゃんの手を取り歩き出す。エスコートは男の仕事、いい思い出が残せるかどうかも男の仕事で決まるんですよっと。

 

「やーどうしよう。顔真っ赤だわ」

 

出来れば聞こえない声量でお願いしたい。聞こえたこっちも顔真っ赤になるわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「甘ーい‼︎‼︎」」」

 

仕事放り出して何見てんだよと思ったけど、珍しく素晴らしいものを確認出来たので良しとする。

まさか神楽さんからこんな言葉が出て来るなんて思わなかった。いやでも、加蓮と奈緒に対する行動から意外とキザな面もあったのかもしれないし…。

渋谷凛15歳、初恋真っ最中につき悶々としながら映像を見てます。

 

「いやー今夜もいい酒が飲めそうですね‼︎神楽の店で!」

 

「ですねー、いい感じにからかえば顔真っ赤にしてくれますよ、きっと!」

 

神楽さんのお店か…。行きたいけど時間帯的に未成年入りづらいんだよね。かと言って家族で行くのも恥ずかしいし…、今度留美さんとかと行ってみようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんと驚く事に神楽さんの歌唱力がビックリするくらいに上手だった。精密採点で99点とかもうプロでもいいんじゃないかなと思う。

 

「やっぱ神楽さん歌上手ですねー。今度ボイトレの指導でも頼んでみましょうかね」

 

辞めて欲しい。ちっぽけながら存在する杏のプライドが粉々になりそうだ。

これで私の歌でも歌われてみろ、死にたくなるぞ…

 

『メデメデメデー!』

 

「杏ちゃんの呼吸が止まってるにぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やービックリ神楽さんもうプロでいいんじゃないかなー」

 

前も誰かに言われた気がするなぁ、その言葉。

でも残念、今は居酒屋の店主が一番です。

夕日が沈む。イルミネーションが鮮やかに煌き、その光が周子ちゃんを照らす。

 

「やーまんぞく。久し振りに休日満喫したよー」

 

ならこちらとしても嬉しい。今日はなんというか友達と遊びに行く場所しか回ってない、飽きられてたらどうしようなんて考えてたりした。

色とりどりの光に照らされている彼女の顔は、とても楽しそうに笑っている。

 

「いやーいやー楽しいねー。こんな毎日が続けばいいのにねー」

 

「本当にねー…。それで、周子ちゃん。なんか言いたいこと有るんでしょ?」

 

「おおう、何故ばれたー。」

 

顔を見ればなんとなく。そう伝えると自分の顔をムニムニといじり始めた。可愛い(確信)

なんて、浮かれてる場合じゃない。これからの会話は彼女にとって人生に関わる事なのだ。

 

「この前のPの話でしょ?」

 

 

 

 

 

 

「ちょっとプロデューサー、表でようか」

 

「うふふ、プロデューサーさん。彼女にナニをしたんですかぁ…」

 

神楽の言葉で事務所がやばい

 

 

 

 

 

 

「アイドル、やってみたいんでしょ?」

 

風が強く吹いた。周子ちゃんの顔はよくわかったねと言わんばかりに驚きで固まっている。

Pが周子ちゃんにアイドルの話を持ちかけてから、周子ちゃんはよくテレビで346のアイドルを見ていた。その姿を二週間近く見て来たのだ、なんとなく察することは出来た。

 

「うん。プロデューサーさえよければ、今度オーディション受けてみようかなって」

 

彼女だって、女の子。女の子はいつだってアイドルに憧れる。例え幾つでも。

そんな彼女を俺は

 

「うん、頑張れ。周子ちゃんならきっと直ぐに有名になれるよ」

 

笑顔で送り出すことにした。

応援することにした。

 

「そっかー周子ちゃん、アイドルになるのかー。寂しくなるなー」

 

「おーう、引き留めたりはしないのねー。周子ちょっとしょんぼり」

 

「引き留めないよ。周子ちゃんが決めた道なんだ。俺があーだこーだ言うべきなんかじゃない。」

 

「………そっか」

 

彼女は、くるりと周り、背を向ける。

何を考えているのだろうか、何を思っているんだろうか。

そんなことは俺にはわからない、今も。恐らくこれからも。

だから、今の俺に精一杯できるたった一つのこと

 

「周子ちゃんのファン一号は俺だね。ずっと応援し続けるよ!」

 

笑顔で送り出すだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、周子ちゃんは無事に合格し、346プロ所属となった。それに伴い、居酒屋から一人居なくなる。女子寮に引っ越して行った。

 

「それで、神楽さんは素直に送り出したんですか?」

 

珍しく一人で楓さんが飲みに来ている。何時もなら志乃さんや真奈美さんと飲みに来ているのだが、まぁ予定が合わなかったのだろう。

 

「素直に送り出さない方が危ないって。向こうかまだまだ子供、俺は大人。大人が寂しいなんて駄々を捏ねても気持ち悪いだけですよ」

 

まぁこんな経験も始めてってわけでもない。

俺は外の看板を裏返し、本日の営業は終わりにする。今日はPも千川も店に来ないことは確認している。なら、楓さんには申し訳ないが愚痴に付き合ってもらうとしよう。

自分の秘蔵のお酒を取り出す。その際に目が輝いた楓さんに苦笑しながら、彼女にもお酒を注ぐ。

 

「ここで酒の肴として、昔話を一つ。」

 

「あらまぁ、珍しい事でも有るんですね」

 

クスクスと笑う彼女を見て、少しだけ見惚れてしまう

 

「そりゃ、お酒が入れば口も滑らかになりますよ。

あれは、事務所設立して暫く経った時ですね。千川もPも忙しく仕事に翻弄されている中、俺はのんびりアルバイトの募集をしてました」

 

楓さんが驚いている。そりゃまぁアルバイトが過去に居たことなんて、誰にも教えてないしね。周子ちゃんにも教えていない

 

「そんな中アルバイトに採用した子は元気で、笑顔が可愛くて、そんな彼女を見ていると俺も癒されました。」

 

「事務所設立から落ち着いた頃、久し振りに二人が飲みに来て…、Pが彼女をスカウトしました。そこからはあれよあれよと話が進んで、彼女は346に所属し、アルバイトを辞める事になってました。後に残ったのは、あれだけ彼女がいた時は賑やかだったお店、大きくも無い狭いお店が、その時とても広く感じました。」

 

今でも覚えている。彼女の笑顔がお店から無くなった時を。

 

「そこからアイドルとして彼女は、シンデレラへの階段を駆け上がり、見事初代に輝きましたとさ」

 

「え…、それじゃあアルバイトの人って…」

 

「十時愛梨、とても元気のある女の子でした。

そんな前例がある俺としては、周子ちゃんも笑顔で送り出すしかなかったんですよね。」

 

なんて少し笑いながら告げる。恋ではない、愛でもない。ただ、二人が消えた時に、残った気持ちは『寂しさ』だった。

 

「Pは贔屓目に見ても凄腕のプロデューサーです。原石を見付け出す運も持っていれば、人を惹きつけるカリスマ性も持っています」

 

空になった杯に、新たに注ぐ。

楓さんのはどうだろうかと見てみると、少ししか減っておらず、何故か、手が震えていた。

 

「そんなPが見つけた人材を、俺のところで腐らせる訳にはいかない。それに女の子はいつだってアイドルに憧れる物ですから」

 

らしくない話をしたと思う。お酒の力、恐るべし…

 

「で、でも…それなら神楽さんは寂しさしか残らないじゃないですか…」

 

震えた声で、楓さんが聞いてきた。

確かにあの時も、今回も寂しさしか残らなかった。

でも、それでも

 

「そこはほら、俺はあいつの夢を応援するって決めてましたから」

 

俺はどうしようもなく不器用なのだ。




男の友情ってのは、いつだって不器用
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