居酒屋で愚痴を聞くだけの簡単なお仕事です   作:黒ウサギ

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coには勝てなかったよ…
と言うのも冗談で、メッセージで熱く押して来た人。書き込みでアーニャが多かったので今回からアーニャです。
次回予定として姉ヶ崎になると思われ。


アナスタシア

事務所が設立されてから少しばかり月日が経った。

Pがスカウトして来たアイドル達も大半が軌道に乗って来ており、最近では店にも余り顔を見せなくなった。

彼らの夢を応援していたため忙しくなるのは嬉しいのだが、反面淋しく感じてしまう。出前などで顔を合わせる事はあるのだが、忙しく動いてる中のんびり会話するわけにも行かないので届けたらさよなら状態だ。

そんな中、Pが新たにスカウトしてきた少女がいた。

 

『アナスタシア』

 

ロシア人の父親と、日本人の母親の間に生まれたハーフであるらしい。

わざわざ北海道でスカウトして来た彼女だが、中々仕事が掴めずに事務所にいる姿をよく見かけた。そんな彼女が、少しだけ気になっていた。

 

 

-----

 

 

「はーい、いつもニコニコ貴方の近くに這い寄る店主です」

 

「帰れ」

 

ひどい友人もいたもんだ。

 

「今日は飯食べる余裕あるんだな」

 

「あぁ、と言っても食べたら直ぐに向かわないといけないからなー。やー忙しくて嬉しいよっと」

 

その言葉は、本心からの言葉だった。

でもそんな忙しい時に出前頼むのもびっくりだぜ。

ふと、ソファに座っている彼女が目に入った。Pが最近スカウトして来た新人さんである。

彼女の顔は沈んでおり、今にも泣き出しそうな雰囲気だった。

 

「なぁ、あの子なんだけど」

 

「すまん、仕事行って来るわっ」

 

食べるの早いわアホ。

いってきまーすと告げた彼のデスクの上には空になった皿と代金が置かれていた。良い子の皆はよく噛んで食事しようね。料理人との約束だ。

何てことは今は置いておいて、どうしても彼女が気になってしまう。俯いたままで、動かない。まるで人形の様である。

そんな彼女を見て、どうしようもなく気になって

 

「あーと……君、名前は?」

 

「……?私ですか?」

 

「そ、君の名前。出来たら教えて欲しいな」

 

「……プロデューサーのお友達さんですね。私は、アーニャ…アナスタシアです」

 

「そっか、俺は神楽。よろしくね。いきなりなんだけどさ、元気なさそうだけど何かあった?」

 

そう聞いてみると、彼女は少しだけ強張り

 

「アー…軽くホームシックなだけです。心配おかけして申し訳ありません」

 

と、告げた。

ホームシックか…、確か以前Pから聞いた話だと北海道から単身一人でここに来たとのこと。15歳の少女が思い切ったことをしたものだと思う。

しかしホームシックと言うなら少しだけ軽減させる事が出来るかも知れない。思い立ったが吉日、なので俺は彼女を店に連れ出すことにした。

 

「お昼まだならさ、うちで食べて来なよ。ご馳走するよ」

 

「お昼…ですか?まだですけど、ご迷惑ではないですか」

 

「迷惑なんて君ぐらいの年齢の子はバンバンかけていいんだよ。本場の味は厳しいかもしれないけど、ロシア料理ご馳走するよ」

 

そう伝えると、少しだけ笑顔になった彼女はうちに来ることを承諾した。

 

 

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「ロシア料理って言ってもピロシキとボルシチぐらいしか出せないけど良かったかな?」

 

そう言って彼は手際良く料理を出して来た。

 

「нет проблем。あー問題ないです」

 

「別に言い直さなくても大丈夫だよ。ロシア語知ってるから」

 

少しだけ驚いてしまう。周りの人には言い直さないと伝わらないため、癖の様になっていたのだけど。

 

「ロシア語、わかるんですか?」

 

「Я лишь немног(少しだけね)」

 

それを聞いて、嬉しくなってしまう。こちらに来てからはロシア語で会話出来る機会など無かったため、新鮮だ。

 

「まぁ今は料理食べな。冷めないうちにってね」

 

そう言われて、お昼を食べに来たのだと思い出す。

 

(懐かしい、香り…)

 

ボルシチもピロシキも、久しぶりに食べる。料理が出来ないというわけではないけど、誰かの手料理を食べるのは久しぶりだ…。

 

(お母さんの料理、食べたいな…)

 

ホームシックになるとは思っていなかった。

プロデューサーにスカウトされ、アイドルに興味を持った事でこちらに来たけど。簡単に上手く行くわけが無かった。仕事も少なく、事務所で皆を見送る日々が続き、私は何故ここに居るんだろうかと疑問に感じていた。

 

ボルシチを一口食べる。

 

(美味しい…!)

 

「どうかな?口に合えば良いんだけど…」

 

口に合うどころかこれは

 

「おばあちゃんの作る、ボルシチと同じ味ですっ」

 

思わず涙が零れてしまう。懐かしい味に触れてなのか、抑えようとしても溢れ出る。

そんな私を彼は慌てながら「合わなかった?」「不味かったりした?」なんて聞いて来て、申し訳なくて情けなくなる。

 

「Вкусно(美味しいです)とても…美味しいですっ」

 

本当に、心からそう思う。

それに思い出してしまった。家族の事を、故郷の事を。

 

「帰りたいっ、皆に会いたい……っ」

 

頑張ってねと送り出してくれた家族に会いたい。

離れることになった故郷に帰りたい。

 

「私っ、アイドルになるために、ここまで来ました。でもっ、仕事無くて、一人で事務所にいるの淋しくてっ」

 

泣きながら心の内を漏らしてしまう。

いきなりこんな事を言い出して変な子だと思われてしまう。そう思って堪えようとしても、勝手に言葉が出てしまう

 

「プロデューサーが、頑張ってるのは知ってますっ。でも、私はもう一人でいたくないっ」

 

泣いて泣いて泣いて。

迷惑をかけてしまうとわかっていても泣きやめず。

それでも彼は、黙って聞いててくれた。

 

 

-----

 

 

「Извините(すみません)取り乱しました」

 

彼女の心の内を聞くことが出来たのは、良かったことなのかもしれない。

誰も頼る人がおらず、ずっと一人で悩んでいたのだろう。

まだまだ彼女は子供だ。それなのにこんなに悩んで苦しんで……

 

(あとでPには説教せねばなるまいて…)

 

Pも頑張っているのはわかる。でも、こんな風に苦しませるくらいならスカウトしてくんなと言いたくなった。

懐から携帯を取り出し、アナスタシアさんから少し距離を取り、千川に連絡を取る。

 

『はい千川です。どうしました?』

 

「いきなりで悪いんだけどさ、アナスタシアさんのスケジュールってどうなってる?」

 

『アーニャちゃんですか?えっと…今日を含めて四日フリーですね。どうかしました?』

 

「あーなんだ。詳しく聞かないでもらえると助かるんだけど、少し息抜きさせてくるわ」

 

『そう、ですか……。ごめんなさい神楽さん、本当は私達がするべきことなんですけど』

 

「わかってるよ、お前らも忙しいんだ。たまには俺にもなんか手伝わせてくれよな」

 

『アーニャちゃんの事、よろしくお願いしますね』

 

そう告げた千川の声音は何処か悲しそうだった。

彼女達もきっと悩んでいたのだろう。仕事を余り見つけてこれなくて、申し訳なく感じていたのだろう。

 

「アナスタシアさんはさ、帰りたい?」

 

「帰りたいとは思います…。でも、逃げ出したくはないですっ」

 

「良い返事だ」

 

大人びて見える彼女だが、15歳の少女だ。

だから少しは大人を頼って欲しい。

 

「俺さ、最近忙しくて疲れが溜まってる気がするんだよね。」

 

「あー、お疲れ様です?」

 

いきなり何を言い出しているのか不思議に思うかもしれないけど

 

「アナスタシアさんさえ良かったら、息抜きに付き合って貰えないかな?」

 

彼女の力になりたいと、そう思った。

 

 

 

 




今回の設定としてはアーニャちゃんはまだ駆け出しで人気が出る前といった形。
ふと見返して思ったけど神楽さ、完全に変質者だわ。
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