遊園地は賑やかで眩しくて、昔両親に連れてきてもらった記憶を思い出す。あの頃は見渡すもの全てが目新しく、両親にあれは何か、どんなやつなのかと聞き回っていた気がする。でも今、隣にいる人は私の大好きな人。幸せが胸を満たし、嬉しさが体を動かすエネルギーになる。
「悠人は案外怖がったりしないのね」
「怖いも何も、作り物って分かってるし…。そもそも絶叫とかもさ、Pがやる事とかに比べると驚けなくなってな…」
プロデューサーは何者なのか。そんな答えの見えない、出口の無い迷路の様な難題が浮かぶが、今はそんな事は考えずに楽しもうと彼を見る。
いつも通りの服装ではなく、少しお洒落した様に見える服装。少し新鮮で、良く見れば髪型も整えられており、ちゃんと今日の事を考えていてくれた事に嬉しくなる。くっきりとした目が、笑う時に見える歯が、彼からする臭いが、彼の全てが私を虜にした。
(ライバル多いけど、そこが問題なのねー)
ナナさんに美優さん。二人とも容姿が整っているし、ナナさんは童顔でキュート、美優さんは大人が放つ色気がとてもクール。なかなかに気が抜けない二人なので今、何としても私の魅力を存分に味わって貰わないと。
行動有るのみ、そう判断して繋がれた手を離し
「きゃーこわーい」
お誂え向きに今いる場所はお化け屋敷である。抱き着いて『当ててんのよ』をして反応を伺うが
「棒読みじゃなければ……」
「てへぺろ」
バレバレだったみたい。
それでも、頬が赤くなってるし、照れているのだろう。作戦成功である。
お化けが襲ってくるタイミングでまた「きゃー」と可愛らしく叫び声を上げて抱きつく力を強める。お化けから舌打ちが聞こえたけど気にしない。
そんな事を繰り返しているうちに、ゴールにたどり着いていた。
人が増えたことで、抱きつくのを止めてまた手を握る。
(大きくて、温かくて、安心する…)
その気持ちが、私の体温を上昇させる。
ねぇ、悠人。私の気持ち、受け止めて欲しいな……
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ぶっちゃけた話、三人の中から誰かを選ぶのはなかなかに難題である。三人各々が魅力を持っており、皆さん魅力的と来た。
散々Pにハーレムとか有り得ない(笑)とか煽ってた自分がこんな事になるなんて思ってもいなかった。
今は周子が化粧直しの為にと居なくなったので、少しベンチに腰掛けて休憩している。だからなのか、居なくなった彼女の事を考えてしまう。
遊園地の楽しさに笑う彼女を、ジェットコースターに乗った時、握りしめた手に力を入れた彼女を、お化け屋敷で態とらしい悲鳴を上げて抱き着いて来た彼女を。
(恵まれてるなぁ…)
そんな彼女を選んだら、自分は幸せだろう。と言うか、誰を選んでもハッピーにしかならない。
どうしたものかと胸ポケットをまさぐりタバコを取り出そうとしたが、持ってきていなかった事を思い出し空を見上げる
(逆に考えなよ)
キラリと星が光ったと思ったらリトさんがいた。
ハーレムキングや!
(俺もハーレムなんて畏れ多いけど、最近じゃ割とありかなって思ってるよ)
違うはこれリトさんの偽物かも知れない。本物はハーレムなんて聞いてめっちゃ恥ずかしくなるくらい純情だし。
(あとお化け屋敷だけど、俺なら押し倒して舐めてる)
本物かも知れない……。
そんな事を出来るのは本物のリトさんだけだ…
光が消え去り、リトさんも消えていく。疲れてるのかなぁ、なんて考えて目頭を抑えて揉みほぐす
(俺なら他の誰かと付き合って、三人とも関係を持つね)
今度は誰だよと思ったらモザイクが浮かんでいた。それにしても思考がゲスのそれである。何時か刺されるぞそんな考えじゃ……
(まぁそんなことしてたら刺されて、彼女に首だけにされましたけど)
ナイスボートさんは帰ってどうぞ。
やっぱ疲れてるんだな、俺。
「お待たせーん。いやーまさかのファンに会ってさ、サインして来たわー」
周子が戻って来たと同時に、幻影も消える。ハーレム止めとこう、絶対に。
「次は何処行こっか、時間的にそろそろラストかもしれないけど」
時刻はそろそろパレードの時間になりつつある。アトラクションを1つ乗れば良い時間になるだろう
「んっとねー、じゃああれかな」
そう言って、周子が指さしたのは
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「わーお、結構高いねコレ…」
「聞いた話なら存在するやつで一番高いとか何とか」
観覧車に乗ることを望んだ私は、思わぬ高さに少し怖じ気付く。思いの外風で揺れるし、結構怖い。
ゆっくりと彼の隣に座り、震えがバレない様に手を握る
「いや、しかしこれ高すぎだね。ほら、俺の手震えてるし」
何て笑う彼だけど、これも彼の優しさだって知ってる。幸子ちゃんとスカイダイビングする位なのだ、高い所が怖いわけない。きっと私が震えてるのに気付いてそんな事を言うのだろう。その事に嬉しくて頬が緩み、ゆっくりと彼の肩に頭を乗せる
最初こそ、その行動に驚いたのか身を震わせていたけど、今は優しく手を握りしめてくれている。
心臓の音が、しっかりと聴こえる程大きくなっている。恐らく彼にも伝わっているこの鼓動。こんなにさせてるのは貴方だよ?
「ねぇ、悠人」
「どうしたの?」
「大好き、貴方が隣にいないなんて考えたくない。貴方と一緒に同じ時間を過ごしたい」
「……」
少し思い女かしらと考えるが、溢れる気持ちは言葉となって紡がれる
「アイドルの仕事中も、何をしてるかなって考えてた。仕事が終わってからも帰れば貴方が居るんだ、迎えてくれるんだって思うと疲れた体が元気になった。恋して、愛して、貴方しか考えられなくて、気持ちがどうしようもないほど膨らんで抑えられなくて、貴方が私以外の人と笑顔でいると、胸が苦しくなって切なくて、それでも貴方の笑顔が、声が、貴方自身が私を幸せにするの。恋するって、こんな気持ちなんだね…。」
胸の内をさらけ出し、どんな反応をしてるのかなと上目遣いで彼を見る。
「ありがとう、周子」
彼は嬉しそうに笑っていた。
彼が紡いだ感謝の言葉に、私も嬉しくなって
「私の気持ちを聞いてくれて、ありがとうっ」
何故か溢れ出した涙と共に感謝を告げる。
ポロポロと溢れだした涙は止まらずに、慌ててしまう
「可笑しいね、何か止まらなくてさ」
自身でもわからない涙。鞄から取り出したハンカチで拭きながらも笑う。違う、本当は分かってる。一瞬だけ考えてしまった、私以外の、ナナさんや美優さんと隣合う彼の姿を。辛くて、悲しくて涙が止まらない。
そんな時、彼は立ち上がって私の前に立つと
「ほら、涙が出る時は泣きたい時なんだから。硬いだろうけど胸の中で存分に泣きなさい」
優しく抱きしめられて、ふわりと香る彼の匂いに包まれて、涙は更に加速して、私は暫く泣き続けた。
優しく頭を撫でられて、大事な物を扱うような動かし方で。
優しい彼に包まれながら、私の意識は段々と消えていった
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「お帰りなさー…、周子ちゃんぐっすりですね」
あの後、寝たまま一向に起きる気配のない周子ちゃんを背中におぶりながら結局帰ることにした。パレードを見れなかったのは惜しまれるが、無理に起こす事も無いだろうと考えての行動だ
「きっと疲れてたんでしょうね……。でも、ほら凄く笑顔ですよ周子ちゃん」
ナナさんに連れられ、周子ちゃんの部屋に入りベットに寝かせる。確かに、その笑顔はとても嬉しそうで、幸せに包まれていた。
ゆっくりと部屋を出て、ふと一枚の写真が見えた。近づいてよく見てみると
「これ、いつの頃の写真ですか?」
「……周子ちゃんをがこの店に泊まり込みで働いてたのは知ってますよね。そこからアイドルになった事も。これは彼女がアイドルになると決めて、女子寮に移る前に強請られて撮った写真です」
強引に取られた一枚の写真。誰かに撮って貰おうと提案したが、それを拒み、腕を伸ばして密着する形で撮られた写真
「大切な物なんでしょうね、日に焼けた様子も無いですし」
この頃から想われていたのかなと、一瞬考え。恥ずかしくなって部屋を出る。
お店の方に戻り、日本酒を取り出してグラスに注ぎ、椅子に座ったナナさんにも渡す
「正直、周子ちゃんまだ若いですし、気の迷いかなんかだと思ってたんですよ」
「恋に恋するってやつですか?」
「そんな感じです」
告白された当初、どうせいつかは冷めるだろうと思っていたのだが、熱はますます高まっていき、今日胸の内を告げられて、自身もはっきりと理解した。彼女の気持ちを
「あまかったなー…。ここまで真剣だと、受けるも断るも辛くて辛くて……」
「まだ一人目でそんなになってたら身が持たないですよ?」
ぐうの音も出ない。この後ナナさん、三船さんと続くのだ。
「ナナももちろん本気ですし、美優さんも本気です。もてる人は辛いですね」
笑いながら話すナナさんに、こちらも苦笑で答える、
ともあれ、この後もしっかりと向き合おう
「さて、ナナの出番何ですけど……」
うん、もう予定建てるんですね。
まぁ俺が建てるよりは相談して計画を練った方が良いことになるだろう
「ナナは別に何処か遠くに行こうとか、思いっきり遊びたいとか無いんです。悠人さんと、同じ場所で、同じ時間を過ごしたい。それがナナ願いです」
「……デートはしないの?」
「デート…、買い物とか一緒に行くだけで満足ですね。近くのスーパーにお食事の準備の為に出かけたり、家の物を買ったりとかですね」
「そんなのでいいの?」
「そんなのがいいんです」
そう言ってナナさんはお酒を一口飲んで、続ける
「ナナは、お母さんとお父さん見たく。夫婦見たく悠人さんと過ごしたいです」
今回も、なかなかに難題かも知れない……
久しぶりの砂糖の時間だァ!
次回はナナさんのお話。