ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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将軍の海戦

 すっかり日が沈み、夜が来る頃。空は厚い雲に覆われていた。

 気候が崩れる予兆はないが嫌な予感がする。

 エターナルポースの指針を見ていたナミは空気の変化を敏感に感じ取っていた。

 

 イーストブルーにはなかった空気の重さである。

 本を読んで勉強してはいたが、突如現れる異常気象とやらが近付いているのかもしれない。

 

 「この感じ……まずいわね。このまま真っ直ぐ進むのはやめた方がいいかしら」

 「ナミさん、何か問題でもあった?」

 

 たまたま傍らに居たビビが尋ねてきて、ナミの視線がこれ幸いと彼女を捉える。

 ビビはグランドラインで生まれ育った人間。アラバスタを出てウィスキーピークまで移動していたところを見ても、多少なりとはいえ航海の経験はあるはず。

 尋ねるならばこの人しかない。

 緊迫した表情でビビへ尋ねてみた。

 

 「ねぇビビ、グランドラインには確かサイクロンがあるのよね。予兆がないってほんと?」

 「ええ。船乗りなら誰もが苦悩する気候よ。誰もその姿を見るまで気付けない」

 「それじゃ変化を具体的に説明できる人は居ないってわけね……」

 

 何を言いたいかがわからず、首をかしげるビビから目を離し、ナミはルフィの背を見た。

 彼はまたメリー号の船首の上に居て、真っ直ぐ前を向いていた。

 

 「ルフィ、このまま進まない方がいいと思う! 迂回しましょう! なんだか嫌な予感が――」

 「船が見えたぞ! ガスパーデのマークだ!」

 

 ナミが進言しようとしたその瞬間、メインマストの展望台に居たウソップが声を上げる。

 

 「だけど……一隻じゃねぇぞ。あの中にサラマンダー号は居ねぇ!」

 

 その一言で船上の空気が一変する。

 緊張感が漂い、焦りを禁じえない妙な感覚だ。

 甲板へ戻ってきたルフィがマストを見上げたことで、それはより顕著な物となる。

 

 「どういうことだよウソップ! ガスパーデの船じゃないのか!」

 「マークは多分あいつのだ。でも海軍の軍艦みてぇな船が四隻、こっちに向かってくる! 全部同じマークだぞ!」

 「待ち伏せか。用意周到な野郎だ」

 

 呆れた様子のサンジが呟き、全員が状況を理解する。

 これもまたガスパーデの術中だったのだ。

 仮にエターナルポースを持って本来のゴールを目指す船が居たとして、事前に配置していた艦隊が迎撃する。単調であるが、それ故に対処に困る作戦だろう。

 メリー号一隻に対して四隻の軍艦。

 不利と言わざるを得ない状況だった。

 

 どうやら無視でき無さそうな船団にナミの顔が曇る。

 今は別のことにも注意している。その上で邪魔が入ってしまった。

 こんなことをしている場合じゃない、という予感があるようだ。

 

 すでにルフィは迎撃を行うつもりだったようだが、それを阻止すべくナミが口を開いた。船長へ進言し、意見を変えさせるのに最も優れていたのはおそらく彼女だった。

 

 「相手にしてる場合じゃないわよルフィ。気候が変わった、何か来るわ。急いで離れないと船に被害があるかもしれない」

 「どうした?」

 「シルク、あんたは感じない? いつもと風が違うって」

 

 ナミの問いかけにルフィが止まり、シルクに注目が集まる。

 彼女もまた険しい表情で、皆とは違う方向、遠くの海を眺めていた。

 

 「うん……感じるよ。多分向こうの方。すごく大きな、風の塊がある気がする」

 「そうか、シルクちゃんは能力で風を感じ取り易いんだったな」

 「シルクが言うなら間違いないわ。やっぱり近くに異常気象がある」

 「まさか、それがサイクロンってこと?」

 「わからないけど、とにかくここに居ていいとは思えない。ルートを変更しましょう。心配しなくても指針があれば目的地には到達できる」

 

 自信満々にそう言うナミを見つめ、ビビは絶句してしまった。

 サイクロンはどこから現れるかがわからない脅威の一つ。グランドラインを航海する以上は決して避けられない事象だが、彼女は事前に予感してみせた。

 これがどれほどの異常かはグランドラインに長く居るほど理解できる。

 彼女の仲間たちは当然のように信用しているものの、本来ならばあり得ないのである。

 

 驚くほど強いルフィに合わせて、どうやらナミもまた普通ではないらしい。

 ビビは、或いは話を聞いていたイガラムは、彼らに驚きを持たずにはいられない。

 

 そうとは知らず、話し合いは進み。

 徐々に敵船が近付いてくる。時間はそう多くない。

 それを理解しているサンジが皆の意見を取り入れて判断を下す。

 

 「ナミさんが言うなら迂回した方がいい。だがあいつらもすぐに追いついてくるな。背を向けて逃げ出すにはちょっと遅そうだ」

 「でもこのままじゃ……」

 「つまり、連中を速攻ぶっ飛ばして、その後でルートを変えなきゃならねぇ。ここからは時間との戦いだ。一歩遅れれば何が起こるかわからねぇぞ」

 

 ルフィの顔に目をやってサンジが一言。

 行方を見守るかの如く静かに佇む彼へ提案する。

 

 「それでどうだルフィ。今のおれたちが取れる最善の手だ」

 「うし、それで行こう。野郎ども、戦闘だ!」

 

 大声で告げて仲間たちも同意する。

 敵船はすでに近付いており、早急な対応が必要だった。

 早速船首へ赴こうとしたところ、またサンジがルフィを呼び止め、彼を振り向かせる。

 

 「待てよ。今回はおれたちだけでやる」

 「ん? なんで?」

 「おまえも船長ならたまにはどっしり構えてろ。後ろで見てればそれで十分だ」

 

 そう言ってすぐに指示を出し始めるサンジに、ルフィはぽかんとした様子で。

 

 「ウソップ、砲撃準備だ。ナミさんは航路の指示を。ビビちゃん、舵頼む」

 「は、はい」

 「それからシルクちゃんは敵の砲撃を防いでくれるか」

 「うん、大丈夫だよ」

 「それからナミさん、離脱の前に一度、奴らに近付いて欲しい。おれとゾロで片付ける」

 「え? あんたたち二人だけ?」

 

 手早く指示を伝え、意図も全員に伝わっているが、おそらく全員に動揺があったらしい。

 ナミは彼の提案をすぐに受け入れることができずにいたようで首をかしげる。

 同時にルフィも異論を唱え始めて、見ていろという言葉が納得できなかった様子だ。

 

 「おい待てサンジ、おれもやるぞ」

 「さっき言ったろ。おまえは何もしなくていい。船長がそうホイホイ前線に立つんじゃねぇよ」

 「え~? 待ってるだけか」

 「元来指揮官ってのはそんなもんさ。いいからてめぇの仲間を信じろよ」

 「そりゃ疑ってねぇけどよ。退屈じゃねぇか」

 

 あっけらかんと言う彼に苦笑する。

 仲間を信じていながら任せないのはただ退屈だからだという。おそらく指揮官には向いていない性格だが、彼らしいとも言え、仲間を信じて裏切らない船長の存在は有難い。

 

 サンジはひらひらと手を振って尚も念を押した。

 仕方なくルフィも腕を組み、やっと納得して頷く。

 

 「とにかく任せろ。すぐ終わる」

 「んん、じゃあ任せる」

 

 ルフィが認めたことで全員が指示通り動き出す。

 時間はそう多くない。

 すでに敵は見る見るうちに距離を詰めてきており、砲撃の準備も行われているのだろう。活気のある声がメリー号にも届いていた。

 久々の海戦である。

 一同は幾分の緊張と共に持ち場へ着いた。

 

 軍艦が四隻。決して簡単に勝てる相手ではない。

 それでも船上の空気が悪くなることはなく、至って平然とした表情のまま。

 

 ついに戦闘開始の時が近付いていた。

 重々しい動きで接近してくる様は圧巻。しかし以前の敵に比べれば脅威とは感じないようだ。

 敵の姿が近付く中、メリー号もまた喧騒を増していた。

 

 「左端の船から狙うぞ。ウソップ、外すなよ」

 「なぁ~に任せとけ! おれの狙撃は百発百中よ!」

 「ったく、援護だけだとすぐ調子に乗るな」

 「サンジくん、乗り込むのはいいけど無茶しないでよ。とっとと終わらせて戻ってきて」

 「はぁ~いナミさん! おれを心配してくれてるんだね!」

 「はいはい、もうそれでいいから」

 

 時には冷静に頭を働かせ、時にはいつも通り明るく振る舞い、サンジは全く緊張していない姿を見せている。その様子を見ていると仲間たちも取り乱さずに済んでいた。

 

 やがて互いの距離が近くなった時。

 先に砲撃を始めたのは敵船の方だった。

 轟音が響き渡り、無数の砲弾が一斉に空を舞って、一直線に向かってくる。

 直撃すればメリー号に耐えられる衝撃ではないだろう。

 

 反応したのはシルクだった。

 素早く剣を抜き放ち、間髪入れずに横へ振るう。放たれるのは風による斬撃。空を駆けた見えない力は砲弾が進むべき道を変えさせた。

 

 「鎌居太刀!」

 

 吹き荒れる風が敵の攻撃を防いだ。

 これを見た敵船は動揺しているらしく、次の行動が少し遅れる。些細なこととはいえ、この一瞬が戦闘の結果を大きく変える。

 一瞬のタイミングを逃さず、船内でウソップが声を上げた。

 

 「来たぞ! おっさん、カルー、一気にぶっ放せェ!」

 「はいっ!」

 「クエー!」

 

 ウソップに加え、船内に居たイガラムとカルーが同時に行動する。

 発射の合図で大砲に火が点けられ、装填されていた砲弾が勢いよく飛び出していく。ウソップが事前に狙いをつけていたため、複数の砲弾は的確に敵船へと襲い掛かった。

 

 動揺していた彼らに回避の余裕などなく。

 砲弾が船体を貫き、いくつもの爆発によって敵船が揺れた。

 

 当たったのは先頭の一隻だけだが、先制攻撃としては十分だろう。敵側は見るからに驚いて、思わぬ反撃に戦闘自体を躊躇う素振りがあるかのよう。

 これを利用しない手はない。

 サンジの指示により、メリー号は大きく迂回を始めようとしていた。

 

 先頭の一隻だけが突出している。

 これを盾とするように左側へ移動し、先頭から見て右側にあった二隻の死角に入った。

 流石に仲間を盾にされては砲撃もできず、しばし彼らは何もできなくなる。

 その間にメリー号は孤立するような左側の一隻へ近寄り、再度の砲撃。船内で素早く動いていた二人と一匹によって平静を取り戻す前の奇襲に成功した。

 

 放たれた砲弾が船体を叩いて大きく揺れた。

 敵船からは数多の悲鳴が響いてくる。見た目以上の影響があったようだ。

 さらに大きな隙ができて、メリー号は悠々と接近していく。

 

 「おれたちが乗り込んだら、メリーはすぐに離れてくれ。ナミさんに任せる」

 「あんたたちは?」

 「上手く戻るさ」

 

 明らかに次の一手が遅れている敵は、隣接したメリー号に対処する暇がなかった。

 サンジとゾロは欄干を蹴り、高く跳び上がって敵船へと乗り込む。

 

 船へ到着し、欄干を蹴って跳んで、甲板を見下ろした時のこと。

 敵は対応できずに、呆然と空を見上げており、何が起こったのかをまだ理解できてさえいないらしくて、落下してくるゾロを見て武器を取ろうともしていない。

 空中で二本の刀を抜き、両手に持って躍りかかる。

 着地と同時に数名の敵を切り裂いていた。

 気付いた時には目の前に居て、鮮血が舞うと斬られた男たちが倒れる。

 

 突然の奇襲で大多数の人間が呆気に取られていた。

 先に甲板へ立ったゾロはさらに動き出し、その場でぐるりと回転。

 素早く反応しようとした敵へ対して、凄まじい斬撃で行動を制止したのである。

 

 「フンッ!」

 「ぎゃあっ!?」

 「こ、こいつ、なんだいきなり……!」

 

 狼狽しているがようやく手に武器を取り始める。

 切っ先は全てゾロに向いていた。だがその時にはサンジも甲板へ到達する。

 

 「いきなりもクソもあるか。吹っ掛けたのはそっちだろ」

 「もう一人居るぞ! 二人だけだ、やっちまえ!」

 「おういいぞ。やれるもんならやってみろ」

 

 気付かれると同時にサンジも動き出した。

 目の前に居た男の頬を蹴り抜き、勢いよく吹っ飛ぶと後ろに居た男へ激突する。

 次から次に将棋倒しの様相で、これ幸いと前へ跳び、敵が密集する位置に飛び込む。その中には彼の動きに反応できる者がいなかった。驚くばかりの男たちが為す術もなく顔面を蹴られ、その場で堪えることもできず勢いよく倒れ込んでいく。

 

 十数人は蹴り飛ばしただろうか。

 足を止めたサンジが振り向けばゾロも同じ程度の数を倒したのが見える。

 佇まいを直して立った二人は囲まれた状況のまま、余裕を湛えて話し始めた。

 

 「時間はそうかけてられねぇぞ。ナミさんがおれの帰りを待ってる」

 「アホか。時間かかるような相手じゃねぇだろ」

 「一分必要か?」

 「いらねぇな。十秒だ」

 「てめぇら、舐めてんじゃねぇぞォ!」

 

 たった二人の強襲だと気付き、冷静さを取り戻したらしい男たちが雄々しく叫ぶ。

 それを見ても慌てることは一切なく。

 サンジはにやりと笑い、ゾロは終始不機嫌そうに表情を歪めていた。

 

 敵船への直接的な攻撃へ出た二人と離れ、メリー号は円を描くように移動を続ける。

 二人が乗り込んだ船は終わりと考えていいだろう。残りは三隻、内二隻は現在も無傷であり、果たしてどう倒したものかと考える。

 頭を巡らせるのはナミだ。

 キリとサンジが居ない現状、指示を出すのは彼女しかいなかった。

 

 勝利のためには敵が困惑している今の状況を使う他はない。

 メリー号は向きを変えることにさえ苦戦している敵船を視界に入れていた。

 

 「ウソップ! すぐに次!」

 「おっしゃあ! 発射ァ!」

 

 更なる砲撃が行われ、爆音が辺りへ広がる。

 放たれた攻撃は的確に敵船へ叩き込まれ、飛び散った残骸が海に落ちた。

 

 戦闘は優勢に進んでいるらしい。

 珍しく何もせず、自身は腕を組んで突っ立っているだけのルフィは笑みを浮かべていて、頼もしい仲間たちに喜びが抑えられない様子だった。

 そうして眺めていたルフィへシュライヤが言う。

 

 「こいつらに構ってる暇があるのか? 急がねぇとガスパーデに逃げられるぞ」

 「わかってるけどよ、後ろから追われたら困るだろ」

 「チッ、面倒な……」

 「心配すんな。おれの仲間に任せとけば大丈夫だ」

 

 苛立った顔でシュライヤが目を背け、強い眼差しで敵船を睨みつける。

 かなり怒っている顔だ。感情がはっきりと伝わって、今までの素っ気ない態度とは何かが違っている。まるで心底から憎んでいるかのような、そんな表情だ。

 

 まさか今襲ってきている敵船を憎んでいるはずもあるまいし。

 考え付くのは当然、ガスパーデの存在だった。

 

 聞くか聞かぬか、迷う素振りもなく、ルフィは彼へ尋ねてみる。

 

 「おまえ、なんでガスパーデを追ってんだ?」

 「あ?」

 「おれたちはレースに負けねぇためだけどよ、おまえは多分違うだろ。海賊じゃねぇもんな」

 「てめぇには関係のねぇ話だろ」

 「あるさ。おれの船に乗ってるんだぞ」

 「フン。話す気はねぇな」

 

 拒む素振りでシュライヤが答え、今度はルフィを睨む。

 彼はその視線を正面から受け止めた。

 

 「なんでそんなに焦るんだ? まだ負けたわけじゃねぇだろ」

 「おれには目的があると言ったはずだ。ここまで来て逃がすわけにはいかねぇ」

 「ふぅん。そっか」

 

 何度目かで砲撃の音が鳴り響き、敵船が放った物も風に煽られ、海に落ちて、高い水しぶきが上がっている。彼らが話している間にも戦闘は徐々に激化していた。

 その中でもあくまで冷静な表情。

 不意に海を眺めたルフィは何気なく呟く。

 

 「おれの仲間はそんな生き方してねぇけどな」

 「……何?」

 「何があったかなんて知らねぇし、興味もねぇけど、おれの仲間とおまえは違う」

 

 眉を顰めて疑念を表すシュライヤを振り返り、にっと笑って簡潔に一言。

 

 「前に進む覚悟をしたんだ。もう立ち止まろうとする奴なんていねぇよ」

 「おまえに……何がわかる」

 

 嫌悪感を示し、歯を剥き出しにしたシュライヤが静かに吠えた。

 それはおそらく彼自身を支えてきた物だっただろう。

 自らの存在意義を汚されたようで、怒りが噴出しており、ルフィを睨むその目の力強さは先程の比ではない。今度ははっきりと殺意を持って彼を見ていた。

 しかしそれでもどこ吹く風。

 ルフィの表情は変わることなく、平然とシュライヤを見つめ返している。

 

 「何も知らねぇおまえが、全部知ってるかのように言うんじゃねぇよ」

 「そりゃ知らねぇよ。おまえ何にも言わねぇんだもん」

 「ならこれだけは言っといてやる。おれは海賊を許さねぇ。それだけだ」

 

 二人が口を閉ざしたことで、戦闘の音だけが鼓膜を揺らす。

 続く砲撃。誰かの悲鳴、怒号。喜ぶ声もまた聞こえる。

 メリー号と敵船は着実に状況を変えようとしていた。

 

 いつの間にか敵船を奪ったサンジとゾロが舵を操り、敵が用いていた軍艦で敵船へと衝突しようとしている。横っ腹を狙われた彼らは対処が間に合わず、悲鳴が大きくなった。

 直後には二つの船が激突する。

 接触の瞬間、船体は大きく揺れ、敵には大きな動揺が広がる。その機を逃さずに飛び移ったゾロが素早く男たちを斬り倒し、混乱はさらに深まった。

 

 全てが想定通り。

 舵輪を手放したサンジもまた駆け出し、船首を蹴って跳び出すと敵船へ乗り込んだ。

 

 結論から言えば、勝負は麦わらの一味の勝利である。

 数の違いがあれど戦闘経験の差か、はたまた心意気か、彼らが苦戦することは一度もなく、待ち伏せしていたはずの敵は混乱している間に船を破壊されていた。

 

 次に目指すはゴールの島。メリー号は急ぎ足で駆け出す。

 しかし敵の待ち伏せ、悪天候と続き、彼らが島に到着するだろう時刻が遅れたのは事実である。

 その点を考慮すればガスパーデの待ち伏せは決して無駄ではなかったと言えるだろう。

 ガスパーデ自身が知ることはないまま、メリー号がサラマンダー号に追いつける可能性はさらに低くなり、それはおそらく足止めを喰らった全員が理解していた。

 それでも船長が諦めることはない。

 前へ進むと決めたら人の話など聞かないのだ。

 

 戦闘を終えても騒がしくなる船上は航海のために作業を繰り返し、操船に忙しなくなる。

 狙いはあくまでもゴール。そして優勝と三億ベリー。

 もはやガスパーデとのいざこざだけではなかった。

 賞金を思い出したナミも目の色を変え、船長と声を合わせて高らかに叫ぶ。

 

 目的地はまだ遠く、時間は限られている。

 参加者の減ったレースはすでに終盤へと差し掛かっていた。

 


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