ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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元ドラム王国=名も無き国

 リトルガーデンを出て二日。

 ナミが発病してから丸二日が経った。

 現在も容体は変わらず、彼女は辛そうにベッドで横になっている。

 

 そして三日目の昼頃、ついにメリー号はその場所を見つけた。

 雪がちらほら振り続ける中、前方に島を発見したのである。

 

 メインマストの展望台に上がっていたゾロが望遠鏡を下ろした。小さいが、すでに目視で気付ける距離になり、望遠鏡で見てはっきり確認できた様子。

 白くなる息を吐き、心は落ち着いている。

 彼は甲板を見下ろし、仲間たちに声をかけた。

 

 「おいお前ら、島が見えたぞ!」

 「何ィ!? ほんとか! お~いルフィ~、島が見えたぞぉ~!」

 

 ゾロの言葉を受けたウソップが大声で叫び、船内に居るルフィへ伝えようとする。

 彼は女子部屋にてシルクと共にナミの看病に努めていた。とは言っても作業を任せると危なっかしいため、せいぜいが寝顔を見守る程度の役割である。

 今日ばかりは大人しく椅子に座り、暴れ始めることもなかった。

 

 島が見えたと聞いてパッと笑顔が咲く。

 好奇心を刺激された彼は思わず武者震いが始まり、今にも動きたくて仕方なさそうだ。

 

 「おいナミっ、聞いたか? 島だってよ。医者が見つかるんだぞ。どんな島なんだろうなぁ~」

 

 目を輝かせるルフィはひどく嬉しそうな顔。

 左足が激しく揺れて、その場を離れるのを必死に我慢しているのが伝わる。

 本当は今すぐにも島を確認したいのだろうと思い、苦笑したシルクが彼に言った。

 

 「ここはいいよ、私が見ておくから。ルフィは島を見てきて」

 「わかったぁ!」

 

 嬉しそうな声で答えたルフィが駆け出す。

 どうやら我慢の限界だったようですぐに甲板へ向かった。

 

 激しく扉を開いて甲板に到着すると足を止めず、素早くいつもの場所、羊の船首の上に飛び乗って前方を確認する。慣れた様子でバランスを取り、胡坐を掻いて座っていた。

 確かに前方には島が見える。

 笑顔を輝かせるルフィは意識せずに感嘆の声を漏らした。

 

 一面が白く染まり、美しい銀世界。

 棒状とも言える奇妙な山がいくつかそびえ立ち、天まで届きそうな高さ。

 全てが雪に覆われた島はどこか寂しげでもある一方、だからこそ美しく感じられ、生まれて初めて訪れる冬島の景色に、ルフィは目を奪われていたようだ。

 

 「うっはぁ~っ! 島だぁ! 雪島~!」

 「おいルフィ、今回は医者を探すだけなんだ。ナミさんを診てもらうことが最優先。呑気に冒険してる暇なんかないぞ。おい、聞いてんのかルフィ」

 「雪はいいよなぁ~。白いしなぁ~」

 「だめだ、聞いてねぇ」

 

 どことなくうっとりした様子のルフィは声をかけてくるサンジにも気付かず、目の前にある島の美しさに集中し、どんな場所なのだろうと胸を躍らせる。

 

 冬島とは、その名の通り常冬の島だ。

 気候が変化することはなく常に冬の環境にあり、その島は冬以外の季節を知らない。

 雪が降るのも寒いのも当たり前。

 グランドラインにはそうして常春、常夏、常秋、常冬の島が存在し、一つの季節に縛られている島も多い。ドラム島は中でも基本的と言えるほど気候が定まった冬島だった。

 

 少しずつだが雪が降り、メリー号にも幾分積もっている。

 島に行けばそれ以上の雪が地面を覆い隠しているのだろうとは遠目でもわかった。

 ルフィはワクワクした顔で帽子を押さえ、早く足を踏み入れたいと考える。

 

 一方でウソップは顔を青ざめさせていて。

 寒さに耐えるため防寒着を身に着けているが、寒さとは別の要因で寒気を感じていたらしい。

 

 「いやいや待てよ、おれたちこのまま島に近付いていいのか? そりゃ王国ってくらいだから人は居るんだろうけどさ、何もおれたちを歓迎するとは限らねぇ。戦闘民族みたいな奴らが居たらどうする? 病気で苦しんでる奴らが助けを求めに来るのを待って罠を仕掛けてるかもしれねぇ。そんでその後は寄ってたかって一網打尽にするんだ。違うか!?」

 「んなわけねぇだろ」

 「なんでそう言い切れんだよ、お前はあの島に行ったことあんのか!?」

 「現実的に考えてみろ。医療技術が発達した国が、わざわざてめぇで怪我人増やすか?」

 「自衛のためだよ! 医者だって自分の身は守りたいだろ!」

 「そんな荒々しい医者がいるもんかね……」

 「絶対居るぞ! 世界のどこかには! そしてそれがあの島だ!」

 「へぇ~そうなのか」

 「もしくは、雪に隠れてるバケモノとかが居るかも!」

 「あぁ、それはあり得そうだ」

 「ま、まずい。嫌な予感がする。持病の“島に入ってはいけない病”が……!」

 「ちょうどよかったじゃねぇか。あの島で治してもらえ」

 

 取り乱すウソップの声をサンジがあっさり受け流し、騒がしくなるものの船は進む。

 島に近付いたメリー号は川に入り、上陸できそうな場所を探して上流を目指した。

 徐々に船を停める準備が進む中、甲板に居たビビとイガラムが言葉を交わす。

 

 「ドラム王国ですか……あまりいい思い出はありませんな」

 「昔の話よ。今は違うかもしれない」

 「本当にそうであれば有難いのですが、果たして人間そう簡単に変わるものかどうか」

 「大丈夫、私たちの目的は医者を見つけることだけ。彼に会わなければいけない事情もない」

 「それだけが唯一の救いです。もしもビビ様がこの国に来たと知れれば、何をされるかわかったものではありませんからな。こういうことを言うのも、心苦しいですが」

 「ええ……」

 

 苦々しい顔のイガラムはこの国に対して大きな心配事があるらしい。

 事情を知るビビもまた、少しばかり気落ちする顔だった。

 

 上陸できそうな場所を探して、全員で周囲の景色を確認する。

 木々が多く、この辺りは森が近い。

 川辺に停めることも可能だろうが近くに村がなければ意味がない。彼らはしばし人の気配を探して彷徨い、どんどん上流へ進んでいく。

 

 その途上で、ウソップが船首に座るルフィへ声をかけた。

 

 「ところでルフィ、お前寒くないのか、その格好で。この寒さと雪だぞ」

 「ん? あぁ……寒っ!?」

 「いや遅ぇよ!? 早く気付け!」

 

 興奮した面持ちのルフィだけが防寒具を身に着けておらず、いつものノースリーブのシャツ。寒いと感じるのは人間として当然であり、指摘された後でようやく寒さを感じる。それでもタイミングとしては遅いがルフィが相手だと考えれば不思議と納得できた。

 寒い寒いと口にする彼は慌てて上着を取りに行く。

 ルフィが赤いコートを着て帰って来た頃、ようやく良さそうな場所を見つけた。

 

 船を停泊させ、錨を下ろして動きが止まる。メリーの傍には上陸しやすい川辺があった。

 上陸するための態勢は整う。

 あとは誰が行くかである。

 

 甲板に居た者は船の中央に集まった。

 全員が向かい合って話をする。

 

 全員で動く必要はなかった。重要なのは医者を探し、ナミを診てもらうことにある。

 迅速な行動が要求されるが島が安全かどうかもわからない。

 限られたメンバーで上陸した方が確実性があるように感じる。

 そう説明するキリに怯えた顔のウソップも同意すると、サンジは反対する意見だった。

 

 「先に数人で上陸して、周辺を調べた方がいい。ウソップじゃないけど罠が仕掛けられてる可能性がないわけじゃないんだ。ナミに危険が及ぶ可能性は潰しておこう」

 「その通りだっ。先に危険を確認しよう」

 「ちょっと待てよ、ナミさんはもう三日間も苦しんでるんだぜ。いい加減体力の限界だ。これ以上無理はさせたくない。動ける奴ら全員で探索した方が早いだろ」

 「急ぐのはわかるけど、無理をすればボクらも無事じゃいられないかもしれないよ」

 「いいかキリ。おれはナミさんが助かるんなら、お前らが犠牲になっても一向に構わない」

 「お前最低かっ!? ちょっとはおれらのこと気にしろ!」

 「あはは。まぁそっちの方がサンジらしいけど」

 

 普段と変わらない姿のサンジにウソップが怒り、キリが笑うが、意見は纏まらない。

 全員で動くか否か。

 最善策を取ろうと考えるのだがその話し合いでまた時間を使ってしまい、本人たちでさえまずいと焦りを募らせ、真剣に考え込む。

 

 メリー号は、両側を小高い崖に挟まれていた。

 その時になってその崖の上に人の姿が現れ、厳しい声がメリー号へ降りかかる。

 

 「そこまでだ、海賊ども!」

 「なっ、なんだ!?」

 

 敵意を感じる声だった。

 見上げれば大勢の人間がメリー号に銃を向けていて、警戒した顔で睨みつけている。

 海賊ども、という言葉も合わせ、憎んでいると言っていいほどの感情がぶつけられるようだ。

 

 咄嗟にウソップがマストに隠れようとするものの、両側から挟まれていては体を隠し切れず、マストに抱き着くようにしながら辺りをきょろきょろ見回す。

 静かな環境であるせいか、感じる危険が余計に大きくなった気がする。

 数多の銃口を向けられ、いつの間にか空気がピンと張り詰めていた。

 

 どうやら彼らは兵士の類ではない。銃の構え方を見ても素人だ。

 強い敵意が一方的にぶつけられ、戸惑いながらも彼らは正体不明の人間たちを見上げる。

 

 「人だ。探さなくても見つかったな」

 「でもやべぇ雰囲気だぞ……歓迎はされてねぇよなぁ」

 「海賊どもに告ぐ。来た道を引き返してこの島を出たまえ、今すぐにだ」

 

 一人や二人ではない。ざっと確認してもおそらく三十名は超えている。

 その中から一人、特別体の大きい男が進み出て彼らに言った。

 代表してルフィとビビが向き合うと、彼に対して答える。

 

 「おれたち、医者を探しに来たんだ」

 「仲間が病気で苦しんでいるんです。ぜひ治療を――」

 「その手には乗らねぇぞォ!」

 「薄汚ぇ海賊め!」

 「ここは我々の島だ! 海賊など上陸させて堪るか!」

 「すぐに錨を上げて出ていけ! さもなくば、その船ごと吹き飛ばすぞ!」

 

 両側から次々向けられる言葉は罵詈雑言ばかり。

 話を聞こうとする姿勢など微塵も感じない。言葉だけでもただ一方的に攻撃するのみだ。

 

 呆れた目で周囲を窺うサンジが口を開く。

 警戒はしているがさほど緊迫感は見られない態度。彼らを脅威とは感じていない。有事の際には抵抗する心構えがあり、不作法に銃を向ける態度に怒りすらあった。

 ふつふつと沸き上がる怒気を隠し、彼の声はつまらなそうに言葉を吐く。

 

 「おーおー、ずいぶん嫌われたもんだな。初対面だってのに」

 「口答えするなァ!」

 

 逸った一人が思わず引き金を引いてしまった。

 構えられた銃から弾が吐き出され、だが慣れていないらしく、衝撃に負けて腕が動き、狙いが逸れて弾丸はサンジの足下に突き刺さる。

 素人なのは明白だった。

 だが先に仕掛けてきたのは相手であり、咄嗟にサンジの目つきが変わる。

 撃った男は思わず怯んで、彼の視線を受けると思わず後ずさりした。

 

 「う、撃ちやがった!?」

 「てめぇ……やりやがったな!」

 「ひっ――!?」

 「待ってサンジさん! やめて!」

 

 先に仕掛けた男を視線で捉えて、飛び掛かろうとしたサンジをビビが止める。彼の腕を掴み、抱き留めるようにして動きを制限しようというのだ。

 そんな一瞬に、もう一度銃声が響く。

 衝撃を受けたビビがその場に倒れ、痛みから顔を歪める。

 その光景は全員にとって衝撃的なものだった。

 

 最も早くキリが振り返る。

 今度の銃弾は反対側から来た。わずかに上がる硝煙を見やり、撃った一人を素早く見つける。

 

 その時の彼は普段とは違う、殺気を隠さない目をしていた。

 指先に一枚の紙を挟み、小さなそれを硬化して、武器として放とうとする。

 視界の中にはすでに怯えた顔が映っていた。

 容赦はない。敵を仕留めるため、腕が伸びきって投げようとした瞬間。

 

 ビビが大声を発して、コンマ数秒で次々反応する全員を止める。

 

 「やめてッ!!」

 

 飛び出そうとした全員の動きが、ぴたりと止まる。

 完全に腕を振り切ったものの、キリも紙を飛ばしておらず、指に挟んだまま攻撃は中止される。

 相手が身構えられたのはそれからのことだった。

 

 倒れたビビが起き上がり、座ったまま左腕を押さえる。どうやら掠っただけのようだ。コートを破って血は流れていても大事には至っていない。

 泣き叫ばんばかりの表情でイガラムとカルーが駆け寄る。

 彼らの心配を受けながらも、ビビの注意は一味にこそ向けられていた。

 

 「ビビ様ァ!? あぁっ、そんな、お怪我を……! 私がついていながらっ」

 「クエーッ!」

 「大丈夫、心配いらないわ。掠っただけ」

 「ビビ、お前……」

 「みんな戦わないで。暴力に頼ればいいってものじゃない。私が話すから」

 「でもこいつら、急に撃ってきたんだぞ! お前ら、武器も持ってねぇ女に血ィ流させて、海賊と何が違うってんだよ! おれたちがお前らになんかしたのか!」

 

 ルフィは心配するのみだったが、激昂したウソップが男たちへ叫ぶ。

 その一言で彼らは歯噛みし、戸惑いを抱いた様子を見せながら、やはり武器は下ろせず。

 冷静に振舞うビビがウソップを窘める。

 

 「やめてウソップさん、彼らを刺激しないで」

 「でもよぉ、言ってることとやってることが……!」

 「少し誤解してるだけなの。話せばわかってくれるわ」

 

 そう言ってビビは腕を押さえるのをやめ、甲板に正座する。

 地面に両手をつき、深々と頭を下げたのだ。

 

 「だったら上陸はしませんから、医師を呼んでいただけませんか? 仲間が重病で苦しんでいるんです。お願いします、助けてください」

 

 額を擦り付けようかというほど深々とした土下座であり、仲間たちも、銃口を向ける男たちも唖然としていた。一際、ルフィが隣で驚いている。

 目で見なくともそんな彼の様子に気付いていたのかもしれない。

 頭を下げたまま、ビビはルフィへ言う。

 

 「ビビ……」

 「頭を冷やしてルフィさん。無茶をすれば全て片付くとは限らない。この喧嘩を買ったらナミさんはどうなるの? 力だけじゃ、仲間は守れないのよ」

 

 静かな、感情を隠した声が彼の心に突き刺さる。

 彼女の言う通りだと思った。

 素直に納得したルフィは男たちを見上げ、真剣でいながら怒気が消える。

 

 「うん、ごめん。おれ間違ってた」

 

 腕から血を流し、尚も頭を下げる彼女を見て気付いたことがある。

 ルフィはその場で膝を折り、ビビと同じ体勢となった。

 

 「医者を呼んでください。仲間を、助けてください」

 

 甲板に額をぶつけてゴンッという音がした。大事な麦わら帽子が落ちて近くに転がる。

 いつしか周囲から音が消えていた。

 男たちは息を呑み、銃を構えることすら躊躇って、どうすればいいのかと視線を彷徨わせる。今や敵意は揺らいで薄れていた。困惑した末に決意を失ったのだろう。

 

 迷う視線は全て大柄の男へ。

 どうやらその男がリーダーらしく、皆の視線を一身に受け、一味を見下ろすと考え込む。

 

 しばらく沈黙が続いた後、大柄の男が口を開く。

 

 「わかった……上陸を許可しよう」

 「ドルトンさんっ。でも」

 「騙し討ちかもしれないんですよ!」

 「一切の抵抗をせず、報復もせず、頭を下げた彼らを撃てば、我々はあの海賊たちと同じになってしまう。それでいいのか? 彼らを撃つ覚悟がある者は居るのか」

 

 ドルトンと呼ばれた男、ただの町民だろう男たちを見渡して声をかけ、一瞬にして黙らせる。

 そう言われて言い返せる者は居ない。誰一人として引き金を引けそうになかった。

 反対意見が出なくなったのを機に、彼はビビたちを見下ろして再度言う。

 

 「村へ案内する。ついてきたまえ」

 

 そう言われたことを機にビビがパッと顔を上げ、隣に居るルフィを見た。

 彼は甲板に頬をつけたままで彼女を見上げた。

 

 「ね? わかってくれた」

 「うん。お前すげぇな」

 

 ルフィの言葉にビビが朗らかに笑う。

 

 ひとまず危機は去ったようだ。

 一刻も早く上陸して医者を探したいところだが、気になることもあり、それぞれ話し始める。

 最初にイガラムがビビへ駆け寄り、彼女の腕を心配した。

 

 「ビビ様、止血だけでも今すぐに。お時間はかけませんので」

 「そうね……お願いするわ」

 「ご自愛ください。もしものことがあってからでは遅いんですよ」

 「ええ、わかってる」

 

 肩を貸して立ち上がらせ、手当てのために船内へ向かおうとした。

 その際、ビビはくすくすと笑い始める。

 

 「そういえば昔、ペルにぶたれたことがあったわ。誕生日のお祝いに花火を作ろうとして」

 「ああ、そうでしたなぁ……」

 「私、あんまり成長してない?」

 「そんなことはありません。ビビ様は成長なさいました、それこそ私が驚くほどに。先程の行いも見事なものです。国王様もお喜びになられますよ」

 

 船室へ向かいつつ、俯いたビビはどこか寂しげに微笑む。

 些細な出来事で故郷を思い出したらしい。

 郷愁に駆られ、少し弱った心に言いようのない感情が生まれ、腕の痛みが一層強くなった。

 

 二人が船内へ移動した後、辺りを見回したキリは溜息をついた。

 想うところがあったのだろう。ルフィへ声をかけ、振り返る彼に端的に告げる。

 

 「ルフィ……ボクは、船に残るよ」

 「え? なんで?」

 「怖がらせちゃったみたいだ」

 

 困った風に笑いながら、先程殺気をぶつけた男を見上げ、改めて怯えた目を確認する。

 この反応は信頼に係わるはずだ。これ以上の問題を起こせば今度こそ医者は探せず、ナミの命に危険が及ぶ。そうならないために考える必要があった。

 一番強い敵意を示したキリは、彼らの傍に赴かないことを決めたのである。

 なんとなく事情を察したルフィは同じ方向を見上げて頷いた。

 

 「そうか。そっちの方がいいんだな?」

 「変に刺激しない方がいいだろうからね。ボクが一緒だとそれも難しそうだ」

 「んん、確かに」

 「あれ? 同意するんだ」

 

 考えもせずに頷くルフィは彼の考えを認め、納得するつもりの様子。

 話を聞いていたゾロとサンジも異論は無さそうだが、ウソップだけは不安そうな顔だ。

 

 「キリが来ねぇのか……それはそれで不安なんだよなぁ」

 「電伝虫がある。数は限られてるけど、それで連絡を取ろう。情報さえ寄こしてくれれば考えることは簡単だからさ」

 「ま、あれだけ本気で殺そうとすりゃ当然の反応か」

 「よく言うよ。サンジも結構本気だった」

 「とにかく行くしかねぇだろ。ナミはどうする、連れてくのか?」

 

 会話が停滞しそうになったのを見計らってゾロが先を促す。

 その頃になると彼らは妙な協力を始めて、緊張感のないやり取りを行った。

 

 「お前アホだなぁ~ゾロ。ナミを連れてかなきゃ医者に治してもらえねぇじゃねぇか」

 「アホだなぁ~ゾロ」

 「おれは連中を信用できちゃいねぇが、マリモがアホだってのには賛成だな」

 「ゾロってアホだったんだね。忘れてたよ」

 「てめぇら全員斬られてぇのか……?」

 

 わなわなと震えるゾロが刀に手をかけてしまい、船上には先程以上の殺伐とした空気が広がる。

 殺伐としているが仲睦まじい様子もあった。

 町民たちは戸惑いがちに眺め、予想以上に普通な、どこにでもある人間の会話に驚きを隠し切れない様子で、思わず武器を持つ手が震える者も少なくはない。

 そしてドルトンは、何も言わずにじっと彼らのやり取りを見ていた。

 


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