ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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鼻の青いバケモノ

 治療が終わったと聞かされた。

 別室で待たされていたルフィはDr.くれはに連れられ、ナミが居る部屋に通される。

 扉を開けた瞬間、ベッドの傍に居たチョッパーがびくりと震えた。

 

 部屋に入ってまず視界に入るのが彼の姿である。

 見れば見るほど不思議な生物だ。トナカイの特徴は毛皮や立派な角に残るものの、小さな体躯はどことなく愛らしく、二足歩行で、手と言うべきか、蹄で医療器具を巧みに操る。

 彼もれっきとした医者らしい。

 不思議生物を見るルフィは思わず笑顔を浮かべていた。

 

 今はナミのことがある。

 チョッパーへの好奇心を押さえた彼はすかさずベッドへ駆け寄った。

 

 ナミは目を閉じて眠っている。まだ顔色は悪いままだが、少なくとも楽にはなったようだ。乱れていた呼吸は先程よりも落ち着いている気がする。

 ひとまず安堵できた。

 傍らに居るチョッパーを見下ろしたルフィが尋ねる。

 

 「ナミはもう大丈夫なのか?」

 「まだしばらく様子は見なきゃならない。でも抗生剤は投与したから、良くはなるよ」

 「そうか」

 「ケスチアは珍しい、というよりもう絶滅したと思われてた病気だ。まだ油断はできない」

 

 水で濡らしたタオルをナミの額に置いてやりながらチョッパーが言う。

 そんな彼を見つめてルフィは頬を緩ませた。

 

 「でもお前のおかげで助かったんだろ? ありがとう」

 「なっ……べ、別に、お礼なんて……」

 

 驚いた様子で椅子から転げ落ち、慌てて立ち上がったチョッパーは後ずさりした。

 

 「う、うるせぇよ! そんなこと言われたって、嬉しくもなんともねぇぞ、バカヤローがっ!」

 「嬉しそうだな」

 

 褒められた影響なのか、チョッパーは唐突に踊り始めた。

 ぎこちない動きは彼の心情を表していて、単純と言うべきか、どうやら素直な性格らしい。

 にこにこと頬を緩める彼はひどく嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

 ルフィはますます興味を持つ。

 ナミはもう安全だとわかったため、今度はチョッパーに質問を始めた。

 

 「お前変な奴だなぁ。トナカイなのにしゃべるし二本足だし、医者なんだもんなぁ」

 「うっ……」

 「なんでしゃべれんだ?」

 

 素朴な疑問を持って何気なく問いかけてみた。するとチョッパーは笑みを消し、驚いた様子で背を仰け反らせ、どこか焦りを感じさせる面持ちでルフィから視線を逸らす。

 なぜそうなったのか、彼にはわからない。

 答えが出されずにいると部屋の隅に居たくれはが声を発した。

 

 「見ればわかるだろう? ただのトナカイさ」

 「へぇ~」

 「驚かないんだね」

 「ん? まぁ色々見てきたからな」

 

 くれはの言葉にもルフィは涼しい顔を崩さなかった。

 不思議なものならこれまでの航海でたくさん見ている。

 魚人や巨人、千年竜という伝説上の生物も目にし、人語を操る鷲に助けられたばかり。二足歩行で鼻が青いトナカイを見たところで驚かないのは今までの経験があるからだろう。

 そんな彼にくれはは感心した顔であり、チョッパーもまた少なからず驚いた様子だ。

 

 肩をすくめるくれはが語り出す。

 まるで動じなかった彼に興味を持ったようだ。

 手にした酒瓶を傾けながら弾む声色だった。

 

 「ひっひっひ、怖いもの知らずのバカってのは厄介だねぇ。今まで何を見てきたって? 喋るトナカイに匹敵するようなものだったのかい」

 「ああ」

 「そりゃ結構だ。どうやら本当に驚いてないようだしね」

 「にしてもおもしれぇなぁ~」

 

 ルフィの目は輝きを放ってチョッパーを見ている。

 しかしチョッパーはその視線を受け止めるのに戸惑いがあるようだった。

 

 「お前医者なんだろ? おれたちの仲間にならねぇか。海賊の仲間に」

 「えっ……?」

 

 唐突な言葉に、チョッパーが目を見開いて驚愕した。

 

 「お、おれが、海賊に?」

 「ちょうどおれたち、仲間になってくれる医者を探してたんだ。お前が来てくれたらまたナミが倒れても治してくれるだろ。だからおれの仲間になれ」

 「な、なんでおれなんか」

 「だっておもしれぇじゃねぇか。しゃべるし、青っ鼻だし、トナカイだし、そんで医者だ」

 「お前っ、おれのことバカにしてんだろ!」

 

 鋭い声を受けてルフィがきょとんと表情を変える。

 今の今まで怯えたような姿だったチョッパーが顔つきを変え、見るからに怒りを露わにした。どうやらルフィの言葉が癇に障ったらしく、冗談ではなさそうだ。

 二人のやり取りを耳にするくれはが人知れず口を閉ざす。

 

 「なんで? バカになんてしてねぇよ。お前いい奴みたいだし」

 「嘘つけ! おれは青っ鼻だし、トナカイなのにしゃべるし、でも人間じゃねぇ! それなのに仲間にしたがるわけないだろ! お前は嘘つきだ!」

 「なんで怒ってんだよ。言っとくけどおれは嘘つけねぇんだぞ」

 「嘘だ!」

 「嘘じゃねぇって。嘘つきはウソップだけだ」

 

 取り付く島もない様子でチョッパーは声を荒げている。

 なぜ怒るのか、理由がわかっていないルフィは心底不思議そうにして、退く気もない。

 見かねたくれはが溜息をついて語り掛けた。

 

 「そいつがただのトナカイじゃないとすれば、ヒトヒトの実を食っちまったってことか」

 「ヒトヒトの実? 悪魔の実の能力者か」

 「そうさ。人の能力を手に入れちまったトナカイ。人の言葉も動物の言葉もわかる。そういう奴を世間じゃ何て呼ぶか知ってるのかい?」

 「そりゃ知ってるよ。能力者だろ」

 「いいや。バケモノと呼ぶんだ」

 

 わずかに笑みを浮かべてくれはが酒瓶を傾ける。

 チョッパーが不意に俯き、帽子をきゅっと目深にかぶった。

 そしてルフィは、笑みを消して、何を言うでもなくじっとくれはを見つめる。次いでチョッパーに視線を動かし、黙り込んだ彼を確認した。

 

 バケモノ。不思議な力を持つ言葉である。

 言葉を失くして室内が静寂に包まれた後で、くれはがさらに言葉を重ねる。

 

 「トナカイの群れにも、人間からも認められなかった存在。両方の特徴を持っちまったせいか、たった一人で生きるしかなかった。今日出会ったばかりのお前が抱えきれるもんじゃ――」

 「なんだ、それならおれも一緒だ」

 

 にかっと笑うルフィは迷わず自分の頬を引っ張った。

 

 「だったらおれもバケモノだ。おれはゴムゴムの実を食ったゴム人間だからな」

 

 指を口の内側に引っ掛けたまま両手を伸ばすと、ゴムの肌は奇妙にも伸びていき、普通の人間では不可能な姿になってしまう。その上で彼は笑っていた。

 チョッパーとくれはは目を大きくして驚く。

 特にチョッパーは跳ぶようにして後ずさりし、勢いよく転んでしまっていた。

 

 「お、おお、お前、なんだよそれっ」

 「何ってゴムだよ。おれは全身ゴム人間なんだ」

 「驚いたね。あんたも悪魔の実の能力者なのか」

 「おれだけじゃねぇぞ。ウチには紙人間も居るし、かまいたち人間も居るからな」

 

 パッと指を離し、伸びた頬がバチンと戻る。

 その音にびくつくチョッパーを笑顔で見つめ、再度ルフィは楽しそうに言った。

 

 「トナカイだろうが人間だろうがいいさ。お前はナミを助けてくれたいい奴だし、仲間にしたかった医者だ。おれたちと一緒に海賊やろう」

 「お、おれは……」

 「海賊はいいぞ~。冒険するし、歌は歌うし、宴もやるんだ。やってみりゃきっと気に入るさ」

 「うっ――」

 

 生き生きとした顔でルフィが誘う。だがチョッパーは戸惑うばかりだ。

 

 彼には理解ができない。

 なぜルフィはそこまで強く勧誘するのだろう。確かにナミは助けたかもしれないが、出会ってそう時間は経っておらず、見た目は普通ではないというのに。

 ただの動物でもなければ人間でもない。

 自身を世界の常識から外れた異物だと自覚するチョッパーは、迷いの晴れぬ顔だった。

 

 そうして勧誘されるのが不思議で仕方なくて、同時に、なぜか胸が高鳴っている。

 まさか喜んでいるのか。

 自分でもよくわかっていなくて、逡巡するチョッパーが思わず視線を外した。

 ルフィは尚も笑顔で彼を見ていた。

 

 「なぁチョッパー、おれの仲間になれよ」

 「う、うっ、うるせぇ! おれは、海賊になんかならねぇぞ!」

 「あっ、おい!」

 

 急に駆け出したチョッパーは部屋から逃げ出した。

 慌てたルフィが追おうとするがその前にくれはが止める。

 

 「待ちな」

 「なんだよ、おれはチョッパーに用が――」

 「そう簡単な問題じゃないんだよ」

 

 くれはは、彼が思っていた以上に真剣だった。威圧感を醸し出してルフィを見つめ、サングラスを額に上げたため、強い眼差しは睨むように彼を捉える。

 動きを止めると直立して向かい合う。

 そこには敵意らしきものと優しさが窺えた。

 

 「あんたがどういうつもりかは知らないけどね、おいそれと出ていけるほど簡単じゃない。あいつは自分の家族や仲間にも、名も知らぬ人間たちにも拒絶された」

 「それなら聞いたよ。一人だったんだろ」

 「わかった上で言ってんのかい? とてもそうは見えないが」

 

 ぐびっと一口、酒瓶の中身を喉に通す。

 

 「あいつの傷はあたしでも治せない。心についた大きな傷さ。だがあいつ自身は何が悪いのかもわからず、何を恨めばいいのかもわからない。生まれた時から青っ鼻だったというだけで仲間を知らずに育った。自分自身をバケモノだと思ってる」

 

 ルフィは真剣な目で聞いていた。

 くれはが鼻先が触れそうになるほど顔を近付け、至近距離から言う。

 

 「連れて行きたきゃ好きにしな。だが一筋縄じゃ行かない。お前らにあいつの傷を癒せるかい」

 「知らねぇ。まだ試してねぇしな」

 

 威圧するように言ったはずだったが表情は崩れず、ルフィは口の端を持ち上げる。

 

 「一人が辛いのはおれもよく知ってる。だから仲間が必要なんだ。心の傷が癒えるかどうかなんてわからねぇし、そんなもんあいつ次第だろ」

 「ずいぶん突き放すねぇ。それで仲間かい?」

 「その代わりおれは、仲間はみんな守ってやるって約束できる。もう失わせたりしねぇ」

 

 それは以前にも口にした誓いだった。

 状況や事情は違えど、望みは同じ。

 もしチョッパーが仲間を求めているのなら、自身は彼を仲間にして、二度と一人にならないように全員を守れると誓える。言葉は少なく、表情に決意が表れていた。

 

 くれはは少し驚いた顔になる。

 信じて疑わないという表情。ルフィが冗談を言っているようには見えない。

 彼に対する印象を少し変えざるを得なくて、額にあったサングラスを目元に落とした。

 

 変わっているというか、やはりバカだ。

 迷いのないバカほど厄介な相手は居ない。そう考えてやれやれと首を振った。

 

 「あんたには話が通じそうにないね……あいつも妙な奴に目をつけられたもんだ」

 「しっしっし。あっ、そんなことよりチョッパー探さねぇと。お~いチョッパー!」

 

 今度こそ駆け出したルフィが部屋を飛び出していく。

 呆れながらも笑みを浮かべたくれはは彼の背を眺めてぽつりと呟いた。

 

 「ああいう手合いは厄介だと知ってるからねぇ……妙な奴が来やがったもんだ」

 

 その声にはどこか楽しげな、複雑な感情が宿っていた。

 

 廊下に出たルフィはどこかへ消えてしまったチョッパーを探す。

 暖炉の火で温められていた部屋から一歩出るとひどく冷える。城内は外の気温と変わらず、その証明とばかりに至る所が凍り付き、雪が積もっている場所も少なくない。

 上着を脱いでいなかったのは気付かなかったからだが正解だろう。

 彼は腕を擦りながら城内を見回した。

 

 「うおっ、さみぃ~。なんで城の中なのにこんなさみぃんだ?」

 

 走りながら辺りを見回し、内部に詳しくないため適当に進んでいた。すると偶然にも外へ繋がる大きな扉を見つけ、ふとルフィは立ち止まった。

 扉が完全に開かれているのである。

 そこから風と雪とが吹き込んでいて、それだけ寒くなるのも当然だった。

 

 「なんだよ、扉開いちゃってるよ。さみぃわけだ」

 

 上着は着ているが足は素肌を晒してサンダルを履くのみ。寒さを感じるのも当然だ。

 階段を降りて一階へ降り、扉を閉めるために近付いていく。

 その途上で扉の向こうに人影が見えた。

 

 「おい、やめろ!」

 「おぉっ、チョッパー」

 「扉は閉めるなよ! 絶対に!」

 

 強く言われるためなんとなく足を止める。

 どうやら一足先に外まで逃げていたらしい。逃げ足の速さに驚いてしまう事実があるが、今は気にすることもできず、思いがけない真剣な顔つきにぽかんとした表情だ。

 疑問を持つルフィは彼に歩み寄りながら質問する。

 

 「だって寒いだろ。雪入ってきてるぞ。なんで開けてんだ?」

 「と、とにかく、閉めちゃだめなんだ」

 「だからなんで」

 「閉められない理由があるから……」

 

 緊張した面持ちのチョッパーは後ずさりを始めている。気にせずルフィはそちらに近付いた。

 扉に近付いたところでふと見上げる。

 何気ない仕草だったが何か気になったようだ。

 

 閉められない理由を見つけた気がした。

 開かれた扉の上に乗る物があった。

 

 スノウバードの巣である。

 真っ白な羽を持つ美しい鳥が、親鳥と雛鳥が数羽確認できて、仲睦まじい様子が見られた。

 白くなる息の向こう側に一家の団欒がある。開かれた扉の上に巣が作られたため、閉めてしまうと彼らの住処を壊してしまうことになるだろう。

 チョッパーは彼らのために閉めるなと言っていたようだ。

 

 理解したルフィはにんまり頬を緩める。

 視線を受けたチョッパーはびくりと肩を震わせた。

 彼の優しさを感じて気分が良くなったらしい。

 扉を閉めるのをやめ、外に出て隣に並ぶ。外は城内とは比べ物にならないほど雪が高く積もり、踏みしめると埋もれてしまって寒さを感じるが、今は気にならなかった。

 ルフィとチョッパーは隣に並んでスノウバードの巣を見上げる。

 

 「変なとこに作ったなぁ。なんであんなとこに」

 「さぁ……気付いた時にはあったから」

 「ふ~ん」

 

 静かな時が流れる。

 何を話すでもなく隣に立って、不思議とチョッパーも逃げようとしない。

 しばらくすると親鳥が巣から離れ、空へ羽ばたく。動きに合わせて首を動かした二人はスノウバードを見送り、ちらほら雪が降ってくる空を見た。

 

 ルフィがあっと声を出す。

 先程城に入る前にも気になった物が視界に入っていた。

 

 城の天辺に掲げられたジョリーロジャー。黒い旗にドクロが描かれ、数枚の花びらが散る。それが桜の花びらであることはルフィも気付いていた。

 昔、本を読むのが好きな兄から聞いた桜の話を思い出す。

 桃色の花びらが舞い散る様はとても美しいのだという。

 そんな話を思い出す一方、なぜその旗があるのだろうと思った。

 

 ジョリーロジャーは海賊であることを示す旗。

 まさかこの城に海賊が居る訳も無し、掲げられる理由がわからない。

 視線に気付いていたのだろう。ルフィに問われたチョッパーは驚かなかった。

 

 一際強い風が吹いて、積もった雪がわずかに舞い上がる。

 

 「なんで海賊旗があるんだ? お前ひょっとして海賊なのか?」

 「違うよ。あれは……ドクターの旗だ」

 「ドクター?」

 「Dr.ヒルルク。おれに名前をつけてくれた、世界で最も偉大な医者だ」

 

 ふぅん、と気のない声。

 風ではためく旗を見ながらチョッパーが語る。

 

 「ドクターは全ての病気にドクロを掲げたんだ。治せない病気なんてないって言って」

 「海賊じゃねぇのか」

 「海賊ではなかったけど……」

 「うん、でもいい旗だ。おれは好きだぞ」

 「そ、そうか」

 

 俯いてしまうがチョッパーはどことなく嬉しそうだった。

 照れた様子で帽子のつばを握り、大事そうに触れる。

 ルフィの目はそんな彼を優しく見ている。

 

 「そのドクターはどこに居るんだ? さっきのばあさんじゃねぇよな」

 「ドクターは……死んだんだ。その……」

 「そうか」

 

 多くを聞こうとはせずルフィが遮る。

 言い辛い話なのだろう。チョッパーの声色は気落ちした様子になる。

 

 「おれ、ドクターのことが大好きだった。だからドクターは助けられなかったけど、ドクターの夢はおれが継ぐんだ。どんな病気でも治せる万能薬になる」

 「お前が万能薬か。しっしっし、いいな」

 「なれると、思うか?」

 「きっとなれるさ。お前が命賭けてやるんならな」

 

 にかりと笑うルフィの顔を見上げ、ようやく肩の力を抜いたチョッパーが笑った。

 

 「そうか……そうかな。エッエッエッ」

 「お前変な笑い方だなぁ」

 

 口元を手で押さえて笑う彼につられてルフィも笑った。

 少なくともさっきよりは警戒心も薄れただろう。まだ全てではないとはいえ、少しずつ、一つずつチョッパーを理解していく自覚がある。

 

 風に揺られて旗が動く。

 二人はしばらく無言でその様を見ていた。

 

 少し経って、ルフィが体を大きく震わせたのを見る。気付いたチョッパーは声を漏らした。

 彼自身は厚い毛皮があって寒さに強いが、防寒着を着ようと人間にとっては辛い寒さ。ずっと外に居続けるのもまずいと思ったのだろう。

 また少し緊張して、おどおどした態度になり、声をかけるか否かで迷う。

 迷った挙句、チョッパーが意を決してルフィに言った。

 

 「中に入ろう……ここは冷えるから」

 「ん~。なぁチョッパー」

 

 笑顔の彼は突然チョッパーの顔を覗き込む。

 

 「おれの仲間になれよ」

 

 再びの勧誘。唐突で、彼の発言など無視した無邪気な一言。

 びくりと震えたチョッパーは咄嗟に後ずさりしていた。

 

 「ま、まだ言ってんのかよ、それ。だから、おれなんか海賊になれないって……」

 「いいじゃねぇか。おれはお前がバケモノでもいいし、面白トナカイでいい。ウチの船医はお前がいいんだよ。さっきそう決めた」

 「どうして、そんなこと」

 「お前がいい奴だからだ。それじゃだめか?」

 

 邪気もなく、迷いもせず、そう言ってくる彼に驚きを隠せない。

 そんな言葉を向けられたのは生まれて初めてだった。

 経験がないせいか、反応に困るチョッパーはパッと視線を逸らした。しかし気分を害すどころかルフィは突然雪の上に寝そべり、彼の顔を覗き込んで話しかける。

 

 「なぁチョッパー、一緒に海賊やろうぜ~」

 「う、うるさいっ! おれは、海賊になんか、ならないったら……!」

 「え~なんでだよ~。海賊は楽しいんだぞ? お前も一回やってみりゃわかるって」

 「そ、そうなのか? 海賊って……楽しいのか?」

 「当たり前だ! だから一緒に行こう!」

 「う、うぅ……」

 

 頭を抱えて、悩む素振りのチョッパーだったが、絡みついてくる彼を突き飛ばして叫んだ。

 

 「ならねぇよっ! 海賊になんて!」

 「いやだ! おれはお前を仲間にするって決めたんだ!」

 「そ、そんなの知らねぇよ!? おれはならないって言ってるんだぞ!」

 「いやだ! おれの仲間になれよ!」

 「ならない!」

 

 ついにチョッパーは駆け出し、慌てて城の中へと入っていった。

 転がっていたルフィも起き上がり、即座に彼を追う。

 二人は騒々しい声を発しながら城内を駆け回り始めた。

 

 「待て~! お前おれの仲間になれぇ!」

 「ぎゃあああああっ!?」

 「やれやれ、騒がしいねぇ。もう少し静かにできないのかい」

 

 条件反射で逃げるチョッパーを追うルフィ。

 そんな二人を確認したくれはは、呆れた声で呟いていた。

 


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