ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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トレジャーバトル編
ニュースクーからの招待状


 空は快晴で風は強め。波も幾分速い。

 ゴーイングメリー号は王冠島で得たログに従って海を進んでいた。

 船上にはのどかな空気が流れ、それぞれがいつもの如く、好きなように過ごしている。

 

 ラウンジには現在三人居た。

 サンジとシルクがキッチンに入って料理を行っており、テーブルの近くではウソップが何の変哲もない台に座って作業をし、それをチョッパーが傍で見ている。

 彼は手先が器用であり、見ていて飽きない。チョッパーは興味津々に質問する。

 

 「ウソップ、今日は何作ってんだ?」

 「ん~? ナミが新しい武器作れって言うからよ。まぁこの一味でそんなことできるのはこのキャプテン・ウソップ様だけだしな。しょうがねぇから作ってやってんのさ」

 「ウソップは色んなことが得意なんだなぁ」

 「へへっ、まぁな。じゃあこの話をしてやろう。あれはおれが七歳の頃だった――」

 

 ただの台でしかない通称“ウソップ工場”にて、またしてもウソップはホラ話を始めて、目を輝かせるチョッパーは身を乗り出してそれを聞き始めた。

 ウソップも大概だが、好奇心旺盛なチョッパーは楽しそうにしている。

 作業を続けながらシルクは微笑ましそうに彼らを眺めていた。

 そしてこちらも、彼女に声をかけられてサンジが鼻の下を伸ばして嬉しそうだ。

 

 「チョッパー、もう慣れたみたいだね。前より楽しそう」

 「前の島で吹っ切れたのかもな」

 「うん」

 

 王冠島で何があったか、島での宴に誘われた際に大体聞いている。しかしシルクは船番だったため現場を見ていない。チョッパーが変わっただろう瞬間を見ていない。

 なんとなく仲間外れにされた気がして少し寂しかった。

 

 「でも、やっぱり船番するのって寂しいね。今度は一緒に冒険したいな」

 「おれもシルクちゃんと冒険したいなぁ~♡ 次の島では一緒に行動しようねぇ~」

 「またサンジがダメになってるな」

 「そういえばおれ、サンジのダメに効く薬作るように頼まれてたんだった」

 

 サンジのだらしない顔を見て二人が呆れる。

 そんな時間が許される程度には平和な一時だった。

 

 しばらく和やかな会話が続き、その間に料理が出来上がる。

 良い匂いがラウンジを満たしてウソップとチョッパーは満面の笑みを浮かべていた。

 昼食の時間である。サンジは二人に目を向け、シルクを見ていた時ほどではないが薄く微笑みながら言った。

 

 「できたぞ、メシの時間だ。チョッパー、あいつら呼んできてくれ」

 「うん、わかった!」

 「それとウソップ、さっさとその台片付けろ。邪魔になるだろ」

 「台って言うな。ウソップ工場と呼べ」

 「意味は同じだ」

 

 嬉しそうなチョッパーが甲板へ駆け出し、その間にウソップが作業を止めて台を片付ける。

 サンジとシルクは完成した料理を皿に盛りつけていく。

 

 チョッパーが戻ってくると同時に他の仲間たちがラウンジへ集まった。がやがやと室内は一気に賑やかになり、それぞれがいつもの席に座る。

 座る位置は決められている訳ではないがいつからか習慣になっているらしい。

 

 座ってすぐにサンジとシルクが料理を運んでテーブルに置く。

 中でもルフィが一際嬉しそうにしていて、チョッパーやカルーも同じく料理を見ながらわくわくした顔。他はそこまで顕著ではないものの穏やかな表情をしている。

 置かれた瞬間に手を出しそうなルフィをナミが叱り、少しだけ待った後。

 全てが並んでサンジとシルクも席についてから食事が始められた。

 

 「よし。ルフィ、もういいわよ」

 「んまほぉ~っ!」

 「いっただっきま~す!」

 

 ルフィとウソップが声を揃えて言った後、全員が手を動かして食べ始めた。

 いつも通りに文句のつけようがないほど美味。

 誰もが頬を緩めて舌鼓を打つ、普段の食事風景だった。

 

 「うんめぇぇ~っ!」

 「当たり前だ。誰が作ったと思ってんだよ」

 「サンジは料理がうめぇなぁ~。海上レストランってとこもこんなにうまかったのか?」

 「ま、ほどほどじゃねぇか? 一番腕があったのはおれだがな」

 「へぇ~」

 

 騒ぐルフィの隣でチョッパーが質問しており、サンジはにこやかに微笑んだ。

 島を出たばかりということもあって何にでも興味を持っている様子である。チョッパーは様々な物に興味を持ち、純粋な目で質問してくることが多かった。まるで子供のようで、大半が十代と二十代で構成された一味の中で末っ子のような感覚がある。

 彼一人が食卓に入っただけでかつてとは空気が違っている気がした。

 

 そんな中でビビだけが少し暗い表情をしている。

 食べてはいるが手の動きは遅く、見るからに様子がおかしい。

 気になったサンジが彼女の顔を覗き込んだ。

 

 「どうかしたビビちゃん? 口に合わなかったかな」

 「あ、いいえ。ごめんなさい。とても美味しいわよ」

 「何か気になることでもあった?」

 

 心配した顔でナミに問われ、視線を落とした彼女はぽつりと語る。

 

 「少し、心配になって……アラバスタは無事かしら」

 「そういうことね。確かにそれは仕方ないけど」

 「わかってるの。今ここで焦ったってどうにもならない。だけど……」

 

 心配で堪らない。ビビの顔にはそう書かれていた。

 困ったナミは眉間に皺を寄せてしまう。

 彼女がそう思うのも無理はない。ここまで祖国の情報を得ることはできず、得られるはずだったエターナルポースが手に入っていないため、いまだにアラバスタへ向かう手立てがない。

 遅くなり過ぎれば手遅れになってしまうのではないか。

 一度気になると心配せずにはいられない。

 

 王冠島でログは溜まっている。現在、ナミの腕にあるログポースには次の島を指す指針があるとはいえ、これがアラバスタを指しているかどうかは行ってみなければわからない。

 果たしてこのまま進んでいていいのか。

 不意にそんなことを思ったのだろう。

 

 今のところ、バロックワークスに関する重大な情報を持つのはキリのみ。

 彼が大丈夫だと言うから今日までなんとか過ごしてきた。

 ただ、考えてみれば彼の想像通りに事が進んでいるとも限らない。

 

 困ったナミはキリに目を向ける。

 彼もどことなく困惑していて、いつもの笑みは見られなかった。

 

 「無事かどうかと聞かれると、多分無事としか言えないね」

 「それって根拠あるの?」

 「ないけど、ボクならそうするしさ」

 「そんな適当な理由で……ビビは真剣なのよ。もう少しちゃんと考えて」

 「考えてるよ。でも現に新聞を確認しても続報はない。アラバスタが乗っ取られたなら何よりも先に記事になるはずだ。なんせ七武海が動いてるわけだし」

 「それは……」

 「ボスはまだ動かない。まず間違いなくね」

 

 キリはあっけらかんと言って笑みを浮かべた。

 よほど自信があるという口調である。多分という発言が嘘のようだ。

 そこまではっきり言われてはナミやビビもそうなのだろうと口を閉ざしてしまい、強く言うことはできなくなってしまう。

 その一方でキリは溜息交じりに呟いた。

 

 「でもいい加減そろそろなんとかした方がいいかもね。このままログを辿っても辿り着けるっていう保証はないし、一番確実なのはエターナルポースだ」

 「海賊島の人たち、アラバスタに着けるラインを選んでくれたんじゃ――」

 「あぁ、あの人たちは信用できないから」

 

 あっさり言われてかなり驚く。

 思わず聞いていたウソップが彼へ問うた。

 

 「信用できねぇって、商売だろ。エターナルポース専門の店じゃなかったのか?」

 「海賊は基本信用しない方がいいよ。特に決闘を邪魔しろなんていう連中はね」

 「嘘つかれたのかよ……ひでぇ」

 「海賊しか居ない島なんだ、それが当然さ。それにウソップが言うのもおかしな話だけど」

 「う、うるせぇよ。意外と信用できるんだぞ、おれは」

 

 ウソップが慌てる姿にキリは笑顔で肩をすくめる。

 おどけるように言っているがそこまで楽観視できる状況ではないように思う。

 ではこの航路はどこを目指しているのか。

 その話によってビビはますます不安を募らせてしまったようだ。

 

 「どうすればいいのかしら。どこかでエターナルポースが手に入ればいいんだけど……」

 「もう一回海賊島に、って行っても意味ねぇか」

 「そういえば昨日の夜連絡があったよ。ドリーとブロギーは今海賊島だって」

 「はぁ!? お前、なんでそんな大事なこと隠してたんだよ! 師匠たち島を出たのか!」

 「隠してたんじゃなくてみんなが寝た後だったんだって。手紙が届いたんだ。本人が書いたんじゃないだろうけど、それこそ航路屋の友達に会ったんじゃない?」

 「そうか……師匠たちも海に出たんだなぁ」

 「今は二人の新しい船を造ってるんだって。かなり巨大になるそうだけど」

 「それも大事だけど、その話じゃなくて」

 

 脱線しかかったところでナミがぴしゃりと言う。

 今はどうやってエターナルポースを手に入れるかという話だ。

 これまではナミが病気になったり、突然チョッパーが攫われたりと忙しかったが、いよいよ真面目に考えなければならない。目的地はあくまでもアラバスタである。

 

 「いくらクロコダイルがまだ仕掛けないからって悠長にしてる場合じゃないわ。急げるようなら急いだ方がいいと思う。こうしてる間にも国民は苦しんでるわけでしょ?」

 「そうは言われても」

 「打つ手がねぇか……」

 

 キリとウソップが揃って溜息をつく。

 真剣な話を続けて、いつの間にか食事時の雰囲気が変わってしまった。

 ゾロとサンジも真剣な顔で聞いていて、手こそ止めていないがルフィとチョッパーも彼らの会話に注目しており、特にビビとイガラム、カルーは複雑そうな顔をしている。

 言った後で、ナミは自身が解決策を出せないことを悔しく思う。

 言い辛そうに黙ってしまった彼女の代わりにシルクがキリへ尋ねた。

 

 「キリ、なんとかできないかな」

 「うーん、難しいね。流石にこればっかりは」

 

 ついにはキリもお手上げという様子だ。

 室内は重苦しい空気が漂い、普段とは些か違った時間が流れる。

 ちょうどそんな頃、甲板から鳴き声が聞こえてきた。

 

 「ニュースクー? もうお昼なのに」

 「お届け物ですって言ってたぞ」

 

 扉に振り返って疑問を露わにするナミへ、チョッパーが言う。

 すぐにチョッパーを見た彼女はつい先日聞いたばかりの話を思い出したようだ。

 

 「そういえばチョッパーって動物と話せるのよね」

 「うん。おれは元々動物だからね」

 「それって凄い特技よね。今までこの船にはなかったし」

 「そ、そうかなぁ……えへへ、そんなことねぇよ! バカヤローがっ!」

 「チョッパー、フォーク振り回すな」

 「ボクが見てくるよ」

 

 照れ始めたチョッパーがサンジに諫められる一方、キリが席を立った。新聞配達の時間帯でないのにやってきたニュースクーに会うべく、甲板に向かう。

 彼はすぐに戻ってきた。

 手には手紙とエターナルポースを持っていて、仲間たちの視線が集められる。

 

 「お届け物ってそれか?」

 「うん。ブルーベリータイムズだよ」

 「なんだそれ?」

 「基本的にグランドラインでのみ発行されてる新聞。海賊御用達なんだ」

 

 席へ戻ったキリは椅子に座り、持っていたエターナルポースを隣に居るナミへ渡す。

 行先が書かれていた。アラバスタではない。聞いたこともない島だ。

 書かれた名は“ブルースクエア”。

 ログを辿ればその島に辿り着くらしい。

 

 ナミはじっとその指針を見つめて考える。

 ニュースクーが持ってきたというそのエターナルポース。良い予感はしなかった。

 

 「ブルーベリータイムズがなんでエターナルポースを? うちが取ってるのは世経だけだし、これだけ渡してくるなんてあからさまに怪しいじゃない」

 「手紙も預かってるよ。今読むから」

 「それがおかしいって言ってるの。だって配達員じゃなくて新聞社なのよ?」

 「まぁ、それなりに理由があるってことさ」

 

 キリが封筒から手紙を取り出し、広げて読み始める。

 一同は食事を続けながらその声を聞いた。

 

 「じゃあ読むよ。えっと……“親愛なる海賊諸君へ。これを読んでいるということは、君たちは海賊の祭典へ招待されたということになる”」

 「海賊の祭典?」

 「いい予感はしねぇな……まさかデッドエンドみたいな話か?」

 

 読み始めてナミとウソップが怪訝な顔をした。

 新聞社から手紙が来たというだけで嫌な予感がするのに、その内容までもが胡散臭い。

 逆にルフィは“海賊の祭典”という言葉に反応し、口を膨らませながらさっきより興味を見せる。

 

 「“近年、世界政府による海賊への警戒は増していて、政府の検閲を受け、新聞社ですら正しい情報を載せることはできない。海賊の情報は捻じ曲げられて伝えられている”」

 「まぁ、そりゃ悪いところは見せられねぇもんなぁ」

 「世界政府の特権ね。海賊にはそんなことできない」

 「キリはやったけどな」

 「あぁ、アーロンの件ね。あれも書いた新聞社はどんな目に遭ってることやら……」

 「“海賊は悪だと考えている世間にも知って欲しい。全ての海賊が市民に害を及ぼす悪い奴ばかりではないことを。彼らは自由を愛する存在なのだと”」

 

 キリは静かな声で手紙に記された文章を読み進めていく。

 

 「“彼らのありのままの姿を伝えたい。そこでおれは考えた……遊びを通じてなら、海賊たちの活躍を世に広めることができるのではないかと”」

 

 一同の反応は真っ二つに分かれていた。

 純粋な好奇心を覗かせる者と、怪しいと判断して怪訝な顔をする者。

 キリが気にせずに続きを読み上げる。

 

 「“ブルーベリータイムズ社から君たちへ、トレジャーバトル大会の開催を告げる”」

 

 いよいよ訳が分からなくなってきた。

 警戒したウソップとナミは嫌そうな顔をして眉を顰める。

 

 「なんかやべぇ話じゃねぇのか、これ。聞かねぇ方がいいんじゃねぇか?」

 「そうね。ルフィが興味持っちゃってるし、ここまでにした方がいいかもしれない」

 「トレジャーバトル大会? おもしろそうだなぁ~それ!」

 「ほら来た」

 「ねぇキリ、もうそこまでにしといた方が――」

 「“この大会は海賊たちが力を競い合う戦いであり、如何に優れた海賊であるかを競うために開催される。優勝者には望む物をなんでも贈呈する”」

 「やるわ」

 「やっぱり速ぇなおいっ!?」

 

 優勝賞品は優勝者が望んだ物。文面から考えれば何を望んでもいいらしい。

 その言葉にナミの目の色が変わって喜色に包まれる。当然ウソップは恐怖心と驚きと突発的な反応から声を発するのだが、すでに彼女には相手にされなかった。

 

 ルフィやチョッパーに加えてナミまで目を輝かせ始め、嫌な雰囲気があった。

 まさか行くつもりではないだろうなとウソップが冷や汗を垂らす。

 

 「“諸君らの勇気とチームワークを称え、開催の時を待つ。参加の意思がある者は島へ集え。主催者兼ブルーベリータイムズ社記者、ロッキー・ハッタリー”」

 「やめよう。これは危険な匂いがする」

 「行こう! トレジャーバトル!」

 「やっぱりそう来たぁ~!?」

 

 手紙を読み終えると同時にルフィが笑顔で叫び、ウソップが頭を抱えて悲鳴を上げる。

 彼らの反応は予想通りだ。周囲はさほど驚いてはいなかった。

 

 「おい待てよルフィ! こんなのおかしいだろ!? ただの新聞社が海賊を呼び集めて大会を開催するとか言うはずがねぇ! これは世界政府の罠だ! 甘い言葉と賞品でおれたちを集めて一網打尽にしようって腹なんだぜきっと! 行かねぇ方がいいに決まってる!」

 「トレジャーバトルかぁ。どんな大会なんだろうなぁ~」

 「ル~フィ~! 頼むからお前は疑うってことをもっと知ってくれ!」

 

 粗方料理を食べ終えたルフィが嬉しそうに笑っており、もはや話を聞いていない。溢れる冒険心によって次の島への期待を募らせ、ウソップが彼の体を揺さぶろうと気にしなかった。

 期待しているのは彼だけではなく、揺さぶられるルフィの隣に居るチョッパーも同じで。

 彼はつぶらな瞳でシルクへ問いかけた。

 

 「それって危険な大会なのかな?」

 「うーん、どうだろう。私も聞いたことないし、海賊が集まるなら、結構危険かも」

 「そうなのか。でも面白いのかな?」

 「うん。きっと面白いと思うよ。ルフィも楽しみにしてるし」

 「そうか! じゃあおれも行ってみたいな」

 「チョッパ~!? お前は何もわかってない! おれは経験で知ってるがルフィが楽しいっていうことは大概危険なんだぞ! 命の危機だ!」

 

 微笑ましく笑い合うチョッパーとシルクへ、涙さえ流しかねないウソップが必死に訴える。

 食事とはまた別の要因ですっかり騒がしくなっていた。

 いつもの喧騒が帰ってきたことに安堵しつつ、ある時ビビが身を乗り出す。その目は手紙を眺めるキリを見て、どこか必死な様子もあった。

 

 「ねぇキリさん、その賞品って……」

 「そうだね。同じこと考えてると思うよ」

 「もし私たちが優勝して、アラバスタへのエターナルポースが欲しいって言えば、賞品として用意してもらえるってことなのよね?」

 「多分そういうことだと思うよ。それに相手は新聞社だからね。海賊と違って取材に行くこともあるだろうし、エターナルポースを所持してる可能性は高い」

 「それじゃあ」

 「ルフィの言う通りだ。ボクらも参加しよう」

 「えぇ~っ!?」

 

 咄嗟にウソップが悲鳴を発するものの、一同の意志はすでに固められているようだ。

 ゾロとサンジは何も言わずに笑みを浮かべ、イガラムは決意に満ちた表情をし、カルーは些か怯えているようでウソップに近い態度である。

 

 それぞれ反応は違っていたが、ようやく希望が見出せたのも事実だ。

 罠かもしれないし、騙し討ちの可能性もある。しかし彼らには希望が必要なのも確か。

 たとえ罠だったとしても行く価値はあるだろう。

 ビビは力強く頷いた。

 

 「ビビ様、頑張りましょう。必ずや我々の手でアラバスタを救うのです」

 「ええ」

 「ねぇビビ、物は相談なんだけど、優勝賞品はアラバスタのエターナルポースと十億ベリーっていうのはどうかしら。多分危険な目に遭うんだし、それくらいはないと、ねぇ」

 「は、はい……」

 「ナミ、怖がらせちゃダメ。ビビに言ってもしょうがないんだから」

 

 怪しく笑うナミにビビは幾分怖がった顔だが、すぐにシルクが助け舟を出す。その声もまた周囲の騒がしい声に紛れたものであった。

 騒ぐルフィやウソップに、賞品を欲するナミとビビ。

 この船だけでも様々な思惑が渦巻いている。

 サンジは、本番は荒れることだろうと想像しながらキリへ声をかけた。

 

 「海賊の祭典だとよ。危険だと思うか?」

 「危険なんだろうねぇ」

 「ちなみに、お前はこの大会のこと知ってたのかよ」

 「いや、初めて聞いた。今回が初めてなのか、ただ知らなかっただけなのか」

 「どっちにしろ人は集まりそうだな。賞品は何でもいいなんて言われちまった日には」

 「そうだね。とりあえず大変なのは間違いなさそうだ」

 

 聞けばキリも知らない祭典とやららしい。だとすれば安心はできないだろう。

 海賊が集まるのはデッドエンドと同じだが状況が違っている。

 サンジは苦笑し、しかし悪くないと思った。

 

 宴が好きなこの一味だ。祭りも好きに決まっている。

 船内の騒々しさはそれを表しているようなものである。

 

 メリー号は一路、“トレジャーバトル”が行われるという島を目指すこととなった。

 


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