ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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予選三回戦 バトルロイヤル

 予選の一回戦と二回戦を終え、失格となった参加者は614組。

 行きは豪華客船ゴージャス・ハッタリー号で運ばれた彼らだが、一度負ければ扱いは変わり、敗者用のさほど費用もかかっていない帆船に目一杯詰め込まれて運ばれる。

 

 彼らは帆船の上で映像電伝虫が映すモニターを見ていた。

 競技の内容を見つめており、その過酷な様相にぞっとする者も少なくない。

 

 現在、残った参加者はヒッコシクラブに乗って次の予選に向かうため移動を行っている。それもまたモニターに映し出されてハッタリーの実況が行われていた。

 じっとモニターを見ていたゾロとウソップは何も語らずに口を閉ざしている。

 長い間黙っていたのだが、ある時ついにゾロが口を開いた。

 

 「不慮の事故だ」

 「どこがだッ!? お前が勝手に行っちまうから迷って間に合わなかったんだろ! だから先頭になるなって口が酸っぱくなるほど言ってたのに!」

 「てめぇがびびって走らねぇからだろうが!」

 「び、びびってねぇよ、バカにすんな! つーかおれは何度も方角は教えてたぞ!」

 「やめなさいよあんたたち。今更そんなこと言ってもどうしようもないでしょ」

 

 腕組みをして呆れたナミが二人を止める。

 二人は渋々言い合いをやめて大人しくなった。

 

 一回戦の時点でナミとサンジ、さらにイガラムとカルーが脱落。

 二回戦になってゾロとウソップが脱落した。

 現在、ルフィとビビ、キリとエース、シルクとチョッパーが勝ち残っている。だがモニターを眺めたナミは心配で堪らなかった。今回のゲームは過酷過ぎる。数々の強敵に命を狙われながら宝探しやレースを行い、しかも休息さえ許されない。

 ルフィやキリは大丈夫でも、ビビとシルクとチョッパーには辛いはずだ。

 

 敗退した今となっては見ていることしかできない。だが仲間たちが疲弊した顔をしていることは映像で見ても伝わってきて、ナミは居ても立っても居られなくなっている。

 新たな武器を手にしても何もできていない。それがただ悔しかった。

 

 悔しさならば敗退した全員が感じているだろう。

 ゾロとサンジは本来の力を発揮できぬまま振り落とされ、言葉にすることもできない。

 ウソップもまた責任を感じて、自身の無力さを嘆いていたようだ。

 そしてそれ以上に落ち込んでしまったのが、ビビと会えぬままに敗退したイガラムである。

 

 「ビビ様……申し訳ありません。護衛隊長イガラムはビビ様のお姿を目にすることなく敗北したとんでもない弱者です。私はただのちくわのおっさんですな、ハハハ……」

 「おい、あそこに屍が転がってる」

 「ビビに会うこともできずに一回戦が終わったからね。ほっときなさいよ。今更何言っても慰めにだってならないわ」

 「ありゃ重症だな。まぁ、他にも似たような奴が居るが……」

 

 ぐったりと倒れているイガラムは凄まじい負のオーラを発しているため、今や誰も近付けなくなっている。辛うじてペアとして参加したカルーが傍に居るものの立ち直る気配がない。

 ウソップが思わず同情してしまい、ナミが溜息交じりに答えた。

 その直後に腕を組んだゾロが視線の先を変えると、同じくらい落ち込んだ人物を見る。

 

 瞳を潤ませ、涙を溜めたベビー5が自身の敗退を嘆いていた。

 傍に座ったバッファローが話を聞いているらしいが、どうも鬱陶しそうにしているらしい。

 

 「うぅ、敵を狩るのに夢中になっている間にゲームが終わるなんて……最後まで彼の役に立ちたかったのに! これじゃ彼を優勝させてあげられない!」

 「んに~ん。これでやっとドレスローザに帰れるだすやぁん」

 「バカ言わないで! まだやれることはあるもの! 私はキリと一緒に居るわ!」

 「またそれか。どうせあいつも消されるだすやん。たかだか2000万の賞金首……」

 「そんなことは私がさせないわよ!」

 「っはぁ~そこに居たんだねベビー5ちゅわぁ~ん!」

 

 突然目の色を変えたサンジが飛んで行ってしまい、彼女の目の前で着地する。

 

 「君も敗退してたのか。でも気に病む必要はない。だってほら、おれたちはここで出会えたんだから。ひょっとしたらおれは君に会うために生まれてきたのかもしれない……」

 「えぇっ!? 私、必要とされてる……!?」

 「ついでにアホが発動したぞ」

 「あれはほっとかない方がいいかもしれないわね。まったく、キリもキリよ。敵か味方かもわからないのに連れ歩いてるんだから」

 「あいつはあいつで絡まれてるって感じだったけどな」

 

 敗退という言葉が脳裏に残って気分は悪いが、いつまでも落ち込んでいられない。

 こうなれば必死に仲間を応援するのみだ。一足先に考えを変えようとしていたナミはウソップと話した後、鼻の下を伸ばしているサンジに振り返る。

 

 「サンジくん、ちょっとこっち来て」

 「はぁ~いナミさん! 君の瞳にフォーリンラブ♡」

 「アホか」

 「アァ!?」

 

 飛んで戻ってきたサンジの耳にはゾロの呟きが聞こえて、また一触即発の空気が生まれる。

 暇さえあれば彼らはこれだ。ナミとウソップは同時に頭を抱えた。

 

 「なんか言ったか迷子くん。てめぇの哀れさを嘆いてたか?」

 「なんか言ったか一回戦敗退」

 「なんだとてめぇ……!?」

 「事実だろ。おれは二回戦には進んだ」

 「ふざけんな。それもてめぇの間抜けさでおじゃんにしたんだろうが」

 「ハンッ。宝の一つも見つけられねぇ軟弱者の声は聞き取り辛ぇな」

 「上等だ。今ここでおれの実力を思い知らせてやろうか?」

 「やめとけよ。怪我するのはお前だけだ」

 

 ゾロとサンジが至近距離で睨み合う。競技が終わった直後で元気なものだ。

 今はシルクが居ないため、仕方なくナミが動いた。

 多少の苛立ちも込めて彼らの後頭部を同時に殴ると一瞬で黙らせる。

 

 「やめろッ!」

 「おぐっ!?」

 「はうっ!?」

 「すげぇ、一番強ぇ……」

 

 手荒だったが最も効果的だっただろう。二人は共に殴られた後頭部を撫で、サンジは相手がナミだということで無条件に表情を緩ませ、ゾロは不服そうに表情を歪ませる。

 ひとまず喧嘩は止められたようだ。

 その手腕に誰よりもウソップが恐れおののき、顔を青ざめさせながらナミを見つめた。

 

 「今はそんなことしてる場合じゃないでしょ。私たちは負けたけど、希望はまだある。声が届かなくてもあいつらを応援するのよ」

 「そりゃ確かにそうだな。でもルフィとキリが居るんだぞ? しかもエースも居るし、今更おれたちが心配しなくても優勝は確実だと思うけどな」

 「いや、そうとも言えねぇな」

 

 心配しながらも笑顔で告げたウソップに、サンジが静かな声を発した。

 煙草に火を点けて煙を吐き出す。

 女性に見惚れた顔ではない。今は至って真剣に話している。

 

 「確かにエースはこの大会で一、二を争う海賊だろう。懸賞金を確認したが5億5000万ベリー。しかも世界最強の海賊団の隊長を務めてるそうだ」

 「そうだろ。だから心配なんかいらねぇさ」

 「お前ら二回戦まで残ったから試合の内容を知らねぇだろ。居たんだよ、そのエースより先にゴールした連中がな」

 「え――?」

 

 てっきりエースが一番だったのだろうと思っていたウソップが、思わず言葉を呑んだ。

 

 「二回戦のレースは一回戦終了時点の現在地から隣の島へ渡り、ゴールを目指すもんだった。確かにそれを考えりゃ最初からハンデがある。着順だけじゃ実力は図れねぇ。だが中には画面を通してでもわかるほど腕のある連中も居る」

 「そ、そいつがエースより強ぇってのか?」

 「そうは言ってねぇ。だが何が起こるかわからねぇのが海賊の世界だろ」

 「確かにな。実際、おれたちがここに居るのは傷を負ったからじゃねぇ。ルールの中で戦わされたからだ。最初から正面切って殴り合うような試合なら同じ結果にはならねぇ」

 「ルールによっちゃあルフィやキリ、あのエースでもどうなるかは予測できねぇぞ」

 

 サンジの言葉に同意するようにゾロが言う。

 ウソップが押し黙ってしまい、今度こそ大きな不安が生まれてしまう。そんな事態は予想したくもないが言われてみればそんな気はした。

 自分たちが無傷で敗者用の船に集まっていることがその証拠。

 表情を険しくしたナミまで頭を抱えてしまい、大きく溜息をつく。

 

 考えたところで今は何もできない。

 この場から仲間たちを助けることは不可能なのだ。

 

 「おれ、いつもはびびって逃げてばっかりだけどよ……見てるだけってのも辛ぇもんだよな。これならまだびびりながら戦ってる方がいくらかマシだぜ」

 「お前は援護だろ」

 「その通り! おれが一番輝くのは援護の瞬間! でも今はそれもできねぇしなぁ」

 「頼むしかないわね、あいつらに」

 

 再びじっとモニターを見つめて考える。

 ナミは何よりもビビやシルクを心配しており、チョッパーもつい最近仲間になったばかりで、自分たちのペースを全て理解した訳ではない。信頼はしているがだからこそ不安もあった。

 ルフィとキリは心配していない。だが二人がコンビを組んでいないのが不思議でもある。

 

 このまま何事もなく優勝して欲しいと思うものの、そうなるとは簡単には言えない。

 全てを見届けよう。冷静に考えてそう決める。

 

 仲間の心配を他所に、ヒッコシクラブは三回戦への会場に近付く。

 わずかとはいえ一時の休息。その間に体力を回復していれば心配もなくなるのだが。

 直にハッタリーによるルール説明も聞こえ始めて、真剣に耳を傾け始めた。

 

 

 *

 

 

 気付けば、気付かない間に輪を離れていて。

 やけに真剣な顔をしているエースを見てビビが声をかけた。

 

 「エースさん? どうかしたの?」

 「ん? あぁいや……」

 

 ビビに声をかけられた瞬間に緊張感が霧散した。

 今、特定の誰かを見ていたはずだ。

 視線を外した後は誰だったのかわからなくなっており、ビビは口を噤む。

 

 「大したことねぇ。色んな奴が居るなと思ってただけさ」

 

 それきり、彼は笑みを浮かべたが口を閉ざしてしまった。

 

 ヒッコシクラブの頭の上はいつの間にか和気あいあいとした雰囲気で盛り上がっていた。

 理由はおそらく、一部の海賊たちだ。

 敵味方問わずに集まっており、騒がしいが上機嫌な様子は宴にも似ている。一時の休息で心身ともに休めるきっかけがあったが故にそうなったのだろうか。

 

 騒いでいる中心メンバーにはルフィが居た。彼が猿のような外見のマシラとショウジョウと仲良くなり、さらにMr.2も加わって盛り上がっている。

 酒も食事も用意できず、会話だけでずいぶん楽しそうだった。

 

 「あっひゃっひゃっひゃ! おめぇおもしれぇなぁボンちゃん!」

 「んが~っはっはっはっは! ジョーダンじゃな~いわよ~う!」

 

 くるくる回るMr.2が何やら芸を見せていたようだ。

 ルフィとマシラとショウジョウ、三人は手を叩いて喜び、歓声を上げる。

 

 「ドゥ~なのよ。これがあちしの、マネマネの実の能力よぅ!」

 「ウッキッキ! 顔も体格も声までおれになっちまった!」

 「おいおい、マシラが二人居やがるぜ。しかも変な服着てるしよぉ。ハラハラするぜ」

 

 現在、Mr.2の姿はまさしくマシラその物へと変貌していた。

 悪魔の実の一種、マネマネの実の能力である。他人の外見をコピーし、完璧にその人になる。ただそれだけと言えばそれだけだが、容姿、骨格、声まで変貌してしまい見分けがつかない。一度能力を使えばMr.2は全くの他人となって自らを偽ることができる。

 変装など比べ物にならないほどの再現率だ。彼はこれで潜入と工作を得意とする。

 

 呑気なルフィや、疲れているとはいえチョッパーも喜んでいるが、ビビは眉間に皺を寄せた。

 余興代わりに能力を使用した際、ルフィ、シルク、チョッパーの外見も記憶されている。

 それは、その気になれば仲間を装って接近される恐れがあるということだ。

 

 本来であれば見逃していい行動ではない。

 ビビは厳しい顔でキリの表情を窺うが、彼は笑顔で眺めて何も言わなかった。

 

 彼の考えがわからない。バロックワークスに所属していた過去を持ち、ビビ以上に組織について詳しい彼が、警戒もせずに止めようともしないのは不思議だった。

 何か考えているから言わないのか。

 ビビは、尋ねたい気持ちをぐっと押さえて、その瞬間に隣に座るチョッパーの溜息を聞いた。

 

 「大丈夫トニー君?」

 「うん。おれまだ頑張れるよ。みんなの役に立つんだ」

 「そうね……まだ頑張らないと」

 

 疲労感は無視できないほど大きいものの、チョッパーは気合いを見せて表情を引き締め直した。

 ビビはそんな彼を見て微笑む。

 彼の態度に助けられるかのようで、自分ももっと頑張らなければと思う。祖国を救うまでは立ち止まる訳にはいかない。そう思った時、シルクが顔を覗き込んできた。

 

 「ビビ。あんまり頑張り過ぎちゃだめだよ」

 「え?」

 

 頑張らなければと思った矢先、釘を刺されるように言われてしまう。

 呆けるビビへシルクはにこりと微笑んで言った。

 

 「一人で頑張り過ぎちゃどこかで辛くなっちゃうから。無理せずみんなを頼ってね。そのために私たちが居るんだから」

 「シルクさん……ええ」

 「チョッパーもね。仲間を頼ることは恥ずかしいことじゃないから」

 「わかった。でもおれにできることはちゃんとやるよ」

 「うん。そのつもりでいいと思う」

 

 膝を抱えて座るシルクはそう言い、顔を上げると輪になって騒ぐルフィたちを見つめる。

 キリは、少し輪を離れるように座っていた。遠くもないが近くもない。その距離感はなんとなく奇妙に思えて、先程の疑問も合わせてビビとシルクは彼について話し出した。

 

 「キリさんは、Mr.2を知ってたのよね……どうして止めなかったのかしら」

 「さぁ。何か考えてるのかな」

 「時々キリさんがわからなくなる。もちろん仲間として信用してるし、みんなのことを想ってるんだろうけど、たまに怖く感じる時があって……」

 「キリはあんまり説明してくれないからね。でも大丈夫。私たちのためにしか動かないよ」

 

 ビビが驚いた拍子に、微塵も疑っていないシルクの笑顔が映った。

 

 「だってキリはルフィのことが大好きだもん。全部私たちのためなんだよ」

 「そう……」

 「ちょっとわかりにくいだけ。ビビにだってわかるよ」

 

 そう言われてビビは再びキリを見る。

 柔和な笑みを浮かべて騒ぐ一同を、ルフィを見守っている。

 その姿に少し安心した。

 

 「そうね。私も、彼を信じてる」

 「一緒に戦えるよ。みんなでバロックワークスに立ち向かおう」

 「ええ。……ありがとう」

 

 互いに笑顔を向け合い、肩の力を抜くことができた。

 安堵を覚えたビビは深く息を吐く。

 

 数秒目を閉じて、目を開けた時、いつの間にかビビの傍にアルビダがやってきていた。数歩近付いた後に足を止めた彼女はビビを見下ろして笑みを見せる。

 ビビは困惑した顔だったが、そっと差し出された白いハンカチを見るとさらに困惑した。

 

 「ほら、これで顔を拭きなよ。せっかくの美人が泥で台無しだ」

 「え? あっ――」

 

 反射的に受け取ってしまってさらに困る。

 思い返せば泥まみれだったMr.2に激突した際、確かにルフィもビビも泥に汚れてしまっていた。当然今も彼女の顔はわずかとはいえ泥が付着している。

 アルビダに優しく微笑みかけられ、ビビは受け取ったハンカチを見て戸惑う。

 清潔なその白いハンカチを汚してしまっていいものか、逡巡が目に表れていた。

 

 「あの、でも、これ……」

 「気にしなくていいよ。毒なんて染み込ませてないから」

 「そうじゃなくて。どうして私に?」

 「決まってるじゃないか。同じ男に惚れたよしみさ」

 

 思わずぽかんとしてしまう。

 何を言われたのかわからなかったビビは妙に幼い顔で驚愕し、チョッパーはとりあえず聞いていたが理解はしていないようで、シルクもまた絶句している様子。

 

 ほんの数秒で、ビビが顔を真っ赤にした。

 抗議するように身を乗り出して彼女は声を大きくする。

 

 「べっ、別に私は、そういうわけじゃ……!?」

 「照れる必要はないさ。別に宣戦布告だなんて言うつもりはない。ま、勝負になるようならアタシも負けるつもりはないけどね」

 

 アルビダはビビから目を逸らし、楽しそうなルフィを見て表情を柔らかくする。

 

 「海賊なんだ、自由に生きればいいさ。そう思えたのもあいつに殴られたせいかねぇ」

 

 眩しい物を見る目で語り、最後にちらりとビビの顔を見た。その時のアルビダは大きな器を感じさせて、流石に女性でありながら海賊として生きる強さを感じさせる。

 咄嗟に踵を返して歩き出す。

 アルビダは彼女に背を向けながら声をかけた。

 

 「ただ、気を付けなよ。海賊はわがままなんだ。うかうかしてるとアタシが掻っ攫うからね」

 

 そう言って彼女は距離を取り、元居た場所へと戻っていく。

 呆然とするビビとシルクは何も言えず、チョッパーは不思議そうに二人の顔を見上げる。

 

 ちょうど、チョッパーが二人に質問をしようかというタイミングだった。

 ハッタリーの実況が頭上から降ってきて即座に反応する。

 ヒッコシクラブはついに予選第三回戦の会場へ到着したのである。

 

 ピタッと止まった場所は島の端。動植物の気配を感じない岬が眼前にあり、海で待ち受けるように歪な円形の巨大な岩があり、まるで闘技場のようにも見えた。

 この場所の名は“ジュゴン岬”。

 最後の予選を行うまさに闘技場だ。

 

 《さぁ~て泣いても笑っても槍が降ろうとこれが最後! 予選第三回戦、バトルロイヤル! 小細工無しのガチンコバトルだ!》

 

 ヒッコシクラブが停止したことで参加者たちは地面へ降りる。

 岬を眺めつつ、鳥の背から実況を行うハッタリーの声に注目していた。

 

 《現在残っている選手たちは全員宝箱を持っていることだろう! その宝箱を開けてくれ! 中にはすでに抽選結果が用意されており、これから四つのブロックに分かれて戦ってもらう! ただしこれは普通の試合ではない!》

 

 ハッタリーの実況を聞きつつ参加者たちが宝箱を開け始めた。

 鍵はかかっていない。簡単に開けられる。

 中には確かに一枚の紙が入っているのみで、でかでかとアルファベットが書かれていた。

 

 《A~Dの四つのブロックに分かれ、前方に見える天然のリングの上で戦ってもらう! ただし先程も言った通り普通の組み分けなんてしない。用意した宝箱全てにA~Dまでの抽選用の紙が入っていてどれが回収されるかわからなかった。つまり! 今ここに居る君たちは不平等に四つのブロックに分けられる!》

 

 つまり残り100組を四等分するつもりは最初からなかったということだろう。

 運が良ければ有利にもなるが、不利になる可能性も低くない。

 全ては運任せ。

 参加者たちはどよめきながら自身の紙と周囲の紙を確認し始める。

 

 《ここで残れるのは一ブロック2組のみ! 四ブロックでついに本戦出場の8組が決定する! 勝利する条件は相手を海へ叩き落とすこと! たとえ怪我一つしていなくても海に落ちた時点で失格になるぞ! 生き残りたければ死んでも落ちるな!》

 

 沖を見れば敗者用の巨大なガレオン船が数隻浮かんでいる。

 見世物としては良い条件だろう。ブルースクエアではさらに多くの人間が見ているに違いない。宝探しよりレースより、こういった状況の方がよほど燃える。

 戦意を燃やしているのは一人ではなかった。

 参加者のほとんどが力を漲らせて岬を見つめていた。

 

 《ただしここでも我がブルーベリータイムズ社と契約した妨害者が乱入する! 一筋縄じゃいかない連中ばかりなので油断してると一瞬にして海中に違いない!》

 

 ハッタリーが声を張り上げる。

 参加者の熱気を感じ取り、彼も興奮し切った様子だ。

 

 《それでは三回戦、バトルロイヤルを開始する! まずはAブロックの試合だァ!》

 

 そう告げられ、Aと書かれた紙を持っていた者たちが笑みを浮かべた。

 たとえ何組参加しようと生き残れるのは2組のみ。

 ギャンブル的な要素を加えた戦いが、凄まじい熱気の中で始まろうとしていた。

 


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