祭りの様相はさらに強くなっていたようだ。
大会観戦で高揚した気分は落ち着くことがないまま、一夜を通して宴が行われていた。町はかつてないほどの活気が窺え、いつまで経っても休まる様子がない。
それは朝になっても変わらなかった。
今日はついに本戦の日。
大会の目玉が始まる一日だった。
朝から凄まじい熱気に包まれている。
試合が始まるのは今日の朝からだと伝えられていた。観客たちは町の至る所に設置されたモニターを眺めて興奮しており、その時が来るのを今か今かと待ちわびている。
ざわめく町の期待感はもはや誰にも止められない。
海賊とも市民とも判断できない雑踏の中、敗退した麦わらの一味もモニターを見ていた。
港に設置されている巨大モニターの前に陣取り、すでに落ち着いた様子だ。
いつ始まっても構わないという姿で、傍には、今日は店を休むと決めたケイミーとパッパグ、それからアーロン一味も周囲に座っている。
勝てばアラバスタ。負ければ別の方法を探さなければならない。今日が正念場である。ひとまず見ているだけとはいえ体が疼いて仕方ない。
ゾロやサンジは少なからず苛立ちを隠せない様子だった。
それとは対照的にウソップは安堵しているようだ。
「今日がいよいよ決戦ってわけだ……ルフィたちは大丈夫なんだろうな」
「大丈夫、って思いたいけど、昨日のアレを見ちゃうとね……」
顔をしかめるウソップの呟きにナミが嘆息する。
エースの強さを見た時も驚愕したのだが、今思い出されるのはDブロックの試合。
アレは異常だった。
衝撃としてはAブロックのエースよりも大きい。人数だけならAブロックよりも多かったはずなのだが、100人の参加者を五分以内に倒してしまったのだ。
あの人物に対抗できる人間など居るのかとさえ思え、最も期待できるのはエースだろう。
ルフィでさえ相手になるかは予想もできない。
仲間たちは心配している様子だった。
「賭けも盛り上がってるみたいだしよぉ、荒れそうだな……問題なのはシルクたちだぜ。残ってるのは強い連中ばっかりだし、まぁバギーはあれだけど、無傷でってのは無理そうだ」
「何も起こらなければいいけど……」
「心配いらないさナミさん。チョッパーもあれで男だ。体張ってでもシルクちゃんを守るよ」
「チッ、おれが残ってりゃ斬り飛ばしてやるもんを」
「そりゃお前が方向音痴だったせいだろ」
「何ィ?」
ウソップの言葉でゾロが厳めしい顔をするものの、周囲は気にするつもりもないらしい。
時刻は9時を回った。
長らく待ちわびた人々の前でモニターにハッタリーの姿が映る。
《イェーイッ!!》
ついに来た。
町中がわっと歓声を上げ、凄まじい迫力で町の在り方その物が変わる。押し込められていた欲望が一気に爆発するかのように、重なり合う声が轟音となって空へ響き渡った。
ハッタリーは島の中心にある広場、高くせりあがったステージの上へ現れた。
人々の歓声を一身に受けて立ち、堂々とマイクを握っている。
小型だが足の速い船に乗せた8組の出場者。彼らの試合がこれから始まる。
その前に試合について説明しなければならない。
今日のルールは昨日とは違う。本戦はついにこの大会の目玉。本当に盛り上がるのはこれからだと思っていて、ハッタリーは昨日にも増して興奮しながら大声を発した。
《ついに来たぞ! 大会本戦、トレジャーバトル! ここからが本番だ!》
町に居る人間が拳を突き上げて騒いでいる。
敗退した海賊たちも叫んでいた。
祭りが始まったのはむしろ今日なのだ。
海賊の祭典はついに開始され、賭けも大いに盛り上がり、これから昨日よりさらに面白いものが見れる。その興奮で町は絶叫によって揺れていた。
ハッタリーもその様子を受けて笑顔を輝かせる。
《まずは簡単にルール説明をしておこう! トレジャーバトルとは! その名の通り宝を奪い合うためのバトルだ!》
簡潔な一言にも聴衆は大きな反応を見せ、騒ぎながらも続きを促すかのよう。
《舞台となるのはブルースクエアの四方にある小さな島! それぞれ春島、夏島、秋島、冬島と気候が違っており、当然地形も違う! この島でたった一つの宝箱を奪い合い、自分の陣地へ持ち帰れ! 陣地に宝箱が置かれている間だけ回収用の船が動く! 先に回収用の船を島へ呼び寄せた方が勝ちとなる、宝を奪った者勝ちのゲームだぞ!》
聴衆は期待を込めておおっと声を出す。
かつて聞いたこともないゲーム。その光景が想像できずに期待値が増している。
ましてやあの面々だ。早く試合を見たいという欲求は抑えられなかった。
《試合はトーナメント形式で行われる! それではこれから抽選を行おう!》
「トーナメントか。組み合わせ次第じゃ身内の潰し合いもあり得るな……」
「しかもうちからは4組出るんだもん。どっちにしたってどこかでは戦いそうね」
トーナメントと聞いて、ウソップとナミは不安そうに顔を歪めた。
ここから先は人数の多さなど関係ない。強い者が勝つ。周囲からは邪魔ができないためにそれぞれのコンビがどれだけやれるかが問題だった。
不安に思うのはそのせいである。
本戦へ進んだペアは麦わらの一味から3組、アーロン一味から1組。8組の内、半数が同じ勢力からの参加であり、それだけ優勝の可能性も高まるが、潰し合いの可能性も高い。
心配するだけ無駄だが気にせずにはいられないのだろう。二人は居心地が悪そうだった。
一方でゾロやサンジは心配していない様子でモニターを見ている。
やはりイガラムはウソップたち以上に心配していて、誰よりも不安そうな顔だ。
「ルフィ君……ビビ様を頼みましたよ」
「心配すんな。あいつだって守られるだけじゃねぇ」
腕組みをしたゾロが呟き、不安は消し切れないがイガラムも小さく頷いた。
《抽選は厳正にくじ引きで行う! ただし先に組み合わせを決定してから諸君に見てもらうことにしようと思っている! 少しだけ待っててくれ!》
そう言って大会本部がくじ引きを行う。しかし結果はすぐには開示されない。組み合わせを知らされるのは全てが決定してからだ。
ウソップはごくりと息を呑み、内心ハラハラしていた。
「ハラハラするな」
「うおおっ!? あん時の猿! しかも一匹増えてるし!?」
「ウッキッキ! よぅお前ら! サインと写真は必要か?」
いつの間にかマシラとショウジョウが彼らのところまでやってきていた。
笑顔で挨拶を終えた彼らはどかっと地面に胡坐を掻いて座る。
先日は予選でぶつかった相手だ。ゾロとウソップに宝箱を差し出し、ナミとサンジから宝箱を奪って逃走して、ルフィによって敗北した。
全く恨みの無い顔で平然としており、そのため彼らも敵意を持たずに接する。
「昨日も思ったことだが……お前らほんとに人類か?」
「当たり前だろうが。人類じゃなきゃ猿にでも見えるってのか?」
「そうにしか見えねぇって言ってんだ」
「猿あがりってことか! 褒め殺しだな!」
「ハラハラするぜ」
「なんだか知らねぇが、お前らとは分かり合えそうにねぇな……」
呆れた顔でサンジが溜息をついた。
ともかく害は無さそうだ。そのまま傍に置いていてもいいだろう。
共に観戦することになった猿のような人間に驚きつつもケイミーが気にするのははっちゃんについてである。彼が試合に参加することは昨日から見ていて理解していた。
はっちゃんもアーロンも強い。信頼もしている。
ただ賭けの人気が二分されていることも知っていた。
一番人気は火拳のエースとその相棒キリ。
二番人気がDブロックの試合を決めたMr.SとMs.K。
町に居る観客が気になっているのは間違いなくその2組だろう。
勝てないのならばそれでいい。だが怪我をするのならば心配になってしまう。
ケイミーは心配そうな顔で隣に座るナミへ聞いた。
彼女たちは簡易の椅子とテーブルを運んできてその場で広げており、軽食や飲み物もある。わざわざ港のモニターで観戦する者も少ないため比較的楽な姿勢だった。
ナミは真剣な顔でケイミーを見つめ返す。
「ねぇナミちん、はっちんたち大丈夫かな。他の人たちも強いんだよね」
「うーん……私は別にアーロンたちがどうなろうと知ったこっちゃないけど」
「そんなっ!?」
「どっちにしたって私たちにはどうしようもない。大丈夫よ、なんて言うのは簡単だけどね。無事で居られるかどうかはあいつら次第。ここに居る以上、信じることしかできない」
「うん……」
冷たく突き放すような言葉に思えるが、それこそ真理だろう。
今からではできることなど何もない。言葉をかけることすらできない。応援をしても声は届かないだろう距離に居て、無駄な徒労に終わる可能性の方が高かった。
それを知って欲しいからと敢えて真実を言ったのだ。
ナミの言葉を受けて、ケイミーは真剣な顔になり、考えた末にそれを理解する。
「じゃあ私、頑張って応援するよ。はっちんとアーロンさんが勝てるように」
「それがいいわね。何もしてないよりは気も紛れるし」
心配しても仕方がない、と考えて、いっそのこと何も考えず必死に応援することにした。
ケイミーは笑顔でモニターを見つめ、パッパグも彼女を気遣って笑顔で話す。
海賊と共に航海している以上はそういった覚悟も必要になる。昨夜の宴で話してみてわかったがケイミーは少し抜けているところがある。誰かが教えた方がよかった。
時には自分の力ではどうしようもないことだってある。
幼少期からそのことを知っている彼女は、自身の過去をケイミーに明かそうとはしなかった。
彼女たちがそうして話していることを知りつつ、今日のサンジは静かだった。煙草を吸いながらぼんやりモニターを眺めていて、くじ引きの様子を見ている。
ふと隣に立っていたゾロへ、彼の顔を見ようともせず尋ねた。
「誰が勝つと思う?」
「……ルフィとキリが組んでりゃ予想はし易かったろうがな」
「エースが居るのにか? あいつはキリの天敵だ。それにあの仮面野郎も居やがるし」
「それでも、だ」
ゾロは腕組みしてはっきり言う。目を閉じてモニターを見ようとはしていない。
煙草を指に挟んで持ち、煙と共に深く息を吐いたサンジは薄く笑った。
「大した忠誠心だよ、お前は」
ほくそ笑んでいるが彼とて心中穏やかではない。
不安要素ならばある。
一味の最高戦力、ルフィとキリが分かれていること。ルフィのパートナー、ビビがどこまでできるか予想ができないこと。そしてエースと知り合ってたった二日程度、よく知らないことと、彼と同程度には強いと予測される謎の二人組の存在。
予想することは簡単ではなかったが、黙っていられるほど冷静でもいられなかった。
「ルフィはともかくビビちゃんが心配だ。彼女もバロックワークスの社員だったとしても、海賊ならではの泥臭ぇ戦い方をされちゃ判断に困るかもしれねぇ」
「ルフィにしても搦め手には弱ぇ。道も覚えねぇしな。島が小さいっつっても、あんまり広いと迷うぞ、あいつは」
「お前に言われちゃおしまいだけどな」
「うるせぇ」
ゾロが眉間に皺を作る一方、サンジは煙草を銜えながら海に振り返った。
「キリはなんでルフィと組まなかったんだろうなぁ」
「ビビと組ませるためだろ」
「それで海賊について知ってもらおうってか?」
「あいつはバロックワークスを恐れてる。正道だけじゃ勝てねぇって言いたいんだろ」
「本当にそれだけと思うか?」
思わずゾロが押し黙った。
サンジは、珍しく遠い目をして語る。
「あいつがどこまで考えてるかなんて、もうおれにはわからねぇよ」
くじ引きが終わったようだった。
モニターに映る映像は変化し、再びハッタリーがマイクを握って雄々しく動く。
組み合わせが決まった。今度こそ発表される時だ。
《さぁ~てトーナメント表が決定したぞォ! こいつを紹介する前に本戦出場者をおさらいしておこう! トーナメントに参加するのは全8組!》
ハッタリーの声に合わせて画面に選手の顔が映し出される。
すでに海に出ている彼らの顔をスタッフが映像電伝虫で映しているようだ。
《まずは優勝候補筆頭、エース&キリペア! 白ひげ海賊団の隊長とルーキーの副船長! 懸賞金は天と地ほども差があるが実力は未知数! キリはバトルロイヤルでも不動を貫いた! 実力を隠したまま本戦へ出場して、どれほどエースと呼吸を合わせられるのか!》
「どうせ足手纏いに決まってる! んな奴居なくてもエースが勝つだろ!」
「てめぇに大金賭けてんだ!」
「邪魔だけはすんなよ紙野郎!」
観客からしてみればキリに対する期待はゼロに等しいらしい。
賭けは、大勢の人間が優勝するに違いないと思われるエースに偏っていた。それだけに実入りは期待できないが確実に金を手に入れる方法だとの予想があった。
大穴狙いでない限り、この口以外に賭ける必要性が感じられないのである。
《同じくAブロックより勝ち抜いたルフィ&ビビペア! しかもこれは驚き、なんとこちらが入手した情報では、麦わらのルフィ選手は火拳のエースの義弟らしい! バトルロイヤルの実力から見ても想像はできるが、やはりこの男が台風の目になりそうだぞ!》
「ま、マジかよ、火拳の弟だと?」
「んなバカな話があるか? 今まで一度も聞いたことねぇ」
「だが、もし本当だとすりゃ」
「火拳も流石に弟にゃ甘くなるか……?」
ハッタリーの言葉に町がざわついている。真偽を確かめる方法がなく困惑しているのだ。
しかし彼らが気にしているのは大会を使った賭け事のみ。
弟という立場でルフィが優勝する可能性はあるか、否か、それだけを考えていた。
《こちらはBブロック勝者、同じく麦わらの一味、シルク&チョッパーペア! 悪魔の実の能力を食べた二人が地道に勝利を重ねてきたぞ! 持ち前のチームワークで優勝を狙う!》
「あの風起こしてた姉ちゃんか」
「それにゴリラになったりトナカイになったりするタヌキ」
「ここに賭けりゃ大穴だな。だが勝った時はすげぇぞ」
シルクとチョッパーの顔が映し出され、ナミは途端に表情を変えてしまう。わかっていても見ているだけなのは自分が戦うより辛い。
不安からなのか、冷や汗を掻いたウソップがぎこちない笑顔で彼女に言った。
「シルク……」
「し、心配いらねぇって! 半分は仲間だし、たかがゲームだ! 死にゃしないんだからよ!」
「ウソップ……足震えてるわよ」
「武者震いだ、武者震い! あーおれも戦いたかったなぁ! 宝持って逃げるだけならあっという間だ! 逃げ足なら誰にも負けねぇのに!」
「わかってるわよ。ケイミーに言った手前、私もへこんでられないことくらい」
ナミもキッと目つきを変えて、事の成り行きを見ようとする。
すでにゾロもサンジもイガラムも不安を口にしない。
慌ててウソップも口を噤み、腕組みをしてモニターに集中し始めた。
勝つか負けるか、それはこれから結果が出る。慌てる必要はない。
ただ見守っていればいいだけだ。
《さらにBブロックから謎の新星! まだ見ぬパートナーは一体如何なる人物か、男で女のオカマ格闘家! Mr.2・ボン・クレー!》
「んが~っはっは! やっと暴れられるわぁ~ん!」
船の上でMr.2が回る。
ただの余興。だが決戦を前にした準備運動としては十分な舞台だろう。
《Cブロック勝者はアーロン&はっちゃんペア! 近頃噂が絶えない彼らは因縁のある麦わらを狙っているようだ! この大会中にリベンジは果たせるのかァ!》
「はっち~ん! 頑張れ~!」
「アーロンも頑張れー! 優勝したら店舗拡大だぁ!」
ケイミーとパッパグが大声で応援していた。
アーロン一味も声を張り上げており、港は特に盛り上がりを見せる。
ナミはじっと見つめていたが、何も言ったりはしなかった。
《さらにCブロック! 海賊にあるまじき格好で参加! 特に異彩を放っているぞ! 一体どんな試合を見せてくれるんだ、スモやん先生&その弟子ペア~!》
「アパパパパッ。さて、どう出るか……」
出場者が紹介されている時、アプーは自身の船に居た。欄干に座って港のモニターを眺め、島に降りるつもりはなさそうな様子だ。
彼の部下でさえなぜそんな見にくい場所から観戦するのか、理解できないようだった。
アプーは楽しそうに笑っている。
《Dブロック勝者、バギー&アルビダペア! クロスカントリーは先頭集団の一員として競っていたが、バトルロイヤルではなぜか不動! 今度こそ実力を見せてくれ!》
「よぉし、いいだろう……今日こそおれ様の真の実力を見せてやる」
「優勝すればお宝が手に入るんだろ? 楽しませてもらおうじゃないか」
バギーとアルビダは余裕を見せる表情で戦いの時を待っていた。
何やら勝機でもあるのか、一切怯える様子はない。
《そして最後に、素性、経歴、素顔さえ不明! Dブロックの悲劇を生み出した張本人! 圧倒的な強さを見せたこいつらを止める者は現れるのか! Mr.S&Ms.Kペア!》
船上に居た二人は動かず、今日も素顔を隠して存在していた。
全8組の紹介が終わり、いよいよという瞬間。
人々は勝負の開始を待ち望んでいる。そのため次の言葉が待ち遠しくて仕方ない。
マイクをくるりと回して、ハッタリーは調子良く告げた。
《以上のメンバーでトレジャーバトルが行われる! それではトーナメント表を発表しよう!》
おおっと声が発される。
直後には町中が静まり返って、一時の間を置いた後、ハッタリーは笑顔で叫んだ。
《一回戦! ルフィ&ビビペア VS バギー&アルビダペア!》
「い、いきなりルフィたちかっ」
画面が分割されて両ペアの顔が映し出される。
ルフィとバギーは好戦的に笑い、ビビは真剣な瞳を見せ、アルビダは薄く微笑んでいた。
ウソップが声を震わせて呟いた。
大会最初の試合。早くもルフィたちから始まると知って動揺が隠せない。しかしよく考えれば半数が同じ一派から出ているのだ。それも不思議ではなかった。
《二回戦! アーロン&はっちゃんペア VS Mr.2・ボン・クレー!》
発表と同時に麦わらの一味とアーロン一味がどよめく。
上手く勝ち上がれば準決勝でルフィとアーロンが戦うことになる。
果たしてそうなるのかと否が応でも注目度が上がっていた。
《三回戦! エース&キリペア VS スモやん先生&その弟子ペア!》
キリとエースはルフィたちと離れた。ひとまず決勝までは当たることがない。
しかしそうなると次の展開が予想される。
《四回戦! シルク&チョッパーペア VS Mr.S&Ms.Kペア!》
予想できた通り、今大会で最も得体が知れず、警戒すべきペアとぶつかってしまった。よりにもよって最も戦いたくない者たちである。
シルクとチョッパーは無事に帰れるのか。
いよいよ心配せずにいられない。
改めてトーナメント表が画面に表示された。
勝ち抜け方式で上がっていき、最後には1組だけが残る。
残ったペアだけが優勝だ。
何の因果か、麦わらの一味とアーロンたちはそれぞれぶつかることなく分かれている。
ただしそれにより、苦労しそうなペアも居た。
Dブロックの戦いを知っているシルクとチョッパーが顔を青ざめさせていた。
50組もの参加者を相手に無傷で、最速で撃破し、勝利した二人。戦った時間こそ短かったがどちらも強かったのは覚えている。警戒するのは無理もない。
思わずちらりと目で確認してみた。
二人とも仮面で表情がわからず、ぴくりとも動かずに立っていた。
「おれたちの相手が、あいつら……」
「やっぱり、一筋縄じゃいかないよね……」
緊張している面持ちで呟いていた。
その声が聞こえたからではないだろうが、エースも目だけで二人の姿を確認していた。否、正しくはその内の一人だけ。
キリはそちらを見ずに尋ねる。
「知り合い?」
「いや、そんなはずはねぇが……その可能性も捨てきれねぇってところか」
「どういう意味?」
エースは腕を組んで視線を外し、海を眺める。
「死んだ人間が突然目の前に現れたら、お前、あっさり受け入れられるか?」
「無理だね。何度も夢に見たけど今まで叶ったことはない」
事情を理解したのだろう、キリは迷いなく答えて問うのをやめる。
トーナメント表を見て満足した。
彼らとは戦える。
その時を待つエースはふと目を閉じ、開戦を待っていた。
《それではトーナメント一回戦を始めよう! 早速選手たちが戦いの場へ移動するぞ!》
彼らを乗せた小型の船が海を走る。
いよいよ開戦の時。
ルフィが拳をぶつけて今や遅しと待っており、ビビは真剣な顔で船が進む先を見ていた。