ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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BURN the FLOOR(2)

 場所を変えて、別の通りに入り。

 改めてサンジはMr.5と対峙していた。

 

 彼の能力は聞いている。ボムボムの実の爆弾人間。自身の体、或いは体から出した鼻くそや息までも爆弾に変えてしまう驚異的な人物らしい。

 能力の性質上、どうしても目立ってしまうため暗殺よりも破壊工作を得意としている。

 本人は冷静で冷酷。決して油断はしないし、敵の実力を見誤ることもない。それでも5の地位に就いているのはそれ相応の実力だからということだ。

 

 確かに厄介な能力ではあるものの、単純な実力ではサンジに分がある。

 少なくともキリから与えられた情報で判断するならそれが正しい。

 ただ、無傷で勝つことは不可能だろう、とはサンジ本人もすでに覚悟していた。

 

 サンジは新しい煙草を口に銜えて火を点ける。

 Mr.5は手を出すこともせず、ポケットに両手を突っ込んだそれを見ていた。

 

 「おれのことは知ってるようだな。その上で正面から向かってくるとは、策があるのか、よっぽどのバカか」

 「どっちか知りてぇか? 教えてやってもいいぞ」

 「必要はねぇな。敵の情報を握ってるのはお前らだけじゃない」

 

 サンジが息と共に煙を吐いた。

 Mr.5はその様子を警戒しながらポケットから手を出す。

 

 「世の中、どこで誰が聞き耳立ててるかわかんねぇもんだ。これからは気をつけた方がいいぜ。大鷲に化ける人間なんて特にな」

 「ワシ……?」

 「ここに居るのはあいつが知ってるメンバーだけじゃねぇってことさ」

 

 それを聞いてもサンジは多くを語ろうとはしなかった。

 ひょっとしたら色々と問題が起こっているかもしれない。だが助けに向かう気はない。

 キリは勝手にどうにかするだろう。

 それならこちらは、自分の敵を倒すことに集中すればいいだけだ。

 

 「仲間の心配してる暇はねぇぞ。お前もすぐ死ぬことになる」

 「へっ、最初から心配なんざしてねぇよ。バカはそう簡単に死なねぇもんさ」

 「口では何とでも言えるがな」

 

 そう言うとMr.5はおもむろに指を突っ込み、鼻をほじり始めた。

 

 「聞いてた通り、クソ下品な野郎だな。それで戦おうってんならお前もバカの部類だな」

 「ならおれが死ぬ心配はなさそうだ」

 「ああ、そうだな。だが死ぬのと負けんのは別だろ」

 「本当に勝てるかどうか……試してみりゃいい」

 

 鼻をほじった彼は、指先で鼻くそを丸くこねる。

 見るからに顔をしかめるサンジは別段止めようともしない。気分を害しながらも彼の準備を微動だにせず眺めていて、慌てる様子もなかった。

 やがてMr.5が準備を終えて、右腕を伸ばして鼻くそを飛ばそうとする。

 

 「一瞬だ。粉々にしてやる。鼻空想砲(ノーズファンシーキャノン)!」

 

 指でピンと弾いて鼻くそが飛ばされる。真っ直ぐ飛んでくるのを見極め、慌てずサンジは身を屈めて前へ駆け出した。

 飛来する鼻くそを潜るように避ける。

 彼の傍を通過した直後、何かに接触することもなく爆発するが、サンジには届かず。

 爆風だけが彼の背を押して、走る速度を速めてMr.5へ接近していく。

 

 「何ッ――!?」

 「てめぇの話は聞いてるっつったろうが」

 「チッ……!」

 

 咄嗟にMr.5が身構える。サンジは素早く接近しながら頭を働かせていた。

 彼は全身爆弾人間。体に接触しただけで爆発するため、攻防ともに優れた能力と言える。おまけに近接戦闘、遠距離戦、どちらもこなすことができる。

 もしサンジの蹴りが当たっても爆発されてしまい、ダメージを与えられてしまう。

 と、普通ならば考えるはずだ。

 

 敵の情報を持つサンジは冷静に思考していた。

 素早く迎撃態勢を整えるMr.5を見ながら、待ち構えている様子に確信を得る。

 

 (全身どこでも爆発できる能力。だがそのためにはきっかけが必要。外部からの衝撃と、自分自身の意思……!)

 

 右脚を振り上げ、頭部を蹴ろうと動いた。

 その動作に合わせてMr.5が防御の姿勢を取る。

 やはり想定していた通り。腕や脚、防いだ体勢でも衝撃を受けた部分を爆発させ、接触した足にダメージを与えようという魂胆らしい。

 

 振り上げられた脚は伸びきる前にピタリと止まり、Mr.5は表情を変える。

 フェイント。直後に鋭い蹴り。

 左足を軸に回転したサンジはMr.5の腹に強烈なソバットを叩き込んだ。

 

 「羊肉(ムートン)――」

 「お、おおっ……!?」

 「ショット!!」

 

 ほんの一瞬で数度の蹴り。腹に重い衝撃を受けたMr.5は蹴り飛ばされて地面を転がる。驚愕したせいで受け身すら取れずに無様な様子だった。

 爆発はない。右脚は無事だ。

 サンジはこの時点で確信を得る。

 

 素早く起き上がるMr.5を視認しながら、尚もサンジは接近を試みた。

 体勢を立て直したばかりで鼻をほじる暇もない。ここは格闘で打開すべきだろう。そう考えたMr.5も蹴りでの応戦を考えた。

 

 接触さえすれば爆発することができる。単純な攻撃力なら自分の方が勝っているはず。

 右足を振り上げたMr.5は自分から攻撃を行う。

 

 「足爆(キッキーボム)!」

 

 思わず反射的に頭部を狙ってしまったが、サンジは素早く屈んで回避した。

 彼の懐へ飛び込み、明確な隙。

 がら空きの腹へ、と見せかけて、小さなフェイントの後に軸足へ蹴りを入れる。

 

 「もも肉(ジゴー)!」

 「ぎゃあっ!?」

 

 体重を支えていた軸足を払われ、Mr.5は無様に転んだ。しかもその間近ではサンジが次の攻撃を繰り出そうとしており、冷静ではいられない。

 軽く地面を蹴ってサンジが跳び上がる。

 右足を天に向け掲げ、左足は地面に向けられたまま。

 そんな体勢で回転するとMr.5の頭を踏み抜こうと落下してきた。

 

 「串焼き(ブロシェット)!!」

 「うおおっ!?」

 

 もはや受け止めて起爆、などという思考はなく、Mr.5は慌てて転げると回避した。

 一旦彼から距離を取って、立ち上がって改めて対峙する。

 サンジは余裕のある笑みを浮かべており、見るからに優位に立っているのは彼の方だ。

 

 「なるほどな。大体わかったぜ、その能力」

 「チッ、くそ……!」

 「条件が揃えば全身どこでも爆発することができる。だがお前の判断があればこその話だ。反応できねぇほど速く蹴れば、爆発もできねぇし、ダメージも通る」

 

 悪魔の実の能力は様々な種類がある。

 常時体質が変化する超人系(パラミシア)は中でも奇妙なものが多く、それだけに使いこなすのも困難。

 

 ゴムや紙といった性質に変化するならばともかく、Mr.5のそれは爆弾。起爆するためには必ずきっかけが必要であり、一つが打撃を主とした衝撃で、能力者自身が起爆しようという意思。能力を上手く使いこなそうとするからこそ、無駄な爆発を抑えてそうした条件が生まれている。

 爆発しよう、と思って爆発しなければ、余計な被害が生まれ、本人にも周囲にも害となる。

 ましてやプロの殺し屋など夢のまた夢であろう。

 

 彼の能力には条件がある。攻防どちらも優れているが決して万能ではない。

 ならばMr.5の判断力すらも超えるスピードで攻撃を叩き込めば。

 身を守るためには退くのではなく攻め続けることだ。サンジは勝機を見出して笑い、対照的にMr.5は多少の焦りを感じさせていた。

 

 「能力者ってのは無敵じゃねぇらしい。ボカボカ爆発してるだけなら困ったが、どうやらお前に勝つのは難しくなさそうだぜ」

 「フン……思い上がるなよ。おれの力はこれが全てじゃねぇ」

 「ならとっとと見せとけよ。すぐに終わっちまうぞ」

 「減らず口を……」

 

 眉間に深い皺を刻んだMr.5が、懐へ手を突っ込んだ。

 取り出したのは怪しく光る銀色のリボルバー。それこそが彼の必殺であり、必ず標的を仕留めてきたという究極の能力。

 

 当然サンジはキリから情報を得ていて、一層の警戒が必要だと判断した。

 挑発を止め、些か表情を引き締めて彼を見つめる。

 

 「こいつは南の海(サウスブルー)の新型、フリントロック式44口径6連発リボルバー。すでにご存じのはずだろう? これがおれの十八番だ」

 「減らず口はどっちだよ。いいからとっととかかって来い」

 「後悔させてやる。あっさり死ねると思うな」

 

 Mr.5は弾倉を開き、弾の入っていないそこへ息を吹きかけた。

 爆弾人間は吐き出す息さえ爆弾に変わる。

 弾倉を閉じ、Mr.5が銃を構えた。

 その頃にはサンジは、崩れた家屋へ近付き、地面に転がっていた壁の破片を見下ろす。

 

 「そよ風息爆弾(ブリーズ・ブレス・ボム)!!」

 「オラァ!」

 

 引き金を引き、“爆発する息”という目には見えない弾丸が放たれた。当然サンジにはいつ接触するか目視することができないものの、彼は迷わず地面にあった石ころを蹴る。

 両者は一瞬の内に接触し、二人の間で爆発した。

 石ころはバラバラに破壊され、だが、見えない攻撃がサンジに届くことはなかった。

 

 やはりそうだとMr.5は苛立ちを露わにする。

 この敵は自分を知っている。戦法、弱点、多くを理解した上でここに居る。

 教えたのは間違いなくキリだ。

 

 誰にも軌道が見えない攻撃、“そよ風息爆弾(ブリーズ・ブレス・ボム)”は、初見の相手ならば間違いなく避けられない、何度か見ても避けるのが難しい攻撃だ。当たれば大爆発を起こすため、一度受けるだけでも気絶してもおかしくない攻撃力だってある。

 これを攻略するのは、本来ならば難しい。

 だが仕組みを知っている者からすれば、実は止めるのは難しくはないのだ。

 

 Mr.5の攻撃は、何かに接触した時点で起爆する。

 対処法は標的にぶつかる前に別の何かをぶつけてしまえばいい。それを知っているのはMr.5ペアを除けばただ一人、その能力を知っているキリだけだった。

 

 「たとえ見えなくても銃口の向きで攻撃が来る軌道はわかる。そこに何かしらぶつけてやりゃ、おれに届く前に爆発しちまう。だろ?」

 「よくわかってるじゃねぇか……だがその程度で攻略した気になられちゃ困る」

 「今更何しようがそう変わんねぇよ」

 「どうかな」

 

 再びMr.5が鼻をほじり始めた。

 右手に銃を、左手には鼻くそを。

 素早く攻撃の準備を終えた彼は敢えて遠ざかるように後ろへ一歩を踏み出した。

 

 「そもそもおれは能力の性質上、暗殺以上に破壊工作を得意としている。派手にやればやるほど強さを増すって意味だ」

 「へぇ……」

 「“見えねぇ”ってのはお前が思う以上に厄介なんだぜ。鼻空想砲(ノーズファンシーキャノン)!」

 

 指で弾いた鼻くそは狙い通り、彼らの間に落ちた。地面で大きな爆発を起こして、土を掘り返して粉塵を撒き散らし、二人の間に簡易的な煙幕を張る。

 そうなれば自然と行動は決まっているだろう。

 Mr.5は素早く銃を構えて引き金を引き、サンジは再び瓦礫を蹴って前へ飛ばした。

 

 両者が接触。大爆発を起こす。

 もはや鼻くそなど比べ物にならない威力。当たれば大怪我程度では済まない。

 

 リボルバーは六発装填できる。連続して引き金を絞り、今度は二発連続して撃ち出した。

 立ち昇る砂を突き破り、空気の塊が真っ直ぐ前方へ向かって飛んでいく。確かに粉塵がある場所では軌道が読まれ易い。だがそれでも、弾その物が見えないことの利便性はあるはずだ。

 

 辺りに舞い上がった砂が邪魔して見えにくいが、爆発音が二度。何かには確実に接触した。果たしてそれがサンジであるのか否かが重要であって、Mr.5は警戒する。

 ここで前へ出るのは素人。無事であったなら敵は間違いなく接近を望むからだ。

 そのため怯えた訳でもなく、Mr.5は敢えて後ろへ下がる。敵の狙いを潰すと同時に自身が最も戦いやすい位置をキープしようとしたようだ。

 

 視界が悪い前方を注視し、足を止めてしばし待つ。

 爆発の余韻が消えれば幾分かは状況を読み取ることができるだろう。

 銃を構えたままでMr.5は足を止めた。

 待ちの姿勢など自分らしくないが、こればかりは仕方ない。

 

 (生きてりゃこっちに向かってくるはず。さぁ、どう出る)

 

 そうして周囲を警戒しながら待っていると、煙が晴れる前に敵の行動を感じる。

 左手側、廃墟同然の家の中から物音が聞こえたのだ。

 素早く反応したMr.5がそちらに銃を向け、咄嗟に後ろへ跳びながら撃つ。

 

 「そよ風息爆弾(ブリーズ・ブレス・ボム)!」

 

 放たれた直後に到達。大爆発は家屋の上半分を吹き飛ばし、粉々にして瓦礫をばら撒いた。必然的に家の中が見えるようになったがサンジの姿はない。

 今の物音は囮。ここに隠れているのか、それとも別の場所か。

 逡巡したMr.5は敵の襲撃が始まっていることを感じて、リロードは間に合わないと判断する。

 視界を広く保ち、どこから来てもいいように構えながらわずかに心は焦っていた。

 

 一手読み間違えれば敗北を喫する緊張感。

 先程蹴りを受けたからこそ、そう何度も受けてはいられないと思う。

 爆発という能力というならば、一撃。一撃与えれば勝つことは難しくない。

 

 (残り一発。ここで決めにくる気か……)

 

 Mr.5が破壊された家屋に目を向けていた時、薄れていた粉塵を突き破ってサンジが現れる。

 突然の事態にMr.5は驚愕して、半ば考えず反射的に銃をそちらに向けた。それを見てもサンジは止まらず、むしろ速度を増して向かってくる。

 その様子は思わず恐怖心を抱いてもおかしくないほどの迷いの無さだ。

 

 辛うじて反応できたMr.5はサンジに向けて引き金を引く。

 当たれば勝利。そう思って弾丸を放った時に、彼はプッと銜えていた煙草を吐き出した。

 

 見えない弾丸と煙草が激突して、大爆発を起こす。爆発ではダメージを受けないMr.5も爆風によって体勢を崩しかけ、必死にその場で堪える。一方でサンジは顔の前で腕を交差させ、ダメージ覚悟で敢えて前へ駆け出していた。

 その結果、二人の距離は一気に近くなる。

 爆炎を突き抜けてやってきたサンジがMr.5へ飛び掛かり、驚愕する彼に脚を振り下ろした。

 

 「捕まえたぞクソ野郎ッ!」

 「ぶごぉっ!?」

 

 落下と同時に振り下ろした右脚がMr.5の頬を蹴り飛ばす。耐え切れなかった彼は地面を滑り、銃を取り落としそうになるほどのダメージを受けて転がる。

 それでも攻撃は止めず、さらにサンジが駆ける。

 必死に上体を起こした彼へ追撃を行った。

 

 「三級挽き肉(トロワジェム・アッシ)!!」

 「うおおっ!?」

 

 ドロップキックの要領で飛び掛かり、両足で素早く連続の蹴りを繰り出す。

 顔面、胴体、場所を選ばず突き刺さって、彼の体は耐え切れず再び地面を転がった。

 

 決着をつけるなら、今。

 ここでまた距離を取られれば不利になるのは自分。そう考えたサンジはとどめを刺すべくMr.5へ駆け寄ろうとする。しかしその時、嫌な予感がした。

 自ら仰向けに倒れた彼の全身に力が入ったように見えたのだ。

 

 「ゲホッ、ガフッ……クソっ。何もかも粉々にしてやる……!」

 「チッ、そういうことか――!」

 「全身起爆で全て消え去れ!」

 

 何をするかを先に読んだサンジは、迷う素振りも見せずに彼から距離を取ろうと走り出す。

 直後、Mr.5の全身が強く発光し、今までにないほど巨大な爆発を起こした。

 規模にして数十メートルにまで及ぶ爆発。周囲にあった建物の残骸を消し飛ばし、凄まじい爆風があらゆる物を吹き飛ばす。サンジもまた堪えられなかった。

 

 吹き飛ばされたサンジは勢いよく地面を転がり、両足で必死に踏ん張ろうとする。強風に身を晒されながら、彼の目はいまだ爆心地に居るMr.5を見ようとしていた。

 爆炎が消え、ゆらりと立ち上がる影がある。やはりMr.5だ。

 

 その攻撃力は凶悪その物。ボムボムの実の奥義と言って過言ではない。

 だが、制限があることもまた事実だった。

 

 (“全身起爆”は強力な技だがリスクがある――)

 

 サンジは駆け出した。

 二度目があれば避けられるかはわからない。

 決めるならば今すぐに。

 

 (爆発した直後、五秒間は全ての能力が使えない……!)

 

 強靭な脚力で地面を蹴り、跳ぶようにしながら前へ進む。

 Mr.5の姿はどんどん近くなっていき、彼は苦しげな表情で立ち尽くしていた。

 

 「ハァ、この五秒に賭ける気か……?」

 「能力さえなきゃ、てめぇは怖くねぇからな!」

 

 たったの五秒。しかし、サンジの行動は速い。

 素早く接近して彼への攻撃を行った。

 すでにダメージを受けているMr.5は反応できずに、防御しようとしても間に合わずに攻撃を受けてしまう。身体能力に差があり過ぎるようだった。

 

 「首肉(コリエ)!」

 「ぐはっ!?」

 

 側頭部を蹴り抜き、Mr.5は勢いよく倒れる。

 次いでサンジが右足を振り下ろした。

 

 「肩肉(エポール)!」

 「ぐおおっ!?」

 

 振り下ろした蹴りでMr.5の体が地面に叩きつけられ、弾んで跳ね上げられた。

 

 「背肉(コートレット)! 鞍下肉(セル)! 胸肉(ポワトリーヌ)! もも肉(ジゴー)!」

 「ぐっ、おっ、おおおっ……!?」

 

 たった数秒で次々蹴りを叩き込んでいく。Mr.5が見る見るうちに余裕を失っていくのに対して、攻撃しているサンジもまた余裕を失っていた。

 もう時間はない。

 Mr.5は倒れず、血反吐を吐きながらも戦闘を継続しようとする。

 格闘戦では勝ち目がないと知っての防御に集中した姿勢。耐え切ることのみを考えた彼はすでに五秒間を生き抜いたことを自覚した。

 

 いい加減反撃の恐れがあると考え、それでもサンジは攻撃を続ける。

 ここで退けば相手の思う壺。

 やはり決着は今すぐに求めるべきものだ。

 

 「ガフッ……さぁ、もう五秒は経ったぞ……」

 「おおおっ! 羊肉(ムートン)ショット!」

 「足爆(キッキーボム)!」

 

 両者の蹴りが正面から激突し、小さいとはいえ強烈な爆発を起こした。

 サンジの右脚は爆発に晒されてダメージを負い、脛の部分だけ服が破れて、血が噴き出す。だが蹴りの衝撃だけで言うならMr.5が受けたものの方が大きく、脚に痛みを感じながら倒れた。

 どちらにもダメージがある。しかし違いは大きい。

 

 「クソっ、しぶてぇ野郎だ!」

 「ハァ、お互い様だ……!」

 

 倒れたMr.5へ飛び掛かり、踵落としを繰り出す。だがMr.5は地面を転がって避け、サンジの脚は地面を強く叩いた。

 転がって逃げ、Mr.5は起き上がる前にリボルバーへ息をリロードする。

 

 その行動はサンジにも見えていた。しかしこうなればどちらが速いかのみ。

 地面を蹴って足を振り上げる。

 接近する最中、Mr.5が銃を構え、迷わず引き金を引いた。すでに目の前にまで迫っていたが自分が巻き込まれることも厭わず、見えない弾丸はサンジに当たる。

 二人とも爆発に巻き込まれたものの、それでダメージを受けるのはサンジのみだった。

 

 サンジは背中から倒れ、Mr.5は幾分平気な顔で転がり、即座に起き上がる。

 形勢は逆転。確実に流れは変わりかけていた。

 

 「ようやく当たったなっ。次で仕舞いにしてやる!」

 

 勝機を得たMr.5がサンジに接近した。

 とどめは銃ではなく、より確実な“全身起爆”で。“足爆(キッキーボム)”と“そよ風息爆弾(ブリーズ・ブレス・ボム)”でダメージは蓄積しているはず。もう逃げる余裕はない。

 倒れたままのサンジに駆け寄り、勝てる、と歓喜に酔いしれた。

 

 「死ね――!」

 

 その瞬間、サンジの脚が体ごと跳ね上がり、Mr.5の顎を蹴り上げる。

 まるで逆立ちをするように、蹴ると同時に平然と立ち上がった。

 一方、顎を蹴られたMr.5は視界が揺らいでいるのを感じ、なぜか体からも力が抜ける。

 

 「がっ、はぁ……!?」

 「要するに能力を使わせなきゃいいんだろ」

 「ま、待てっ……!」

 「もう待てねぇよ――三点(さんてん)切分(デクパージュ)!!」

 

 首筋、胸、腹へほぼ同時に叩き込まれる三度の蹴り。右脚の痛みも気にせずに、強力な攻撃が突き刺さったMr.5は一瞬で意識を刈り取られ、瓦礫の山へ頭から激突した。そのまま動かなくなってしまい、勝負はようやく決着を見る。

 サンジは深く息を吐き、懐から出した煙草を一本口に銜えた。

 

 やはり無傷で勝利とはいかなかった。

 単純な実力差では結果が出せないのが能力者との戦い。相手が自分より弱かったとしても、悪魔の実の能力を使われてはその差が覆される可能性がある。

 右足に火傷。一度は全身を爆発に包まれ、怪我はひどくないとはいえスーツもひどい状態だ。

 肌も薄汚れて、転げ回って髪も汚れている。サンジは鬱陶しそうに髪を掻いた。

 

 「ハァ、ボムボムの能力者相手にこの程度で済んでよかったと考えるべきか。キリの情報がなかったらと思うとぞっとする相手だぜ」

 

 そう言って煙草に火を点けながら、念のため気絶したかどうかを確認しようとした。

 おそらく起きてはいないと思う。だが起き上がって他の仲間が襲われでもしたら大変だ。

 サンジが半ば瓦礫に埋もれるMr.5へ歩み寄ろうとした時、急にあらぬ方向へ振り返る。

 

 「ハッ!? この感じ、まさか……!」

 

 その時にはすでにMr.5のことなど頭にない。

 駆け出した彼は異なる場所を目指していたようだ。

 

 「レディがおれを呼んでいる~っ!!」

 

 焦りすら感じさせてサンジは走り去る。

 何かを聞いた訳でも見た訳でもない。言ってみれば勘。どこかでレディが助けを欲している。それなら自分が行かずして誰が助けられるというのか。

 すでに倒したMr.5が動けるかどうかなどどうでもよくなったらしい。

 そんな確認をしている間にレディが傷ついたらどうするのだと、彼は必死になっていた。

 

 「うおおおおおぉ~っ! 待っててくれ、今すぐおれがそこに行くゥ~!!」

 

 休む暇もなくサンジは次の戦いへ向かった。

 戦況がどうなっているのか、他の仲間がどうなっているのかを知るのは簡単ではない。

 だがそれでも、彼が女性を守る騎士(ナイト)だという事実は変わらないようだった。

 

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