ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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Calling Out

 広場での戦いは熾烈を極めていた。

 集結したアラバスタ王国の兵士は突然の襲撃に対応し、至る所で戦闘を始めている。敵の数も決して少なくはない。それだけならまだしも、先んじて敵が軍に潜入していたのが厄介だった。前の敵に集中している間に後ろから味方の姿をした敵に襲われる。これによって全体が混乱していた。

 四、五名から成る分隊を複数作ることで対応しようとしていたが、これも完璧ではない。

 

 もはや一部の話ではなくアラバスタ王国軍全体が押されていた。

 なぜこれほど苦戦するのか。理由は一つしかない。

 指揮官が次々に消されているからである。

 

 本来軍を指揮すべきチャカやペルがこの場におらず、代わりを務めようと真っ先に動いた四人が存在した。ツメゲリ部隊である。彼らならば実力も実績も指揮官に相応しい。

 もし無事だったならば、もう少し状況は変わっていただろう。

 あらかじめ彼らの存在を知っていたMr.2が次々に襲い掛かって、彼らを倒していたのだ。

 

 一人、二人と着実に地面へ倒れて。

 ツメゲリ部隊の一人、バレルは、突如右前方から長い脚が視界に入ったことに気付いた。

 

 「アァン!」

 「ぐわぁ!?」

 

 顔面に強烈な蹴りを受けてその場へ転ぶ。

 たった一発で視界が揺れ、鼻血を出して体の自由を失いかけた。だが彼も日夜厳しい鍛錬を行う屈強な戦士。頭を振ると反射的に地面を転がって距離を取った。

 

 改めて顔を上げ、立ち上がる。視界に入ったのは一人の人物。

 王女ビビが、奇妙な服装で彼の前に立っていた。

 

 「バレル!」

 「なっ、姫様!? 危のうございます! なぜこんな戦場のど真ん中へ……!」

 「味方のふりをしている敵が居るの! 放っておくとみんなが傷ついてしまう……早くなんとかしなきゃ!」

 「ええ、十分承知しています……! そこで我々が敵を迎え撃つ陣形を――」

 

 バレルは咄嗟に周囲を警戒した。今ここに居るビビが襲われてはひとたまりもない。仮に自分が討たれたとしても彼女を守らなければ。

 そう思って周りに目を向けた後になって、違和感を感じる。

 冷静になればおかしなことだらけだ。

 

 「姫様、その格好は一体……」

 

 問いかけながら再び彼女へ振り返ろうとする。

 後ろを見た時、すでにビビの姿は無くて。代わりに同じ服装の長身の男が居た。

 鋭い蹴りがバレルの腹を突き刺す。

 

 「ドゥ!」

 「がふっ……!?」

 

 一杯食わされたようだ。

 そう気付いたのは地面に膝をつき、血反吐を吐いた時だ。

 

 「きさ、まッ……!」

 「だ~から困るのよねぇ。あんた達に好き勝手されてると」

 

 見せつけるようにゆっくり右足を振り上げる。

 バレルは必死に抵抗しようとしたが、先程のダメージが思いのほか大きい。何より、ビビの姿を見たことで動揺していた。その動揺が消えるまでの時間は与えられない。

 武器を持ち上げる暇すら無く、Mr.2の蹴りが彼の側頭部を蹴り抜いた。

 

 「クラァ!!」

 

 声すら出せず、意識を刈り取られる。

 蹴り飛ばされたバレルは地面に転がって、大の字になって動かなくなった。

 

 これでツメゲリ部隊は全滅。

 正面からの決闘。能力を使っての騙し討ち。どちらにしても簡単な仕事だった。

 一度も苦戦することなく四人を仕留めたMr.2は、これで戦場を支配したと認識しており、腕のある指揮官を失った集団は混乱したまま敗北すると判断する。

 

 ここまでは簡単に想像できた。残る問題は当初のターゲットの存在。

 麦わらの一味はどう動くか。

 他のエージェントとは違ってMr.2は自分の目で彼らを見ている。それ故に期待もあった。

 

 「ぷぅ。さぁ~て、あちしは見てるだけかしら? それとも誰か来るのかしら? 来ないならとっとと王女をやっちまうだけなんだけども」

 

 混乱する戦場の中で、バレリーナのようにくるくる回る。

 そのまま前へ進む彼は余裕のある笑みを浮かべていた。

 

 ツメゲリ部隊の敗北は、まだ伝わってはいなかった。

 だから兵士は戦い続けられたとも言えるが、一方ではだからこそ敵に対する次の策が用意されることがなく、一方的に押し込まれる展開になったとも言えるだろう。

 国王軍は明らかに押されていた。

 俯瞰で見れば人数こそ勝るものの、勢いが違う。士気はバロックワークスの方が高かった。

 

 ある一人の兵士が、反乱軍に見える格好をした男に押し負けた。

 剣と槍でかち合っていたのだが振り払われて尻もちをついてしまう。

 敵はそのまま剣を振り上げ、思わず死を覚悟し、つい口から悲鳴が漏れた瞬間。

 突如飛び込んできたビビが孔雀(クジャッキー)スラッシャーを振り、敵の胴体を切り裂いた。

 

 男が倒れた後、肩で息をするビビを見て先程以上の驚きに包まれる。目の前に居るのはビビだ。王族であり、今は国王軍の総司令官とも言える存在。

 彼女に助けられた兵士はあんぐりと口を開け、慌ててその場に膝をついて頭を下げた。

 

 「ビビ様ッ!? なぜこんなところに! 危ないですから早く安全な場所へ……!」

 「ハァ、ハァ……安全な場所なんて、この国のどこにもないわ」

 

 緊張で訳が分からなくなっている兵士へ、ビビが膝をついて手を差し伸べる。

 視界に入った手に反応して、顔を上げてみると、彼女の表情を見た。

 気付いた時には、こんなにも強い人物だったのかと素直に驚いていた。

 

 「さあ立って。まだ諦めるのは早いわ」

 「し、しかし、裏切者がどこに居るやも知れません……」

 「確かに目で見るだけじゃわからないかもしれない。だからといって焦ってはだめ。あなた達はこの国で共に育ってきたんでしょう?」

 

 立ち上がる勇気のない兵士の手を掴んで、ビビは力強く引き上げる。

 彼はよろけながらもようやく立ち上がった。

 

 「敵か味方かはあなた自身で判断してください。迷っていては更なる被害を生むだけです」

 「ビビ様……」

 「大丈夫。この国で育ったあなた達だからこそ、本当の敵が見えるはず」

 

 そうして話していられるのも、ほんの一瞬の出来事だった。

 

 「ビビ様ァ!? どちらへ! バレル様が……ツメゲリ部隊がやられましたァ!」

 

 どこかで誰かが叫んでいる。

 そちらに緊迫した表情で振り向いた直後、どこからか武器を持つ人間が駆け寄ってきた。

 バロックワークスの構成員がビビの背後から飛び掛かり、振り上げた剣で彼女を狙う。その様子に気付いた兵士だが咄嗟のことで反応はできなかった。

 

 「ヒャッホウッ!」

 「ビビ様ッ!? 危ないっ!!」

 

 突然の攻撃に二人とも反応出来ない。乱戦の中ではそれも仕方なかった。

 そんな危険な一瞬、辛うじて間に合ったらしい。

 どこからともなく飛んできた男が、ビビを襲う男の頬を蹴り、凄まじい勢いで蹴り飛ばす。

 

 「ビビちゃんになにさらしとんじゃクラァ!!」

 「ぶぼぉっ!?」

 

 歯が折れるほど全力で蹴りつけ、紙のように飛んだ男は激しく地面を転げ回る。知らぬ内に血を吐いていて意識など保てるはずがなかった。

 驚きの光景を見せた後に着地。

 これ以上ないという絶妙なタイミングで、ビビの前にサンジが現れた。

 

 煙草の煙を吐いて息を落ち着ける。

 ゆっくり振り向き、優しく微笑む彼はビビに声をかけた。

 

 「お待たせしました、プリンセス。あなたの騎士(ナイト)です」

 「サンジさん……!」

 「お怪我は?」

 「いいえ。ありがとう」

 

 ビビの顔から緊張が消える。心から安堵している様子だ。

 傍に立っていた兵士は、彼が味方なのだと理解した。

 見覚えのない人間。しかし彼がビビを守ったのは己の目で見ている。すぐ傍に居た兵士が反応できなかった状況で、よほど離れた位置に居ただろう彼の方が先に反応したのだ。

 開いた口が塞がらず、戦うのも忘れて二人の様子を見守る。

 

 「状況はどうなってる」

 「キリさんが言ってた、国王軍に潜入していたバロックワークス社員が戦況をかき乱してるの。見つけようとした頃には敵の攻撃を受けて……」

 「まぁ、向こうもキリが居ることは知ってんだ。早めに潰しに来るのは当然だな」

 「それに指揮ができるツメゲリ部隊はやられてしまったみたいで、チャカとペルはお父様と一緒に捕まってしまったまま。このままじゃ兵が混乱してしまうわ……」

 「全部計算済みってことか。チッ、仕方ねぇ」

 

 戦場を見回したサンジは何やら覚悟を決める。

 まだその意図が掴めていないビビは唐突な表情の変化に戸惑う。

 

 「ビビちゃん、君は国王を助けに行ってくれ。護衛は何人連れて行ってもいい。その間にここはおれがなんとかする」

 「そんなっ。私も一緒に」

 「悪いがおれは海賊だ。兵士としての訓練は受けちゃいねぇし、兵士を指揮して戦争したことだってねぇ。おれ一人なら誰が来ようが百人が相手だろうが負けねーが、こいつらはそうもいかねぇだろ。この戦場で勝つためには兵を動かせる人間が必要だ」

 

 サンジは真剣な顔で戦場を見渡す。何もビビを気遣っての発言ではない。戦いに勝つため、彼女を危険に晒すと知った上で提案していた。仲間として信頼して送るのである。

 そこまで聞けばビビも理解した。

 兵士を助けるだけではない。国王やチャカやペル、そして残ると言ったサンジを助けるためだ。

 

 「お父様を救って、チャカとペルを助ければ、あいつらに勝てるのね」

 「ああ。それくらいの時間は稼げる」

 

 ビビは今度こそ迷わずに力強く頷いた。

 自分のやるべきことをやる。事前に全員で決めていた。だから命を賭けることを躊躇わない。

 目的を定めたビビは強い眼差しで王宮を見た。

 

 「居るとすれば、あそこかしら……」

 「できるだけ早くしてくれると助かるな。おれは大丈夫だが、あいつらがいつまでもつか」

 「わかったわ。大丈夫、カルーが居ればそう時間は――」

 

 カルーに振り返ろうとした時、ちょうど彼の鳴き声が聞こえた。慌てた顔で走ってくる。今までどこへ行っていたのかと気にすると、その後ろからキリが走ってきた。

 茶色いマントを身に纏って、サンジとビビを目指しているらしい。

 まず最初に、怪しい、と思った。彼がこの場に居るとは思えなかったし、おそらく先程からMr.2を探しに行っていたのだろう、カルーが焦っているのが何よりの証拠。

 

 ビビは瞬時に武器を手に身構えようとする。

 一方、その人物に気付いたサンジは表情をピクリとも動かさなかった。

 

 「クエーッ!!」

 「気をつけてサンジさん! 言い忘れてたけどあいつは――!」

 「サンジ! ここに居たのか! ちょうど言いたいことが……!」

 

 駆け寄ってくるキリに、目にも止まらぬ速さでサンジが地面を蹴って接近する。

 迷わず足を振り上げて頬を蹴り抜いた。

 キリの体は地面を滑って、慌ただしくゴロゴロ転がって倒れた。

 

 「ゴホッ、ゲホッ……な、なんで……」

 

 ビビは唖然として突っ立っていた。

 蹴り飛ばされたキリが腕を突っ張って上体を起こし、サンジを睨む。

 

 「なんでわかったのかしらぁん……!」

 「そんなもんで騙されるほどマヌケじゃねぇよ。どんだけ見かけを変えようが、演技しようが、おれには効かねぇ。それにたとえ本物でもおれは蹴った。てめぇの持ち場を離れてのこのこやってくるような奴ならおれが叩きのめしてやる」

 「それにしたってひどいじゃなぁ~い? 仲間の顔面蹴り飛ばすなんて」

 

 サンジは冷静な顔で煙草を手に持ち、キリの顔を見やった。

 

 「どんな外面だろうが騙されねぇよ。人は、心だろうが」

 「フッ、ククク、んがっはっはっは……流石は紙ちゃんが選んだ仲間ねい。気に入ったわ~ん」

 

 俯きながら立ち上がって、左手で左の頬へ触れる。

 その瞬間に外見が変化して、キリではなく、Mr.2がその場に立っていた。

 彼は顔を上げ、サンジの目を見て笑みを見せる。

 

 「それじゃあちしの能力はもうご存知ってわけ? でも残念でしたぁ、あちしもあんたのこと知ってるわ~ん。蹴り技が得意な海の一流コックさん」

 「そりゃありがてェ。自己紹介の手間が省けるぜ」

 

 対峙した二人を見て本人以上にビビが緊張する。

 どちらも退く気はない。ここでやる気だ。観戦していられるほど余裕のある状況ではないが動き出すタイミングを見失ってしまい、困惑するビビを気遣ってか、サンジが声をかける。

 

 「行ってくれビビちゃん。ここは大丈夫だ」

 「ええ……気をつけてね、サンジさん。必ず戻るから」

 「ま、軽く仕留めるさ」

 

 ビビが先程の兵士とカルーを連れて、その場を離れていく。他の兵士も集めて王宮へ向かうつもりだろう。安全が気がかりではあるがそれはどこに居ても同じだ。

 今はこの場の平定を真っ先に考えなければならない。

 眼前にMr.2。マントを捨てた彼は騙し討ちという手段を捨て、正面から戦おうとしている。それを受けるつもりでいる一方、サンジには他にもやるべきことがあった。

 

 気になるのはビビだけではない。広場で戦っている兵士達のことだ。

 指揮官を失っている彼らの士気は下がる一方。ツメゲリ部隊が倒れたことでそれはさらに顕著となっている。このままでは長くない。

 

 本音を言えばそんなこともしたくなかったが仕方ない。

 サンジは腹から声を出して、周囲に居る兵士達へ向けて言った。

 

 「気合い入れろよテメェら!! テメェらが死んだらビビちゃんが悲しむ! ウジウジしてる暇があるなら向かってくる奴は全部ぶっ飛ばせ! テメェに敵意持って襲ってくる奴は全員敵だ!」

 

 あまりにも大きな声は味方の兵士を驚かせる。

 

 「言っとくがおれはビビちゃんに心配されるお前らが大っ嫌いだ! もしぶっ倒れやがったら蹴り飛ばしてても目覚めさせてやる! 痛い想いしたくねぇなら死ぬ気で生きろ!」

 「んが~っはっはっは! それってば矛盾してない? 一流コックちゃ~ん!」

 

 声を聞いていた兵士達は、動じながらも目つきを変える。

 ビビが悲しむ。

 些細な言葉だが愛国心を持つ兵士にとってこれほど影響が大きい言葉はない。声が届いたのはほんの一部でしかなかったかもしれないが、奮起した兵士達は敵を押し返そうと前へ出た。

 

 その一方でMr.2がサンジへ襲い掛かり、彼も即座に反応した。

 両者が足を振り上げ、繰り出された蹴りが空中で激突する。

 

 「海賊風情が兵隊の真似事でもする気? あんたが何を言ったところで所詮は海賊。この状況を丸ごとひっくり返すなんて無理な話よ~う!」

 「ああ、こっちも最初からそんな気はねぇよ。おれの仕事は時間稼ぎだ」

 「アァン?」

 

 互いの足が離れると同時に、Mr.2は次の蹴りを繰り出そうと体を回転させ、しかしサンジはその行動を見もせずに大袈裟なほど距離を取った。

 バック転をしながら一瞬で遠く離れてしまったサンジを、Mr.2は不思議そうに見る。

 

 逃げたのかと思った直後。彼の目的を理解する。

 Mr.2からあっという間に離れてしまったサンジは、唐突に自らバロックワークス社員の集団へ突っ込んでいき、素早い蹴りで十数人を一気に蹴り飛ばす。

 敵を排除し、国王軍を助けたのだ。

 

 これに驚いたMr.2は口をあんぐりと開ける。

 彼との対決より雑魚の排除を優先するあたり、どうやら本気で戦場を救うようだ。

 

 「あ~っ!? ちょっとあんたァ! あちしを無視すんなっつーの!」

 「来てみろ、オカマ野郎」

 「上等じゃな~い! 逃~がさないわよ~う!」

 

 怒り心頭といった様子で駆け出したMr.2がサンジを追う。彼は笑顔でさらに離れようと走った。

 また別の集団へ飛び込み、国王軍の兵士に代わって敵を蹴り飛ばす。

 その速度や威力は並みの人間に止められるレベルではなくて、誰一人として反応できず、またしても大勢の人間が勢いよく宙を舞った。

 

 「パーティーテーブルキックコース!」

 「ぐぎゃああっ!?」

 「ふんがぁぁぁ~!! 逃がさなぁぁ~い!!」

 

 多数の人間を蹴り飛ばしたことでサンジの動きが一瞬止まる。なんとか追いつくことができてMr.2が強く地面を蹴って跳び上がった。

 着地したサンジは彼の姿を見上げ、冷静に体を反転させる。

 

 「アァン! ドゥ! クラァ~!!」

 

 伸ばされた右足を回避して、バック転をしてその場から離脱する。

 サンジは、敢えて相手にしようとはしていない。

 避けられたことはおろか、逃げようとする彼の姿に驚愕してしまい、ぽかんとするMr.2を置き去りに別の集団へと向かっていった。

 

 またしても、サンジによって多くの敵が蹴られて地面に倒れた。

 一連の行動は敵の数を減らすだけでなく、国王軍に強い味方が現れたことを示して、少なからず士気の回復に繋がっていたらしい。間近でその強さを見た兵士は顔色を変えて、奮起し、誰かは知らないが自分達も負けていられないと雄たけびを上げる。

 兵隊の指揮など執れない。だが、野蛮ながらもそうして彼らを率いることはできた。

 

 怒ったのはMr.2である。

 正面から戦うならばまだしも上手く逃げられ、引っ掻き回されている。

 この瞬間、確かに彼を野放しにしておくのはまずいと判断していた。

 

 「ムガーッ! ジョーダンじゃな~いわよーう!」

 

 Mr.2が大声を出したのをきっかけにサンジがにやりと笑った。

 

 「どうした? ずいぶん足が遅いみてぇだな。まさかもう疲れたのか?」

 「ふざけんじゃなーいわよ~う! あんた、逃げずに戦いなさいよ!」

 「やなこった」

 

 その後もサンジは戦場を駆け回り、一人でも多くのバロックワークス社員を蹴るため、Mr.2の追撃を避けながら止まらることなく動き続ける。

 少しずつ、徐々にではあるが状況は変わり始めた。

 おそらく味方だろうという人物の援護を受け、国王軍は戦う意志を取り戻したのである。

 

 至る所から大声が聞こえてくる。その中にはサンジの叫び声もあった。

 自身の敵と対峙しながら、彼らは不意に笑みを浮かべる。

 Mr.9とミス・マンデーは互いに背を預けて呼吸を整えようとしていたようだ。

 

 「どうやら、おれ達には強力な味方が居るようだ」

 「フン……一時は殺そうとしてた奴らだっていうんだから、不思議な縁だね」

 「ああ。そういう意味じゃ、あの時殺しておかなくてよかった」

 「あの時殺しておいたら、こんなところで必死になって戦うこともなかっただろうけどね」

 

 彼らが視線に捉えるのはMr.10とミス・テューズデー。身に着けた鎧が暑いのか、絶えず大量の汗を流し続けながら、それでもMr.9とミス・マンデーに食らいついている。

 ビビの傍を離れてしまったのは不覚だった。しかしこの二人は放っておけない。

 考えるのは早急な決着とビビを追うこと。二人は気合いを入れ直す。

 

 「悪いが友達を一人で行かせちまったんだ」

 「あんたらを仕留めてさっさと追わないといけないんでね」

 「バイバイベイビー?」

 

 Mr.9がバットを持ったままバック転を繰り返し、Mr.10へ接近していく。

 同時にミス・マンデーが拳を振り上げながらミス・テューズデーへ向かって走った。

 

 混乱する戦況は絶えず変化し続ける。

 それを知りながらビビは振り返ることなく広場を後にした。

 目指すのは王宮。そこにきっと囚われた国王と臣下、そして倒すべき敵が居る。

 決意を表す表情は変わることなく、ただじっと王宮を見つめていた。

 

 「ハァ、ハァ……お父様、待ってて……!」

 「クエーッ!」

 

 カルーや数名の兵士と共にひた走る。

 ビビはすでに一切の恐怖心を捨て、目的のみを持って行動していた。

 


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