ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

255 / 305
HIS WORLD(3)

 「予定外の爆発はあったが……まぁいいガネ。そろそろ決着をつけるとしよう」

 

 突然静寂を打ち破った声に気付いたのは果たして誰だったか。

 王宮がある方角とは正反対、広場へ入るための入口へずらりと並ぶ大勢の人影がある。その先頭には見るからに奇妙で巨大な人物が居た。

 

 強烈な爆発によっていつの間にか砂嵐は消えていたが、代わりにというべきか、いつしか空が曇り始めていて薄暗くなりつつある。突然の気候の変化であった。

 しかし、それを確認する暇もなく、事態を呑み込む暇もないらしく、彼らが現れた。

 それはバロックワークスが用意した最後の一手である。

 

 やってきたのはこれまでクロコダイルが仕留めた海賊たち。

 秘密裏に組織へ吸収され、一枚岩とは言えないものの報酬で繋がれた膨大な戦力と化している。

 

 それを率いるのは、ドルドルの能力で強固な鎧を着込んだ、先頭に立つMr.3だ。

 チャンスを待ち、敵が疲弊し、ここしかないというタイミングで国王軍の前に現れた。

 いまだビリオンズとミリオンズも全滅していない状況で、現れた元海賊たちの戦力はその数を超えている。誰もが疲弊しきったこの状況下で千人近い人数が武器を持って立っている。

 その光景を目にした途端、多くの兵士が顔色を変え、巨大な絶望感に囚われた。

 

 「フィナーレといこうカネ。私の完璧な戦略でこの戦いは終わる」

 

 増援となった海賊たちが武器を振り上げて雄叫びを上げる。

 国王軍はさらに気圧されてしまい、逆に戦闘中だったバロックワークス社員は士気を上げる。

 予想通りの景色を見たMr.3は怪しく微笑んでいた。

 

 「さて、それでは諸君――」

 「集結せよ! 国王軍!」

 

 攻撃開始の号令を出そうとしたその時、剣を掲げたチャカが声を張り上げた。

 気落ちしていた様子の国王軍は皆が彼に視線を集める。そのことに気付くMr.3は不意に笑みを消すものの、チャカの叫びは誰にも止められなかった。

 ここで命を賭けずにどうする。生き残るため、彼はもはや死ぬなとは言わなかった。

 

 「各々すでに疲弊し、諦めたくなる気持ちもあるだろう! だが決して武器を下ろすな! 我々にはまだ戦うための術がある! 意志がある! 力がある! 命が、ある! 残る全てを使い、我々が守るべきものを守ろう!」

 「犬め。余計なことを……」

 

 チャカ自身、動き続けてすでに疲れ切っていたが諦めようとしていない。

 今は、ビビには悪いが、ここで死んでもいいと思っている。

 アラバスタを守るためなら喜んで死のう。そう考えて剣を掲げていた。

 

 「我らが祖国を! アラバスタ王国をめちゃくちゃにした張本人が今目の前に居る彼らだ! ここで戦わずして一体何を守れるというのか! 兵士としての誇りを思い出せ!」

 

 冷徹な判断だとわかっていても、それを止めることは誰にもできない。何を言わんとしているか理解しているビビですら口を挟めなかった。

 彼らは戦おうとしている。生きようとしている。最後の最後まで諦めないでいようとしている。

 完全に諦めてただ殺されるくらいなら、せめて一秒でも長く。

 そんな刹那的な考えに胸を痛めて、しかしビビは、チャカの言葉に感謝した。

 

 「立ち止まるな国王軍! 前進を続けろ! 本当に歩けなくなるその時まで、命を失うその瞬間まで、決して諦めるな! どうせ死に行くこの命なら、祖国のために捧げようではないか!」

 「おおおおっ――!」

 「怯える者は今すぐ逃げよ! 私についてくる者は武器を掲げ、雄叫びを上げ、最後のその時までついてこい! お前たちに死に場所を与えてやる!」

 「うおおおおおおっ!!」

 「全軍突撃ィ!!」

 

 すでに狂気の沙汰であった。

 一瞬にして最後の士気を盛り上げた国王軍は、凄まじい勢いで一斉に駆け出す。その迫力は到着したばかりの海賊たちを怯ませ、空気の違いに驚く。

 

 Mr.3はしかし、勝ち誇るように笑みを浮かべた。

 やはり彼の作戦は完璧だったのだ。

 

 突如、国王軍の兵士が味方の兵士を襲い始めた。心を一つにした矢先のこと、襲われた者は驚愕して体を傷つけられ、襲った者は同じく、自身の行動に驚愕していた。

 素早く気付いたチャカが後ろを振り返る。

 味方同士で傷つけ合って、いくつもの動揺と悲鳴が飛び交っていた。

 

 「何をしているッ!? 味方同士で争うな!」

 「お、おいっ、何やってるんだ!? おれは敵じゃ――ぎゃあっ!?」

 「違う、おれの意思じゃない! 体が勝手に動くんだ!」

 「おいやめろ! ふざけてる場合かッ!」

 「誰か、止めてくれ! 自分じゃどうにもできないんだ!」

 

 味方を攻撃しているのは一人や二人ではない。半数には満たなくても、数百人は居る。悲鳴を発して辛そうな顔で、中には涙を流しながら仲間を切っている兵士が居た。

 愕然としたチャカは立ち尽くしてしまう。

 一体何が起こっているのか、見当もつかない。当然その状況を治める方法もわからない。

 悲痛な叫びはいくつも彼の耳の中へ入ってきた。

 

 「違うんだっ、おれじゃない! おれがやったんじゃない!」

 「誰かおれを止めてくれ! 仲間を殺させないでくれっ!」

 「そんな、嫌だ……! だれか、だれかおれを殺してくれぇェ~!!」

 

 仲間割れではない。自分の意思でないことは明らかだった。

 突っ立っているとチャカを狙って走ってくる者もおり、彼もまた涙を流して槍を持っていた。

 

 「チャカ様っ! お逃げください!」

 「くっ……!」

 

 振り下ろされる槍を剣で受け止め、鍔迫り合いになる。

 彼の攻撃に全力を感じた。本気で殺しに来ている。しかし兵士自身は涙を流しながらその攻撃を嫌がっており、非常にちぐはぐな行動であった。

 彼の顔を見つめ、チャカは全身が震えるのを感じる。

 

 原因がわからなければ、怒りを誰に向けていいかわからない。

 周囲の状況に焦るチャカは自身と刃を合わせた兵士へ、余裕のない声で問いかけた。

 

 「言え! お前の体に何があった!?」

 「わ、わかりません……いきなり、体が勝手に動いて、気付いた時には味方を……」

 

 その兵士は大粒の涙を流し、腕に力を入れたまま俯いてしまう。

 

 「うっ、ううっ……あいつは、おれの親友だったのに……」

 

 彼の様子を、倒れていく仲間たちを、彼らを倒した仲間たちを見て、呆然とするチャカは激しい怒りに囚われていた。冷静な思考が見る見るうちに消えていく。

 首を回して辺りを見回した時、笑みを浮かべるMr.3を見つけると、目つきが変わった。

 

 「何をした……私の兵に何をしたんだッ!!」

 「棒立ちだったので準備が容易かったガネ。これで貴様らは終わりだ」

 

 わっと増援が一斉に駆け出す。

 混乱する戦況へ飛び込み、瞬く間に国王軍を呑み込んでいった。

 

 洗脳というより操作に近い。操られた兵士たちは己の意思を失わぬまま、敵を見逃して味方のみを攻撃する。それ故に国王軍の戦力ばかりが減っていた。

 その手は今やビビへも伸びようとしている。

 

 近付いてくる兵士が止まらないため仕方なく殴り飛ばしMr.9とミス・マンデーが苦心する。

 守るのはいいがいつまでも堪え切れるものではない。

 二人は必死にビビを守ろうと兵士を退けるが、その行為自体がビビの心を傷つけることになるとも気付いており、決して本気では戦えない状況には違いなかった。

 

 「くそっ! どうなってやがるんだ!」

 「しっかりしなよあんたたち! 一体どうしちまったんだい!」

 「ミス・ゴールデンウィークよ……」

 

 呟いたビビが、唐突に駆け出した。

 二人の間を抜けて武器を振り上げている兵士へ接近する。

 反応できなかったMr.9とミス・マンデーは目を見開いて絶句した。

 

 「ミス・ウェンズデー!?」

 「だめだ! 戻りなァ!」

 「ビビ様ぁ~!? お逃げください! 自分では止められないのです!」

 「あなたは悪くない……! 私が止める!」

 

 振り下ろす刃は誰にも止められない。

 ビビは危険と知りながら前へ突っ込んだ。

 

 兵士が持つ槍がビビの肩を切り裂く。服が破けて肌が裂かれ、槍につられて血が舞った。切った兵士の方が悲痛な叫び声をあげるものの、ビビは足を止めずに彼へ飛びついた。

 彼の背へ腕を回し、共に地面へ倒れ込む。

 二人が地面に倒れた後でようやくMr.9とミス・マンデーが反応できた。

 

 「ミス・ウェンズデーッ!」

 「ビビ様ぁ!? あ、あれ……? 体が、自由に……」

 

 慌てて飛び起きた兵士が自分の意思で動けることに驚く。確認しても自分の意思に従っていた。

 駆け付けた二人は状況の変化に呆然とし、彼女の行動の意味を知る。

 ビビは傷ついた右肩を押さえ、傍に居る三人へ声をかけた。

 

 「これが敵の策略よ……背中を見て。黒い絵の具でマークが描かれている」

 「え? 背中?」

 「ミス・ゴールデンウィークの仕業。みんな操られているだけなの」

 

 真剣な眼差しで三人を見据えて、ビビはしっかりとした足取りで立ち上がる。

 彼女の顔からは誰よりも強い覚悟が窺えた。

 

 「このマークが消えれば解放されるわ。ほんの一か所だけでいいの。少しでもマークが崩れれば効果はなくなる」

 「こんなもので人を操るのか……」

 「あなたたちはこのことを他のみんなにも伝えて。そして操られているみんなを解放して。私たちはまだ負けたわけじゃないわ」

 

 教えられた兵士は慌てて地面を転がり、背中についた絵の具を取る。

 その間、ミス・マンデーは真剣な目で彼女を見つめていた。気付いたビビが目を合わせるも意志が揺らぐ様子はない。それだけで全てわかる。

 

 「今は一刻を争うの。それぞれ散って行動しましょう」

 「護衛はいらないってことだね」

 「ええ」

 「ビ、ビビ様っ!? そんな危険なことを……せめて私だけでも! それでビビ様のお体を傷つけてしまった罪を償えるとは思いませんが、この命使ってお守りしなければ自分が許せません!」

 「やめて。これはあなたのせいじゃない、私が自分でつけたものよ。勝手に罪を被らないで」

 「しかし……!」

 

 慌てて立ち上がる兵士の顔を見上げてビビは言った。

 迷いのない声は彼を瞬く間に冷静にした。

 

 「私のためというなら一人でも多くの人を救って。あなたの力でたくさんの人が助けられるの。お願い、時間がないわ」

 「ビビ様……わかりました。ご命令通りに」

 

 兵士が槍を取って走り出すと、ビビはMr.9とミス・マンデーに視線を送った後、駆け出す。

 こうしている間にも多くの兵士が傷ついている。諦めてはいけない。さっきチャカが言ったばかりではないか。今からでも十分に間に合うはず。

 彼女は単身戦場へ飛び込んでいく。

 一人でも多くの兵士を救うため、自ら国王軍同士の戦闘へ近付いていく。

 

 しかしどうやら、それを狙っていた人物も居たようで。

 突然ビビへ声がかけられた。

 

 「ビビっ、危ない! 逃げて!」

 「えっ――?」

 

 全力で振るわれた棒がビビの頭を打ち据えた。皮膚が破れて額から血を流し、走っていた勢いそのままに転んでしまう。

 倒れたビビはすぐに上体を起こすも、座り込んだ格好で自分を襲った人物を見た。

 

 「ああっ、嘘っ、ごめん……! 体が勝手に動いて……!」

 「ナミさん……あなたも」

 

 クリマ・タクトを振り抜いた姿勢のナミが目の前に立っていた。

 彼女も腰の裏に黒い絵の具のマークが描かれており、操られていたらしい。

 

 驚愕するビビを狙って、どこからか小さなチャクラムが飛来した。

 直前に気付いて回避行動を取るも、鋭い刃が左腕をわずかに切り裂く。

 ビビの口からは声が漏れ出た。

 

 ブーメランのようにチャクラムは使用者の手に戻る。

 汚れた格好をした兵士たちが周囲に居る中で小奇麗な服装の女だ。その隣には同じく兵士ではなさそうな服装の男が立っている。

 彼らはナミの後方に陣取り、視線は座り込んだビビを捉えていた。

 

 「うっ……!?」

 「ビビっ!」

 「お久しぶりね、ミス・ウェンズデー。一人でお出かけ?」

 「ミス・マザーズデー……Mr.6……」

 

 現れたのはこれまで姿を見せなかったMr.6とミス・マザーズデーだったようだ。

 ビビを始末するために出てきたのか、周囲の兵士には目もくれず彼女を見つめている。

 そこへ加えて操られたナミが居る。彼女は戸惑っている様子で、自力でどうにかすることは難しいだろう。やはり誰かがマークを壊さなければ。

 

 早くみんなを助けたいのにそれができない。

 敵に阻まれ、ビビは悔しげな顔を見せた。

 せめてナミだけでも。そうは思うのだが簡単にはいかなそうだ。

 

 「ちょっとあんたら! ビビに手ぇ出すんじゃないわよ! それと私を元に戻しなさい!」

 「あら、だめよ。せっかく手伝おうと思ってるのに」

 「大体何なのよこれ! 体が勝手に動いてちっとも言うこと聞かない!」

 「カラーズトラップ」

 

 パリッ、と煎餅を齧る音が聞こえた。ビビはそちらに目を向けた。

 そう遠くない位置、容姿の幼い、ミス・ゴールデンウィークが立っている。ナミや国王軍兵士にマークを描いたのは彼女で、絵の具の力で他人を操っているのだ。

 

 「カラーズトラップ〝裏切りの黒”。どんなに信頼する仲間でも裏切りたくて仕方なくなってしまうの。戦う気が強ければその気持ちはより強くなる」

 「ふざけんじゃないわよ! 私は裏切りたいなんて思ってない!」

 「あなたはそうでも、あなたの体は違うんじゃないかしら」

 「元に戻せぇ~!」

 

 暴れようとするナミだが意思とは無関係に体は動かない。むしろミス・ゴールデンウィークを狙おうという意思によりビビへ攻撃しようとする挙動があった。

 ビビも黙ってやられる訳にはいかず、即座に立ち上がる。

 敵は三人。ミス・ゴールデンウィークは動かないとしても厄介な二人が居た。

 

 「ごめんビビっ、私またあんたのこと襲っちゃいそう……! 何とかして!」

 「大丈夫ナミさん。見捨てたりなんてしないから」

 「お寒い友情ね。さっさと殺したくなってきたわ」

 「私、仕事終わったから休んでるね」

 

 やはりミス・ゴールデンウィークは動かない。

 彼女はめんどくさがりだ。今回だけでなく普段から戦闘など面倒なものは好きではない。

 

 だとすれば操られたナミと、チャクラムを使うミス・マザーズデー、大きな籠手を両手に装備したMr.6がこの場での相手。ビビは小指に装着した武器を振り回す。

 一人でどうにかできるかはわからないが誰かを頼る暇もない。このままやるしかなかった。

 

 必死に抵抗している様子のナミが徐々にクリマ・タクトを構えようとしている。

 その後ろでMr.6ペアが攻撃を始めようとしていた。

 最悪の場合、ナミが狙われてしまう可能性もあった。操っているだけで彼女は敵。Mr.6ペアがわざわざ守ってやる必要はないため、ビビもろとも始末しようとするかもしれない。

 優先的にそれを避けなければとビビは敢えて前へ出ようとしていた。

 

 そうして彼女が動きかけた時、ナミの後方でMr.6ペアに襲い掛かる二人が居た。

 気付いた二人は咄嗟に回避する。

 Mr.6にはサンジが飛び掛かって蹴りを繰り出し、チョッパーがミス・マザーズデーに拳を振る。

 その際、こんな状況でもサンジはチョッパーに怒鳴っていた。

 

 「おいチョッパー! レディを殴ろうとするとはどういう了見だ!」

 「仕方ねぇだろ! この状況じゃそれしかないんだ!」

 

 Mr.6ペアはあの二人が止めてくれるらしい。

 ビビは改めてナミに向かい合う。

 彼女を解放すればまた状況は変わる。絶対に見捨てることはできないし、仲間たちの協力が必要不可欠だ。ビビはまず最初に彼女を救うことを決めていた。

 

 「ビビ、ごめんね……! あんたの足引っ張っちゃってっ」

 「謝る必要なんてないわよ。ここはまだ諦めるところじゃないわ」

 

 敵が離れたことでビビは武器を使おうとはしなかった。

 無傷で助ける。その方法があるため、先程同様マークだけを消そうとする。

 ビビは駆け出し、接近してくる彼女に反応したナミの体は勝手に攻撃しようとしていた。

 

 「頭を狙ってる! 避けて!」

 

 ナミの助言もあり、頭を下げてクリマ・タクトを潜るように避けた。

 思い切り地面を蹴って跳び、ナミの腰に抱き着いて押し倒す。腰の裏に手が触れたことでマークが崩れて、効果が消えたようだった。

 

 二人は共に地面を転がり、自由を得たナミはパッと笑顔を輝かせる。

 しかしその姿を見逃さなかったミス・マザーズデーが二人へチャクラムを投げつける。

 

 「やった! 自由になったわよ!」

 「ハァ、よかった……」

 「隙ありッ」

 「あっ!? ビビ! ナミ! 危ねぇ!」

 

 一瞬の隙を突かれたチョッパーが叫んだ時には、チャクラムは倒れたままの二人へ高速で接近していき、地を這うように脳天を狙っていた。

 驚愕する二人は回避が間に合いそうもない。目を見開いてただただチャクラムを見つめる。

 

 それを見て、自らチャクラムの前に割り込む人物が居た。

 彼女は飛来するそれを刀で弾き、二人を背にして守る。

 

 驚く二人が見た背中は女性のものだった。

 同様に慌ただしく広場の中へ侵入してくる集団がおり、増援なのかと目を疑う。しかし彼らは服装からして海兵であり、そういえば彼女も、とナミが思い出す。

 二人へ背を向けていたたしぎは、ミス・マザーズデーの動きに注意しながら口を開いた。

 

 「あんた……」

 「指示をください。何をすればいいんですか」

 「え?」

 「あなたたちを援護します。彼らに勝つための指示を!」

 

 ナミは困惑している様子だったが、ビビはすかさず強く頷く。

 その後は事情を聴いたたしぎが部下に指示を送り、海兵たちが迅速な行動を取り出した。

 

 海兵が乱入してきたことで、多少だが広場の中の様子が変化する。

 己はいまだ戦闘には介入せず、戦況を見守っていたMr.3はほんのわずかに顔を動かす。まだ不利という状況ではないが予想していない方向へ動き出していたようだ。

 

 「フン、海兵か。まぁいいガネ。どうせ奴らではこの戦況を変えられん」

 「Mr.3」

 「ミス・ゴールデンウィークか。よくやってくれたガネ」

 「うん。仕事終わったから休んでるよ」

 「ああ、それでいい。もう我々の勝ちは決まったようなものだガネ」

 

 戻ってきたミス・ゴールデンウィークと話しているほんの一瞬だった。

 比較的近くで戦っていた海賊たちの悲鳴が聞こえ、Mr.3が不思議そうに振り向く。するといつの間にか単身突っ込んできていた敵が眼前に迫っていた。

 両手に刀を持ち、目を獣のように光らせるゾロがMr.3を睨んでいた。

 

 「つまり、戦況を変えるにはお前を斬ればいいってことか?」

 「残念ながらそれは無理だガネ。最高硬度のドルドルチャンピオンは誰にも斬れんガネ」

 「へぇ。誰にも斬れない、ねぇ」

 

 それは聞き捨てならないとゾロが笑う。その笑みは獲物を見つけたと言わんばかりで、ちょうど鉄を斬る感覚を完璧なものとするため、練習が必要だと思っていたところだ。

 巨体を持つMr.3がついに動き出し、構えた刀にボクシンググローブのような両手をぶつける。

 ぶつかった音からして全身が鉄のようなもの。蝋とはいえむしろ願ったりかなったりの相手に違いない。ゾロの戦意は急激に膨らんでいった。

 

 戦闘はますます激化し、今やここが地獄だとでもいうかのよう。

 数多の悲鳴が重なり、叫び声が常に絶えず、飛び交った血が足場を赤く汚していた。

 ミス・ゴールデンウィークはそんな風景を見ながら、またしても煎餅を齧る。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。