ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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戦いのあとで

 アラバスタに雨が降る。

 空には大きく厚い雲。近海から見ていても島中に降っているだろうことがわかる。

 一隻の船が島から離れようとしており、その動向に気付く者は居ない。しかもその隣には普段はないはずの船を一隻引き連れている。

 

 バロックワークス所有、人工降雨船〝フール号”。

 不思議な粉、ダンスパウダーを空へ打ち上げ、人工的に雨を降らせるための船だ。

 それを奪取した彼らは誰にも知られることなくその場を離れようとしている。

 

 雨に濡れることも気にせず甲板に立ち、島を眺める二人が話す。

 態度は冷静だが気になるのは麦わらの一味の動向についてだった。

 

 「あいつら、どうなったんだろうなぁ。勝ったのかな」

 「いやーそりゃどうだろう。勝つのはまず無理って相手だからなぁ」

 「なんせ七武海だろ?」

 「今頃は死んでるかもなー……」

 

 腕組みをしながら溜息交じりに言う。

 その後、二人は壁に背を預けて立っている男へ目を向けた。

 

 「船長はどう思います?」

 

 問いかけられたトラファルガー・ローは、海賊島でキリから受け取ったエターナルポースを見つめており、冷静な面持ちで思案する。

 ペンギンとシャチの心配は当然だろうと思っている。しかし不思議と予想する結果は一つだ。

 

 「さあな……ここで死ぬようならその程度の奴らだったってことだ」

 

 静かにそう言い、島へ目を向ける。

 本来なら勝てるはずがないと考える相手。何せ相手は七武海。名を上げたばかりのルーキーはおろかグランドラインで生き延びた海賊ですら簡単には勝てないだろう。

 それなのに不思議と彼らが負けるとは思っていなかった。

 何とかして勝つと思っている。だからこそ彼と手を組んだのだ。

 

 アラバスタでの決戦にあたって、ハートの海賊団は多くの物を準備していた。

 Mr.9とミス・マンデーをこの島まで導いたり、幻とさえ呼ばれる生物、ヒッコシクラブを見つけて手懐けておいたり、現在の国の状況を調べたりと大活躍である。報酬は人工降雨船。彼らの協力が無ければ麦わらの一味の勝利はなかっただろう。

 

 ローはアラバスタを指すエターナルポースを近くに立っていたベポへ渡した。

 この船の航海士は彼だ。投げ渡されて慌てて受け取り、大事そうに両手で抱える。

 もう一度この島へ来るかどうかはわからない。だがエターナルポースは貴重な物だ。

 

 気のない様子のローの返答を聞き、シャチとペンギンは顔を見合わせる。

 アラバスタで何が起こっているのか。できれば今すぐにも知りたい心境だった。

 

 「キリ、上手くやってんのかな」

 「せっかく面白そうな奴に会ったからなー。できれば死んでほしくねぇよ」

 「でも頑張ったわりにこの船だけって、安くねぇか?」

 「まぁ船としてはそんなに使えねぇしな。でもあれ、売ったら高くつくらしいぜ? もちろん闇の商人じゃねぇと無理だけど」

 「マジ?」

 

 話す二人に背を向けて、船内へ向かいながらローは小さく呟いた。

 

 「この貸しは高くつくぞ」

 

 顔には薄い笑みがあった。

 その言葉からして、彼らが死ぬとは思っていない。いずれ借りを返してもらう。人工降雨船だけでは報酬としてあまりにも安過ぎるからだ。

 

 いずれまた会うことになる。

 もはや確信と言っていい想いを持って、彼はアラバスタに背を向けた。

 

 

 

 *

 

 

 場所は変わって、アルバーナ。

 優しい雨に包まれて静寂に満たされた町は、その静けさで人の気配すらも覆い隠していた。

 ただでさえ戦闘が終わった直後。疲労感から呆けてしまっている者が多く、こっそり逃げ出した人間に気付く余裕がある者など皆無に等しい。

 

 咳き込みながらよろよろ歩くMr.2は、変装の達人でもあり脱獄の名人でもある。サンジに蹴り飛ばされた後に捕縛されていたはずだが今は一人で道を歩いていた。

 辺りは無人。砂漠へ逃げた町人が戻ってくるまで時間があるはず。

 

 負けはした。だが諦める気はない。

 彼は一人になって体がふらついても歩き続ける。

 

 ふらつく足取りで歩きながらもつらつらと考え事をする。

 元々国盗りに興味はなかった。スカウトされて、組織を抜ければ死ぬ。だから続けていただけ。

 これからどうしようと考えることに躊躇いはない。

 そう考えてふと気付いた時、そういえばそれだけではなかったと組織に居た理由を思い出す。

 顔を上げたMr.2は雨を降らす空を見た。

 

 いつからか、キリのことが気になっていた。

 子供なのに心は冷め切っていて、まるで人形のようだった彼。成長するごとにその心に軋みが生まれ始め、本人さえ戸惑っている様子だったことは彼も知っている。

 フッと笑って、Mr.2は少しだけ足を止めた。

 

 再会した彼はいい顔をしていた。組織に居た頃にはなかった顔を鮮烈に覚えている。

 突然姿を消した時は嫌な予感すらあったのだが、どうやら良い選択をしたようだ。

 

 そうだ、と思いつく。

 彼を頼ってみるのもいいかもしれない。

 どうせ元々は仲間だった。色々あったが個人的に仲違いした訳でもなく、彼の今後が気になるという想いもある。せめて話すくらいはしてみたい。

 

 Mr.2は笑みを浮かべて再度歩き出す。

 

 「んが~っはっはっは……み~てなさいよ~う……」

 

 雨が降る町に静かに消えていく。

 その姿を見つけることは終ぞできず、逃げ出したのは彼一人だった。

 


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