ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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次なる航路

 朝まで続いた宴を終えて、まどろみを覚える朝。

 王宮内部で大騒ぎをした結果、そのまま城内に泊まったコーザは、一人部屋を抜け出すと城門に立ってアルバーナの町と砂漠を見渡している。

 

 この国には大きな傷が残ったことだろう。しかしそれ以上に大きな何かを振り払うことはできたはずだ。己が生まれ育った国を眺めるコーザの心は晴れ晴れとしていた。

 不思議と今日は体が軽い。

 まるで生まれ変わったような気分で彼は己の国と向き合っていた。

 

 「おはよう」

 

 声がした方向に振り向いてキリの存在に気付く。

 彼を見つけるとコーザは薄く笑みを浮かべた。

 

 「おう。早いな。いつもなのか?」

 「いや、今日はたまたま。なんとなく目が覚めてさ」

 

 コーザの隣にやってきたキリも同じ方角に目を向ける。

 家々が破壊されて、一見すれば悲惨な町の状況。しかしコーザには笑みを浮かべるほどの余裕があって、国民も決して悲観的になっている様子ではない。これも王の言葉の影響か。自分たちが始めた宴も多少は力添えできたと思う一方、国の力は大したものだと思う。

 

 振り返ればキリが生まれたのは小さな島の小さな村。島民たちの名前は全員が知っていて、皆が家族のように親しく接し、噂など一日も経たずに広まる場所。

 離れてからは海賊になり、海の上で生きて、多くの島を巡ったとはいえ住んだ経験はない。

 

 人が作った国という力の強さを改めて思い知った気がする。

 ビビやコーザがこの国を好きでいる理由がわかった。

 

 町並みを見ながらキリが言う。

 そうなってしまった原因は自分にもあるが、気を使って話したりはしない。

 そんなこと、コーザ自身が望んでいないと知っているからこそ、かつてと同じ話し方をする。

 

 「これから大変そうだね」

 「心配いらねぇさ。一からやり直す。そういう意味じゃ分かりやすくていいかもな」

 「タフだね。この国の人はみんな逞しいや」

 「国王と王女がああだからな。感化されちまったのかもしれねぇ」

 

 コーザの言葉にキリは、確かに、と笑みをこぼす。

 それからすぐ話を変えてコーザが質問した。

 

 「そういやお前ら、いつまで居られるんだ?」

 「そろそろ出るよ。今日か、明日か、時間はあまりない。いい加減海軍の介入も許してやらないといけないし、援助も欲しいところでしょ?」

 「まぁ、な……心配すんな。お前らのことは話さねぇ」

 「別にいいよ、話しても。ただどうせなら悪く言ってもらった方が得なんだけどね」

 「得?」

 

 疑問に思った顔でコーザがキリの顔を見た。

 

 「悪名を広めた方が海賊は得するんだよ。相手への威圧になるから度胸のない奴は自然に逃げていくし、血気盛んな奴は向こうから近付いてきてくれる。情報操作も大事な武器だ」

 「それもバロックワークスの教えか?」

 「まぁね。おかげで悪巧みが得意になった」

 「食えねぇ奴だな……」

 

 苦笑したコーザは溜息をつく。

 対照的にキリは朗らかに笑った。

 

 「今回はこれで最後かもね。落ち着いて話せるのは」

 「急ぐんなら止めねぇよ」

 「寂しくないの?」

 「まさか。今までと同じだろ。お前はいつもふらって現れて、ふらっと去る。今までずっとそんな感じだった」

 

 コーザは穏やかな顔で言い、キリは彼の目を正面から見つめた。

 

 「待つのは慣れてる。いつでも来いよ」

 「うん……」

 

 ふと吹き抜けた風に髪を遊ばれながらキリは微笑む。

 決意と覚悟はできた。

 心境は以前と比べて少し変わり、今の方が余計な力が抜けている。過去を受け入れ、新たな一歩を踏み出そうとしているのはアラバスタだけではない。

 

 「今度の旅は、きっと長くなる。だけど次に来た時は海賊王のクルーだ」

 

 揺らがぬ意思を覗かせて、澄んだ目で告げたキリにコーザはきょとんとする。

 直後、その壮大な夢を理解して思わず笑ってしまった。

 

 「アッハッハッハ! 海賊王か、そりゃすげぇ夢だな」

 「ボクらは本気だよ。なるのはルフィだけど」

 「そりゃ長い旅になる。行ってこいよ、キリ。お前らの活躍を楽しみにしてるぞ」

 「ありがとう。まぁ、ボクらが活躍すると世間は荒れるんだけどさ」

 「たとえ海賊でも悪いことばかりじゃねぇさ」

 

 コーザが再びアルバーナの町を眺めた。

 晴れ晴れとした笑顔で上機嫌に語る。

 

 「その間におれはこの国を立て直して、もっと良い国にする。国王は元気だが歳も歳だ。支える奴はきっと必要になるだろう」

 「コーザならできるよ。ボクが保障する」

 「贖罪をしなきゃならねぇしな……お前が次に来る頃には、本気でびっくりするような国にしといてやるよ。今度こそおれたちの力で」

 「うん。楽しみにしてる」

 

 言い終えるとコーザは移動しようとした。キリはその場で見送ろうとする。

 

 「さて、元反乱軍の連中を起こさねぇとな。まずはアルバーナを人が住める状態にしねぇと」

 「ほどほどにね。無理はしないように」

 「まさか、そんな状態のお前に言われるとはな」

 

 言われて自分の体を見下ろし、包帯が巻かれた姿を再確認した。

 楽しげに笑うとひらりと手を振った。

 振り返って気の抜けた顔を確認すると、本当にあの日々が嘘だったのだと感じるが、それはそれで変化を感じて喜びもある。コーザは去る前に彼へ言った。

 

 「またな。気を付けろ、って言っても無駄だろうが、死ぬなよ」

 「わかった。またね」

 

 あっさりした様子で別れを告げて、コーザは手を振りながら背を向け、その場を後にする。

 屋内へ姿が消えるのを見送ってからキリは体を伸ばす。

 

 晴れた気分だった。

 空と同じく、今までの比ではなく晴れ晴れとしている。

 辺りの景色を眺めてから、彼は弾む声で呟いた。

 

 「さて、諸々準備しないと。まずは連絡と、脱出ルートの確認……食料は諦めるか。あーあ、海軍がいっぱい来るんだろうなー」

 

 嫌そうな顔でキリがゆったり歩き始めた。

 最優先で考えなければならないのは島からの脱出。おそらく海軍との交戦は避けられない。海戦を得意とするアーロン一味が居るとはいえ、その存在はすでに知られているはずであり、対策が講じられていたとしてもおかしくないだろう。

 考えることは多そうだと、彼はだらしない姿勢で屋内へ向かった。

 

 

 *

 

 

 明かりをつけていない軍艦の一室で、スモーカーはベッドの上に居た。

 脱力して四肢を伸ばし、葉巻を二本銜えて、しばらく部屋を出ることもなく動こうともしない。

 室内は葉巻の煙で満たされ、海軍の船とは思えないほど不衛生な様子に変貌している。

 

 アルバーナでの決戦が終結した後、彼の部隊はすぐにアラバスタを離れていた。

 報告は全て嘘偽りなく行われている。クロコダイルを捕らえたこと、その功績は自分たちではなく麦わらの一味にあること、そして彼らを取り逃がしたこと。

 当然海軍及び世界政府の上層部は彼らを責め、今すぐ引き返して捕らえろと言う。

 その命令を無視してスモーカーの部隊は本部を目指していた。

 

 不甲斐ない。心底自分を嫌いになる。

 もしも自分がクロコダイルに勝っていたなら、当然麦わらの一味を捕縛しただろう。

 現実は違う。スモーカーは敗北し、もしもルフィが居なかったならアラバスタは奪われ、海賊が支配する国として作り替えられていたに違いない。

 

 力が足りない。勝つことができなければ何も守ることはできない。

 海兵としてのプライドを傷つけられたスモーカーは自身に向ける激しい怒りを覚えていた。

 

 そんな状態でも心は穏やかだった。やけになっている訳でもなく投げだしたつもりもない。ただ自分に足りない物を数えて、自分に必要な物を見据える。

 諦めてなどいない。むしろ彼は己が目指すべき理想を見つけてもいたようだ。

 

 扉がノックされる。返事をしなかったため、失礼しますと言ってたしぎが入ってきた。

 彼の様子に思うところでもあるのだろう。ここ数日ろくに食事をとろうとはしなかった。

 スモーカーを心配しながらも、彼女自身もまだ完全に立ち直れた訳ではない。

 冷静な声で事務的に伝え、小さな声が重苦しい沈黙を破った。

 

 「スモーカーさん。電伝虫の通信が入っています」

 「出られねぇと伝えろ」

 「本部やヒナ大佐ではありません。直接話したいと……」

 

 今日になるまで何度となく電伝虫が鳴っていた。ウザったく感じていたスモーカーはそれら一切を無視しようと決め込んでいたが、たしぎの戸惑った声を聞いてよっぽどの事情だろうと察する。

 ベッドに寝そべったまま、静かに聞いた。

 

 「誰だ」

 「……クザン大将からです」

 

 ぴくりと眉が動いた。

 予想することもなかった名前。確かに過去、目をかけてもらったこともある人物だ。

 起き上がったスモーカーはベッドから降りる。

 

 上半身は裸のまま。いまだに包帯が取れずに巻かれている。

 長ズボンにブーツという姿で自室を出るべく動き出した。

 

 「繋げろ」

 

 小さな呟きにたしぎは頷き、先に歩いて彼を先導する。

 スモーカーが姿を見せたことで部隊の人間は驚き、少なからず怯える様子も見せたが、彼自身は気にしていない。葉巻を銜えた厳めしい顔で前だけを見据える。

 

 到着したのは別の船室だった。

 室内に居た海兵は全員が立っていて、緊張した顔を見せている。

 それが果たして、スモーカーに対するものか、或いは通信相手へのものか。

 どちらとも考えずにスモーカーが席へ座る。

 

 荒々しく椅子に座った物音で通信相手は彼が来たことに気付いたようだ。

 スモーカーが受話器を握った途端、相手から話し始める。

 

 《よお。ずいぶん苛立ってるみたいだな》

 「まさかあんたから連絡が来るとはな……」

 《まぁ~おれも普段ならこんなことしねぇんだが、今回は話の内容が内容でな。個人的に気になったのよ。心配するな、あーだこーだ言わねぇから》

 「用件はなんだ?」

 

 明らかに不機嫌だろうという声色でスモーカーが尋ねる。するとだるそうな声が答えた。

 

 《報告は聞いてる。クロコダイルと麦わらの一味だろう。ずいぶん大事になったもんだ。こうなるなんて誰も予想してなかったってのにな》

 「腹立たしい話だ。一生の恥だぜ」

 《そう自分を責めるな。お前はよくやったよ。上層部に噛みついたとこなんてお前にしかできねぇことだろうよ》

 「フン……」

 

 その言葉にスモーカーは苦渋を噛む顔を見せる。

 背後ではたしぎが同じような表情だった。

 

 《啖呵を切ったのは見事だが、結果は変わらねぇ。報道ではクロコダイルを捕らえたのはお前だってことにされる。ただし二階級特進は取り消し。ちょっと噛みつきすぎたな》

 「いらねぇよ。そんな称号なんざ」

 《お前も潔癖だな。その考えは立派だとは思うが、組織に居りゃこういうことは必ず起こる。そして今のお前にはそれに逆らえる力がねぇ。今回のことで身に染みてわかったんだろうが》

 「ああ、そうだな。大きなお世話だ」

 《まぁそう怒るな。いずれお前らの時代が来る。今は傷を癒して力を蓄えとけ。あ、言われなくてもわかってたことか?》

 

 スモーカーはわざとらしく溜息をついた。

 

 「用件はそれだけか?」

 《おっと、そうだった。聞きたかったことを忘れてた。お前が連絡取らねぇからだぞ?》

 「いいから早く済ませてくれ。こっちは疲れてんだ」

 《あーはいはい。と言っても大したことじゃねぇ。一つ聞きたいだけだ》

 

 少し声が変わり、真剣みを帯びる。

 些細な変化にスモーカーは眉を動かした。

 

 《ニコ・ロビンを見つけたらしいな》

 

 彼の発言を受けてスモーカーは口を閉ざし、ゆっくりとたしぎへ振り返った。

 事情を知っているらしい彼女がスモーカーを相手に説明を行う。

 

 「あくまでも可能性の話ですが、昔の手配書で見た少女の面影を感じたので報告をしておいたんです。クロコダイルの傍に居た……ミス・オールサンデーという女性です」

 「なるほどな。そいつが本物かどうかが気になるってことか?」

 《奴は元々政府から逃げ続けていたが、ある時期を皮切りに足跡が追えなくなった。一部じゃ死亡したと考える奴も居たくらいだ。まさかクロコダイルと組んでたとはな》

 「確かに、政府の信用を買ってたクロコダイルなら怪しまれもしねぇか。だがなぜあんたがその女を気にする? とんでもねぇ女だとは聞いてるが、わざわざ連絡するなんざ普段やる気のねぇあんたならあり得ねぇことだ。何か関係があるのか?」

 

 ほんの数秒、考え込むように間が生まれる。

 その時間が答えを示しているかのようで、スモーカーは勝手に納得した。

 

 《教えてやってもいいんだが、電伝虫じゃ不安もある。その件は次に会った時にしてくれ》

 「そうか……言っておくがおれたちには真偽を確かめる時間も余裕もなかった。そいつが本物のニコ・ロビンか否かは定かじゃねぇ。あくまでも推測の域を出ねぇぞ」

 《んん、いや、いいんだ。組織が崩壊してクロコダイルが捕まった今、まだ生きてるならどこかで情報が入ることもあるだろう。とりあえず聞きたかったのはそれだけだ》

 

 わざわざ連絡を取るくらいなのだから相当のことなのだろう。しかし緊迫感をあまり感じさせないだらけた声。まだ彼の心が読めずにいる。

 スモーカーは多くを言わずに、追及しようともしない。

 

 彼の言う通りだ。いずれ手に入る情報もあるだろう。今焦る必要はない。

 今は、今やるべきことを考えるのみだ。

 

 《それからあれだ……あー、なんだっけか……忘れた。もういいや》

 「またそれか」

 《まぁとにかく本部に戻るんだろ? その時にまた会えば、あ、思い出した。お前も今は遊撃隊の一隊長ってことになってる。ゼファー先生の方にお小言が飛んだそうだ》

 「関係あるか。おれは自分の正義に従っただけだ」

 《そうか。それならおれから言うことは何もねぇが、問題は自分で解決しろよ。助けるのがめんどくさいからおれは助けねぇ》

 「そもそも期待してねぇよ」

 《それから……あー、もういいか。じゃあ切るわ》

 

 一方的に言って突然通信が切られてしまった。

 今の今まで話していた電伝虫は眠り始めてしまい、スモーカーは溜息をつきながら殻に受話器を置く。連絡を取ったのはずいぶん久しぶりだが相変わらずの人物だったらしい。

 

 気になることを聞いた。

 思えば彼のあれほど緊迫した声を聞いたのは初めてな気がする。

 

 しかし結局はそれも今はまだ気にすることではない話。それよりも今、現時点で気にすべきは七武海の一角を落とした麦わらの一味の台頭。

 彼らを見逃すことだけはできない。今すぐとはいかずともいずれは自分の手で捕らえる。

 その場を動かず考えていたスモーカーの背へ、たしぎがポツリと尋ねた。

 

 「これからどうなるんでしょう……」

 「決まってる。おれたちの目的は一つだ」

 

 呟いた瞬間、再び電伝虫が鳴り始めた。

 面倒に思って深い溜息をついたが、今度はスモーカーが直接受話器を取る。

 口を開いてすぐ聞こえてきた声はこちらも懐かしいものだった。

 

 「なんだ」

 《呆れた。やっと連絡がついたと思ったら開口一番がそれ? 幻滅よ。ヒナ幻滅》

 「お前か……」

 

 それは同期で海軍に入隊した女性の声。階級は同じだが上官に逆らって左遷されたスモーカーとは違い、ずっとグランドラインで勤務していた人物。

 面倒な相手だとスモーカーは表情を歪める。

 予想通り、電伝虫の口から気の強い声が聞こえてきた。

 

 《スモーカー君。あなた、どういうつもり? 海賊を取り逃がしたばかりか、クロコダイルの連行を他の人間に任せるなんて》

 「何か問題でもあったか」

 《あるからこうしてあなたに連絡しているの。あなたたちが島を離れた後、捕虜を乗せていた船が攻撃を受けたの。バロックワークスの構成員は一部が脱走。幸いクロコダイルが居た船は無傷だったようだけど、逃げられてしまう可能性は十分あったわ》

 「それはおれの責任か? 部隊長は居たはずだぞ」

 《あなたが居ればこんなことにはならなかった。ひょっとしたらクロコダイルを逃がしてしまうかもしれなかったのよ。どうして現場を離れたの》

 

 スモーカーは聞いていないかのような様子で葉巻の煙を吐き出す。

 天井を仰ぎ見て、あまりの態度にたしぎが緊張してしまったほどだ。

 

 《ちょっとスモーカー君。聞いてるの?》

 「そもそもあの海域はお前の管轄だろ。今までどこで何してやがったんだ?」

 《仕方ないでしょう。応援を頼まれて少し離れていたの。だから今急いでアラバスタへ向かっているところよ》

 「あとのことは任せる。好きにしろ」

 《話は終わっていないわよ。この数日でノコギリのアーロンが軍艦を何隻沈めたと――》

 「そうだ。アラバスタへ向かうなら一つ忠告しといてやる」

 

 唐突に呟かれたスモーカーの声に反応し、声が途切れた。

 

 「あいつらには手を出すな。どうせ捕まえられねぇよ」

 《はぁ? それって何? 私では力不足だとでも言うの? 心外よ。ヒナ心外》

 「忠告はしたからな」

 

 言い終えるとスモーカーは勢いよく受話器を置いて通信を切った。

 突然の行動で室内に居た海兵は背筋を伸ばして緊張する。

 大きく溜息をついて席を立ち、スモーカーは自室へ戻ろうと歩き出した。

 

 「たしぎ、あとのことは任せるぞ。おれァ寝る」

 「は、はい」

 

 そう言うとスモーカーは部屋を出ていく。

 やはり機嫌があまりよくないのだろう。普段から良いということでもないが、今回は顕著だ。

 

 呆然とするたしぎが立ち尽くしていた時、再び電伝虫が鳴り始めた。相手がわかって慌てて受話器を取る。やはり先程無理やり切られてしまった人物だ。

 彼女はかなりの怒りを表しており、たしぎは思わず頭を下げてしまう。

 

 《スモーカー君ッ!!》

 「あ、あのすみませんヒナさん。たしぎです」

 《あら、たしぎ……スモーカー君は?》

 「今しがた部屋に戻られました……」

 《ああもうっ。全く変わってないんだから……!》

 

 同期である彼女はたしぎよりも付き合いが長い。怒りながら諦めも感じられた。

 普段から品行方正なたしぎはスモーカーとは対極であり、それを知っていた相手だからこそ八つ当たりをされることはなかったが、その代わりスモーカーに対する愚痴を聞かされる羽目になる。

 困惑する彼女は拒むこともできず、その後数時間も相手をさせられることになったのである。

 


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