ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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紙と犬と獅子

 普段とは違ってサンダルで歩くせいで、ペタペタ間抜けな音があった。

 ルフィを見習ってというべきか、楽そうだと考えて真似てみたのだが思いのほか気分がいい。草履より少ししっかりした作りではあるものの身軽に動けそうな感触だった。

 町中を一人で歩くキリは足元の心地良さとは裏腹に、少し気落ちした顔になっている。

 

 どこへ行くかもわからない迷子を探すのは骨が折れる。

 これからどこを探せばいいかもわからず、とりあえず町の奥へ奥へと向かっているものの、最初と比べて足取りは重くなってしまった。

 

 今では溜息さえ堪えきれない。

 ハァと息を吐いて俯く。

 

 「あーあ、ルフィどこ行ったんだろ。これから上陸する度にこれだと流石に困るなぁ。今度から縄でもつけといた方がいいかもしれない」

 

 一歩を踏み出すごとに徐々にやる気が削がれていって、独り言が止まらなくなる。

 すっかり気力を失ったキリはとぼとぼ歩き、辺りの風景を見ながらもはや散歩気分の様子だ。

 しばらく前へ歩いているとやがて初めて何者かの姿を見つける。

 

 通りにぽつんと存在しているのは一匹の犬だった。白い毛並みながら薄汚れていて、感心するほどじっと動かずに座っている。小柄な体だというのにどことなく意志の強さが伝わった。

 人の気配がない町で、唯一見つけた動物の存在はあまりにも異質。

 一旦足を止め、犬を見つめるキリは思わず呟く。

 

 「あ、犬だ」

 

 小さな呟きに反応して犬が振り向き、目が合った。

 キリは知る由もなかっただろうが、シュシュという名のその犬は、主人の帰りを待って一軒のペットフードショップの前で店番をしている。海賊の襲撃が始まっても、たとえ主人がもう戻ってこないと知っても、思い出がたくさん詰まった店に誰も手出しできないように守り続けた。

 

 そんな事実、人の言葉で説明されなければわかるものではないとはいえ、無人の町に犬が一匹。決まった店の前で座り込んでぴくりとも動かない。

 少なくとも奇妙な状況とだけは理解して、キリは歩み寄った。

 

 ゆっくり近付けばシュシュは興味を失ったかのように目線を外してしまう。

 傍まで行き、隣に並んでしゃがむと彼の顔を覗き込み、ふと声をかける。

 笑顔を見せるキリを感じながら、シュシュは微塵も反応しなかった。

 

 「やぁどうも。ボクはキリ。よろしく」

 

 隣から声をかけられても鳴き声さえ発さない。それどころかじっと前を見つめたままで首を振ることさえしないのである。まるでそこに彼が居ないかのように扱っていたようだ。

 驚くほど落ち着いた風貌で感心した。

 無視されるような光景だったがキリはめげずに話しかける。

 

 「あのさ、今ウチの船長探してるんだけど見なかった? 麦わら帽子かぶってて、ちょっと抜けてる感じの男性。歳の頃で言うとボクと同じくらいなんだけど」

 

 再度話しかけても無視されてしまった。それでいて逃げることなく店の前から動かない。

 このことからよっぽどの事情があるのだろうと推測した。愛想のないこの犬が自分から逃げないのはきっと大事な物があるからなのだろうと。

 理解できない訳ではない。ただそれで無視をされても平気かと問われれば話は別だ。

 

 どうやら一旦ルフィの件は忘れ、シュシュとの交流を図ろうと決めたらしい。

 今度は隣ではなく前に回り込んで正面から向き合った。

 

 「お腹空いてない? ここペットショップだよね。奢ろうか?」

 

 ちらりと見られるものの肯定の意志はなさそうだ。

 ただ前に回ったから気になっただけだろうか。敵対心はないものの心を開く様子はない。

 苦心するキリはそっと右手を差し出した。

 

 「お手」

 「ガウ」

 「あいだっ!?」

 

 試しに言ってみたのだが思いのほか気に入らなかったようで噛まれてしまう。

 慌てて手を引っ込めるとすぐ離された。だが痛みはそれなりに手に残る。

 

 親しげな目から一転、じろりと不満を伝える目に変わった。

 本気の怒気をぶつける訳ではないとはいえ、多少は納得できない様子で睨まれている。しかしシュシュは我関せずと前を向いており、今は視線も合っていない。中々の胆力だと思われる。

 

 コミュニケーションは失敗してしまったようだ。

 嘆息したキリはその場に尻を置き、胡坐を掻いて、いよいよそこから離れる気を失くす。

 こうなればルフィは後回し。まずはじっくりこの犬と話さなければならない。

 シュシュを見ながらそう考え、興味津々に彼に顔を寄せた。

 

 「そんなに嫌い? 別に嫌われるようなことってしてないよね」

 「ワフ」

 

 小さく鳴かれる。が、それが何を意味するのかわからなかった。

 困り果てて言葉に詰まってしまう。

 

 犬とのコミュニケーションは難しいと腕組みをして彼が頭を悩ませ始めた時、右側より唐突に声をかけられた。そちらへ振り向いてみればなぜかまた動物を見つける。

 今度は犬より大きな個体だ。

 まず目についたのが町中を歩くライオンで、その背に人間が乗っているのだと気付く。

 

 「おいお前、そんなところで何をしている」

 「うわっ、ライオン。この町って変わってるなぁ」

 

 驚く挙動を見せたのも一瞬で、心底動揺している訳ではなさそうだ。

 座ったままのキリはライオンと奇妙な男を交互に確認する。

 ライオンは獰猛そうな顔つきをしていて、多少は人に慣れている様子だが低く唸る喉の音やだらりと唾液を垂らす姿からは、野生が抜けきっていないと判断できる。

 

 おそらく調教者は背に跨る男。こちらの方がよっぽどおかしな外見だった。頭は動物の被り物をつけているかのような姿で、ズボンと腰布は普通とはいえ、上半身に身に着ける服と靴はふざけているのかと思ってしまう。

 胡坐を掻いて腕組みをし、偉そうな態度である。

 しばらく同じ態勢だと気付かなかったキリは警戒心も持たず、ただ好奇心だけを見せていた。

 

 「ライオンに乗ってる君は誰?」

 「おれか? おれはバギー海賊団の副船長、モージ。そしてこいつはリッチーだ」

 「あぁ、この町を襲ってるって海賊だね。変わった風貌だなぁ。サーカス団にでも居た?」

 「サーカス団か……いいや、違う。だがそう間違ってもいねぇな。ウチの船長は派手好きでね、そう思われても仕方ねぇのさ」

 「何か芸とかできるの?」

 「できるとも。例えば」

 

 奇妙な男、モージはちらりとキリの傍に居るシュシュを見る。

 何やら指差して自信満々に言い切られた。

 

 「おれはどんな動物でも手懐けることができる。さっき見ていたぞ、おまえはその犬に嫌われたようだな」

 「嫌われたわけじゃないよ。ただ出会ったばっかで仲良くなれてないってだけで」

 「フッ。おれなら今すぐ仲良くなることができる。時間はかからん」

 

 そう言ってモージはライオンのリッチーの背から下り、シュシュの傍へ歩いていく。

 キリと同様にしゃがんだ状態で右手を差し出した。

 

 「お手」

 「ガウ」

 「ぎゃああっ!?」

 

 思わず目を疑ったが、結果はまるで同じだった。

 シュシュはモージの手に噛みつき、腕が振るわれた瞬間にパッと離して涼しい顔。

 痛みを得たはずのモージは右手を軽く振り、何事もなかったかのように表情を戻して歩き出し、再びリッチーの背に乗る。胡坐を掻いて腕を組み、堂々とした風格だ。

 まさかそれでやり過ごそうとしているのだろうか。

 疑念を目に浮かべて見つめるキリと視線が合ったのはそれからで、彼は冷静に話し出した。

 

 「おれにはこいつの気持ちがわかるんだ」

 「今噛まれたよね?」

 

 あくまでも失敗したとは言わないつもりらしい。反射的にキリは言っていた。しかしその言葉は受け流されて拾われることはなく、モージは冷静に見える顔で語り続ける。

 

 「お前こんなところで何をしている。理由によっちゃ見逃すわけにはいかんな」

 「いやそんなことより犬の件は」

 「近頃、ウチの船長に逆らう町民が居るようでな。ちょうど今おれがパトロール中だ。バギー船長は恐ろしい御方だ、逆らう奴には容赦しねぇぜ」

 「犬に噛まれたのはどうするつもり? 逃がさないよそんなんじゃ」

 「すでにこの町の建物もいくつか吹っ飛ばしてる。たった一発の砲弾でな。バギー船長がオリジナルで作った砲弾は非常に強力だ」

 「こいつ、全力でこのまま流すつもりか……」

 

 もはや話の内容さえ入ってこない。先の問題をあやふやにしたまま話を進めようとするモージに対し、常にキリは不機嫌そうに止めようとしたが、やはりその話題には触れないようだ。

 仕方なく頭を振って思考を切り替える。

 

 どうでもいい問題に直面してそちらばかり気になっていた一方で、本来の目的を思い出した。

 彼はルフィを探すために町へ入ったのである。さらに言えば仲間と合流しようとしたのは町を襲う海賊を倒すため。そして今、目の前に居るのは自分たちが標的としていた一味の一人。情報を得るにはちょうどいいと判断したのであろう。

 不服なのは変わらぬまま、表情を緩めて会話の内容を変える。

 

 「わざわざ副船長がパトロール? 働き者なんだね」

 「フン、見ればわかるだろう。おれとリッチーが揃えば敵う者など居やしねぇ。部下たちに万が一がねぇようにおれが来た。ただそれだけのこと」

 「でもめんどくさいでしょ。ほんとに逆らう人なんているの?」

 「居るからおれが出てきてるんだ」

 「へぇ、そう。でも正直町民の一人や二人が襲ってきたところで問題ないでしょ? 確かバギー船長のクルーだよね」

 「そうだ」

 「思い出したよ。道化のバギーなら知ってる。手配書で見たんだ」

 

 キリの笑みが深まった。

 リッチーの威容を目にして微塵も恐れず、徐々に悪巧みを始める顔になっていく。

 その顔を知る由もないモージはなぜ彼が笑うのかを知らぬまま、訝しむ顔になった。

 

 「バギー船長に会わせてくれないかな。ちょっと確かめたいことがあるんだ」

 「うん? 何を確かめる」

 「ウチの船長を探してるんだ。ひょっとしたら流れ流れて辿り着いてるんじゃないかと思って」

 「船長だと?」

 「ボクも海賊だよ。ついさっきこの町に来た」

 

 足を伸ばして座ったキリを見てううむと唸る。

 どこから見ても至って普通の少年。本人の口から海賊だと言われて信じられるだろうか。

 半信半疑で見つめていれば、キリは毒気のない笑顔を見せる。

 やはり信じられない。海賊には見えなかった。

 

 「どう見ても海賊には見えんな。この町の人間じゃないのか?」

 「違うよ。だから地理がわからなくて困ってる」

 「おれに嘘をついて、バギー船長を襲おうとしているんじゃないか?」

 「そうだとしても君が守ればいいだけの話でしょ。警戒してるんなら尚更」

 「フン……」

 「ついでに言えばライオンまで連れてるんだ。怖がる必要ないと思うけど」

 

 だらしない姿勢で座る姿からは恐怖を感じない。腕っぷしは強くないと思える。

 そう考えればまぁいいかと思えた。

 

 別段危険性はなし。連れて行ったところで問題はないだろう。

 何より自分から海賊に近付こうなどいう者はおらず、少し物珍しくて見てみたい気はしていた。彼がバギー船長に会ってどうなるのかを。

 頷いたモージは彼の同行を許可する。

 

 「いいだろう。だが船長を怒らせないようにするんだな。お前が町民だろうが海賊だろうが、あの御方を怒らせるとこんな町一瞬で吹き飛ぶぜ」

 「気をつけるよ。それも後味悪いし」

 「よし、ついて来い。船長が居る場所へ案内してやる」

 

 そう言い切れたのは自分たちが負けるはずがないという絶対の自信があるから。

 してやったりと微笑むキリは元気よく立ち上がる。

 その時、モージはアジトへ戻ろうとした様子だがリッチーが動かなかった。唐突に低く唸って首の向きを変える。目を向けた先はシュシュが守るペットフードショップだ。

 

 「ん? どうしたリッチー、腹が減ったか」

 

 肯定するように首を上げたリッチーの動きにより、モージは頷く。

 

 「仕方ないな。とっとと済ませろよ」

 「ワンっ、ワンッ!」

 「んん? なんだ、この犬」

 

 リッチーが店に狙いをつけた途端、シュシュは怒りを表して吠え始めた。これまで見知らぬ人間に近付かれようがライオンを見ようが動揺しなかったのに、初めて感情を露わにしたのである。

 キリはその姿を見ると笑みを消して驚き、モージは煩わしいと感じていたようだ。

 

 必死な様子で鳴くのを止めない。

 鳴き声は大きく耳にわずかな痛みを与えるほど。それで苛立ったのかモージが怒りを見せ始め、リッチーもいつしかシュシュを睨みつけていた。

 それでもシュシュは吠えるのを止めない。

 店に近付くな。強い意志でそう言っているようだった。

 

 「チィ、うるさい犬だ。店番のつもりか? こんな店もう誰も来ねぇだろうが。この町にはもう誰も居ねぇんだから売れるわけねぇだろ」

 「そうかもね。でもこんなに必死なんだから、やめてあげてくれないかな」

 「フッ、おまえ海賊なんじゃなかったか? 海賊がそんな頼み聞くわけないだろう。おれに命令できるのはバギー船長だけなんだよ」

 「だろうね。ボクも同じだからわかるよ」

 

 リッチーに指示を出したモージはシュシュに向かい合う。

 威圧感を感じる巨体。だがシュシュは睨みつけてその場を動こうとしない。傷つけられてもおかしくない状況下で歯を剥き出しに敵意をぶつけていた。

 

 「おい犬。そこをどくんならおれの手を噛んだことは忘れてやろう。どけ」

 「やっぱり噛まれたんじゃないか」

 「黙れ小僧。さぁ犬、そこをどけ。リッチーに殴られりゃただじゃ済まねぇぞ」

 

 尚もシュシュはその場を動かない。あくまでも姿勢は敵対するもの。

 眉をひくつかせ、意を決したモージはすかさずリッチーへ命令を下した。

 

 「そうか。おれに盾突くなんざ賢い選択じゃないぜ、犬。やれェリッチー!」

 

 咆哮を上げてリッチーが前脚を上げた。

 刹那の瞬間でも鋭い爪が視界に入り、強靭な脚で殴られれば即死さえ有り得る。それを理解していたかは不明だがシュシュは逃げなかった。飛び掛かってくるライオンを睨みつけてぐっと足を踏ん張り、最後まで逃げようとしない。

 

 そんな姿を見たせいだったか。

 懐にあった紙を操ったキリは右腕へ大量に纏わせ、太い腕を作り出すと、素早い動作でリッチーを殴り飛ばす。巨大さとは裏腹に速度は常人では見切れない。殴られたリッチーは通りを勢いよく転がった。当然背に跨っていたモージは転げ落ち、無様に地面へ叩きつけられる。

 痛みはさほどなかったのだろう。彼らはすぐに立ち上がった。

 

 その後でキリの腕が奇妙な姿になっていることに気付き、一瞬浮上した怒りさえ忘れ、驚愕を露わにする。周辺に紙が舞っているのも気になる点だ。

 両者動かなくなり、キリは傍に居るシュシュを見下ろす。

 

 視線がぶつかった。彼は驚いた様子もなく強い眼差しで見つめてくる。

 くすりと笑い、キリの視線は慌てずにモージたちへ向かう。

 

 「な、なんだおまえっ!? まさかバギー船長と同じ悪魔の実の……!」

 「へぇ。バギー船長も能力者なのか。良いこと聞いた」

 「チィ、舐めるな! 所詮ただの人間、リッチーに勝てるはずがねぇ!」

 

 殴られたことで怒った様子のリッチーはキリを注視し、今にも飛び掛からん体勢。

 それを許可するためキリを指差したモージが威勢よく叫んだ。

 

 「やれェリッチー! 奴をズタズタに切り刻んでやれ!」

 

 再びの咆哮と共に飛び出す。

 キリは怯えもせずに突っ立って待ち構えた。

 地面を蹴って高く跳び、頭上から襲い掛かられる光景を見た後で、ようやく腕を振る。

 

 紙の腕で作られた拳は風を起こすほどの速度で、的確に顔面を捉えた。ただの紙の集合体、だが能力によって硬化されていたため、鉄で殴られたような感触である。

 あっさり殴り返された巨体は軽々宙を舞い、やがて強かに地面へ叩きつけられた。

 まさかの光景にモージは開いた口が塞がらず、無傷のキリと倒れたリッチーを交互に見る。

 

 何度確かめても状況に変化はない。倒れたのは人間より大きなライオンだ。

 こんな簡単に決着がついていいのかと、驚かずにはいられない。

 ようやく理解できたモージは滝のような汗を流して、背筋が凍える感覚から逃れられなかった。初めてリッチーが負けた姿を目にし、もはや冷静さなど持っていない。今はただ、妙な笑顔でキリを見つけるだけ。次は自分だろうかと心配するのみだった。

 

 「ズタズタに切り刻んでやれ、だっけ」

 「はいぃ!? いえいえ違います、今のはちょっとした言葉の綾で――!」

 「まぁ別にいいけどさ。海賊を語るくらいなら、もう覚悟はできてるってことだよね」

 「いやっ、ちょっ!」

 

 脚を震わせて立ちすくむモージへ向け、一足飛びでキリが接近した。

 常人より軽い紙の体はたった一歩でふわりと宙を飛び、次の足を踏みしめずとも速度を落とすことなく、あっという間にモージへ距離を詰めていく。

 笑顔で迫る姿はなんとも恐ろしい。

 腕を振り上げ、拳が見えたモージは悲鳴を上げるので精いっぱいだった。

 

 「ぎゃああああっ!? ちょっと待って――!」

 

 正面から拳を叩き込まれ、顔を含む上半身全てに攻撃が当たる。

 思い切り殴り飛ばされた彼の体は宙を舞って、先に倒れていたリッチーの体にぶつかると二人揃って盛大に飛び、改めて地面へ落ちる。軽快で間抜けな姿だ。

 

 勝負は一瞬で終わる。

 戦闘を終えたキリは使用した紙を操って懐へ回収した。

 服の下に仕込んだホルスターへ戻っていく挙動も慣れた物。修行の成果で淀みはない。

 

 あっという間に自身の武器を集め終えた彼はすぐさまシュシュを見下ろす。しばし倒れた敵を眺めていた彼は、視線に気付くと見上げてくる。

 少しは見直してもらえただろうか。

 出会った瞬間と同じようにその場へしゃがみ、視線を合わせてキリが話し出した。

 

 「詳しい事情は知らないけど、気持ちはわかる気がする。この店を守りたかったんだよね」

 

 返答はなくじっと見てくるシュシュへ語り掛ける。

 犬と真剣に喋る間抜けな光景ではあったが、本人に羞恥の類はない。

 彼の覚悟は今しがた目にしたばかり。馬鹿にするどころかむしろ尊敬の念を覚えてすらいる。

 自分より大きな動物を相手に立ち向かう姿は格好良かった。笑みを浮かべるのもおそらくはそういった面を見れたからであろう。

 

 「ボクにも宝があるんだ。大事な仲間。守るためなら命を賭けたっていいと思ってる」

 

 シュシュは真剣に聞くように目を見つめてくる。さっきの仕草とも違っていた。

 嬉しくなって試しにもう一度右手を差し出してみた。

 

 「お手」

 

 今度はすぐに噛まれることはなく、少しの間じっと見つめて、恐る恐る前脚を置かれた。

 変化は確かにあったようだ。

 手を下ろしたキリはそのままシュシュの頭を撫でる。

 

 「うん。ありがと」

 

 手を離して立ち上がると彼に背を向け、倒れたままのモージたちの所へ歩き始める。

 背を向けた状態でシュシュへ語り掛けて、その声には強い意志が感じられた。

 

 「大丈夫、守るよ。君の店には誰も手出しさせないから」

 

 離れていく背を見てシュシュは吠えた。ただし敵意を持ってのことではない。まるで礼を言うかのように、たった一度だけ大きくワンッと聞こえた。

 キリは振り返らずに手を振って返答とする。

 歩み寄ってみればモージは気絶しているらしく、白目を剥いて意識を手放していた。しかし一方でリッチーは大きなダメージを受けたものの気絶するほどではなかったらしい。こそこそ逃げ出そうとして自分だけキリに背を向けていた。

 

 わかり易く足音を立てるとびくりと背が震える。

 リッチーはゆっくり振り返った。

 傍にはやはり彼が居て、モージの傍へ立ち、にんまり笑うキリが気楽な声で伝える。

 

 「さぁライオン君、君らのアジトへ連れてってもらおうか。ちょうど今約束ができたもんで、この町傷つけられるのは困るからさ」

 

 恐怖を抱いたリッチーは迷う素振りもなく何度も頷いた。

 良い答えをもらえてキリは上機嫌に微笑み、では彼に乗せて行ってもらおうと考えてモージの体を抱え上げ、怯えるリッチーの背に跨った。

 

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