ねじまき島には、町を見下ろす位置に巨大な城がある。
からくり仕掛けでいくつもの仕掛けを搭載されたその城にはかつて貴族が住んでいた。近隣の国にも知られた領主が存在したのである。だが今はもう居ない。この島を奪い取る際、トランプ海賊団が逆らう者たちを一掃したからだ。
今、その城に住むのはトランプ海賊団の手の者だけだった。
美麗なステンドグラス。豪華な装飾品。海賊には似つかわしくない物だ。
それらに囲まれた城の最上階にある玉座の間において、海賊団の船長、ベアキングが巨大な体を椅子に押し込めていた。
「ベアキング様。下層に商人がやってきて、ベアキング様に会いたいと言っています」
「商人? 何の話だ。そんな予定はないぞ」
「なんでも商談をしたいとかで」
「どこのどいつだ。馬鹿馬鹿しい。おれ様にそう簡単に会えると思ったら大間違いだぞ」
ベアキングという男、身長は二メートルを越え、体は丸いが体格は良く、髭はもちろん胸や腕など体毛が濃いようでまるで熊のような威容である。また、本人もその意識があるのか、可愛らしい熊の帽子を頭の上に乗せていた。
海賊としては些かファンシーな服装をしているが、体の大きさから迫力は十分。
その証拠と言わんばかりに、彼の部下たちはベアキングに対して絶対的な忠誠心を見せている。可愛らしい熊の帽子を笑う者など一人も居なかった。
「どこの誰かは知らんが、今更その辺の商人から買うような物はない。金も兵器も兵士も女も、おれ様は全て手に入れているのだ」
「しかし、そいつはジョーカーの使いだと言っていましたが」
「何? ジョーカーだと?」
報告に来た部下の言葉にベアキングの顔色が変わった。
名も知らぬ商人が来たならば無視して終わりだが今回は事情が違っているようだ。
ジョーカーという名は知る者ぞ知る、グランドラインで暗躍する闇の商人だ。武器の密売を始めとして人身売買、悪魔の実の取引など、政府に知られればただでは済まないだろう物ばかりを取り扱っている。
素性は不明。グランドラインに居るかどうかすら知られていない。そのため自ら接触することは不可能。相手からの接触を待つしかない相手と考えられている。
ついにおれのところに来たか。
ベアキングはにやりと笑って考えを改める。
「気が変わった。そいつをここへ呼べ」
今の彼は自信に満ち溢れていた。
玉座に座り、まるで自分が王になったかのような気持ちだ。細々と活動し、島を支配しながらも外敵を警戒していたかつてとは違う。それは彼自身の力だけが理由ではなかったが、割り切った今では細かいことを気にすることもなくなった。
たとえ相手がジョーカーであっても恐れることはない。
彼は胸を張って使いの者を待っていた。
空に届くほどの高さに大地があるため、時間はかかったとはいえ、その人物は来た。
ベアキングは彼らを見下したかのように余裕のある笑みで迎え入れる。
相手は三人だった。
眼鏡をかけた薄い色の金髪の少年が先頭に立ち、頭にはキャスケットの帽子を被って、柔和な笑みを浮かべている。
その隣には額にバンダナを巻いた、厳めしい顔の緑髪の男が立っている。腰には白い鞘の刀を一本だけ提げていて、武装解除には応じなかったことを理解できた。
さらに逆側の隣には頭にバンダナを巻いた金髪の少女が、大きな鞄を背負っている。
全員が全員まだ若い。ジョーカーの手下という話を疑ってしまうほどだ。しかしベアキングは細かいことを気にせず、堂々とした態度で彼らを見ていた。
「ジョーカーの使いらしいな」
「ええ、どうも。初めまして」
先頭に立つ少年が軽く頭を下げる。
素性が知れなかったことで、高く買い過ぎていたかもしれない。交渉人としてやってきた三人を見てそう思う。あまりに若く、威厳も何もあったものではない。これなら大したことは無さそうだとベアキングは笑みを深めていた。
「要件を聞く前に一つ言っておこう。来るのが遅すぎたってなぁ」
金髪の少年は笑顔を浮かべたまま、表情を変えずに小首を傾げる。
「どういう意味でしょう?」
「闇のブローカー、ジョーカーの噂は聞いてる。この海で知らねぇ奴は居ねぇほどの有名人だ、裏の社会ではな。だが素性も知れねぇ人間を信用する馬鹿はいない」
「はぁ。仕方ないですね。こっちも商売なので」
「その点おれは、信頼に足る男を見つけた。もうお前らが現れたところで今更だ」
全く効果はなかったとは言わないが、わずかに眉が動いた程度で表情に変化はない。
少年はあくまでも下手に出る態度で彼と対話しようとしていたようだ。
「では商談の話は不要ですか?」
「フン。一応聞いといてやろう。何を売るつもりだ?」
「売る、というよりは、手を組みたいという話です。ベアキング様が治めていらっしゃるこちらのねじまき島、相当な科学力があるとか」
「そういうことか。おれ様に売りつけようという話じゃなく、武器を買い取りたいと」
「もちろん対価は払います。相応の資金か、或いは要求があれば物品でも」
「いらん。貴様らは知らんだろう。おれ様が作る武器・兵器の買い手はすでに居るんだ」
流石に少年の笑みが消えた。
それを見て勝ち誇るようなベアキングは敢えて彼に教えてやる。それはある種の自慢のようですらあった。
「金獅子のシキだ」
語る声は朗々と。まるで自分の力であるかのように語られる。
「少し前なら別だったろうが、今のおれのバックには金獅子がついてる。これほど強大な戦力があるか? ジョーカーが相手でももう興味はねぇのさ」
「金獅子、ですか。確かに名声も戦力も申し分ない相手ではありますけど、果たして金獅子が傘下の海賊団を気にかけるかどうか」
「おれたちが捨てられるかもしれねぇと? そう言いたいわけだな。心配することはねぇ、すでにその点も考えてある」
相当上機嫌であるのか、ベアキングは警鐘を鳴らされようと意に介した様子はなく、むしろ自信満々に解説を始める。そうしても問題ないという判断の上である。
彼本人の力ではないとはいえ、金獅子の名を得たのは自身の海賊団であるという自負。
それが彼の態度を大きくさせているようだ。
「金獅子は全ての海賊に言ったんだ。“おれに逆らう九人の海賊を捕まえて差し出せば幹部にしてやる”ってな。すでに手配書も配られてる。馬鹿な小僧どもがあの大海賊に逆らったらしい。そいつらを捕まえただけでおれはさらに上へ行ける」
「なるほど、もうそこまで……」
「これでわかったか? ジョーカーがおれ様と取引したいと言ったところで今更だ。その上でおれ様が興味を持ちそうな品はあるか? ん?」
意地が悪い顔でベアキングは彼らに問いかける。聞いてはいてもないと決めつけた質問であったことは間違いない。
ジョーカーが何者か知らないが、金獅子以上の大物はあり得ないと確信があったからだ。
問いかけられた少年はわずかに後ろへ振り向いて仲間の意見を求める。
キリのまさかの行動にゾロとシルクは小さな驚きを抱いていたようだった。
「思ったより食い付きが悪かった」
「おい。まさか作戦失敗とか言わねぇよな?」
「金獅子が相手じゃ仕方ないよね。でもまさか、金獅子の傘下になってたなんて」
「おかしな話じゃないよ。多分同じようなことがグランドライン中で起こってる。逆らえば死ぬだけだろうし、無抵抗で降伏は当然の判断だ。普通の海賊ならね」
顔を突き合わせて話す三人にベアキングは黙って待つ。しかし一向に振り返ろうとしないため訝しげな顔をしていた。浮かれている一面はあっただろうが、これほど上機嫌になっている自分がないがしろにされているのを感じて不満を持ったのである。
「おい、話し合いは終わったか? まだか?」
「めんどくせぇな。ここで斬っちまえばいいだろ。潜入には成功したんだ」
「まぁボクはそれでもいいんだけどさ。ルフィたちを下に置いてきちゃったし、陽動作戦で色々やってもらおうと思ってたんだけど」
「でも、よく考えるとロビンはともかく、ルフィがじっとしてるとは思えないよ。向こうが動き始めると見つかっちゃうかも」
一切こっちを見ずに会話する三人にベアキングは焦れていた。
自信に満ち溢れている今、もっと自分を見てほしいはずが、全く相手にされていないのだ。彼がだんだん苛立ってくるのも仕方ない状態だった。
「おい、早くしろ。まだ終わらないのか?」
「大した作戦だな。あっという間に破綻してるじゃねぇか。最初から全員でこっちに集まれば話は早かったわけだろ」
「こんなにあっさり通してもらえるなんて思ってなかったんだ。その点は相手が馬鹿で助かったけど逆に困らされる結果になったね」
「船長を倒して終わりならいいけど、他の幹部も居るんでしょ? 別行動は無駄じゃないよ。向こうも誰かと出会ってるかもしれないから」
大人しく待っているつもりなのだが全く相手にされていない気がしてきた。
イライラするベアキングはだんだん落ち着かなくなってきて、指先や脚が自然と動き始める。
「おい、もう終わったか? それともまだか? どっちだ?」
「とりあえず見たところ船長らしい奴と部下が数人だ。こいつら仕留めてから後は順々にでいいんじゃねぇか? 時間かける相手でもねぇだろ」
「うーん、仕方ないね。ほんとはもうちょっとスマートに済ませたかった」
「結果が同じなら問題ないよ。それにぐずぐずしてるとルフィたちが見つかっちゃうかもしれないから、できるだけ急いだ方が――」
シルクが喋っている途中だった。
ついに焦れたベアキングが椅子の肘置きを叩きながら立ち上がる。
「ええい! まだ終わらんのか! おれ様を待たせるとは何事だ!」
それと同時にけたたましい警報が鳴り響く。
突然の出来事にベアキングは周囲を見渡して、話していた三人も口を閉じて天井を見上げた。
ベアキングとは違い、その音を聞いただけで何が起こったのか大体わかった。おそらくは、と頭の中に予想を立てた三人は顔を見合わせ、驚いた様子もなく無言で意見を同じくする。
そして城内に電伝虫による連絡が始まった時、彼らの想像は確信になった。
《侵入者を発見! 対象は麦わらのルフィ! 繰り返す! 麦わらのルフィを発見!》
「何ィ!?」
「ほら来た」
「どうせそうだろうな……あいつの性格上」
「これで答えは決まったね。じゃあ、開始だ」
報告を聞いたベアキングは驚きを隠せなかった。
心中は複雑である。城内に侵入者があったことなど島を支配してから初めてのこと。純粋な驚きであると同時に、相手はあの麦わらのルフィ。金獅子が捕縛せよと指名した海賊の一人で、捕まえれば幹部の座を手に入れられる、格好のターゲットだ。彼の胸の中には驚愕と喜びが広がり、しかしあまりにも突然で混乱してもいた。
ともかく今はジョーカーなどに構っている場合ではない。
苛立ちは全て消え失せ、今では心底嬉しそうな笑みだけが顔に張り付けられていた。
彼はその三人が偽物だと、侵入者を導いた存在だとは微塵も思っていなかったようで、彼らを相手にしている暇はないとだけ伝えようとしていた。
「なんという幸運だ! おれ様が幹部になるための捧げ物が向こうから飛び込んできた! 悪いが商談は終わりだ! おれ様はこれから麦わらのルフィを捕まえねばならん!」
意気揚々と歩き出そうとした、その一歩目。
目を見開いた彼は思わず反射的に動きを止めてしまった。
今の今まで商人だと思っていたキリが紙の武器を持ち、ベアキングに飛びかかったのである。
*
《侵入者を発見! 対象は麦わらのルフィ! 繰り返す! 麦わらのルフィを発見!》
「もうバレた!?」
「そりゃバレるよ!? なんで外に出ちゃうんだよ!?」
驚愕するルフィの隣でアキースが絶叫していた。
彼らは商人が運んできた荷物として木箱の中に隠れていたのだが、長く待たされて焦れたルフィが唐突に外へ出てしまい、その瞬間を大勢の兵士に見られたのである。
当然そうなるだろうというアキースの忠告も聞かず、ほんの一瞬の出来事であった。
外の騒々しさを知って、それぞれ別の木箱に隠れていたボロードとロビンも思わず外へ出た。
「くそっ!? もうバレたのか!」
「ウフフ。刺激的な作戦ね。気に入ったわ」
「まぁー見つかっちまったもんは仕方ねぇな。今更隠れられねぇし」
「お前のせいで見つかったんだろ!? じっとしてれば見つからなかったのに!」
トランプ海賊団の乗組員たちが次々と武器を手にして集まってくる。
気付けばあっという間に囲まれていた。
城の最下層、地下にある巨大な倉庫だ。
ねじまき島で製造された武器や兵器、海賊行為で略奪した金品や食料、あらゆる物が一度ここへ集められる。彼らも荷物としてそこへ運ばれたのだ。
それだけに無数の武器も置かれていて、彼らが手に取るのも当然だった。
周囲を取り囲まれながら、少なくともルフィとロビンは平然としていた。
普通ならばアキースとボロードのように狼狽し、恐怖を覚え、自分の死を覚悟してもおかしくないほど危険な状況。彼ら四人に対して数十人の兵士が武器を持って敵意を向けてくるのだ。腕組みをして困惑しているルフィや微笑みを湛えるロビンが信じられない。
責めるようなアキースの言葉に、ルフィは不満を持って唇を尖らせていた。
「だってよー、ずっと隠れてたってあいつらぶっ飛ばせねぇだろ。どうせ最後には戦うんだから別にいいじゃねぇか」
「作戦はどうしたんだよ! こっそり倒す予定だっただろ!?」
「んん、そうだ。忘れてた。ごめん」
「バカヤロー!!」
呆れたアキースがルフィを叱りつける。しかし彼はどこ吹く風だ。聞いてはいるのだろうが自分の判断に後悔がないせいで、悪びれる様子は皆無だった。
そんな二人に焦りを滲ませたボロードが声をかける。
「お前ら、喧嘩してる暇はないぞ……どうやら危機的状況だ」
「そうか?」
「ルフィ、あれを見て」
全く慌てていない様子のロビンが前方を指差した。
ルフィがそちらを見るとこちらに歩いてくる女性を発見した。
「あらあら。ずいぶん大胆ね。まさか自分から出てくるなんて」
「幹部のお出ましみたいよ」
「そうか。じゃああいつをぶっ飛ばせばいいんだな」
近付いてきたのは金髪の女性だった。
トランプ海賊団の紅一点、ハニークイーンである。
余裕を見せる微笑みを浮かべ、彼らを前にして怯んではいない。懸賞金はよほど彼らの方が高いのだが気にする様子はなかった。
彼女の隣にごろごろ転がってやってくる太った男が居た。
豚の意匠を組んだ服を見に着けた、ブージャックだ。
大量の汗を掻きながら現れた彼はルフィに目を向けて話しかける。
「ここでなぞなぞだゾナ。海賊王になるのはだ~れだ?」
「おれ」
「ブッブー! 正解はベアキング様だゾナ。お前になれるわけなどないゾナ」
「何言ってんだお前? 海賊王になるのはおれだぞ。アホなのか?」
「アホはお前だゾナ! お前らはここで死ぬのだ」
ブージャックが手を上げると同時に兵士たちが一斉に銃を構えた。
囲まれている状況で逃げ場があるはずもない。アキースとボロードは思わず声を洩らし、絶体絶命だと顔を青ざめさせた。だがその一方、ルフィとロビンは普段と何一つ変わらぬ顔色で冷静に彼らを眺めていた。
「あいつらどっちか船長かな?」
「いいえ。どちらも幹部だったはずよ。船長はもっと大男だから実物を見ればわかるわ」
「なんだ違うのか。まぁいいや。キリたちも居るし、とりあえずこいつらだ」
準備運動をするようにルフィが腕を回す。
ロビンも胸の前で両手を交差させた。
その素振りを見て戦うつもりなのだと気付いたハニークイーンとブージャックは、あまりにも不利な状況をわかっていないのかとほくそ笑んだ。
「もしかして戦うつもり? たった四人しかいないのに」
「しかもその内の一人はガキだゾナ。勝てるわけがないゾナ」
「周りの人たちが邪魔ね……
二人の言葉をまるで意に介さず、ロビンは周囲の人間を見回した。
能力を使用する。銃を構える兵士たちの背から一本の腕が生え、しなやかなそれはロビンの意思に従って彼らの首へ勢いよく引っ掛けられ、一斉にゴキッと嫌な音がした。
「ストラングル!」
「な、何っ!?」
三十人の兵士が一斉に攻撃を受けて、泡を噴きながらその場に倒れた。当然銃を取り落として包囲は瞬く間に崩壊する。全員を仕留めた訳ではないとはいえ、個人の力としては異常。無事だった兵士たちは恐れを抱いたようだ。
ハニークイーンやブージャックも同じだ。
圧倒的優位に立っている。どうせすぐに終わると思っていたのに、どうやらそうではないと一瞬で理解させられてしまった。これは彼らにとっては不本意な事態である。
「あの女、能力者……!」
「むむむっ!? なんて生意気な奴らだゾナ! トランプ兄弟に逆らう気か!」
少なからず動揺していた彼らは、そもそも近頃は戦闘に出ることも少なかった。
ねじまき島を支配してからというもの、彼らの地位を脅かす者は現れず、数年に渡って平穏な時を過ごしてきた。その間に彼らの自尊心は大きく膨れ上がり、その上で金獅子の傘下に加わったという大きな変化もある。幹部のみならず、現在のトランプ海賊団は油断と慢心が強まっていた。
そこへきて麦わらの一味はアラバスタでの激闘を経たばかりである。
戦闘においては相応の自信があり、慣れもある。咄嗟の判断を躊躇うことはなかった。
ロビンの攻撃によって数十人が一斉に倒れて、ルフィは突如攻勢に出た。
何も言わず、楽しげな笑みを浮かべて駆け出し、隙だらけのブージャックに接近する。
彼の行動に目を見開いた彼はまるで反応できなかった。
「にっしっし! ゴムゴムのォ~スタンプ!」
「ぶひっ!?」
気付いた時にはルフィの右足が勢いよく伸びてきて、草履の裏が目の前にあった。
顔面を蹴られたブージャックはボールのように地面を弾んで飛んでいく。すぐ隣でそんな光景があったせいか、ハニークイーンは血相を変えて取り乱した。
「ちょっと!? いきなり!?」
「ん? だめだったか?」
「普通はもう少しやり取りするでしょ! 何よ、突然!」
「
目の前に居るルフィに抗議しているその瞬間、ハニークイーンは体に生えた六本の腕に拘束されて身動きが取れなくなった。ロビンの能力が使用されたのだ。
両腕、足、それに首を掴まれて、驚愕する彼女は目だけでロビンを捉えた。
ロビンは微笑み、胸の前で腕を交差してハニークイーンを見つめている。
「うっ、ぐっ……!?」
「海賊同士の戦いに卑怯なんて言葉があったかしら? クラッチ」
開かれていた指が内に入り、拳が握り締められる。その動きに合わせてハニークイーンを拘束した腕が動き出し、彼女に関節技を極めた。しかしその瞬間、衝撃を受けた体はバシャリと音を立てて液体に変化してしまう。
流石にロビンも驚いたらしく笑みを消す。
対照的にルフィは目を輝かせてその光景を見ていた。
「あら。能力者だったのね」
「変な能力だなー。また殴れねぇのか?」
「心配ないわルフィ。パラミシアもロギアも、弱点を突けばいいのよ」
「そうか! わかった!」
距離を取ったハニークイーンを見据えて二人は冷静だった。二人は彼女の能力がトロトロの実を食べた結果得た物であり、
ルフィとロビンは並んで立ち、すでに戦闘態勢を整えていた。
一方でボロードとアキースは棒立ちのまま、まだ展開についていけていなかったようだ。
ほんの一瞬の攻防だが、押されていると感じたハニークイーンは歯を食いしばる。
まだ自信は失っていない。きちんと向き合えば彼らを倒すくらい訳はない。そう考えていた。
倒れたままだったブージャックを叱りつけ、すぐさま意識を切り替えた。
「ブージャック! いつまで寝てんのよ! さっさとあいつらを始末するわよ!」
「了解だゾナ! 我々に逆らったこと、後悔させてやるゾナ……!」
彼女たちがそうして戦闘に臨もうとしていたため、周囲で呆けていた残りの兵士たちも慌てて加勢に入ろうとする。しかし勢いはもはやルフィたちにあった。
集まってくる兵士たちを見ても態度は変わらず、むしろ望むところという表情。
すでにその場を空気を掌握していた彼らが恐れるものなどなかった。