ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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幕間4
断章 動き出す海賊たち


 1

 

 金獅子のシキ復活。

 世間を大きく揺るがしたニュースは世界政府や海軍すらも驚かせた。

 可能ならば一刻も早く彼を捕縛せねばという考えがある一方、現存する戦力で可能か否か。判断に困る程度には金獅子の勢力は爆発的な成長を遂げている。

 速やかに対策を練らねばならない。

 世界の状況を見てそう判断した世界政府は、政府に与する海賊を呼び集めた。

 

 王下七武海の招集である。

 世界政府によって海賊行為を許可された、たった七人の海賊、及びその一味。彼らは有事の際に世界政府に助力することを条件としてその存在を認められている。

 

 今回の一件などはまさにその時であった。

 金獅子の復活は彼らを動かす理由としてはあまりに相応しく、指令が下されるのも当然である。

 

 王下七武海の下には世界政府からの手紙が届き、聖地マリージョアへ集うよう書かれていた。

 一体その命令に何人が従うのか。

 彼らは信用されておらず、称号の剥奪をチラつかせでもしない限りは動かない者も居る。世界政府が緊急事態であるなど、彼らにとっては興味のない話。招集しても誰も集まらないことも十分にあり得た。

 

 ただ、今回は話があまりにも大き過ぎるためか、予想外のことがあった。

 海軍元帥センゴクが広大な一室に入った時、そこにはすでに二人の姿があったのだ。

 

 「うわっ!? おいやめろ! ふざけている場合か!」

 「違うんだ、ふざけてるわけじゃない! 体が勝手に……!」

 「よせ! 一体何を考えているんだ!」

 

 部屋の中ではスーツ姿の海軍将校が二人、ナイフを片手に揉み合いをしていた。何が起こっているのかと入口の辺りで静観してみれば考えずともすぐわかる。

 七武海の男が指を動かしているのである。

 その動きを見ただけで、彼が何をしているのかはすぐに理解できた。

 

 「そうだよ。いい子だからおやめ。ドフラミンゴ」

 「フッフッフ。いい子だから、か。あんたには敵わねぇな、おつるさん」

 

 海軍中将、おつるに声をかけられて、ドンキホーテ・ドフラミンゴは能力の使用をやめる。

 彼が手を下ろすと同時に揉み合っていた二人の海軍将校は体を離し、息を切らして困惑しながらもようやく落ち着ける状態となった。彼の能力で操られていたのだ。

 

 部屋に入って早速気分の悪いものを見た。

 忌々しいと言いたげな顔をしたセンゴクは中央のテーブルへ歩み寄りながら口を開く。

 

 「いつになっても嫌なものだな。海のクズどもとこうして顔を合わせなければならんとは。しかも貴様らは逮捕してはいかんらしい」

 「よく言うぜ。そのクズどもの力を借りたいってのはお前らだろ」

 

 幅の広い大きなテーブルの上に座ったドフラミンゴが最も早く反応する。

 もう一人この場に来たのは寡黙で知られる“暴君”バーソロミュー・くま。彼は椅子に座って静かに本を読んでおり、この喧騒に全く反応していない。

 センゴクはドフラミンゴを見て小さく溜息をついた。

 

 「政府の決定に逆らうわけにはいかんからな。結局集まったのは貴様らだけか」

 「いやぁ、二人も集まったんだ。上等だろ。大体何の話かはわかってる。さっさと用件を聞かせてほしいもんだな」

 「フン……これ以上は集まらんか」

 

 センゴクがテーブルに近付いて椅子に腰かけようとした時、彼が入ってきた所とは別のドアが開いて新たに人が入ってくる。

 姿を現したのは意外にも“鷹の目”ジュラキュール・ミホークだった。

 現れるはずがないと思っていた人物の登場に居合わせた者たちは目を丸くする。

 

 「まさかお前が来るとはな……鷹の目」

 「今回の議題に上がるだろう男に興味があっただけだ。お前たちに力を貸す気はない」

 「フッフッフ! よくもまぁこの場でそんなこと言えたもんだ。嘘でもつきゃあいいのによ」

 「貴様もそう変わらないだろう。政府に従う男とは思えん」

 「おれはお前より協力的さ。ただし利益があればの話だがな」

 

 ミホークは空いていた席に腰を落ち着ける。腕組みをして鋭い視線を辺りに投げかけ、それでいて我関せずといった空気を纏っていた。

 ようやく場が整ったと言っていいだろう。

 用件を告げるのは当然センゴクであり、冷静な様子で淡々と説明する。

 

 「貴様らも予想はついているだろうが、話は金獅子についてだ。奴はマリンフォードへの宣戦布告以来、本格的に活動を再開した。すでに抑え込めないほどの被害が各所で出ている。早急に対応しなければ奴の力は増す一方だろう」

 「やはりその話か。ワニ野郎の件もあり得ると思ったがな」

 

 ドフラミンゴが口を挟んだことでセンゴクはそれにも反応した。

 

 「本来ならばクロコダイルの件だけで良かった。だが奴が現れたことでそうも言っていられなくなったんだ。奴と貴様らに関しては後回しにする」

 「おれたちもかよ。ひでぇ話だ」

 「すでに政府からの要請は出ている。貴様ら七武海も金獅子討伐に協力しろとな」

 「当然、タダとは言わねぇよな?」

 

 すかさずドフラミンゴがセンゴクに笑みを向けた。

 笑顔ではあるが迫力のあるその顔は明らかに悪巧みをしている。無視できるはずもなく、ただ言い返すだけでは足りないとも予想できた。

 

 「状況をよく考えて答えろよ。片や政府を転覆させられるほどの力を持つ海賊。片や海賊に力を借りねぇと対策もできねぇ組織。どっちについた方が利点があるか」

 「七武海の座を捨てる気か? 自ら望んだものだろう」

 「七武海が機能しなくなる世界になるとすりゃどうだ? 政府が無くなりゃその名に価値はなくなるはずだ」

 

 不穏な発言であった。

 たった一人の海賊の発言が元で、室内は刺々しい殺気で満たされていく。

 同席した海軍将校ですら冷や汗を掻く空気。原因となっているのは笑顔を崩さないドフラミンゴと彼を睨みつけるセンゴクだった。

 やがてその空気を壊すべく、おつるが冷ややかな声で呟く。

 

 「自重しなセンゴク。ここでの争いに意味があるかい?」

 「ああ……すまんなおつるさん」

 「ドフラミンゴ。あんたもやめな。人をからかうのもそこまでだよ」

 「フッフッフ」

 

 おつるが言うとドフラミンゴはすぐに矛を収めた。ただ単にからかうことが目的だったらしく本気で敵対しようとは考えていなかったようだ。

 帽子のつばを触り、位置を正したセンゴクは再度冷静に話し始める。

 さっきは思わずドフラミンゴに殺気をぶつけたが、彼の発言に関係のない話題ではなかった。

 

 「実を言えば、お前たちがそう言うだろうと考えて政府はすでに先手を打っている。何もタダで協力しろとは言わん。今回に限った話だがな」

 「ほう。意外に話がわかるじゃねぇか」

 「金獅子を討った者にはそれ相応の恩赦が出る。わかったら一刻も早く奴を止めろ」

 《キィーッシッシ! 恩赦か。ずいぶん濁した表現だがまぁいいだろう》

 

 センゴクの発言を聞いて突然電伝虫から声が発された。

 あらかじめテーブルに置かれていたそれはずっと通話中だったようで、センゴクを始めとした多くの人間が反応していた。

 

 「モリア。貴様も居たのか」

 《おれは元々金獅子を狙うつもりだった。奴の影を手に入れさえすれば、おれは世界最強の戦力を手に入れることになる》

 「お前が金獅子を殺るって? バカも休み休み言え」

 《黙ってろドフラミンゴ! 報酬があると聞いて安心した。その言葉忘れるなよ》

 

 特徴的な笑い声を響かせた後、通話は切られてしまった。

 必要とした情報はそれだけだったのか。他者と協力しようという姿勢を見せることなく、彼はすでに動き出そうとしているようだ。それを止めようとする海兵は居ない。所詮は海賊。味方である一方敵でもある彼らを心配する者はこの場に存在しなかった。

 

 話の腰を折られたが続きを話そうとした。

 センゴクが口を開きかけた時、再び訪問者が現れる。しかし今度は乱入と言っても過言ではない様相だった。

 

 「話は少し戻りますが、七武海の空席の件」

 

 聞こえてきたのはドアではなく窓だった。

 いつの間にか見知らぬ男が立っている。開け放たれた窓から入ってきたらしい。

 

 「こちらは一人相応しい男を知っていましてね。私から推薦させて頂きたい。例えば金獅子の首を持ってきたら、当然その席は頂けるわけですよね?」

 「誰だ、貴様は。どうやって入った?」

 「お前ラフィットだね」

 

 怪訝な顔をするセンゴクの隣でおつるが反応した。センゴクはすぐ彼女に質問する。

 

 「知ってるのかおつるさん」

 「ウエストブルーで保安官だった男だ。度を越えた暴力で国を追われたと聞いてるよ」

 「ええ。それは昔の話。しかしよく私のことなど知っておいでで」

 「妙なことを言っていたね。七武海の後任だって?」

 

 シルクハットを指で触って、優雅な仕草でラフィットが話し始める。

 集った面々の視線を一身に浴びても緊張しておらず、恐怖を感じてもいない。至って平然とした態度で話していて、この場に集った面子を見ればそれだけでも大した度胸だった。

 

 「はい。ぜひ皆様に知っておいて頂きたく。今はまだ無名ですが、いずれ相応の結果を持ってあなた方の前に現れることでしょう」

 「誰の話だ?」

 「我らが船長の名はマーシャル・D・ティーチ。懸賞金はゼロ」

 「フッフッフ。未知数か。おもしれェ」

 

 ドフラミンゴはくつくつと笑っていたが、センゴクは懐疑的な目で彼を見ていた。

 それも当然だ。唐突に現れた見知らぬ男の話をすぐに呑み込めるはずがない。

 

 「金獅子を倒すと言ったのか? 何の保証もなく言い切る人間を信用できるわけがない」

 「決して不可能な話ではありません。いかに伝説と言えども相手は老兵。それなりに時間はかけるかもしれませんが成果は見せましょう」

 

 ラフィットはにこりと微笑み、持っていたステッキをくるりと回した。

 

 「ご心配なく。我々には計画があります。いずれご理解頂けるでしょう」

 

 自信を持ってそう言い切るラフィットにセンゴクは表情を険しくしていた。

 海賊から計画があると聞かされることほど落ち着かないことはない。決して安心できない話だ。

 このマリージョアまで辿りつけた事実も含めて警戒しておいた方がいいかもしれない。

 センゴクは厳しい目でラフィットを見据えていた。

 

 

 

 

 2

 

 「キィーッシッシッシッシ!」

 

 上機嫌な笑い声が部屋に響いていた。

 広大な部屋に集められた幹部は船長の異変を感じており、いつになく上機嫌な様子で、他力本願を掲げる彼にしては珍しい態度である。

 

 幹部を集めたのは命令を下すためだった。

 そしてその命令が“船を動かす”というものだったため、彼らは驚愕したのだ。

 

 「モリア様ァ、本当に出航するんですか?」

 「しかしおれたちはこの海域を根城にして長いのに、なぜ急に」

 「そりゃあ理由は一つしかないだろう。あの装置の完成と、それから――ぎゃあああああっ!? シンドリーちゃん!? なぜ正確無比におれの眉間に皿を投げる!?」

 

 騒がしい部下たちに苛立った様子もなく、ソファにふんぞり返って座るモリアは彼らを見た。

 

 「お前らももう聞いてるだろう。金獅子が復活したそうだ。奴の影を奪うことができればおれに敵う者は居なくなる。おれが海賊王になるのもすぐってことだな」

 「しかし、相手はあの金獅子。そう簡単に勝てるとは」

 「フン! 奴の全盛期がいつだと思ってる。もはや老兵だ」

 

 モリアは笑みを絶やすことなく余裕綽々という態度である。

 部下の心配も他所に野望の成就しか見えていなかったようだ。

 

 「金獅子本人はすでに老いたが、その覇気と実力は世界中が認めるものだ。奴の影を“オーズ”に入れれば世界中の誰も敵わねぇ強大な戦力になる。世界政府だろうが七武海だろうが四皇だろうが止められねぇのさ。海賊王は目の前だ」

 

 敵は強大だが、倒した際に得られる物も大きい。

 そういった理由からモリアはすでに金獅子を標的に見定めていたらしい。

 それを聞いた幹部は同意する一方、その選択が難しいことを指摘する。

 

 「なるほど……確かにオーズには金獅子クラスの影は相応しい。だが上手くいくかどうか」

 「たとえ金獅子でもおれの“不死のゾンビ軍団”は止められない。奴も戦力は増やしてるだろうが所詮はハエどもだ。ハエを払ってるだけでおれのゾンビ軍団が増員される。警戒するのは金獅子と元々奴に従ってた連中だけでいい」

 

 モリアの目は一人一人を捉えて言葉をかけた。

 

 「アブサロム。例の装置は完成してるな?」

 「もちろんだ。科学者の影を入れたゾンビどもが霧を発生させる装置を作り出した。これで“魔の三角地帯(フロリアン・トライアングル)”を出ても姿を隠しながら航行できる」

 「ホグバック。ゾンビの調子はどうだ?」

 「はい。順調に数を増やしています。ちょうど新作も完成したばかりで」

 「ペローナ。影はどうだ?」

 「ホロホロホロ。まだまだたっぷり」

 「ジェイル。死体は集まってるか?」

 

 問われた大男はつまらなそうに低い声で呟く。

 

 「ああ。必要なら外から取ってきてやる。最近はこの海域に近付く奴も減ったからな」

 「キィッシッシ。その必要はねぇ。今度からはこっちから迎えに行ってやる」

 

 体を起こすこともなくだらしない姿勢で彼は語る。

 勝算はあった。確かに相手は強敵だが勝てないはずはないと思っている。何やら自信がある様子のモリアを見れば、幹部たちに文句はない。彼を信頼しているからこそ多くを言わずとも任せておけばいいと考えている。

 ただ一人を除いて。

 

 「まずは金獅子が集めた雑魚どもを狩って影と死体を集めてやる。さらにゾンビの数を増やしていけばすぐに奴の戦力など相手じゃなくなる。組織力ならこっちが上だ」

 「あんたはそう言うが、おれはゾンビなんざ信用しちゃいねぇ。あいつらあんたが気絶すれば使い物にならなくなるだろう。生きた人間を使うって手も考えといた方がいいぞ」

 「おれが気絶する? 馬鹿を言うな。そんなことあるはずがねぇだろう。なぜなら敵を倒すのはお前らだからだ」

 

 にやりと笑ったモリアは自信満々に言う。

 そんな彼の態度に大男が嘆息した。

 

 「あんたが戦闘に出ないことを祈るよ」

 「おいおい、また心配性か? 問題ねぇ。おれにはお前らが居るんだ」

 

 それは部下たちへの信頼を示す言葉であり、たとえ他力本願であろうと彼らの気持ちが揺らぐことはなかった。モリアはすでに彼らにとっての王なのである。

 全ての影を従える影の王。

 モリアの命令は絶対だった。

 

 「すでに計画は始動した。とっとと金獅子の影を奪って、早くおれを海賊王にならせろ!」

 

 

 

 

 3

 

 「この先、わしは一人で行こうと思う」

 

 突然ジンベエが吐き出した言葉に、仲間たちは驚いた。

 これまで共に航海してきた仲間、それも船長の立場に居る彼の突然の離脱を、冷静に受け止められるはずもなかった。

 仲間たちは驚きの声を口々に発して反対しようとする。

 

 「どういう意味だよ船長! あんた一人でどこに行く気なんだ!?」

 「例の麦わらのとこに行くんだろう! おれたちゃ反対してねぇぞ!」

 「エースに会えるかもしれねぇし!」

 「どういう風の吹き回しだ、ジンベエ。ここまで来てそんなことを言い出すなんて」

 

 副船長である人魚のアラディンが彼に問う。

 真剣な顔つきで仲間たちの顔を見回したジンベエは重々しい様子で答えた。

 

 「皆も知っておる通り、世間は今、金獅子の脅威に怯えておる。オヤジさんの名があれば心配はいらんことはわかっとる。じゃが、できれば皆には魚人島に残ってほしい」

 「ジンベエ。わかってるとは思うが」

 「金獅子が魚人島に手を出せば、オヤジさんのナワバリに手を出したことになる。そうなれば戦争になるじゃろう。それはわかっておる。じゃがそれをせん相手だと思うか?」

 

 アラディンは腕を組んだまま厳しい表情だ。

 彼の心配はわかるが、仲間たちだってジンベエを心配する。それでも仲間を遠ざけて一人で行くというのは自分勝手な判断なのではないか。そう思いながらも止めることはできない。彼が苦心して考えた末に答えを出したと知っているからだ。

 

 「金獅子だけではない。この混乱に乗じて魚人島に手を出す輩が居るかもしれん。それがただ無知な馬鹿どもなら問題ないが、四皇であったならどうする?」

 「あり得ると思うか?」

 「わしはゼロではないと思っとる。今のこの海なら何が起こっても不思議ではない」

 

 ジンベエはきっぱりと言った。微塵も迷いがない様子だ。

 

 「エースさんの弟のところにはわし一人で行く。アーロンの件について謝罪を。これはお前たちを付き合わせるまでもないわしの問題じゃ」

 

 アラディンは頭を振って嘆息した。

 責任感のある彼は意外に頑固で意見を変えないことが多々ある。そんな彼を支え続けてきたアラディンはジンベエのことをよく理解していた。仕方ないと認めてしまう。

 きっと不満に思う仲間たちも多いだろうが、これ以上は言っても聞かない。

 代表してアラディンがジンベエに言った。

 

 「わかった。だがジンベエ、注意しろ。お前が言ったんだ。今のこの海じゃ何が起きても不思議じゃないってな」

 「すまん」

 「謝るな。こっちは何年付き合ってると思ってる。エースに会えたらよろしく言っといてくれ」

 

 アラディンが認めたことで仲間たちも声援を送った。

 皆、船長を信頼している。常に仲間たちや故郷のことを考えて行動してきた彼だ。今回のことがたとえわがままだったとしても、素直に認めてやりたいと思う。それくらい彼がわがままを言うのは珍しく、そして今まで他人のために尽くしてきた。

 寂しくはあるがまた再会できる。

 そう思って彼らはジンベエを見送った。

 

 ジンベエは用意していた一人用の小舟に乗って出航する。

 嫌な胸騒ぎがしていた。

 金獅子の登場がそうだったのか、或いは別の理由があったのかは彼にもわからない。

 

 仲間たちに言った通り、これから彼は弟分であるアーロンの一件に関わったという麦わらの一味の下へ向かう。しかし本心を言えば理由はそれだけではない。

 この胸騒ぎの原因は何なのか。考えた時にふとエースの顔が浮かんだ。

 理由はわからないが居ても立っても居られず、ジンベエは彼にも会おうと決めていた。

 

 

 

 

 4

 

 大汗を掻いて頭を抱えたバギーは苦悩していた。

 原因となるのは数日前に見た新聞だ。金獅子の復活。それを見て以来、彼は極端に様子がおかしくなって怯え始め、苦しむ顔を続けていた。

 

 質問をし、理由を聞いたとはいえ何も思わない訳ではない。

 呆れた顔のアルビダは溜息交じりに彼へ声をかける。

 

 「いつまでそうしてるつもりなんだい? 男らしくないねぇ」

 「うるせー! この状況がわかってねぇのか!」

 「わかってるさ。金獅子が復活した話だろ? 確かに大物だけどそんなに怯えるほどかい?」

 「お前は会ったことがねぇからそう言えるんだ……おれは嫌と言うほどあいつを見てきた」

 

 気落ちした様子のバギーは今も悩み続けているようだ。

 彼の悩みはわかっている。

 金獅子の傘下になって安全を確保すべきか。それとも否か。

 傘下になれば彼の勢力から狙われることはなくなり、少なくとも金獅子と戦闘になることはなくなる。しかしそれを決断できないのは、イーストブルーで結成した同盟の代表として君臨する彼が金獅子の手下になってしまうからだ。せっかく組織のトップとなったのにそれを捨てるのはもったいないと、バギーは躊躇っているのである。

 

 一番良いのは金獅子に狙われず、自身がトップであり続けること。

 そんな方法が無いものかと諦めきれない彼は悩み続けているのだった。

 すでにそれを聞かされていたアルビダは呆れながらも余裕のある態度で彼を見ていた。

 

 「このままじゃまずいな。何か方法は……」

 「煮え切らないねぇ。そんなに怖いならさっさと傘下に入っちまえばいいのに」

 「そんなことできるか! おれァ船長だぞ! そう簡単に頭を下げられるわけねぇだろ!」

 「強情だねぇ。だったら戦うのかい?」

 「フン、戦って勝てるなら苦労はしねぇ。あいつはロジャー船長と引き分けた男だぞ」

 

 不機嫌そうな顔で腕組みをしたバギーに、肩をすくめたアルビダが言う。

 

 「こだわるんだね。それにしたっていつまでもこうしちゃいられないだろ? その内金獅子に目をつけられるかもしれないよ」

 「そんなこたぁわかってる。だからこうして考えてるんだろうが」

 「いっそのこと身を隠したらどうだい? 金獅子はほっといても政府や他の海賊が狙うさ。事が落ち着いてからまた表舞台に戻ってくればいい。それまで身を隠すんだよ」

 「なにぃ? 簡単に言うなぁ。それができたらおれだって――」

 

 言いかけたバギーは何かに気付いた様子でハッとした。

 その挙動を見たアルビダは素直に問いかける。

 

 「何か思いついたかい?」

 「身を隠すか。フッフッフ、良いことを考えたぞ。金獅子に気付かれず、且つ略奪を続けるための作戦を。おれ様にしかできないことだ」

 

 ようやく晴れやかな顔になったバギーは立ち上がり、腕を振って部下たちへ命令した。

 

 「同盟の連中を集めろ! ド派手に雲隠れ作戦開始じゃあ!」

 

 やっと本来の勢いを見せたバギーに部下たちが歓喜の声を上げていた。

 バギー本人も何やら勝算がある様子で、自信満々に船の進む先を見つめている。

 アルビダはそんな彼らに苦笑し、異論を口にすることなく見守った。

 


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