ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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ギブアンドテイク

 船へ戻って来た四人は甲板へ辿り着いてから、これからの旅路について考えた。まず最初に考えたのは傍に停泊しているバギー海賊団の船を目にし、あそこからなら略奪してもいいのではないかということ。最初に思いついたのはキリで、出航準備を始める仲間たちに声をかけた。

 

 「そういえばあっちの船からなら取ってもいいんじゃない? ちょっと行ってこようか」

 「無駄よ。あの船には何も残ってないわ」

 

 返事をしたのは三人の内誰でもなく、誰も居ないはずの船室から扉が開き、そこから聞こえた。

 全員の注意が同じ場所へ向かう。

 開いた扉の向こうから現れたのはルフィのみが詳細を知る少女、海賊専門の泥棒ナミであった。彼女の姿を認めたルフィはパッと笑顔を咲かせ、嬉しそうな表情だ。しかし残る三人にとってはちらりと見た程度の顔でしかないため、良い反応は期待できない。

 

 「おまえナミじゃねぇかっ。なんでこんなとこいんだ?」

 「別に。ただあんたたちが勝つって予想してたの。思ったより強いみたいだし、こう言っちゃなんだけど利用できそうだしね」

 「おれの仲間になる気になったか?」

 「違うわよ。手を組む、って言ってくれる? 私は海賊になんて絶対ならないしあんたたちとずっと航海するわけじゃない。時が来ればここを離れるわ」

 

 甲板の中央まで歩いてきて四人の顔を見渡す彼女は、自信満々といった態度で言う。

 

 「しばらくは協力しましょう。私はあんたたちに航海術を提供する。代わりにあんたたちは私のためにお宝を集める。いいわね?」

 「おいルフィ、誰なんだこの女は。突然出てきて偉そうにぺらぺらと」

 「私は海賊専門の泥棒、ナミ。好きな物はお金とみかん。嫌いな物は海賊。……これで自己紹介は十分? だったら船を進めましょう。あんまり悠長にしてる暇はないの」

 

 決して友好的な態度ではない。高圧的で一方的な発言だった。

 これに反発したゾロは眉間に皺を寄せ、明らかに不満を訴える表情である。

 船上には奇妙な空気が漂っていた。戦闘時とはまた違う緊張感が辺りを支配し、剣呑な光を目に灯す者も居れば、ただ困惑する者も居る。

 ゾロとシルクが押し黙った時、ルフィだけは笑っていて彼女の乗船を喜んでいる顔だ。

 同じく普段通りの表情を称えるキリに目が向けられ、ルフィが意見を問う。

 

 「いいかキリ? ナミが船乗ってても」

 「お好きにどうぞ船長。決めたことなら拒まないよ」

 「キリ、今だけは適当にすんじゃねぇぞ。そんな簡単な問題じゃねぇはずだ」

 「わかってるけど、一度言い出したら聞かないって知ってるでしょ? 大丈夫、上手くやるさ」

 

 ゾロが真剣に訴えるものの、さらりと受け流してキリは肩をすくめる。

 いつも通りの微笑みが崩れない姿から大した問題とは思っていないのかもしれない。

 結局はゾロが折れ、意見を引っ込めることとなった。

 物々しい雰囲気だったが一応話は纏まったようである。

 腕を組んでツンと立つナミへ、シルクが歩み寄った。そっと右手を差し出し、厳しい視線を向けてくる彼女に、にこりと笑って握手を求める。

 

 「私、シルクっていうの。よろしくね」

 「……まぁ、よろしく」

 

 憮然とした表情は変わらなかったがナミはその手を取った。

 きゅっと握り合って握手とし、女性同士で他よりも少しは近くなれそうな気配である。

 鼻を鳴らしたゾロは納得していない顔だったが錨を上げるため動き出し、命令に逆らうつもりはないらしい。なんだかんだと上の者を立てる性質だ。しばらくは大人しくしているだろう。

 代わりにキリが彼女を見る。

 

 「向こうの船には何もないって言ってたね。それは?」

 「簡単よ、私が全部盗んだの。水も食料もお宝もこっちの船に移しといたわ」

 「へぇ、気が利くね」

 「あんたたちが勝つ方に賭けてたからね。負けてたらこの船を盗んで逃げるつもりだったわ」

 「この大きい帆船を一人で?」

 「できなくはないわよ。私は一流の航海士で、操船技術だって学んでる」

 

 ふぅんと頷いてキリはかぶっていた麦わら帽子をルフィの頭へかぶせた。確かに受け取ったそれは無傷で、嬉しそうにルフィが肩を揺らす。

 頭が回る人物には違いないらしい。

 いずれはその機転の良さが一味にとって悪い方向へ転がらなければよいが。

 そう思いながらもキリもまた乗船を許可し、船を動かすための準備へと戻っていった。

 

 「歓迎するよ。ちょうど航海士が欲しかったんだ」

 「念を押すようだけど仲間になるつもりはないから。あくまでも一時的な関係よ」

 「それで十分」

 

 傍を離れたキリは帆を張るために手を動かし始め、そこに錨を上げ終えたゾロが近付き、手伝いながら密かに話し始める。やはり不満は消えていないようだ。

 

 「いいのか? どう見ても怪しい奴だぞ」

 「そうだね。少なくとも使えない人間じゃなさそうだ。問題はいつ裏切るかってとこだけど」

 「わかってて乗せる気か。厄介事を生むだけじゃねぇのか」

 「しばらくは様子を見るよ。もしもの時はなんとかする。それに最初から何か狙ってるってわかる相手ならいくらでも対処はできるしね」

 

 キリは欄干に背を預け、やさしい微笑みを浮かべて言った。

 その顔を見るゾロは普段とは違う雰囲気を感じ取る。

 

 「ルフィの意見は優先させる。ただし、この一味を壊すつもりなら容赦はしない」

 

 短い言葉だからこそ本気の意志が伺えた。

 常に微笑みを持ち合わせ、誰に対しても険の強さを見せない人間だと思っていたがそうではないらしい。今、この瞬間だけは鬼気迫る空気を感じる。

 視線を外して、全く気付いていない三人が談笑する姿を見つめる。

 ゾロはぽつりと呟いた。

 

 「今、初めておまえをおっかねぇと思ったよ」

 「そう? 人畜無害だと思ってたんだけどな」

 「ああ。普段はな」

 

 二人の会話に気付いていない三人は和やかに話している。

 特にシルクは自分以外の女性が共に旅をするということで嬉しそうだ。これまでの航海、男と一緒だからと言って困ったことなどさほどないが、やはり同性が居ると安心する。

 ルフィはルフィで自分が選んだ人間が来てくれたと嬉しそうで、何も心配していなかった。

 

 「この船に女の子は私一人だから、ナミが来てくれて嬉しいよ」

 「あんたも海賊なの? よくやるわねぇ。もっと他の生き方選んだ方がよかったんじゃない?」

 「いいの。自分で選んだから後悔なんてしてないよ」

 「あっそ……よく自分から海賊になろうなんて思えるわね」

 

 ナミはシルクの発言を聞いて呆れていたようだ。首を振って溜息をつき、表情は明らかである。

 海賊嫌いという話は本当らしい。

 不思議に思ってシルクが尋ねる。

 世間的に海賊を嫌うのはおかしくないこととはいえ、ならばなぜ関わろうとするのか。そこまで言うのならば彼女こそ別の生き方を選んで平和に暮らせばいいのに。

 何か理由があるのだろうかと考えて、聞かずにはいられなかった。

 

 「ナミは、海賊が嫌いなんだね」

 「当たり前でしょ。あんな連中、居た方が迷惑する人間が増えるのよ」

 「どうしてそんなに嫌ってるの? 私、海賊になる前から元々悪い印象は持ってなかったけど、ナミのそれってかなり強く思ってるんじゃないかな」

 「それは……」

 「それに海賊専門の泥棒なんて。どうして自分から海賊に近寄るようなことするのかな」

 

 問われて二の句が告げられなくなり、ナミの表情が曇る。しかし数秒考えた後で顔を上げ、シルクの目を正面から見据えながら説明を始めた。

 その声は船上の全員が耳にしている。

 

 「私は何がなんでも一億ベリー掻き集めて、ある村を買うの。その資金を得るためには海賊が一番いいカモなのよ。自分から近付くのはそのため」

 「村を、買う?」

 「信じるか信じないかは自由よ。それとこれ以上は言えない。とにかくお金が必要なの」

 「あ、うん。そっか」

 

 困惑した様子でシルクが苦笑した。

 あまり深く聞き過ぎるのも悪いと思ったのだろう。戸惑って、取り繕うような笑顔だった。

 出航準備が終わる。

 後は号令さえ出ればいつでも出航できるという状態になり、報告のためキリがルフィへ近寄った。彼も今しがた作業を終えたようでキリへ向き直る。

 

 「準備が終わったよ。号令があればいつでも」

 「おう」

 

 ルフィの隣へ並んだキリは、ナミを見ながら呟いた。

 

 「訳ありだね」

 「そうみたいだな」

 「どうする? 助ける気?」

 「いや。だって助けて欲しいなんて言われてねぇし。おれは仲間になって欲しいだけだ」

 

 ルフィは迷いのない顔ではっきりとそう言った。意味を理解してキリはくすりと笑う。

 何も考えていないようで意外にシビアな考え方を持っているらしい。

 

 「海賊はヒーローじゃなく、あくまでも海賊か」

 「おれは仲間が困ってるなら何やってでも助けるけど、それ以外の奴を助ける理由はねぇ」

 「そう言ってもらえると助かるよ。こっちも動きやすくなる」

 「なんのことだ?」

 「こっちの話。雑務はボクがやるからルフィはそのままでいてよ」

 「わかった」

 

 素直に頷くルフィはやはり何も考えていなさそうだ。

 全員の顔を見回した彼は両腕を振り上げて大声を発する。

 

 「野郎ども、出航だ! 海へ出るぞォ!」

 

 答えるクルーたちの動きにより、船はゆっくり港を離れ始める。

 滞在時間は短かったが収穫はあった。航海士が一人と略奪品が多数。何も得られなかったよりはよっぽど良かった寄り道だろう。船は再び海へと向かう。

 その頃になって港に人影が現れた。

 船の上に居る彼らがそれに気付いたのは、大きな犬の鳴き声が聞こえたからである。

 全員が船の後部へ集まって港を眺めた。

 

 「あ、犬だ」

 「町長さんもいるね。何かあったかな」

 「おい小童どもぉ!」

 

 鎧を外したブードルと、元気に尻尾を振って鳴くシュシュが見えた。

 伝え忘れたことがあったか、必死に走って来たらしい。

 息を切らしていたブードルは顔を上げると彼らに向かって笑顔で伝えた。

 

 「すまん。恩に着る」

 

 決して大きな声ではなかったが不思議とはっきり届いた。隣ではシュシュが鳴いていて、言葉ではなくとも礼を言っているのだろうと伝わる。

 彼らの頬は緩み、笑顔を浮かべた。

 中でもルフィが元気よく手を振り、離れていくブードルへと答えた。

 

 「気にすんな! 楽にいこう!」

 「言葉もないわ……」

 

 胸の内が熱くなって自然と涙がこぼれた。

 共に過ごした時間など決して短くはない。ゾロやシルクとは言葉も交わしたが、それ以外の者はほとんど知らず、ルフィに至っても会話らしい会話はしていない。それなのに彼らは見ず知らずの町を助けて、海賊たちを退けてくれた。感謝のしようもない。

 礼を求める訳でもなく、物品を奪う訳でもない彼らはあっさり出航してしまった。

 感謝の念を称えてブードルは手を振り、シュシュも送り出すため鳴き続けた。

 ルフィもまた、島から遠ざかって彼らの姿が見えなくなるまで手を振っていたのである。

 無事に海を出た後はまたいつも通りの航海。

 ただし今度は航海士ナミが一時的な協力とはいえ船の上に居るため、彼女に関する話をしなければならない。甲板の中央へ全員が集まった。

 

 「さて、ナミが一緒に来て変わることもある。部屋はシルクと一緒でいいかな?」

 「私は構わないよ。ナミは?」

 「別に女同士だし気にしないわ」

 「それと宝の取り分はなんとかならないかな。奪ったお宝全部渡してたんじゃウチの一味に生活費が回らない。多少は頼むよ」

 「仕方ないわねぇ。九:一でいいわよ」

 「ナ、ナミ、流石にそれじゃあんまり変わらないと思うけど」

 

 今の所一味と彼女を橋渡しする役割となったシルクが苦笑すれば、キリはくすりと微笑む。

 

 「航海のための船を提供してるのはこっちだ。分け前がないなら君を乗せていられない。そっちは泥棒でもこっちは海賊、嫌なら今から海に叩き落してもいいけど?」

 「むっ、意外と言うわね……だったら八:二」

 「山分け」

 「だめよ。盗むのは私なんだから、七:三」

 「六:四」

 「七と三よ。これ以上まけないわ」

 「じゃあそれでいこう。ま、あとはなんとかやりくりするよ」

 

 話は終わったとばかり、キリの目はシルクへ向いた。

 ナミは彼を見つめながら思う。この船の男どもの中では一番厄介そうだ。ルフィは何も考えていなさそうで、ゾロは嫌悪感をはっきり示しているが、彼だけはそのどちらでもない。

 海賊とは見えない風貌ながら、立場を利用するかのように脅迫までする始末。かといって話がわからない訳でもなく、想像していた以上にナミの提案をあっさり呑んだ。

 いまいち読み切れない。

 ナミが今最も警戒すべきは彼で、短いやり取りの間で素早く決められていた。

 

 「シルク。ナミと一緒に盗んだ物資を確認してきてくれないかな。振り分けを決めたい」

 「うん、いいよ」

 「ちょっと、私まで顎で使う気?」

 「だって盗んできたのはナミ本人じゃないか。どこに置いてるのかも知らないし、何を持ってきたかも知らないから確認するのは当然でしょ」

 「しょうがないわね。もう、こんなはずじゃなかったのに……」

 

 渋々ナミが先導してシルクを連れ、二人で船内へ向かう。

 当初の予定では彼らを顎で使う気だったのかもしれないがそう簡単に上手くいかないらしい。しかしそれも今だけだと思えば、この場は我慢できた。

 離れていく背へキリがさらに声をかける。

 

 「それとナミがちょろまかさないようにちゃんと見張っといてね」

 「うっさいわね! そんなことしないわよ!」

 「まぁまぁ」

 

 仲裁するシルクにナミが背を押され、二人の姿は扉の向こうへ消える。

 一気に人の姿が減った甲板の上、キリは舵を取るため移動した。

 舵輪を握るのとちょうど同時、ゾロがそこへやってきてキリへと声をかけた。

 警戒心を露わにする様子からやはり信用していないのだとわかる。思いのほか神経質なのかもしれないとその顔を見て思った。舵輪を回すキリはすっかり笑顔で何も気にした様子は見られない。

 

 「これからどうすんだ。あいつを信用したわけじゃねぇだろ」

 「しばらく待つよ。動く気はあるんだろうし」

 「なぁなぁ、おれたちこれからどこ向かうんだ?」

 

 体を伸ばしてルフィが飛んできた。

 船長という自覚があるのかないのか、航路の有無を求めるのは問題があると思われる。やれやれと嘆息したキリは苦笑しながら、それでも甘やかすかのように答えた。

 

 「それは普通ルフィが決めることでしょ」

 「でもおれ道なんてわかんねぇもんよ」

 「それならボクだって同じだけどさ。とりあえず前には進んでるよ。グランドラインへの入り口には近付いてるはず」

 「えぇ? そんなとこまで知ってんのか?」

 「ボクは元々イーストブルーからグランドラインに入ったんだ。そりゃ知ってるって」

 

 キリの前にある欄干の上でしゃがみ、まるで視界の邪魔をしようとするかのようなルフィは笑顔で帽子を押さえた。邪魔する気はないようだが前は見えない。想いのままに行動しているようだ。

 

 「そういやさ、ナミはグランドラインの海図を盗んだって言ってたぞ。一億ベリー集めるためにグランドラインに行きたかったんだとさ」

 「グランドラインの、海図? 本当にそう言ってたの?」

 「ああ。なんかおかしいのか?」

 「いや、おかしくはないけどさ。確かにあの海を航海したんなら海図だって描けるだろうし」

 

 キリは少し考える素振りを見せた。

 経験者だからこそ知っている。グランドラインの航海は決して生半可な物ではないと。

 そのグランドラインの海図が他の海へ流れることは、決して珍しいことではないだろうが高値にはなるはず。むしろグランドラインの海図だと騙った詐欺すら横行している。

 グランドラインとはそれだけ特殊な場所だった。

 海賊のみならず船乗りならば成功を求めて多くの者が目指し、そして散っていく危険な海。

 ナミがその海図を持っている状況は些か疑念が残る。

 

 「盗んだって言ったよね。元々誰が持ってたの?」

 「そりゃバギーじゃねぇか? あいつの仲間に追われてたみてぇだし」

 「ふむ、バギーか……」

 「そういやあいつシャンクスの見習いん時の仲間なんだってよ」

 「シャンクスの知り合い? だったらあの人もグランドラインに居た可能性はあるね。だから海図を持ってた」

 「そうなのか?」

 

 キリがわずかに頷いた。

 さっきの場面で言わなかったということは交渉材料にするつもりはないという意味だろう。やはり今はタイミングを計っているだけなのだという考えが有力視された。

 傍に居るゾロを見れば腕組みして頷かれる。

 考えは同じ。彼女がいつ何をしでかすかはわからない、ということだ。

 

 「まぁ海図のことは置いとくとしても、ルフィ、ナミのことどうするつもり? 仲間にする気ならそれなりに説得は試みるけど」

 「うーん、でも一回断られちまったしなぁ」

 「次の島で置いてきゃいいだろ。本人も仲間になる気はねぇって言ってんだ」

 「でもあいつなら大丈夫だと思うんだ。おれはあいつを仲間にしてぇ」

 

 苦言を呈するようなゾロの口調にものんきな声色は変わらず、ルフィがはっきり告げる。

 ゾロは小さく呻いた。

 

 「根拠はあんのか。あいつとは出会ったばっかだろ」

 「ない。なんとなくそう思っただけだ」

 「でもそれを言い出したら、ボクもシルクもゾロも出会ってその場で判断してたし。こんな感じだけど案外ルフィには先見の明があるのかも」

 「どうだかな。まぁいい、今は置いといてやる。いずれわかることだ」

 

 そう言ってゾロは階段を降り、甲板へ赴くといつもの如く欄干を背にして座った。おそらくそのまま眠るつもりだろう。ここ最近は修行か昼寝かの選択肢しか持ち合わせない。

 彼の意見はもっともだと思うが、一方ではルフィの意見を面白いとも思う。

 言うなれば自分はその二つの間の道を探すのが仕事だろうと、キリは自分の立場を理解した。

 船長の命令を聞きながらゾロの理解を得られればいい。簡単ではないだろうがそれが一番の方法だと思う。別段ナミを嫌っている訳でもなし、航海士が仲間になれば嬉しい限りだ。

 現状、この船に乗っているのは個性的な人間ばかり。

 御し切るのは難しいだろうが面白い状況だと想い、彼は肩の力を抜いて息を吐く。

 

 「もしナミが仲間になってくれたとして、あと必要なのはコック、船医、船大工あたりか。手先が器用な人が仲間になってくれればいいけどね」

 「どんな奴がいいかな。なぁ、キリは仲間にしたい奴とかいるか?」

 「そこは任せるよ、船長。言ってくれれば誰でも引き込む」

 「しっしっし、頼りになるなぁ」

 

 風に吹かれて飛びそうになる帽子を押さえて、上機嫌にルフィは笑っていた。

 何も心配していないだろう能天気な笑顔。きっとその方が彼らしいのだろう。

 嘆息したキリは自分の気持ちを再確認する。

 自分にとっての宝はこの場に居る仲間。目的はルフィを海賊の王にする。

 それを崩すのならば時に冷徹にならねばならない。元より正義も悪も興味がないと断ずる性質だ。どんな方法でも使えるだけの胆力は持ち合わせている。かつて仲間を失って以来。

 微笑む彼は密かに己の中で覚悟を決めていた。

 


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