ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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軍艦島

 朝日が昇り、出航した後。

 帆に風を受けて進む船の上ではアピスを囲むルフィとシルクの姿があった。

 面倒見がいい性格からシルクは彼女を心配しており、ルフィは単純に好奇心を発揮していたようである。共に食卓を囲んだこともあって、すっかり打ち解けた様子だった。

 

 「アピスは軍艦島で住んでるんだね」

 「うん! おっきな山が一つあるだけで、他には何もないんだけど、いいところだよ。みんなやさしいし、それに……って、これは言っちゃだめなんだった」

 「しっかしおもしれぇ能力だなぁ。動物としゃべれんだろ?」

 「えへへ、結構楽しいんだ。その代わり泳げなくなっちゃったけどね。でも海に住んでる動物にお願いすると背中に乗せてもらえたりするんだよ」

 「いいなぁ。おれもそんな能力使ってみてぇなぁ」

 「ルフィはゴムゴムだからダメでしょ。それはそれで面白いと思うよ」

 「んん、そうだな。まぁこれも気に入ってるし、いいか」

 

 和やかな態度で話す三人は無邪気な姿で、少し離れた位置から見る三人は対照的に落ち着いていた。舵輪を握るキリと、傍らに立つナミ、そして欄干を背に座るゾロだ。

 アピスについては本人とキリの口から語られている。

 軍艦島に住んでいて、そこまで送り届けて欲しい。

 ヒソヒソの実を食べた能力者である。

 小舟に乗って漂流していたのは、諸事情あって海軍の船から逃れてきたから。

 伝えられたのはそれだけだが訳があるのだろうとは理解できるだろう。小さな子供が一人で海軍船から抜け出してきたのだ。よっぽどの覚悟がなければそんな事態はあり得ない。

 アピスの笑顔を見ながら、ぽつりとナミが呟いた。

 

 「あんな歳で、一体何があったのかしら……事情がないと海には出ないわよね」

 「海の上に居る人は大概訳アリみたいだねぇ。しかも能力者と来たもんだ」

 「能力者っつってもあれじゃ戦えねぇだろ。戦闘に向かねぇ奴もいるんだな」

 

 動物と話せるだけと聞いてそう判断したらしい。ゾロが何気なく言った。しかしそれに異を唱えたのはキリである。

 視線は前を向いたままの発言だった。

 イルカに教えられた甲斐あってか、すでに島の姿が見えている。

 

 「そうとも限らないよ」

 「あぁ? 動物と話すだけの能力だぞ。言っちゃ悪ぃが強そうには思えねぇ」

 「普通に考えればそうだろうけどね。だけど悪魔の実を食べた人間は必ず普通じゃなくなるんだ。能力者ってだけで一概にはそう言えないよ」

 「ならあれで戦うんならどうする気だ?」

 「悪魔の実の能力は、鍛えれば鍛えるほど力を増す。戦闘に特化できるかどうかは本人の熟練度次第。動物と話せるなら十分じゃないか。強い動物と意思疎通できれば、それだけで身を守る力は手に入る。自分自身体を鍛えなくてもね」

 「つまり用心棒を雇える能力ってか?」

 「イメージ的にはそんな感じ。それに多分、ボクらが思ってるほど簡単な能力じゃないよ」

 「ん?」

 

 どこか真剣な顔つきで、その能力の真意を恐れるかのようだ。

 キリの横顔は二人ともが見ていた。

 

 「話せる動物を定義するのはおそらく彼女自身だ。多分本人はあまり意識してないだろうけど、昨日見た限りじゃ海中のイルカを呼び出せてた。声が届く範囲じゃなかった可能性もあるのに。あれができるんなら下手すれば海王類クラスまで話せるようになるかもね」

 「か、海王類と話せるの? そんなの、もしあいつらを操った日にはあんたたちですら勝てないじゃない。そんなのってあり?」

 「あくまで可能性だよ。できるとも言ってないし、できないとも限らない。でもそれが悪魔の実の能力だ。上手く乗りこなせるかどうかは能力者次第」

 

 上体を起こしたゾロがアピスを見ながら言う。

 

 「鍛えれば鍛えるほどってやつか」

 「彼女が自覚してその気になったら、本当に最強の能力者になれるかもね」

 「は、はは、笑えないわね……ほんとなんなの、悪魔の実の能力者って」

 

 渇いた笑い声を発したナミが口の端をひくつかせる。

 事情は聞いていた。今この船上に能力者が三人居ることを理解している。ルフィ、キリ、そしてアピス。世にも珍しいと語られた悪魔の実を食した者が三人も居るのだ。

 頼もしいと思うより何より、恐ろしいという感情を抱く。

 未知なる物に対する恐怖。小さな町など簡単に潰せそうだと考えてしまう。

 ただ反対に彼らへ期待する感情もあった。

 これだけ強いのならば、例えば人間以外の種族と戦ったとしても。

 近頃ナミはそんな考えで思い悩んでいた。自分がなぜ海へ出たのかを思い出し、海賊のみを対象に絞る泥棒稼業を始めた理由を考え、もしかしてと期待してしまう。しかし彼女は逸る想いを必死で抑えた。自分一人でやり通すと決めたのだと。

 余計な思考を吹き飛ばし、改めてアピスの笑顔を見る。

 まだ年端も行かぬ少女。どれだけ辛い目に遭ったのだろう。

 表情は自然と気遣う物に変わっていて、それに気付いたキリが振り返りながら言った。

 

 「思う所でもあった? 自分の境遇と重ねたとか」

 「まさか。海賊に拾われたあの子が不憫で仕方ないだけよ」

 「あの子は海軍から逃げてきたんだけどね。正義の集団が一枚岩だと思わないことだよ」

 

 キリがそう言えばナミはぐっと唇を噛む。

 海賊として海の上を航海していた彼ならば知っていることも多いだろう。彼女とて理解している。正義の集団と称される海軍が、時にどんなことをしでかすか。泥棒として八年間の航海を経験した今、海軍を頼るのもそう良いことばかりではないと知っている。

 それでも海賊に対する嫌悪感は消えないのか、表情が明るくなることはない。

 苦笑したキリは舵輪を離した。

 

 「ナミ、舵よろしく」

 「え? あっ、ちょっと」

 

 軽快に歩き出したキリは階段を降りていき、代わりにナミが舵輪を握った。

 和気あいあいと盛り上がる三人の下へと歩み寄って声をかける。

 

 「アピス、島が見えたよ。もうじき到着だ」

 「ほんとっ!?」

 

 朗らかに笑うアピスは喜びを露わにし、今にも飛び跳ねかねない様子となった。

 子供っぽい仕草にルフィとシルクは笑顔をこぼす。

 明るい性格故に落ち込む素振りもなく笑顔を振りまく彼女だ。傍に居るだけで不思議と気分は良くなり、船上の雰囲気が一気に明るくなったように思える。

 一同は欄干から身を乗り出して前方を見る。

 進行方向にあった島は、白い岸壁が目立つ奇妙な形の島だった。

 天へと伸びる大きな岩山が独特な姿。

 その形が軍艦に似ているとの理由から軍艦島と呼ばれるのだとアピスは語った。

 目的地をその目にした彼女はますます笑顔を輝かせる。嬉しそうに三人へ振り返って感謝の言葉を伝えた。こんなに早く戻って来れたのも彼らが連れてきてくれたためである。

 

 「あれが軍艦島で間違いない?」

 「うん! みんなありがとう。出会ったのがみんなでほんとによかった」

 

 三人の顔を見回せば彼らの顔も緩む。

 一方でシルクは彼女の能力を目の当たりにしたばかりで、感心していたようだ。

 

 「すごいんだね、ヒソヒソの実って。動物に道を聞くだけで到着できるんだ」

 「まぁ普通の人間じゃなくなるわけだからね。悪魔の実を食べて弱くなることはまずないよ。あくまでも海に落ちなければの話だけどさ」

 「うーん、そっか……」

 

 シルクが腕を組んで考え始めるも、ルフィは気にせずアピスへ目を向けた。

 

 「おまえ海軍に追われてんだろ? 戻って大丈夫なのか」

 「うん……それが心配なんだけど」

 「今のところ島の近くに軍艦は見えないね。向こうはまだ到着してない可能性がある」

 「でもまた戻ってくんだろ?」

 「多分ね」

 「あ、あのさ」

 

 意見を交わすルフィとキリをアピスの一声が止める。

 おずおずといった様子で戸惑いが感じられた。笑みが鳴りを潜め、眉を寄せて困った顔だ。

 今更何を躊躇うのだろう。一日にも満たない時間とはいえ寝食を共にし、今の今まで仲良くしていた。それでも言い出しにくいというのは相当な事を言おうとしているのか。考え事をやめたシルクも合わせ、三人の視線が集められる。

 意を決したのか、顔が上げられた。

 不安は色濃く、しかし覚悟を持って伝えられる。子供とは思えぬ表情だった。

 

 「ほんとは、海軍に狙われてるのは私じゃなくて、友達なの。私は助けるために嘘をついて、それで島から離れようとしたんだけど……もし海軍がまた来たら、困っちゃう」

 「そうだったの……」

 「友達を守りたいの。だけど私一人じゃどうしようもないから、助けてくれない? あなたたちなら、多分、悪い人じゃなさそうだし」

 「いいぞ。おれたちもう友達じゃねぇか」

 

 ルフィが笑顔でそう言った。簡単に言いのけた言葉だったがアピスにとっては嬉しく、印象と変わらぬ人物だと思えて安堵できたらしい。パッと笑顔が咲くようだ。

 そう感じられた直後、なぜか笑顔は曇る。

 信じたいとは思っている。だが今感じる不安はそう簡単には拭い切れない。

 もしも、と考えるのが怖かった。

 アピスの口からは念を押すような言葉が吐かれ、ルフィは落ち着いた様子でそれに向き合う。

 

 「でもね、私の友達普通じゃないから。ルフィたちは悪いことなんてしないよね」

 「するわけねぇだろ。アピスの友達はおれたちの友達だ」

 「そっか……そうだよね。うん、信じる。ルフィ、私の友達を助けて」

 「まかせろ」

 

 力強く頷いた姿を見て、今度こそアピスが笑った。

 海賊だと聞いた時には驚いたが彼らは驚くほど気が良い。暴力を振るうこともなければ、仲間内でいざこざが起こる訳でもなく、笑顔を絶やさずに仲睦まじい姿ばかり見られた。

 この人たちならきっと大丈夫だろう。そう思って決意する。

 アピスの顔は晴れ晴れとしていた。

 

 「島に着いたら私の友達紹介するね。きっとびっくりするよ」

 「ししし、そうか」

 「アピスの友達、どんな人だろう」

 「二人とも楽しみにするのはいいけど、こっちの動きも決めとかなきゃいけないよ」

 

 到着を今か今かと待つ仲間たちをキリが制した。

 彼らは旅行者ではない。帰る場所があるならばただの行楽気分を責められもしないが、これから先もずっと航海を続けるならばそれ相応の準備が必要になる。

 誰が何を担当するか。決めなければならないことがあった。

 

 「うちは大食漢がいるんだし食料の補充はしとかないと。あと水も。武器や砲弾なんかは船内にあるからいいとして、何も準備せずにって訳にはいかないよ」

 「あ、そっか」

 「じゃあ私がやっとくよ。何が残ってるかも大体覚えてるし」

 

 自信満々にシルクが胸を叩いた。料理の手伝いをしたため、また記憶力の良さがあってか食料調達なら問題なく遂行できる。役に立ちたいという一心であっただろう。

 それを良しとしたキリは頷く。

 

 「ならボクは船の修繕をしとこうかな。ルフィはアピスについて行ってよ」

 「わかった。いいぞ」

 「シルクはナミを連れてってくれる? 多分まだ警戒してるから仲良くなってくれると助かる」

 「いいよ。私もナミとは仲良くしたいから」

 

 話が纏まりかけるとアピスも口を開く。

 自分なりの意見があったようだ。くいっとシルクの手が引かれる。

 

 「ねぇ、友達に会う前に家に帰ってもいい? おじいちゃんが心配してると思うの」

 「当たり前じゃない。私たちもそこまではついて行くね」

 「よし、決まりだ。そろそろか?」

 「もう到着するよ」

 

 彼らが話している間も船は進んでいて、やがて島へと辿り着く。

 砂浜の近く、桟橋がある。

 その先には小さな村があってそこがアピスの村らしい。

 船は帆を畳みながらゆっくりと桟橋へ横づけされる。ナミの舵取りも問題なかったため船体が傷つくことはなかった。無事に到着し、錨を下ろして完全に船の移動が止まる。

 その後で一行は桟橋へと降り始めた。

 まず最初に嬉しそうなアピスが飛び出して、続いて同じく好奇心を露わにするルフィが飛んだ。立て板を渡す前に気の早い行動である。二人が一足先に村へ走り出してしまった後でゾロが船と桟橋の間に板を立てかけ、足場とし、ナミとシルクが降りていく。

 船の修繕のためキリは船上へ残り、ゾロもまた降りようとしなかった。

 

 「気が早ぇ奴らだ。ちょっとは落ち着けねぇのか」

 「あれがいいところだよ。それよりゾロはどうする?」

 「別にやることもねぇし、昼寝でもしとくか。用事が済んだらシルクが手合わせしろって言ってたしな」

 「それまで手伝ってよ。流石にこのままじゃ見栄え悪いし」

 「どうせ乗り捨てるんだろ? 意味あんのか」

 「そりゃそうだけどいつまで使うかわからないじゃん。これで旗掲げてるとうちの一味がだらしないみたいな印象になるよ」

 「実際だらしないんだがな……」

 

 船上ではキリとゾロが船の修繕を始め、船内から掻き集めた材料で作業を始めた。

 島内へ降りた者たちは桟橋のすぐ傍にある村へと入っていく。

 巨大な帆船が近付いて来たことで島民たちはその動きに注目していたようだ。そして船から下りてきた人物が、海軍に連れていかれてしまったアピスだと気付いて、皆がわっと声を上げる。小さな島の中では知らない顔などない。元気な彼女が帰ってきて喜ばない者は居なかった。

 笑顔で駆けてくるアピスは一人の老人を見つける。アピスの祖父、ボクデンだ。

 

 「アピス! 無事じゃったか!」

 「おじいちゃーんっ!」

 

 アピスは勢いよく彼の胸の中へと飛び込み、熱い抱擁を交わす。

 よほど心配していたのだろう。涙さえ流しておいおい泣いていた。

 追いついたルフィは足を止めて彼らを見守る。

 同じ船から下りてきたことで事情は悟ったらしく、ボクデンは彼が恩人なのだと判断したらしい。アピスを抱きしめたまま深く頭を下げた。

 

 「おぉぉ、あんたが助けてくれたのか。すまん、礼を言う」

 「いいよ。たまたま拾っただけだったし」

 「ルフィ、私のおじいちゃんだよ」

 

 幾ばくもせずナミとシルクも歩いて追いついて来た。

 島民たちは船が海賊船だと理解している。掲げられた黒い旗を見れば一目瞭然だ。しかしやってきた彼らがあまりに想像と違っていて、戸惑っている者も多いようだ。

 それを理解してか、アピスは島民たちを見回して言う。

 

 「みんな大丈夫だよ。この人たちは海賊だけど良い人なの。私を助けてくれたし、リュウ爺を助けてくれるんだって。さっき約束したの」

 「リュウ爺を? おまえ、しかしそれは……」

 「大丈夫。きっとリュウ爺もそう言うよ」

 

 その言葉を聞いてボクデンは苦々しい顔をする。ちらりと目の前の彼らを見た。

 能天気そうな少年が一人。荒事が得意とは思えない少女が二人。

 確かに見た目からは悪人だと思えないものの、それとこれとは別。この一件に関してはそう簡単に信用できる問題ではないと判断するため素直に喜べない。続けてアピスが説得した。

 

 「絶対大丈夫だから。だって私のことも助けてくれたんだよ? ね?」

 「むぅ、しかしリュウ爺のことは……」

 「もうこうするしかないの。リュウ爺がここに居るとあいつらまた来ちゃう。だから、ルフィたちに連れ出してもらうしかない。ロストアイランドへ」

 「……そうか」

 

 ボクデンは深く息を吐いた。

 再びルフィたちの顔を見回し、厳しい表情で口を開く。

 

 「わかった。そういうことならばリュウ爺のことを任せるしかない。しかし何も事情を知らぬ者をリュウ爺に会わせる訳にはいかん」

 「どういうこと?」

 「皆、わしの家へ来てくれ。説明した後に託すとしよう。わしが知る限りを話す」

 

 事情が呑み込めないナミとシルクは顔を見合わせ、首をかしげる。一体どういう状況なのか。ただアピスの友達に会うだけだと思っていたのに予想以上の緊迫感を感じる。しかしルフィはそれを物ともしていないらしく、何も考えていないかのように軽々しく頷いた。

 

 「わかった。話聞いたら会えるんだな」

 「いいの? そんなに簡単に頷いて」

 「話聞かなきゃアピスの友達に会えねぇんだろ? だったらしょうがねぇ」

 「うむ。ではこちらへ」

 

 ボクデンを先頭に一行は歩き出す。そして数分とせず一軒のこじんまりとした家へ入った。

 椅子を勧められて四人が並んで座り、その前にボクデンが座る。

 この時アピスは考えていた。

 ボクデンの話は長い。特にこれから話そうとしている事については他の話以上に長くなる可能性がある。そのため、帰って早々だが無駄な時間を過ごしてしまう可能性が高かった。

 今は一刻も早く友達に会いたいのだ。

 コホンと咳払いをして話し始めようとする。まさにその瞬間、アピスが立ち上がった。

 

 「えー、ではこれよりわしが千年竜に関する歴史を――」

 「あっ、おじいちゃん。私みんなのお茶入れてくるよ。せっかく来てもらったのに何も出さないのは失礼でしょ?」

 「おぉ、そうかそうか。それもそうじゃな」

 「おじいちゃんはそのまましゃべってて。ルフィ、手伝ってよ」

 「ん? おれか?」

 

 アピスが手を引いてルフィを連れ出そうとする。そこへ反応したのがシルクだ。

 

 「私が手伝おうか? ルフィは不器用だからそういうの向かないと思うけど」

 「いいの。そんなに難しくないから。ほらルフィ、はやく」

 「わかった、わかったから引っ張んなよ。まぁ伸びるだけだけど」

 

 ガタガタと椅子を鳴らしてルフィを立ち上がらせ、引っ張って奥へと連れ出す。

 その間にボクデンが再び話し出そうとした。

 

 「えー、コホン。では改めてわしが千年竜の伝説を――」

 「ねぇおじいさん、それもいいんだけど先に別の話をしない? アピスをここへ連れてきたのは私たちなんだけど、お礼の一つもなしってのもどうなのかしら」

 「ちょっとナミ、そんないきなり……」

 「ふむ、それもそうか。しかし」

 「別にお金じゃなくてもいいのよ。価値のあるお宝とかでも」

 「ううむ、そうじゃなぁ……」

 「もう、ナミったら。今はそういう場合じゃないのに」

 

 ナミの主導により、三人は本題と関係のない話を始めていた。

 その隙にアピスはルフィを引っ張って裏口から家を出る。

 少し急ぐ足取りで山を登っていて、遠目にも確認できる岩壁へ向かっているようだった。

 

 「この島って変わってんなぁ。お茶入れるのにこんなに歩くのか」

 「違うよ、さっきのは嘘。おじいちゃん話長いから、あのままだと夜まで終わらないよ」

 「そうなのか」

 「早くしないと海軍が来ちゃう……ねぇルフィ、信じてるからね。私の友達、絶対に傷つけないでね」

 「心配すんな。んなことしねぇよ」

 

 訳もわからぬまま山を登って、やがて二人は洞窟へと入っていった。

 入り口は大きく、天井も高くて道幅も広い。水源が近いのか空気は湿っている。

 どことなく不思議な空間だった。

 ルフィは好奇心を露わに辺りを見回しながら歩く。その手を引くアピスは前だけを見ている。どうやらこの場所には慣れているらしい。

 やがて、一際大きな空間に出た。

 軍艦に見える大岩の内部。広大な空間には大きな物体があるように見えた。

 辺りが薄暗いせいでルフィはそれが何かわからなかったが、アピスは警戒心も無く駆け寄っていく。その際、親しげな声を発するのも耳にしていた。

 

 「リュウ爺、大丈夫? 助けてくれる人を見つけてきたの。この人ならきっと大丈夫だよ」

 「おいアピス、おまえ何としゃべって――」

 

 数歩前に出たルフィの足が止まった。

 暗闇の中でそれに気付く。

 巨大な物体は岩ではなかった。それは巨大な生物だった。

 一見すれば竜だとわかる外見だ。トカゲにも近い顔立ちに、口元からは鋭い牙が伺え、巨大な体には深い緑色の体毛が生えている。しかしずいぶん年老いた個体のようで、頭頂部は禿げていて、どことなく覇気もない。だが存在感は凄まじく他の生物からは感じられない迫力があった。

 体を丸めて動かない竜は目を開き、黄金色の瞳を覗かせる。

 ルフィはその瞳を見て息を呑んだ。

 竜について、幼少期に絵本で読んで知った。だが実在するとは思っていなかった。兄たちと話しても実在するはずがないと言っていたし、いつしか自分もそう思っていた。

 アピスが鼻先を撫でるその生物はどう見ても竜で。

 目を輝かせて笑顔になったルフィは耐え切れずに叫んでしまう。

 

 「すんげぇぇぇっ!? なんだこれ、本物なのかぁ!」

 「静かにしてよルフィ。リュウ爺が驚いちゃう」

 「なぁアピス、こいつなんなんだ! おれ竜なんていないと思ってたのに、でもこいつはいて、しかも生きてて、なんで――!」

 「ちょっと落ち着いてよ! ちゃんと説明するから!」

 

 興奮するルフィを落ち着かせて、アピスは小さく嘆息する。

 そしてリュウ爺と呼んだ生物へ振り返り、ぽつぽつと語り出す。

 

 「この島には伝説があるの。千年竜の伝説」

 「伝説?」

 「そう。それでこのリュウ爺がその伝説の千年竜で、私の友達……ううん、私だけじゃなくてこの島に住む人全員にとって大事な存在。子供の頃からいっしょに居るの。もう千年くらいこの島で村を守ってくれてる」

 

 ルフィは竜の顔を見つめた。

 やはり弱っているように感じる。そのせいかやさしい目つきに見えていた。

 リュウ爺の顔を見るアピスはいつしか複雑そうな顔になっていた。

 

 「リュウ爺は帰らなきゃいけないの。故郷の竜の巣へ、ロストアイランドへ」

 

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