IS 復讐の海兵   作:リベンジャー

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季刊にしたかったんですけど、書きたいこと詰め込みすぎちゃってこんなに遅くなってしまいました。コロコロアニキも2冊も出てしまいました。
次の話はもう少し短くして、早く出すようにしますのでご容赦を。

今回の話は賛否両論になる描写が多いのでご注意を。ただ私は思うのです。あの政府ならここまでやると。


セシリア・オルコット破滅!愚かな行為の代償(後編)

「(あー昨日は楽しかったな~)おっす」

 

翌日、ソレイユが教室に入ると一斉に2種類の視線と睨みつけが降り注いだ。

 

1つは恐怖。決定戦で代表候補生を半殺しにし、ISの絶対防御を無視する攻撃を行い、異常ともいえる火力を持つIS(ピース)持つ事。そして何よりも皆が恐ろしかったのはソレイユが持つISと女尊男卑主義者に対する憎悪である。あの言葉はまだ年頃の娘たちを怯えさせるのは充分であった。

 

もう一つは敵意。あの言葉は女尊男卑主義者達には恐怖では無く敵意を持たせた。腐った牝共達の腐った考えである「女は男より優れている」を支える屋台骨であるISをオモチャ呼ばわりした挙句に自分達女尊男卑主義者をゴミ、屑と呼んだためである。

 

睨みつけてくるのはソレイユに敗れて体の至る所に包帯を巻いている馬夏とモップ女である。

 

しかしソレイユにとって恐怖や敵意と言った視線は日常茶飯事な物であるために全く気になっていなかった。

 

自分のヨウヨウの実の力で敵から恐れられることなど当たり前のことであったし、自分が能力を制御できるまでは味方の海兵からも恐れられていたのである。

敵意に関してもこういった仕事をしていると犯罪者達から敵意を向けられるのは当たり前のことである。

 

睨みつけに関しては完全に無視していた。相手にする価値も無いからである。

 

ソレイユは二つの視線と睨みつけを全く気にせずに机に向かい、大きく欠伸をしながら座った。

 

「おはよ~ソーソー~」

「うん?ああ、おはよう布仏さん」

「も~お~ソーソーったら~私の事は本音でいいって言ってるのに~」

「いやーそれはまだちょっと勘弁してくれよ」

「ソ~ソ~ってシャイなんだね~」

「ハハハハハ」

 

相変わらずの布仏のペースにソレイユがタジタジになっていると、前の扉から山田先生が入って来た。

 

「皆さん席についてください。ホームルームを始めます」

「お、先生が来たか。席に戻るぜ」

「あ、ソ~ソ~今日のお昼一緒に食べようよ~紹介したい人がいるんだ~」

「ああ、いいぞ」

 

先生の言葉に生徒達は席に着いて行った。相変わらずソレイユに対して睨みつけてくる馬夏と牝はいたが。

 

全員が着席したのを確認すると、山田先生は生徒達が今まで見た事が無いような真剣な顔で話し始めた。

 

「皆さんにお知らせすることがあります。昨日・・・この学園にテロリスト達が侵入しました」

 

(このテロリスト達の侵入というのは織斑千冬とその信奉者達によるソレイユ襲撃未遂事件と専用機強奪未遂事件を無かった事にする為に世界政府上層部と学園長夫妻が話し合って作った嘘である。織斑千冬とその信奉者達が軍事機密であるソレイユのピースを強奪しようとし、海軍本部少将をも襲撃しようとした事は事実であり、それを阻止する為に殺害及び半殺しにしたのは正当防衛になる。しかし、建前上どの国からも干渉されないという特性を持つIS学園の教員を殺害、ブリュンヒルデである織斑千冬を重傷にしたというのは対外的に問題になる可能性があった。しかし、そのような教員を雇っていたというのはIS学園側もバッシングは免れないことであったし、なによりかの国との関係が悪化する事は目に見えていた。そこでタンジェントがこの件を学園長夫妻に報告した後に、政府上層部にも報告を行い、政府上層部が学園長夫妻にモニター越しで会談を開き、正体不明のテロリスト達による仕業という事にしたのである)

 

山田先生の言葉に今まで教室にあった空気は吹き飛んだ。学園にテロリスト達が侵入した。その言葉に生徒達はざわめき始めた。

 

「皆さん静かに聞いてください!!」

 

山田先生はざわめく生徒達を一喝した。山田先生の今まで聞いたことのない真剣な声に生徒達は静まった。

 

「オホン!続けますね。テロリスト達は船で学園に侵入した後にIS部隊の先生方を強襲しました。奇襲を受けた先生方は迎撃がする事が出来ず10人もの死者を出し、襲撃を終えたテロリスト達はすぐにその場を逃亡しました」

 

先程収まったざわめきが再び起こり始めた。

自分達を昨日まで教えていた教師たちが殺害されたという事実に生徒達は動揺したのは仕方のない事だろう。

 

バン!!

 

山田先生は動揺し、ざわめく生徒達を鎮めるために教卓を叩いた。普段の山田先生なら絶対にしない行為に生徒達は面食らい、騒ぎは収まった。

 

「続けますよ。逃亡したテロリスト達は次に織斑先生を狙い、織斑先生に対してもテロリスト達は奇襲をかけました。後方からの突然の攻撃に織斑先生は対処しようとしましたが、多勢に無勢でした。織斑先生はテロリスト達によって重傷を負わされました。特に顔を徹底的に攻撃されたようで元の面影は無くなっていました」

 

その言葉に一部の人間を除いた生徒達は悲鳴と驚愕の声をあげた。世界最強と言われるブリュンヒルデの称号を持つ織斑千冬がテロリスト達に襲われ重傷だと聞いたのだ。ファンや信奉者の牝には信じられない事だろう。

 

「ち、千冬様が襲われた・・・いや、いやーーーーーー!!!」

「じゅ、重傷ですって!!信じられないわ!!」

「う、嘘よ!そんな事ありえな「嘘だ!!!」」

 

牝共が騒いでいると馬夏が立ち上がり叫んだ。

 

「嘘だ!!!千冬姉が・・・千冬姉が重傷だなんて・・・そんな事あるわけねえ!!」

 

山田先生はゆっくりと首を横に振って答えた。

 

「織斑君。残念ながら真実です。織斑先生は今病院に入院中です」

「嘘だ!!嘘だ!嘘だ!嘘だ!」

 

馬夏が叫びながら山田先生に向かって行った。今にも掴みかかりそうな勢いである。

 

「千冬姉は、千冬姉は世界最強のIS乗りなんだぞ!!ブリュンヒルデなんだぞ!!テロリスト共なんかに襲われて重傷なんてあるわけねえ!!!あってたまるか」

「織斑君!君の気持ちは解りますが織斑先生がテロリスト達に襲われたことは事実です。嘘だというのならこの病院に行ってみてください。織斑先生はそこに入院していますから!」

「うるせぇ!!要るかこんなもん!!!」

 

馬夏は山田先生が差し出した病院の名前と地図が書かれた紙を破り捨て、とうとう山田先生の胸ぐらを掴んだ。

 

「お、織斑君!手を放してください。く、苦しい・・・」

「嘘だって言え!千冬姉がテロリストに襲われて重傷だなんて嘘だって言えよ!!」

 

馬夏の暴走に周囲が騒然とする中、ソレイユが立ち上がり馬夏の元に向かった。

 

「いい加減にしろ!このうすら馬鹿が」

「何だとっ、おわっ!!」

 

暴走する馬夏に見かねたソレイユが馬夏を蹴り飛ばした。

 

「山田先生、大丈夫ですか?」

「ゴホッ!ゴホッ!え、ええ。ありがとう、ソレイユ君」

 

ソレイユが山田先生を介抱していると蹴り飛ばされた馬夏が再度こちらに向かって来た。ソレイユは山田先生の前に出るように馬夏と向き合った。

 

「いきなり何しやがる!!」

「それはこっちのセリフだ。関係ない山田先生に掴みかかるとはどういうつもりだ!?」

「そいつが千冬姉が重傷だなんて嘘つくからだ!!」

「嘘なんかじゃねえ。これを見ろ」

 

ソレイユは一枚の写真を放り投げた。

 

「何だ!こんな写真が何だって・・・な、なんだよこれは!!?」

 

写真には織斑千冬が半殺しにされた姿が映っていた。見るも無残な姿であった。

 

「その写真は今朝、学園経由で海軍に送られたものだ。監視カメラの一部から抜粋されて作られたものだそうだ。言っておくが合成やCGで作ったものでは無いぞ。正真正銘の物だ」

「そ、そんな・・・う、嘘だ・・・嘘だ・・・」

 

馬夏はそう言いながらへたり込んでしまった。ソレイユはそんな馬夏に止めを刺す言葉を告げた。

 

「嘘じゃねえよ、真実だ」

「はい。先程も言いましたが織斑先生はその状態で発見されました。そして病院に緊急搬送され集中治療室での治療の後に入院中です」

 

馬夏はしばらくの間呆然自失していたが、フラフラと立ち上がった。席に戻ろうとしていたが、今度はソレイユを睨みつけ始めた。

 

「何だ、まだ何かあるのか?」

 

ソレイユはそう言うと、身構えた。この感情のままに動く猪突猛進男の行動は全く予想できないのだ。

 

「何かだと!だいたい千冬姉がこうなったのはお前が仕事をサボってたからだろ!!」

 

馬夏がソレイユの言葉に怒りを露わに怒鳴り返した。

 

「はあ?いきなり何を言ってんだお前は」

「お前海兵なんだろ!海兵が此処にいるのは俺達を守るためにいるって事だろ!!それなのに千冬姉が大怪我を負ったって事はお前が仕事をサボってたって事じゃねえか!!」

 

馬夏の頓珍漢な言いがかりにソレイユは眩暈を感じた。ソレイユが此処にいる理由は篠ノ之束を捕えるために妹の篠ノ之箒を監視するためである。一部を除いた学園の奴らを守る理由など存在しないのである

 

「はぁ~。お前なそれは・・・」

「それは違いますよ。織斑君」

 

ソレイユが馬夏に説明しようとすると。山田先生が割って入った。

 

「ソレイユ君が此処にいるのは生徒としてです。海兵としての仕事をするためではありません。だから織斑先生が怪我を負った理由はソレイユ君が仕事をしていないためではありません。何よりテロリスト達が襲撃して来たのはソレイユ君が帰った後です」

「な、なら!なんで帰ってんだよ!ここは全寮制だろうが!ここに住めよ!お前が帰らなければ千冬姉がテロリスト共なんかに襲われることも無かったじゃねえか!」

「それは・・・」

 

パン!パン!パパパパン!パパパパン!

 

山田先生が説明しようとした瞬間に教室からいきなり破裂音が響き渡った。

 

「キャ――!何!何なの!?」

「攻撃!?テロリストの攻撃なの!?」

 

突然の破裂音に教室は騒然となった。先程の話の今である。テロリストが襲撃をかけて来たのかと思っても仕方ないであろう。ソレイユも咄嗟に戦闘態勢をとった。

 

しかしそれと同時に、

「ニャハニャハニャハニャハ!」

という教室の前の扉の陰から場違いな大きな笑い声が聞こえてきた。

 

「あーおもしろい。ただの爆竹で大慌てとは。普段威張っている連中が慌てふためいている姿ほど面白い物はありませんよ」

 

それは、この騒動(火のついた爆竹を教室に放り込むという悪戯)を引き起こしたタンジェントの笑い声だった。パニックを起こした牝達をタンジェントは大笑いしながら見ていたのである。

 

「タンジェント・・・おまえな・・・」

「ニャハニャハニャハ、ほんの挨拶代りですよ。ソレイユさん。あー皆さん落ち着いてください。ただの爆竹ですよ」

 

ソレイユに軽くジト目で見られたタンジェントは、ようやくさっきの破裂音は爆竹によるものだと説明した。

 

「ったくもう。すいません山田先生。部下が悪ふざけを」

「い、いえ・・・大丈夫です」

 

ソレイユは山田先生に部下の悪ふざけを詫び、山田先生は若干顔を引き攣らせながらも返答した。パニックを起こしていた連中もタンジェントの説明を聞いて、落ち着きを見せ始めた。それと同時にこのような悪質な悪戯をしたタンジェントに非難の目を向け始めた。しかしタンジェントはそのような空気をものともせず自己紹介を始めた。

 

「えーそれでは皆さん改めまして、私はソレイユ少将を護衛する為に海軍から派遣されたタンジェントと申します。趣味はワインテイスティングとギャンブルと鍛錬と料理。それと一部サブカルチャーです。嫌いなものは・・・まぁ、一括りして馬鹿です。以後お見知りおきを」

 

周囲の空気を全く気にともせずタンジェントは飄々とした態度を崩すことは無く、自己紹介を終え、続いて馬夏に向き直った。

 

「貴方は・・・えーと・・・確か、屑斑馬夏君でしたっけ?」

「織斑一夏だっ!!」

「おーっと、これは失礼しました。報告書によると屑で馬鹿なことばっかり言っている鬱陶しい人物とあったもので」

 

それを聞いた馬夏はソレイユを睨みつけたがソレイユは欠伸で返した。直接馬鹿で鬱陶しい言葉を言われているソレイユにとってこの報告は当たり前のことだと思っているのである。

 

「まあ、貴方の名前はさておいて。先程の話の続きをしましょうか。確か・・・何故ソレイユさんがこの学園に住まずに海軍基地に帰っているかという事でしたね」

「そ、そうだ!何で態々基地に帰るんだよ!此処に住めばいいじゃねえか!!」

 

馬夏はタンジェントに詰め寄ったがタンジェントは意に介さず変わらない態度で馬夏に答えた。

 

「ニャハニャハニャハ、それはですね、ソレイユさんが入居する予定の部屋に大量の盗聴器と隠しカメラがあったからですよ」

「な、なんだよそれは!!どういうことだよ!?」

「どういう事と言われましても言葉通りのことですよ。お馬鹿さんですね~ニャハニャハニャハ」

「お・・お馬鹿さん・・・だと!?」

「お馬鹿さんな貴方の為に詳しく説明してあげましょう。ソレイユさんは元から海軍基地から此処に通うという約束でした。しかし職員会議とやらで勝手にこの学園の寮に入居することが決められてしまったのですよ。とりあえずソレイユさんは案内された部屋に行きましたが、そこには大量の盗聴器に隠しカメラがあったのですよ。そのような愚行を行う様な屑達の巣窟に海軍将校が住めるわけないでしょう。我々はすぐに政府の方から抗議させていただきましたよ。その結果、ソレイユ少将は当初の予定通り海軍基地から通うことになったのですよ。お分かりですか、お馬夏君」

 

タンジェントは最後に馬夏の額を人差し指でツンと突いた。馬夏は何度も馬鹿、馬鹿と言われ顔を歪めていた。しかし本当の事なので仕方ないであろう。

 

「おい貴様!先程から聞いていれば一夏に失礼だろう!謝れ!!」

 

馬夏への度重なる侮辱にとうとう箒が食って掛かった。思い人が何度も馬鹿にされては頭にも来るだろう。

 

「えーと・・・貴方は・・・篠ノ之束の妹の篠ノ之モップですね」

「篠ノ之箒だ!!それと姉さんは関係無い!!」

 

タンジェントのわざとらしい間違いと篠ノ之束の妹という言葉に激昂した。タンジェントはそれを見ても飄々としたまま更に挑発を続けた。

 

「箒・・・ああ、成程。それで箒みたいな頭してるんですね。なかなか便利そうですね。それだと掃除もすぐに出来ますし、汚れてきたら洗えばいいですもんね。ニャハニャハニャハ」

 

「貴様――!!どこまでこの私を侮辱するつもりだーーーー!!!!」

 

タンジェントのおちょくりは箒を益々激昂させた。箒は完全に激怒していた。それに加えてタンジェントの言葉のせいで周囲からも笑い声が出ていることも箒の神経を逆なでしていた。

 

「プッ、箒みたいな頭・・・確かにそう見えない事もないかも・・・」

「ちょっ、笑っちゃ悪いよ。プッ、プププ」

「あ、頭で掃除・・・想像したら・・・ハハハッ」

 

キッ!!!!!

 

周囲の笑い声を一睨みで黙らせると、箒は憤怒の表情のままタンジェントに詰め寄った。

 

「こ、このような辱めを受けたのは初めてだ!貴様!覚悟は出来ているのだろうなーー!!」

「ニャハニャハニャハ、覚悟?してどうなるんですか。掃除でもしてくれるんですか」

 

ブチッッ!!!!!

 

どこからかそんな音が聞こえた気がした。恐らく箒の堪忍袋の緒が切れた音であろう。

 

「もう許さーーーーーん!!!覚悟しろーーーー!!」

 

箒はそう叫ぶとどこからか取り出した木刀でタンジェントに切りかかった。周囲はこの後の凄惨な光景を想像して悲鳴を上げたが、なぜかソレイユは顔色一つ変えなかった。

 

「ソ、ソレイユ君!あのままではタンジェントさんが!」

「大丈夫ですよ。タンジェントなら」

 

山田先生の心配する言葉にもソレイユは動じることは無かった。タンジェントの事を良く知っているソレイユにとって木刀などそこらの木の棒と変わらないのである。

 

「うおーーーーー!!死ねーーーー!!!」

 

殺意の籠った言葉をはきながら箒はタンジェントに木刀を振り下ろした。しかし、

 

「危ないですね」

 

タンジェントは振り下ろされた木刀を難なく避けると、箒の横に回り込み強烈な膝蹴りを放った。

 

「ぐぼっほ・・・」

 

箒はそのまま地面に倒れ付した。どうやら気絶したようだ。

 

「箒!おまえ、よくも箒を!!」

 

馬夏はタンジェントに詰め寄ったが、タンジェントは意に介すことは無く言い返した。

 

「ニャハニャハニャハ、正当防衛ですよこれは。そこのモップさんのほうが先に手を出してきたのですから」

「それはお前が箒を馬鹿にしたからだろう!!」

「だからと言って木刀で殴り掛かるのもどうかと思いますよ。殺傷能力のある武器なんですから」

「それでも手をだすのは駄目だろうが!」

「おやおや、では黙って殴られろというのですか?そんなのはごめんですね。私痛いのは嫌いなんですよ」

「だからって!」

「はぁーまったくもうお馬夏さんの相手はつかれますねぇ。これいじょう何か行って来るなら貴方・・・殺しますよ」

 

タンジェントは殺意の籠った眼で馬夏を睨みつけた。馬夏は先程の勢いは消え失せ、一気に黙り込んだ。見れば少し震えてもいるようである。周囲も同様であった。本物の殺気など今まで味わったことなど無いはずなのだから当然であろう。それは山田先生も例外では無かった。先程テロリストが侵入したという話をした時はは気丈に振る舞っていたが、かなり無理をしていたのかもしれない。その心意気は立派である。馬夏はそのまま何もいう事は無くそのまま自分の席に戻った。

 

「どうやら解って頂けたようですね。なによりですよ、ニャハニャハニャハ。さて、このクラスの保健委員さんはどちらですか?」

「は、はい。私ですが・・・」

「ここに倒れてる掃除道具を保健室に連れて行ってもらえませんか。目障りなので。ニャハニャハニャハ」

「わ・・・解りました!すぐにいたします!」

 

保険委員の女生徒は急いで箒を友人たちと担いで保健室に向かった。無論タンジェントが恐かったからである。

 

「ニャハニャハニャハ、さて静かになりましたし、話の続きをお願いしますよ先生。そこのお馬夏さんのせいで話が脱線していましたのでね。話は確か織斑先生という方がテロリストに襲われて重体だという所からだったはずですよ」

 

「えっ!?は、はい。そうですね」

 

タンジェントに話を突然ふられた山田先生はとりあえず話を続けようと気を取り直した。

 

「では、話を続けます。織斑先生を襲ったテロリストグループはそのまま船で逃亡しました。学園は海軍に通報し追跡を頼みましたが、ある程度逃げた所でテロリスト達が乗っている船が爆発しました。恐らくは爆弾を持っており、それで自爆したのだと考えられます。海軍の協力の元に遺留品や身元が解る物は無いか捜索を行いましたが何も見つかる事はありませんでした。恐らくは最初から生きて帰る事は考えていなかったようです。これでお知らせを終わります」

 

周囲は完全に言葉を失っていた。自爆テロという非日常的なことがいきなり起こったのだ。ショックを受けても仕方のない事だろう

 

そのなかで、唯一馬夏だけは悔しそうに言葉を漏らしていた。

 

「畜生・・・何でだよ・・・何で千冬姉がこんな目に会わなけりゃならねえんだよ・・・千冬姉がいったい・・・一体何をしたっていうんだよ・・・」

 

それを聞いたソレイユは心中で怒りをにじませた。

 

「(何をした・・・だと!ふざけるな!奴は・・・あのテロリストは俺から全てを・・・何もかも奪ったんだぞ・・・これくらいでは生温いぐらいだ・・・必ず・・・必ず地獄に送ってくれるゥゥゥ!!)」

「(ソレイユさん。貴方の心中お察しいたします。必ずやあのテロリスト2名を討ちましょう)」

 

「皆さん、お知らせはもう一つあります。一組の代表は織斑君に決定しました」

「・・・え、お、俺!?な、何で?」

 

姉が襲撃された事に納得出来ずに悔しがっていた馬夏は突然自分に話が振られたことに驚き、その内容に更に驚いていた。

 

「2勝したソレイユ君は海軍としての仕事が忙しいとのことで辞退しました。オルコットさんも辞退しましたので織斑君に決まりました」

「え、な、何だよ、その理由!2勝してるんだからお前がやれよ!」

「負け犬がグダグダ言うな。潔くやれ」

 

馬夏はソレイユに押し付けようとしたが、ソレイユは一言で切り捨てた。馬夏はソレイユの言葉に一瞬驚き、すぐに怒りで顔を歪めた。

 

「ま、負け犬だと!テメェ」

 

ギロッ!!

 

「うっ・・・」

 

馬夏はソレイユに何かを言おうとしたが、タンジェントの一睨みで黙らされた。全く懲りない男である。

 

「織斑君、納得してくれたなら皆さんに向けて一言お願いします」

「・・・はい。解りました」

 

不承不承といった感情が見え隠れしていたが、馬夏はとりあえず納得してクラス代表に就任することにした。

 

「えー皆さん・・・頑張りますので応援よろしくお願いします」

 

馬夏の一言を聞いた後、周囲はまばらながらもパチパチと拍手を送った。あんなことがあったあとである、元気よく拍手することなどできないであろう。

 

「ではホームルームを終わります。皆さん授業の用意を「ま、待ってください!」」

 

山田先生がホームルームを終わらせようとした時、セシリアが声をあげた。

 

「先生、少しお時間を頂きたいのですがよろしいでしょうか?」

「はい。少しなら構いませんよ」

「ありがとうございます」

 

セシリアは山田先生にお礼を言うと、ソレイユの元に歩いて行った。

 

「ソレイユさん」

「何だ!何の様だ!?昨日の試合のことで何か文句でもあんのか!!?」

 

ソレイユのセシリアに対する態度は厳しいものであった。セシリアがソレイユに対して言い放った暴言を考えれば当然ではある。

 

「い、いえ、違います。謝罪しに参りましたの」

「謝罪だぁ~~~!?」

「は、はい!」

 

セシリアは姿勢を正してソレイユに深々と頭を下げた。

 

「先日は貴方と貴方の国と海軍を馬鹿にしてすいませんでした!!」

 

しかしそれを見るソレイユの目は酷く冷たいものであった。

 

「で、気は済んだか」

「えっ!?」

「お前の価値のないゴミのような謝罪など俺は受け取るつもりは無い」

「そ、そんな・・・」

「なにショックを受けてんだ?俺がにこやかに謝罪を受け取るとでも思ったか、全部が帳消しになるとでも思ってたのか。そんな訳ねえだろ」

 

ソレイユは淡々と言葉を吐き捨てた。ソレイユの言葉を聞いたセシリアは何も言う事が出来なかった。ソレイユの言う事は全てセシリアが想像していた通りであったことであるからだ。

 

「改めて言っておくぞ。俺はお前を許すことなど未来永劫無い。謝罪を受け取る事もな。解ったらとっとと失せろ。女尊男卑主義の腐れ貴族が!!」

「おい、ソレイユ!セシリアは謝ってるのにそんな態度は無いだろう!!男だろうが!許してやれよ!」

 

馬夏がまたもしゃしゃり出てきた。全くうっとしい事この上ない。

 

「関係ないお前がしゃしゃり出てくるな。これは俺とこの女の問題だ」

「うるせぇ!お前が男らしくない態度を取ってるのが悪いんだろうが!男だったら相手が謝ってるなら許してやれよ!!」

「お前の基準で物を言ってくるな!この件は男らしい、らしくないの問題ではない!」

「違う!男だったら相手が謝ってきた許してやるもんなんだ!!それが出来ないお前は男らしくない!」

「いい加減にしろ!感情論で物を言うな!」

「何だと!」

「いい加減にしてもらえませんかねぇ、屑斑君」

 

くだらない言い争いにうんざりしたタンジェントが馬夏の前に進み出た。

 

「織斑だ!屑斑なんかじゃ・・・ウグッ」

 

タンジェントは織斑の首を片手で掴みそのまま持ち上げた。馬夏は首を絞められ苦しそうであった。

 

「は・・離せ・・・」

「ニャハニャハニャハ、苦しそうですねぇ。このまま絞め殺してあげましょうか、それとも首の骨を折ってあげましょうか?」

 

周囲はタンジェントの凶行に悲鳴を上げた。目の前で今にも殺人が行われようとしており、高校生の男子を片手のみで持ち上げるという有り得ない光景がセットで起きているのである。悲鳴の一つでも上がるだろう。

 

「や・・辞めろ・・・」

「貴方は一体何様のつもりですか?先程から聞いていればソレイユさんを呼び捨てにするわ、おまえ呼ばわりするわ、因縁を付けて来るわ、他人の事に首をだして来るわ、くだらない感情論を垂れ流すわと聞いてて腹が立ってくるんですよ。ただの珍しい存在なだけのド下等生物の癖して」

「め、珍しい・・・存在な・・だけだと・・・」

「その通りですよ。こちらにいるソレイユさんは我が国の海軍において少将という立場についておられるのですよ。それだけの地位と名誉はあります。それに比べて貴方はどうです?何もないじゃないですか。あるとすれば織斑千冬の弟という肩書と男なのにISを動かせるという珍しさだけ。言ってしまえば実験動物のような存在です。もしくは織斑千冬のオマケです。ハッキリ言ってソレイユさんとは天と地ほどの差があるのですよ」

「あ・・・あぁぁ・・・」

「ニャハニャハニャハ、顔が蒼くなってきましたね。そろそろさようならと行きましょうか」

「タンジェントもういい。そんな奴殺す価値もない」

 

タンジェントが馬夏を殺すことは無いと解っているソレイユだったがそろそろ良いだろうと思い止めに入った。見せしめとしては十分と感じたからである。

 

ソレイユの言葉を聞いたタンジェントは馬夏を落とした。馬夏はゲホゲホと咳き込み苦しそうだが自業自得というものだろう。

 

「ニャハニャハニャハ、屑斑君。ソレイユさんの優しさに感謝する事ですね。これに懲りたら少しは身の程というものを弁える事です」

 

馬夏は咳き込みながらもタンジェントを睨み続けていた。学習能力が無いのだろうか。タンジェントはそんな馬夏に強烈な回し蹴りを放ち気絶させた。ソレイユとタンジェントは再びセシリアの方に向き直った。

 

「おい、貴族さんよ。これもお前の作戦か?」

「な、何のことでしょうか?」

 

突然身に覚えのない事を言われたセシリアは戸惑った。作戦などという考えは全く無かったとは言えないが、あくまでも謝れば許してくれるだろうから謝ろうという程度のものである。セシリアもこのような事態になるとは全く考えていなかったのだからこの反応は仕方ないだろう。

 

「惚けるな!周りを見てみろ!」

「えっ!?」

 

慌ててセシリアが周りを見ると、生徒のほとんどがソレイユとタンジェントを非難する目で見ていた。

 

「酷いよね、女の子が謝ってるのに許さないなんて。男の癖に」

「そうだよね、それにあの護衛とかいう人も織斑君の首絞めるなんてやり過ぎだよ」

 

中には二人の悪口や陰口を言う生徒も見受けられた。二人が怖いのであくまでもヒソヒソとだが。

 

「こ、これはいったい・・・どうして!?」

「どうしてだと!?白々しい事を言うな!俺が、いや男達が普段どのような扱いをされているのを解ってないとは言わないよな!?」

「そ、それは・・・」

「解ってるはずだよな!現にお前がそうだったもんな!!俺が、男がこの学園にいる殆どの女から目の敵にされているという事を。今の女尊男卑が当たり前になった世の中でこんな態度を取ればどういう事になるかという事を!!」

「あ・ああ・・・」

「この学園で謝罪をすれば周りの女尊男卑主義者の牝共やそこで苦しんでる馬夏を味方にすることもできる。そうすれば同調圧力を掛ける事もできるし、謝罪を受け取らなければこのようにこちらを悪者にも出来る。見ろ、こちらは被害を受けた側にも関わらずまるで加害者だ。なかなか小賢しい作戦考を考えたものだな!貴族さんよ!!」

「ち、違います!!わ、私は本当にただ謝りたくて!」

「お前がどう考えていようと関係ない!これが貴様の行動の結果だ。これ以上の屈辱は今まで受けたことが無い!!最悪の気分だ!!」

「ちょっとアンタ!いい加減にしなさいよ!」

「何だ?」

 

ソレイユが声の方に向くと、それは先程ソレイユ達に陰口を言っていた女生徒の一人だった。

 

「男の癖して何偉そうにしてんのよ!アンタら男は私たちに従ってればいいのよ!男なんて私達優れた存在である女性に比べれば劣った存在でしかない下等な生物でしかないんだから!わかった!わかったなら土下座して謝りなさいよ!!それぐらい出来るでしょう」

 

牝はソレイユに散々女尊男卑主張を吐き捨てるとソレイユになんと土下座を強要した。典型的な女尊男卑主義者のようだ。

 

見かねた山田先生が注意しようとすると、その前にソレイユがその女生徒に向かって歩き出した。その時の顔は無表情であった。

 

「ソ、ソレイユ君?」

 

山田先生はソレイユの様子がおかしいと思い、止めようとしたがそれより先にタンジェントが山田先生を制して力なく首を振った。

 

「先生・・・もう無理です」

 

周囲もソレイユの今まで見せて事が無いような迫力に圧倒されていた。ソレイユは女生徒に向かって歩き続けた。そしてついに女生徒の前に着いた。女生徒はソレイユの異様な雰囲気に気づかず、ソレイユが自分の目の前で土下座するのだと思っており益々傲慢な態度をとった。

 

「ふん。どうやら自分の身の程が理解できたみたいね!ホラ、さっさと土下座しなさいよ!この下等な男無勢が!!」

「・・・死ね・・・この下衆が!!」

「ああ!今なんて」

 

女生徒はソレイユの言葉を問いただそうとしたが、その前にソレイユの覇気の籠った拳が女生徒の腹部を襲った。殴られた女生徒は膝を付いて苦しんだ。

 

「ガハッ・・・な、何すんのよ・・・」

 

ソレイユはその言葉を無視して今度は女生徒との頭に蹴りを入れた。今度は覇気を入れていなかったが女生徒は倒れた。

 

「あ・・・アンタ・・・女を殴るなんて・・・・」

 

倒れた女生徒はこのような状態になってもソレイユに腐ったような言葉を吐いていた。骨の髄まで女尊男卑に染まっているのだろう。ソレイユは女生徒を逆さづり状態にすると、そのまま窓から出した。ちなみにこの教室は2階にある。

 

「な、何すんの・・・よ!何・・・考えてんのよ・・・アンタ!?」

「女は男より優れてんだよな」

「そ、そうだって・・・言ってん・・・でしょ!そんな・・・こと・・・より早く・・・戻しなさ・・・いよ」

「だったらここから落ちても怪我一つしねえよな」

「あ・・・アンタ、まさか・・・辞め」

 

ソレイユは女生徒を掴んでいた手を放した。女生徒は悲鳴を上げながらそのまま地面にに落ちていった。

 

・・・・ゴッ!!!

 

大きな音が鳴った後ソレイユは窓から顔を出して下を見た。女生徒は頭から血をながして倒れていた。2階からなので死にはしていないようである。その証拠に体がピクピクと痙攣していた。

 

「生きてんのかよ・・・死ねばよかったのに」

 

突然のソレイユの凶行に周囲は唖然としていた。そんな中で山田先生はいち早く正気を取戻し、保健委員に指示を飛ばして保険医を呼ばせた。

 

ソレイユはそんな山田先生の方に向かっていった。凶行を起こしたとは思えないような落ち着いた態度だった。

 

「山田先生、こういう訳ですので俺達は今日はもう失礼します。このまま俺達が此処にいても授業を行うのは無理でしょうし。今日は欠席という扱いにしてください」

 

そう言うとソレイユは山田先生に背を向けた。山田先生は慌ててソレイユを呼び止めた。

 

「え・・・ソレイユ君!?ちょ、ちょっと待ってください!何故このようなことを!」

 

山田先生の問いにソレイユは背を向けたまま答えた。

 

「・・・さっきゴミを捨てたことですか?あれは女尊男卑主義者という人間の皮を被ったゴミです。ゴミは処分されるべきものでしょう」

「ゴミって・・・なんでそんな事を言うんですか!?」

「間違ったことを言ったとは思っていません。人間は正しくなければ生きている価値がないでしょう。さっき捨てた女尊男卑主義者は正しい存在などでは断じてありません。ゴミです。更に言わせて頂くなら俺にとって、いや世界中の男達にとって女尊男卑主義者というのはゴミのような存在でしょう」

 

ソレイユのその言葉を聞いた山田先生は悲しみを半分混ぜたような怒った顔でソレイユに問いかけた。

 

「ソレイユ君!!何故貴方はそんなにも女尊男卑主義者を憎んでいるのですか!いえ女尊男卑主義者だけではありません。女尊男卑主義者ではない女性に対しても君は若干ですが憎しみを抱いていますね!?代表決定戦でも君は「女尊男卑主義者に苦しめられた男達の苦しみを思い知らせてやる」と言っていましたね!貴方はまるで女尊男卑主義者達により被害を受けた男性達の全ての怒りを背負っているかのようです。私はまだ20と数年しか生きていませんが、ソレイユ君のようにここまで女尊男卑主義者を強く憎んで怨み抜いている人を見たことがありません!!どうして何ですか!?18歳の君がどうしてそんなにも私達女性に対して憎しみを抱いているんですか!過去に貴方の身にどれ程の事があったんですか!?一体女性が貴方にどんな事をしたんですか!?」

 

山田先生の詰問にソレイユは少し間を置いて答えた。相変わらず背は向けたままである。

 

「・・・申し訳ありませんがそれは話せません」

「ど、どうしてですか!?私が女だからですか!?」

「それもありますが・・・まだ俺は貴方と出会って数日しかたっていません。貴方が女尊男卑主義者ではないのと、決して悪い人じゃないのは解りました。しかし、信頼することはまだ出来ないんです。俺は本当に信頼できる人間にしか自分の事を話さない事にしているんです」

「そんな・・・」

 

山田先生はソレイユの言葉にショックを受けた。自分の教え子に信頼できないと言われれば普通の教師ならショックを受けて当然だろう。

 

「・・・なら・・・私は君の信頼を得てみます!君に一体何があったのか話してもらえるような信頼されるような立派な教師になります!なってみせます!その時は話してもらえますか、ソレイユ君!?」

「・・・どうしてそこまで俺に拘るんですか。俺が海軍本部少将だからですか?学園の上層部に気を遣えと言われているからですか?」

「それは違います!!」

 

ソレイユの言葉に山田先生は声を荒げて反論した。顔には若干の怒りが見えた。

 

「私は教師です!まだ未熟な所ばっかりの新米教師ですが、それでも生徒の事は大事に思っています!自分の担当している生徒が何か抱えているのならばそれを理解してあげたいし、支えてあげたいんです!ソレイユ君にもそう思っています。海軍少将だからだとか関係ありません!私個人が君を理解してあげたいし、信頼してもらいたいんです!」

 

それは山田先生の心からの叫びだった。山田先生は本当に生徒の事を大事に思っているという事が解る言葉だった。それを聞いたソレイユは山田先生の方に振り返った。

 

「先程の件ですが約束します。信頼することが出来た時必ず話すと」

 

ソレイユは続いて本音の方に向かっていった。

 

「布仏さん。こういう事だからさっき言ってたことは今日は無理だ。約束を破る事になってしまって申し訳ない。この埋め合わせは必ずするから許してほしい」

「う、うん。い、いいよ~」

「ありがとう。それじゃあ失礼する」

「ま、待ってよ!ソ~ソ~」

 

踵を返し出ていこうとしたソレイユを本音も山田先生同様に呼び止めた。本音もソレイユに聞きたいことがあったからだ。

 

「ねぇ、ソ~ソ~。ソ~ソ~って~・・・もしかして~・・・私の事嫌い?話しかけられたりすると迷惑?」

「・・・どうして急にそんなことを聞くんだ?」

「さっきの山田先生とのお話でソ~ソ~が私達の事を少しだけど憎んでるって言ってたからもしかしたらと思って~」

「・・・嫌いでもないし、迷惑だと思ったことは一度だってない」

「本当~?」

「ああ、それじゃあな。行くぞタンジェント」

 

ソレイユはタンジェントを伴って出ていこうとしたが、タンジェントは其れを拒否した。

 

「あっソレイユさん。すいませんが先に行っておいていただけませんか。ちょっと此方のお二人にお話がありますので」

 

突然タンジェントに話あると言われた山田先生と本音は驚いた。一体自分達にどんな話があるというのだろう。

 

「おいおい、お前は俺の護衛に来たんだろうが。護衛が護衛する人物に先に行っておいて欲しいってのは無いだろう」

「ニャハニャハニャハ、そうだとは思うんですがお願いしますよ。この通り」

 

タンジェントは顔の前で手を合わせてソレイユに頼んだ。ソレイユは呆れ半分、諦め半分の顔で溜め息をついてタンジェントの頼みを了承した。

 

「ハァ、解った。じゃあ俺は外で迎えを寄越すように連絡してるから早く来いよ」

「ありがとうございます。ソレイユさん」

「それでは山田先生と布仏さん。失礼します」

 

ソレイユはそう言うと教室から出て行った。後には重い空気が残された。

 

タンジェントはそんな空気など全く気にしないように山田先生と本音に話しかけた。

 

「あーそこのお二人さん。すいませんね、うちの隊長がお騒がせいたしまして」

 

突然話しかけられた二人は内心、「さっき爆竹を使った悪戯をした人が言わないで欲しい」と思ったが、とりあえず返事をすることにした。

 

「だ、大丈夫です」

「う、うん。平気~」

「ニャハニャハニャハ、それなら良かった。ではソレイユさんをお待たせしている事ですし早速本題に入らせてもらいます。さっき言っていた話があるという事ですが、騒がせてしまったお詫びに貴方達二人の質問に一つだけですが答えてあげようと思いまして。いろいろ聞きたいことがあるでしょうから」

 

その言葉に山田先生と本音は顔色を変えた。ソレイユに近いこの人物が質問に答えると言っているのだ。聞きたい事などいくらでもある。

 

「「そ、それなら!?」~」

「あ、最初に言っておきますがソレイユさんの過去について尋ねられても答える気はありませんので悪しからずご了承を」

 

2人は内心ガッカリしたがタンジェントは飄々と言葉を続けた。

 

「まあ、ここでは何ですから、お二人さんちょっと外に出てもらえませんか。あまり大勢の前で話すような事では無いでしょうし」

 

その言葉に周囲からブーイングが飛んだ。謎が多いソレイユのことを話すといっているのだ。この年代のゴシップ好きの女生徒なら知りたいと思っても仕方ないだろう。そんなブーイングに対してタンジェントは先程と似たような言葉を今度は笑顔で告げた。

 

「これ以上騒ぐなら貴方達、殺しますよ」

 

その一言で周囲は水を打ったようになった。そしてタンジェントは再び山田先生と本音に向き直った。

 

「どうしますか、お二人さん」

「わ、解りました」

「良いよ~」

 

そう言って三人は教室から出て行った。タンジェントが出て行ったことで注意を受けた女生徒達はようやく気を抜くことが出来た。

 

三人は教室から離れた空き教室で話の続きを始めた。

 

「では、お話の続きと行きましょうか。ではどちらから質問をなさいますか。さっき言った通り一人に付き一つしか答えませんのでお気をつけて」

 

山田先生と本音は顔を見合わせていたが、先に動いたのは山田先生だった。

 

「では、私から質問させていただきます」

「どうぞ」

「ソレイユ君は何故あんなにも女尊男卑主義者を憎んでいるのでしょうか?」

「おやおや、何を聞いてくると思えば。今の世の中、女尊男卑主義者を憎んでいない男は一部の権力者だけでしょうに」

「・・・そうかもしれませんが、ソレイユ君の場合は異常です。ソレイユ君の女尊男卑主義者への憎しみは他の人の比ではありません」

 

山田先生の言葉にタンジェントは腕を組んで唸った。

 

「成程。う~ん・・・そうですね~ソレイユさんが何故女尊男卑主義者を憎んでいるのかを深く説明するとなると彼の過去について触れてしまうので詳しくは話せませんが・・・しいて言うならばあいつらが悪だからでしょうね」

「悪だから・・・ですか?」

「はい。先程貴方も聞いたと思いますが、ソレイユさんは人間は正しく生きなければ生きている価値が無いと思っています。女尊男卑主義者のようなゴミが生きているのはソレイユさんにとって許せない事なのでしょう」

「そんな・・・なぜそのような過激な考え方を・・・」

「それはソレイユさんの過去に関係しているので話すことは出来ません。彼から聞いてください」

「そうですか・・・解りました。ありがとうございます」

「いえいえ。どういたしまして」

 

山田先生はタンジェントからソレイユの憎悪の一端を聞いたことで一日も早くソレイユからの信頼を得て彼に何があったのかを確かめようと決意した。

 

「さて次は貴方の番ですね。どんな事を聞きたいのですか?」

「う、うん。私が聞きたいことはね~ソーソーは女尊男卑主義者じゃない女の人も憎んでるのか聞きたいの~」

「ニャハニャハ、それは違いますよ。我が海軍には女性士官も多く在籍しています。ソレイユさんも彼女達のことは仲間だと思っていますし普通に話していますよ」

「そ、そうなんだ~ありがとう~」

「ニャハニャハ、お気になさらず」

 

タンジェントからソレイユが女性全てを憎んでいる訳では無いという話を聞いて本音は安心する一方で少しの寂しさを感じていた。ソレイユが同僚の女性士官達とは自分と違って普通に話しているという事が本音は何故か寂しく感じたのだ。

 

「さて質問も終わった事ですし、私は失礼させていただきますよ。これ以上遅くなるとソレイユさんに怒られてしまいますので。あ、それと今回の事は他言無用でお願いしますね」

 

タンジェントはそう言って空き教室から出て行った。残された二人も同様に自分たちの教室に戻って行った。戻った山田先生と本音は生徒達から質問攻めにされたが二人は何も話すことはなかった。生徒の一部からはソレイユが牝を落とした事を非難する声が上がったが、山田先生は学園とかの国との間で結ばれたある条約の事を話してその声を封じた。そしてその日一日は重苦しい雰囲気で授業が進められた。因みにタンジェントに蹴り飛ばされた馬夏は二人が戻ってくる間に復活していた。あきれた打たれ強さである。

 

その夜、セシリアはイギリス領事館から直接呼出しを受けた。呼び出された理由に心当たりがあったセシリアは当初は呼び出しから逃げようとしたが、学園に許可を受けた領事館職員によって強制的に連行されていった。因みにその時にある生徒がセシリアが連行されることに抗議を行ったが、職員は完全に無視していた。

 

セシリアは領事館の一室に連れて来られた。部屋には既にイギリス政府の高官がいた。

 

「あ・・あの・・・」

「我々は君に何もするなと言って無かったか?」

 

セシリアの言葉を無視して高官はセシリアに問いかけた。その言葉は氷のように冷たいものであった。

 

「そ・・・それは・・・」

「言った筈だな。音声データも残っているぞ」

「・・・・・はい。言われておりました」

「ならば何故勝手に謝罪などしたんだ?何もしなくて良いという事を理解できなかったのか?」

 

高官は努めて丁寧に言葉を発していたが所々に怒りの感情が見えた。それだけセシリアの軽率な行為によって不味い事が起きたのだろう。

 

「それは・・・誠意を見せたくて・・・」

「成程・・・そういう事か」

「は、はい。そのとおりです!私はただ誠意を見せたかった「ふざけるな!!」えっ?」

 

セシリアの幼稚な言い訳を遮って高官は怒鳴りつけた。その表情からは完全に怒りが見えた。

 

「君は自分がしたことの愚かさがまだ解って無いようだな!君が誠意を見せてどうなるというんだ!?海軍将校が許してくれるとでも思ったのか!私達は言っていたはずだ。もはや君が謝罪した程度では済まない事態になってしまっていると。君がした事は全くの無意味、いや更なる事態の悪化を招いたのだぞ!!これを見ろ!!」

 

高官はセシリアに一枚の書類を投げつけた。書類はセシリアの目の前に落ちた

 

「こ、これはなんですの?」

「君の軽率な行為によってかの国から送られてきた抗議文だ。読んでみろ!」

「は、はい!」

 

セシリアは書類に目を落として読み始めたがすぐに顔色が変わった。それはそこに記されていた内容があまりにとんでもない事だったからである

 

『貴国の代表候補生、セシリアオルコットの挑発行為は余りにも目に余るものがある。我が国への暴言から始まり、海軍少将への無礼な態度に度重なる暴言、更には現海軍元帥及び我が国の海軍への暴言。これだけでも許しがたいが、我が国は寛容にも7億ベリーの賠償金と海軍基地の設立のみを望み、最終的には賠償金のみで今回の事は水に流そうとした。それなのに貴国は更に我が国への挑発行為を行った。本来は被害者であるソレイユ少将がセシリアオルコット代表候補生の計略によりあたかも加害者のように扱われることとなり、我が国の評判も落ちることになった。これは我が国への宣戦布告と受け取らせていただく。纏まりかけていた話も全て白紙に戻させてもらう。三日後に我が国は貴国に対して攻撃を行う。しかし、もし下記の条件を全て承諾するというのであれば今回に限り上記の無礼に対して目をつむろう。

1.イギリスは我が国に対して10億ベリーの賠償金を払う

2.イギリスは国土内に我が国の海軍基地の設立を認め、予算として毎年350億ベリーを払う事

3.イギリスは治外法権及び、領事裁判権を認める事

4.我が国との関税自主権を放棄する事

5.イギリスが持つ海外領土の権限を全て我が国に譲渡する事

 

回答は二日後まで待つ。なお回答以外の話し合いなどは一切受け付けることは無い』

 

「なっ、なんですのこれは!?こんなもの受け入れられるわけありませんわ!!?」

「そうだな。だが・・・君がそんな事を言える立場か!?そもそもの発端は君だろう!」

「ヒッ!」

「そしてここまで問題を拗れさせたのも君だろうが!!文面にもあっただろう。今回の件は賠償金のみで水に流す、と。これは我が国の外交官達が必死の交渉によって得られた成果だったのだぞ!これを聞いた時は女王陛下もかなり喜んでおられたし、国民たちも安心していたよ。しかし、君の軽率な行為はそれを全てぶち壊したんだ!!」

「そ、そんな・・・」

「こんなことなら君を謹慎、もしくはイギリスに強制送還させておくべきだった。今更いっても後の祭りだがな。とりあえず君には一度本国への帰還してもらう」

「・・・・・・」

 

セシリアは完全に放心状態になってしまっていた。まさかここまでの事態になってしまっているとは思っても見なかったのである。

 

「それと現時点での決定事項を言っておく。セシリア・オルコット、君は本日をもって代表候補生の地位を剥奪とする。専用機も没収させてもらう」

「・・・えっ!な、何ですって!?」

 

いきなりの宣言にセシリアは強制的に放心状態から戻らされた。先日、政府から大した地位ではないと言われた代表候補生の地位ではあるが、セシリアにとっては必死の努力をして得た地位なのだ。専用機も同様である。それをいきなり剥奪すると言われたのである。驚くなというのが無理な話であろう。

 

「何を驚いているんだ。君はイギリスに対して多大な損害を与えたのだ。そのような人間を代表候補生にしておくわけないだろう。専用機の没収にしてもだ。それに話はまだ終わっていない。続けさせてもらうぞ」

 

セシリアはまだ何かあるのかと恐怖したが、高官は淡々とした言葉を告げるだけであった。

 

「賠償金の10億ベリーは君に弁済させることに決まった。君の失態に対して貴重な国家予算を使う訳にはいかんからな」

「む、無理ですわ!10億ベリー何て大金払えませんわ!!」

「君に拒否権は無い。これは決定事項だ。それに君にはご両親の遺した遺産と大きな屋敷、会社の株券などがあるだろう。それらを全て処分すれば10億ベリーにギリギリ届くのではないかね」

「そ、そんなの嫌ですわ!あの屋敷と会社は私が必死に「君の我が儘を聞く理由は無い!!」ッ・・・」

 

セシリアは拒否しようとしたが、政府の高官は一喝して黙らせた。高官の言うとおりセシリアの我が儘を聞く理由など今のイギリスには無いのである。イギリスにとって今のセシリアは国家反逆者といっても差し支えないのであるのだから。

 

「詳しい事は一度イギリスに帰国してから話す。異論はないな」

「・・・はい・・・グスッ」

 

セシリアは泣いていた。自分の全てを失うという恐怖、そしてこれから自分に起きる事を想像して涙を流していた。しかし、全ては自身の蒔いた種であり、自業自得である。

 

その日のうちにセシリア・オルコットはイギリスに強制送還された。IS学園には政府の方から休学届が出された。イギリスに戻ったセシリアに何が待ち受けているかはまだ定かではない。

 




基地に戻ったソレイユとタンジェント。
2人は今日会った事の反省会を始める。
同じ頃中国でも一人の代表候補生が役人からIS学園に行くにあたっての注意を受けていた。

次回、IS 復讐の海兵
「2つの会議 反省会と凰鈴音への厳命」
あいつらは必ず地獄に落とす!!

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