ペルソナ5が楽しかったり、諸事情で疲れてしまったりで投稿が遅れて申し訳ないです
まぁ、今に始まったことじゃないんですけどね!
「俺はお前の兄さんなんかじゃない」
「これは手厳しいな。早速だけどさ、一つ頼みがある」
兄さん、と呼ぶヴァーリに対してアモンはバッサリと切り捨てた。元よりお喋りな方ではないアモン、北欧で運び屋をしていたときのコミュニケーション能力がまるで嘘のよう。
しかし、こちらがアモンの素であったりする。バッサリと自分のことを切り捨てたアモンに対し、ヴァーリが畏まった。
「これ以上、何か用?」
「俺と手合わせをしてほしい」
「今ここでか?」
「必要なら場所だって変えよう。かの大戦以降に伝説となった戦士のような戦い方をする“あに”と出会えたんだ、それくらいの条件は飲むさ。俺にとっても、そっちにとってもいい経験になるはずだ」
ヴァーリはアモンが戦うと言えば、多少の融通は利かせてくれると言っている。だが、アモンはあまり気乗りはしなかった。まだアモンにとって気になること―—アモンがコンビニで買ったおにぎりと朱乃が作ったおにぎりの違いに気づけていないからである。
これを養父に聞ければ、間違いなく養父はその疑問に答えてくれるであろう。味の違いは「お前に対して愛情をこめて作ったからだ。……俺に聞くとかドSか?お前は!?」と実にいいリアクションで。
「嫌だ、と言ったら?」
「アモンの一番大事なものを殺してやる。恋人でも、それこそ、アモンを大切に思っているバラキエルの娘だって。そうすれば、戦う理由が出来上がるだろう?復讐という名目でだ」
アモンは自分が手を握って握り拳を作っていると気づくまでにそんなに時間はかからなかった。それほど顔に感情が現れないらしいアモンは「ガキらしくねえ」とアザゼルに叱られたことすらある。子供なら泣いて笑って怒って悲しんでくらいしろ、と養子とはいえ、息子を気に掛ける男ならば間違いなくそういうからだ。
大切な者を傷つけられたなら怒れ。
大事なものを失ったら涙を流して悲しめ。
嬉しいことや恋人ができれば喜べ。
そんな当たり前を大事にしろと言われてアモンは育ったからである。だからこそ、アモンは自分から何かを奪って戦う理由にしようとしているヴァーリが気に食わなかった。
「場所を変えろ、ヴァーリ。誘いに乗ってやる」
「流石だよ、兄弟。俺たちはアザゼルの息子と言うのを除いても似ているのかもしれない」
「ふざけるな。俺が勝ったら俺のことを兄弟と呼ぶな」
「フフ、いい表情をしているね。じゃあ、行こうか」
それからアモンとヴァーリは場所を移した。こんな辺境の東の国の地方の町にあったのか、と思うような開いた土地。元々は石切り場であったとされている証拠の看板があるが、その真実は埋もれたままだ。近くには打ち止めになった工事の名残として重機が残されている。
そこでアモンとヴァーリ、白髪の青年と黒髪の少年が向かい合っている。容姿では身長はそんなに変わらないが、ヴァーリのほうが年上に見え、対してアモンはさほど背が高いわけでもないので弟に見えなくもない。
しかし、その身にまとっている戦意の方は尋常ではなく、意識をしていないうちに朱乃を殺して戦う理由にすると言ったバラキエルが聞けば殺しかねない勢いの言葉を吐いてのけたヴァーリに敵意も含んだものを向けていた。父親はいたものの、母親や姉のような存在を姫島家で得ていたアモンにとっては既に大切な物であったのだ。
「こんな場所、どうやって見つけた?」
「戦闘者の本能、って奴かな。こんなに広ければ、目撃者とかもいないだろうし、存分にやりあえる。見られたところで映画の撮影とでも言えばいい。さぁ、俺に変身して見せてくれッ!行くぞ、アルビオン!」
『仕方がない、行くぞ!
白い翼を展開し、ヴァーリはその光に包まれるようにして白い鎧をその身に纏う。
「変、身ッ!」
アモンはベルトを装着する。ベルトのバックル部分についたハンドル、その右部分を握って倒すとアモンは異形の姿に変身する。この日本に来てから初めての使用、北欧に滞在しているときにオーディンに仕掛けられた試練と比べればマシな状況での使用だが、相手は伝説の二天龍を宿す神器使い。変身した後は互いに向かって行って拳がぶつかり合う。
右、右、左、左、左、右、右、左―――。
左足、右足、左拳、右拳、右拳、右拳、左拳―――。
互いが一流の戦士であることから予想できるのもあるが、攻撃は苛烈なものとなる。ヴァーリはアモンが変身した異形の姿で特に警戒するべきなのは顎の部分と腕に着いた、刃であった。見るからに鋭く、その一撃で簡単に切り裂かれると言うことはないが、傷つけるには十分すぎる大きさと予測した。互いに得物は使わず、拳で殴り合うという同じタイプである。
実力は互いにほとんど同じ、一撃の鋭さからどのような体験を経て強さを得たのかが窺えるようだ。ヴァーリは仮面の下でほくそ笑んだ、アモンの口ぶりからしてアザゼルや周囲に愛されて育ったに違いない。そんな甘ちゃんにヴァーリは負ける気がしなかった、ただストイックに強さを求めて自分を高めてきた自分が負けるはずはないと。
「やるじゃないか、アモン。何処で鍛えてきたんだい?」
「先生の息子なら知ってるだろ、コカビエルさんに教わったりした」
「あのコカビエルが、だと?コカビエルに教わったと言うのか!?その戦闘スキルを!?その時に言われなかったか?」
「……本能で俺は暴れた方が強い、って?」
少し距離を取ったとき、ヴァーリの白い鎧にある青い宝玉が輝いたとき、アモンは一気に距離を詰めて鋭い爪を振り下ろす。どうやら、なんらかの”全長のための予備動作”だったようで、ヴァーリはガードすることもなく、そのダメージを受け入れた。傷はついたものの、裂かれた後は見当たらない。よほど、頑丈な鎧と見える。
「そうだ、それだッ!生まれながらの獣!その爪、その牙、腕の刃!この俺から見てしても、それらを上手く扱うには野生に身を浸し、理性を振り払って狂気に身を浸してこそだと考えている!下手に人間らしく?戦術を用いるだと?俺を失望させないでくれよ、アモン!」
「狂気に身を浸さず、理性で獣を御す。それが人間らしさなんだって俺は先生から教わった。ただ暴れるだけでは獣と変わらない、それでは人間らしく生きていけない。暴走だけして、護るべきものまで傷つけたら本末転倒だ」
頭に過る、過去の記憶。
『アモン君』
”アーちゃん”から”アモン君”に変わったとき、今でこそわかる。言葉で表現しきれないほどの寂しさがあったのだと。怒るには当然の状況であった、誰もお前を責めたりはしないのだとアザゼルは、父は優しく声をかけてくれた。それでも、アモンは後悔している。母のように慕っていた女性がよそよそしくなったことを。自分の母親でもないのは分かっている、それでも——――。
「それが、君の戦う理由か!?それほどにまで強いなら、なぜ強者を求めない!?なぜストイックにならない!?理解に苦しむ!」
『Divide!』
アモンの身体が少し鈍くなったような、重くなったような感覚が襲う。まるでエネルギーを失ったような重みがある。少し動きが鈍くなったところを見逃さないヴァーリではない、声を荒げながらアモンの顔を、胸を狙う。自分と同じように変身し、能力を底上げした相手だからこそ、簡単に死ぬはずがないと言う安心感があるからだろうか。
「先生との約束だから。俺はそれを守るんだ」
「つまらない理由だ。気づいているか?アモン。君の身体は俺の能力でパワーダウンしている。この能力は何度も重ねがけをすることだって可能だし、君のエネルギーを俺の物として取り込むこともできる」
『Divide!』
さらにエネルギーが奪われる。先ほどより大量に減少し、宝玉が光ったかと思えば、ヴァーリの中に取り込まれていくようだ。
「倍加した俺の攻撃で約束を抱えて潰れてしまえ!」
「……ッ!」
『Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!Divide!』
何度も行われるエネルギーの減少、そのまま、アモンはその場で膝から崩れてしまう。
高らかに声を上げながら、拳を振り下ろすヴァーリは先ほどの兄弟ではない、という否定に憤っているようにも見えた——。