「ふうん?そういうことだったの」
「……部長、朱乃さんの様子、普段と違いませんか?」
「失念していたわ、朱乃にとっての彼を。幼馴染なのよ、あの二人は」
どことなく、不満そうな様子でアモンの左の二の腕をしっかりとつかみながらソファで二人して座ってアモンの髪をくしゃくしゃに撫でている朱乃。普段の微笑みを絶やさない女性としての一面しか知らないイッセーはリアスにこっそりと耳打ちをした。このオカルト研究部はグレモリー眷属の表向きの居場所としてされているが、朱乃は正確にはリアスの眷属ではない。以前から誘ってはいるものの、ある日ある時に「小さい時から仲良くしてくれてる男の子を今の私で待ってあげないといけませんもの。……せめて、私だけでも」とどことなく物憂げな表情の彼女を見ていると、少々強引なリアスも無理に誘えなかった。
一人の友人としてならば入部してもいい、という彼女の言葉で姫島朱乃というのはあくまでないのにもかかわらず、この部活に参加しているという珍しい部員であった。他に四人の眷属を抱えているリアスだが、自らを主人として見ている彼らと違って一友人として自分を見てくれる彼女の存在は大きいと言えよう。
「もしかして、アーちゃんてその為に来たの?私に会いに来るためじゃなく?」
「違うよ。あくまで朱乃に俺は会いに来たんだ。この仕事を受ければ、それができると思って」
「……まあいいけど。リアス、彼に無茶なことは言ってない?」
「いえ?いくら私でも仮面ライダーを眷属にできるほどの力があるとは思ってないわ、できると嬉しいけどね」
疑いの目をアモンに向けつつ、アモンはその質問に頭を振った。それから、納得のいく答えを得られたと感じたのか、朱乃はリアスの方を見ていった。突然のことだったからか、リアスはぶるっと身を震わせた。イッセーはその様子を可愛らしいなと感じた。朱乃は仮面ライダーとはなにか、と首を傾げて可愛がっている少年の方を見てみるが、当の少年の方はいつものように小首をかしげて彼女の疑問を解決することはできなさそうだ。
少年の養父であれば、疑問を解決することができるだろう。なんといっても、彼の養父はそう言ったことに詳しい人なのだと幼少期の会話を通じて理解できている。赤龍帝の籠手に宿る
赤い少女はアモンに変なことを吹き込んではいなかったようだ。眷属を増やす分には構わないが、まだ世間のことをあまりよく知らないであろうアモンは例えるならば無垢な仔犬も同然。芸を仕込まれてはいるものの、他者の悪意に触れたことのない無垢な存在。彼女の中のアモンは昔から変わることがなく、時が止まっていた。親友ではあるが、アモンのことに限っては朱乃は妥協することができなかった。無表情なところが目立つが、何かを求めて飢えているように見えるアモンは庇護欲をそそられるからだ。
「なんにせよ、仮面ライダーに手助けしてもらえるのは心強いわ。報酬、また考えといてね?よろしく、アモンくん」
「こちらこそ」
リアスの差し出した手に迷うも、アモンはその手を恐る恐る伸ばして握手をした。こうして、契約はなされたのである。
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「……しっかし、本当に良かったんですかい?旦那?」
「何度も言わせるな。俺はそんなものは使わん」
「不思議だなぁ、俺っちなら迷わず使うんだけど」
町中を行く白髪の少年神父は隣を自分の顔を見ずに行く、長身の男性のほうに視線を流す。長身の男性は強面でコートに身を包んでいる。少年神父は以前、堕天使の一派と行動を共にしていたが、その中の一人も男性のように人間に擬態している姿はコートに身を包んでいた。しかし、その堕天使と男性の実力は天と地ほどとの差がある。少年神父は今請け負っている任務で使用するように配給された“支給品”のことを話題に挙げた。
その支給品というのは身に着けるだけで強力な力をもたらし、少年神父のような人間から並外れている実力を持っているとはいえ、人間の枠域から出ない存在を爆発的に力を高めるというもの。少年神父は彼に支給品を渡した人物から喜んで使うと告げたが、堕天使――コカビエルは乗り気ではなかったことを疑問に感じたのである。
初めての邂逅からすでにただものではないと見抜いていた少年神父、その実力を確かめようと思って挑発を仕掛けたのを後悔しない日はない。挑発を挑発と受け取らず、本気でかかってきたコカビエルに文字通りの半殺しを受けた少年神父は特殊な手術を受けているとはいえ、回復するのに長い時間がかかった。傷が一応は言えたとはいえ、傷跡がいまだに残っていることからコカビエルの力が強大なのを感じさせる。
「俺っちの今回の任務は被検体の回収。コカビエルの旦那は邪魔する奴らの殲滅と来た。実力的には俺っちが斥候とかの方がいいんでねえの?」
「お前はアイツの実力を知らん。下手に出ると、命を落とすぞ?」
割り振られた役割を不満に思う少年神父、顔に出ていたのを見てコカビエルはその強面を歪めて凄惨に笑う。強面がよりいっそう強調され、少年神父はふざけた口調を崩すことはないものの、鳥肌が立ったような気がした。しかし、それにしたってコカビエルがここまで評価するほどに彼らが回収しようとしている者というのは強力な力を秘めているというのか。
無愛想で近寄りがたく、それでいて好戦的な男と考えうるだけで最悪の要素を煮詰めて捏ね上げたようなコカビエルをここまで褒めるほどの男とはどれほどの力を持っているのだろう?気になる反面、深く突っ込みにくかった。
「へーえ、そんなにも強いんですかい?そいつって」
「ああ、なにかを制御しようとしてるが、俺はその行動が無駄にしか思えない。獣を制御せず、解き放ち、思うがままに暴れることさえできれば。俺を殺すことも容易だろうな?まぁ、それこそ、あいつの理性や精神というのは掻き消えるだろうが」
コカビエルは饒舌だった。
それこそ、自分が訓練を施した少年には何の言葉もかけていないが、評価できる点は次から次へと出てくる。世界の真実を知っている以上、現状の三大勢力というのが滑稽にしか映らない。彼らのしようとしている無駄な努力よりも、コカビエルは再び戦争を起こすことに躍起になっていた。その点、かつて短い間ではあるが手ほどきを施した少年には見どころがある。何かに飢え、何かを求めている姿勢は旧友の言葉を借りるのであれば、人間として何かを欲する欲望らしいが、コカビエルにはそうは見えない。
本能を満たしうる闘争。
それが旧友の、アザゼルの飼っている仔犬の求めているものの正体だと踏んでいる。
人間となり、人間としての幸福を与えるのがアザゼルの仔犬にさせたいことと聞いたが、コカビエルにとっては鼻で笑うことでしかなかった。既に怪物であるべき者がなぜ人間に憧れるというのか。怪物であることは否定しない、ならば怪物であることを受け入れて闘争を求めるのが自然ではないだろうか。
「……饒舌っすね、コカビエルの旦那」
「そうか?お前もあの妙な道具を使えるようにしておけ、アザゼルの奴が好みそうな変な道具を使うように言われたんだろう?」
「ああ、これっすか?いいモンっすよ、本当にこれ。使い勝手がいい」
そういって少年神父――フリードが取り出したのは、ハンドルのついたアモンのものを模したドライバーだった。