「なんにせよ、お前は俺ちゃんが倒してお持ち帰りってわけよ」
「どうでもいい。俺はお前には負けない。苛立つのを思い出したからな」
フリードはげらげら、と下品に笑っている。かつてない高揚感を感じる、話半分に聞いていた自分の持っているドライバーのオリジナルに当たる、ドライバーの持ち主でかつコカビエルが注目している少年。姿が変貌しようとも感じる、この目の前のバケモノは自分と同じ怪物であると。
アモンは見知らぬ異形が自分と似たアイテムを装着しているのに気がつくが、自分と似たアイテムを持っていることに疑問を持つことよりも、先日に出会った戦闘狂と似た匂いのするフリードはどうも気に入らなかった。会話が成り立たない言葉の交わし方、出会って日の浅い木場だが、アモンが怒っているというのは見て取れた。
「アモンくん、その姿は……」
「キバ、問題はそこじゃない。今を切り抜けることが重要なんじゃないのか?俺と同じようなのを使っている相手だ、油断はできない。聞いているところだと、お前たちは知り合いなのか?」
「分かったよ。……知り合い、と言われれば、どうなんだろうね?因縁ある敵ではあるかもしれないけれど」
本能のままに暴れているフリードと比べ、アモンからは理性が感じ取れる。剣の使い手であり、なおかつ異形の姿に変身することのできる能力。ただ異形の姿、フリードとアモンがアマゾンと呼んでいる姿になることになっているわけではなく、その姿に変身することによって身体能力の強化と言った恩恵が得られるらしい。
剣の腕には自信のある木場だが、それでもフリードは苦戦した相手であるのは間違いない。それに恐ろしいスピードと怪力を誇るのだ、警戒をしてもし足りないというのはないだろうが、先ほどのように不意を突く攻撃には対応できるか怪しいところ。アモンが同じ姿になって能力について知れている、というのはアドバンテージだろう。先ほどの攻撃、アモンがいなければ死んでいただろうから。
また木場は苦笑いした。その様子をアモンは静かに見ている。一見すると見上げるほどの体躯、さらに大きな目玉とあっては委縮するもの。しかし、不思議と不快に思う感情や気持ちは湧き上がってこなかった。
「お前は、いつも困ったように笑ってる。自分に嘘をついてるんじゃないか?」
「そんなことないよ、僕は、いつだって……!」
「先生が言っていた」
やがて、アモンが口を開くと、木場は自分の中にある触れられたくないものを触れられたような嫌悪感が沸き上がる。自分でも珍しく感情を昂らせ、声を荒げる。らしくないと思うような行動をとった後、アモンは背中を向けて何でもないように言う。先生とはやはり、アモンを導いた人物なんだろうか。
「人として生きるのであれば、自分の望む行動をとれ、と。押さえつけるばかりが理性ではない、とな。その時に何をしたいと思うのか?そのためにやるべきことは何か?先生の教えだ」
「理性で抑えるだぁ?好き勝手にやってる方が楽しいだろ、スカルマンさんよォ!」
「そうか、お前は哀れな奴だな」
「いちいち癪に障る奴ですことっ!」
アモンは変身した状態で人差し指を天高くへと向けた。
彼の養父が堕天したアザゼルということを考えれば大層な皮肉で、そしてアザゼルに失礼なことこの上ないが、アモンにとっては目標とするという意味では太陽とは変わらなかった。そんなことを知らない木場もフリードも呆気にとられる、フリードに至ってはどこからともなく取り出した剣を使う様子から癪に触っているというのは見て取れる。剣術を得意とするのをすぐに見破ったからか、アモンはできるだけ距離を取ろうとしているらしく、すぐにフリードから離れた。
しかし、離れたのはいいものの、アモンには飛び道具を使う手段を持ち合わせていない。むしろ、使ったことが一度もなかった。肝心の魔力を使うことだって、悪魔の因子を活性化させること、それも身体能力を高めたり、身体の一部を強化して硬化させることが主な使い方だ。魔力を砲弾として打ち出す、というのもコカビエルやバラキエルがやっていたのを見たことがあったので試してはみたものの、自分の肌に合わないと感じてはからは練習をやめてしまったのをこれほどに悔いることはあったろうか。
戦意喪失とまではいかないものの、こちらの様子をうかがっているだけの木場は足手纏いである。1人のほとんど戦力にもならない人間(?)一人を守るのに割く労力を自分が敵を下すのに使え、と厳しい戦闘教官様とやらは言うことだろう。しかし、ここで見放すのは簡単だ。自分の時間のみを優先し、相手に勝利するために戦う。それが最善の選択だ。
だが、それは正しいのか?
『何も言うな。オレはお前と共にいる。怖いというのならば、前を見ろ。空を見上げろ。太陽って奴はァ、腹立たしいことに、雲が隠れていても、オレ達を照らし続けてんだ。だから、安心しろ。ーーお前の好きなようにやってみるといい、間違えたらオレが叱ってやらァ』
迷子になったとき、泣き叫んでしまった自分をなだめてくれたアザゼルの言葉。きっと叱られるだろう、そう思った自分を養父は優しく諭してくれたのは決して忘れない。
「癪に障る奴だって?それでも結構。俺は、それでも、俺のやりたいようにやってやるんだ!」
「ヒュウ。そいつばかりは同感だな、スカルマン。けど、その悪魔ちゃんには伝えてねーだろ?スカルマン自身が、様々な実験における被験体の処分を任された存在だってことォ!なぁ、悪魔ちゃんよォ?そいつ、お前とお前の仲間を殺す予定を立てて作られた存在でもあるんだぜ?そんな奴とお友達ごっこなんてできないねぇ、俺にはとっても!どんな顔で、どんな気持ちで、救いに来たって顔してるんだ!?」
アモンが迷いを振り払い、単純で、それでいて戦略を放棄したような勢い任せの距離の詰めよう。アモンの性格は至って単純である、煽られれば怒るし、褒められれば照れくさいと思うし、好意を向けられれば嬉しいと思う。少しばかり感情表現が希薄なのを養父に危惧されているが、それでも、十代後半ほどの青年にまで成長してからは周囲はあまりにも十分すぎるものが見えていると思っている。爆弾発言だが、それに正当性があるかどうかまでは分からない。残念ながらアモンには嘘を見破るような能力を持っていない。
ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!
アマゾンと、アザゼルが名前をつけてくれた姿と同じ姿でフリードはアームカッターを振りかざす。剣術をアームカッターでの戦術に応用してきているのか、距離を詰めてきて切り込んでくる。それも、下卑た笑いを浮かべながら、笑い声をあげながら。どうしてこうも、白い奴というのは苛立ちを与えてくるというのか。
少なくとも、銀髪で鎧をまとった姿に変身する白龍皇然り、同じような姿をとっているフリード然り。後者に至っては、アモンは名前すら知らないのが事実がある。
理由はある。アモンが突っ込んできたということ、アモンに対してフリードがスカルマンと呼ぶことに対して放置気味となっており、名前を聞くどころではないのがアモンの本音と言ったところか(散々、そのつもりでもないのに兄弟呼ばわりされたのが尾を引いているのかもしれない。銀髪の白龍皇、アモンを鬱陶しがらせたという意味では大したものではないだろうか)。
「変わらないな、その身のこなしは。しかし、お前が本気を出せば、その程度の相手は簡単に下せるのではないか?」
「旦那ァ!邪魔しねーでくださいよ?こいつは俺が仕止めるんで!」
声のする方へとアモンとフリードが顔を向ける。フリードはすっかり、下っ端口調である。偉く聞き慣れたような、その声は。
「コカ、ビエルさん……?」
「よう、アモン。変わらずに遠距離は得意ではないようだな?」
鍛錬の師であった、コカビエルであった。